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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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凍える世界のオーケストラ



  「痛い危ない気持ち悪いツレェぇええええ!!!」



分不相応の必殺技。風圧で体を絞られ出血多量。放った右足は縦に潰れてクシャクシャに骨折。全身タイツは血で真っ赤に染まってると言うのに本人は随分けたたましい。頭から血の噴水を噴出させながらイクオは状況確認。



(デニスはよだれを垂らして再気絶。レチタティーヴォは目を回している。チャーンス!二人が寝ている間に世界樹の権限を奪っちまえ!)



ひしゃげて少し斜面になった世界樹を足場にして世界樹に手をつく。【演算魔法】を発動させ魔力の構造を解析していく。これにより世界樹の意思に干渉できる。



「あーもしもし・・・・世界樹?オレオレ!」


『オレオレ詐欺ですか?』


「疑うなよ!?蹴っちゃったのは・・・謝るからさー!」



何食わぬ顔で世界樹と意思疎通を図る。やはり蹴られて樹体が折れたことを随分と根に持っていらっしゃる。通りがかりに背骨を折られたようなものだ。

周囲の二人は寝ているが外野はほかにもいる。視界端にいるのはアンジェリーナと教皇、そして名前の知れ渡っていないモブ騎士が一人。やはりアンジェリーナは黙って見過ごすほど甘くはない。



「何をやっているんだイクオォオ!?」


「チッ!・・・・やっぱ来たかアンジェ。今世界樹と対話してんだ。後にしろ!」


「するか!!ってか愛称で呼ぶな!!」



にらみ合う二人。一騎打ちに水を差され若干不機嫌なイクオにお構いなくアンジェリーナは聖剣を構える。イクオは左手をつき【並列集中】で世界樹と対話を進めながらアンジェリーナを警戒する。



「アリアの居場所を吐いてもらう!そして貴様とデニスを豚箱へとぶち込んでこの件は終わりだ!」


「バーカ!鬼ごっこは継続中だ。俺はまだ逃げる気で満々だぜ・・・ぇ・・ゴフッ!」


「・・・カラ元気もここまで極まれば痛々しいだけだ。貴様の負けだ」



アンジェリーナの見立ては当然だ。右足は砕かれ、体からの出血も止まらない。【集中】スキルも使いすぎて精神的疲労ももはや限界。吹けば飛ぶ存在だ。動くことすらままならない。



(世界樹・・・。お前の発芽に力を貸す代わりに俺に協力しろ。そういう話だったよな?【譲渡】してもらうぞ。その力!お前の溜めに溜めた魔力!今こそ俺に集中させろ!!)



イクオの体が輝きだす。それはレチタティーヴォの覚醒の時と同じものだ。世界樹の【譲渡】の力により、イクオはレチタティーヴォの所持していた世界樹の権限を手に・・・・・








「・・・・・あれ・・・?」



反応がない。世界樹はそっぽを向くように言うことを聞かない。【譲渡】されるようなそぶりは一切なく無反応を決め込まれていた。



「・・・何をするつもりだったかは知らんが、終わりだ!!」


「え?ちょっと!?タンマタンマ!まってぇぇえええ!!?」



「させません!」



後方から青い光が弧を描きながらイクオとアンジェリーナの間に割り込む。超速度による風圧で割り込まれた二人は目をつぶってこらえる。

レチタティーヴォが遮った。



「・・・何のつもりだレチタティーヴォ。返答によっては許さんぞ」


「助けるつもりではありません。イクオの件は私に任せてほしいのです」



アンジェリーナは聖剣を使いこなしたレチタティーヴォの姿に驚くも、すぐに顔を引き締めなおしレチタティーヴォをにらみつける。

今までにないレチタティーヴォの本気の顔に気付かないほど鈍くもない。しかしイクオに因縁があるのはアンジェリーナも同じ。譲れない気持ちが勝り、アンジェリーナは強行突破を図る。


しかしレチタティーヴォの進化をアンジェリーナは見誤っていた。



「ハァッ!!」


「・・・ッ!!?」



走り出すアンジェリーナをレチタティーヴォは聖剣の鞘を振るってはじき返した。吹き飛ばされたアンジェリーナは世界樹の足場から教会本部の屋上へと飛ばされる。



「危ないよアンジェ」



世界樹の種を一点に集めて作ったクッションにアンジェリーナは着地する。教会本部の屋上にはいつの間にかアリアが立っていた。



「アリア!?」

「アリア様!?」

「アリア!?・・・ゴフッ!」


「アハハ。そんなに一斉に呼ばないでよ。アンジェ。この件はレチタティーヴォに任せてあげて」



クッションから立ち直り体の埃を払いながらアンジェリーナは立ち上がる。まだ納得していない様子だ。



「・・・何故だ?」


「何故・・・う~ん、そうね・・・・これは私のために争いあってるのよ!」


「普通「争わないで」って言わないかそこは!?」


「いやよ。私を取り合ってるのよ?どんどん喧嘩してほしいわ」



いまいち納得していないが、それでも今までとは比べ物にならないほどの魔力を有しているレチタティーヴォにはアンジェリーナも驚くものがあった。こうも簡単に自身の全力をいなされるとは予想外だった。

妥協と意地を天秤にかけて悩んでくれている隙にアリアはイクオに声をかける。



「イクオー!!その調子だと世界樹は応えてくれなかったみたいね!!」


「う・・・!」



図星をつかれて口をつぐむイクオ。



「発芽させたんだから協力しろって要求はね!?デニスが世界樹にやってたこととそんなに変わらないの!!」


「グヘァ!!?」



痛いところを突かれて吐血。



「イクオ!!貴方の求めたロマンはそんなんじゃないでしょ!?それだけは私でもわかる!!」


「おぼぼぼぼぼ」



マーライオン。



「正々堂々と!自分の意思の力で世界樹の権限を奪いなさい!!」



虫の息。

痛いところを突かれまくって勝手に撃沈しそうになってるイクオをしり目に、アリアは後ろを振り向く。アリアは【感知魔法】である人物の魔力を察知。

屋上の出入口が勢いよく開いた。



「アリアァ!!」


「お母様!!」


「受け取りな・・・・さいッ!!」



クリスティアラだ。ドアを開けて入って来るや否や、アリアに向かって何かを投げた。アリアはキャッチする。その正体は一本の『剣』だ。

水晶のように透き通った刃のレイピア。その刃は美しい青紫で幻想的な見た目と月の光のような優しい魔力に満ちている。ただ武器と呼ぶには小さく細く、とてもじゃないが実戦には向きそうにない。丁度指揮棒と同じほどの大きさだ。



「アリアッ!!アリア・イェレミエフ!!約束は絶対に守るのよ!!」


「絶対に忘れない!!」


「なら、貴方の力を存分に振るいなさい!!」


「はいっ!!」




今までにない嬉しそうな返事。彼女と母の間には何かがあったようだ。




「舞い踊れ【タクト】。マナたちに私の意思を伝えて!」




アリアは背筋を伸ばし両腕をあげ、指揮者のような体勢をとる。

剣を指揮棒のように振るう。三拍子のリズムで踊るように。





「・・・レチタティーヴォ。アリアは何をやってんだ?」


「・・・・・アリア様の能力ですよ」




世界樹の実が光りだす。それは教会本部の屋上に降り積もったものだけではない。今もなお降り続けているものや、はるか遠くに積もった世界樹の実まで光を強め輝きだす。北の神聖王国中が眩い光で包まれる。


避難している人々は足を止めて辺りをうかがう。避難所についた人々も外へ出て空を見る。光に満ちた世界でも一際輝きの強い場所に目を向ける。教会本部の屋上に立っているアリアだ。


人々はアリアから目が離せない。あまりの美しさに息も忘れて見とれてしまう。

青く優しく国を照らしていた世界樹の実の光は、アリアが指揮を振るたびに踊るように輝きを増す。




「神の寵愛【固有(ユニーク)スキル】。並々ならぬ才能を持つ者に贈られる特有の力。本来一つ持っているだけでも大騒ぎが起きるほどの代物なんだ」


「・・・にしたってあれはおかしい。一つのスキルが出せる規模を軽く超えてるぜ?(イケメンLv100を除いて)」


「ええ・・・彼女は【固有(ユニーク)スキル】を()()()()()()()


「・・・・・・はぁ!?どんな天文学的な確率だよ!!」


「彼女は神に愛されて生まれたんですよ」



十万人に一人いれば幸運と言えるであろう固有スキル。彼女はその固有スキルを七つ保有している。神に愛されて生まれたという表現は過剰でも何でもない。世界の祝福を一点に受け止めた生ける伝説とも呼べる存在。それがアリア・イェレミエフなのだ。



「教皇様・・・これは?」


「えぇ・・・世界樹の実が皆アリアの味方をしている。今までになく彼女は力を発揮していると言えるでしょう・・・」


「ははは・・嫌になりますね。今私はレチタティーヴォにもアリアにも負けますよ」



神聖王国のNO.2の実力者であるアンジェリーナは少しふてくされて悪態をつく。今はNO.4だ。

アリアは指揮棒を振るうのをやめた。



「イクオッ!! レチタティーヴォッ!!」


「おう!!」

「ハッ!!」


「ここは『愛と信仰と()()()()』!!オペラが有名なのは知ってるわね!?」


「もちッ!!」

「当然です!!」


「私が最高の音楽と舞台を用意してあげる!踊るのは貴方たちよ!!」


「まぢで!?やったぜ!!」

「感謝します!!」



世界樹の実の光は人型になると収まり、氷のマネキンになる。手には氷でできた美しいヴァイオリン。細やかな装飾から弦に至るまでが全て氷で形成されている。

次々と氷のマネキンが生み出されていく。持っている楽器はヴァイオリンもいればチェロやヴィオラ、フルートやトランペットまでも現れる。



「この魔力の量なら私一人でオーケストラできる!本来は丸一日ぐらい魔力をチャージしないといけないから世界樹様々ね!!」



総勢五十名のマネキンが楽器を片手に教会本部の屋上にて集結する。



神の愛した交響曲リュボーフィ・シンフォニー





一斉に演奏が開始された。



 神の愛した交響曲リュボーフィ・シンフォニー


それはアリアの出せる最高の技。効果は簡単だ。氷によってオブジェクトを造り出し意のままに設置する。氷の温度は自在に操れ、常温にだってできる。硬度も柔らかくすらできる。本人の望む空間を氷で造り出すことがこの能力だ。

しかしこの力の問題は効果ではない。()()だ。




『至高の三騎士』『法の騎士』

アンジェリーナ・カラシニコワ


Lv         86

平常時魔力量  87,000

限界魔力量  105,000

職業   近衛騎士団長

スキル 【イェレミエフ流 剣術 Lv86】

    【カラシニコワ流 剣術 Lv62】

    【感知魔法 Lv63】

    【魔力感知 Lv59】

    【鉄壁 Lv75】

    【怪力無双 Lv55】

    【神聖魔法 Lv48】等



・剣術


何かを守る近衛騎士の家系であるカラシニコワ家と、魔法剣士として高い戦闘力を誇るイェレミエフ家の二つの流派を見事にハイブリッドさせ、スキルでは無い独自の戦闘術を身につけた。その為スキルで戦闘力を測るのは困難な分類。この戦闘術は、かのクリスティアラも目を見張っている。



・魔法


平常時の魔力量はアリアに勝るが、チャージの効率はレチタティーヴォ並に凡才。結局アリアには魔法では敵わない。熱心な信徒ではあるのだが神聖魔法のレベルが低いのは単に魔法より剣で戦う脳筋だからレベルが上がる機会が無いのだそうだ。



・詳細


幼い頃アンジェリーナが男の子と喧嘩してボコボコにしていた所をクリスティアラに目撃されたのが原因。イェレミエフ家の感の鋭さの餌食になり弟子とされる。そのまま近衛騎士で大成。見事な成り上がり劇を見せ、『法の騎士』の称号を得る。その為レチタティーヴォ程では無いにしろデニスからの目線は痛い。

アリアとは唯一無二の親友。イェレミエフ家に弟子入りした時に出会って意気投合。


『イクオイケメン事件』では近衛騎士としてイクオに張り付いて護衛していた経歴があり、イクオの【イケメン Lv100】の洗脳を一番間近から見続けた。つまり『イクオイケメン事件』の1番の被害者である。


今でもアンジェリーナはイクオに初めての恋を奪われた恨みを忘れてはいない。


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