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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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因果応 砲

やはり主人公たるもの必殺技は必要でしょう!



『断罪の騎士 ゲオルグ・イェレミエフ』


デニスは彼の魔族への恨みを利用し、北の神聖王国から彼を遠ざけた。デニスにとってはイェレミエフ家の怒りを買ってでも彼をこの国に置いておく訳にはいかなかったのだろう。事実、彼はそれほどの力を持っている。

私ことアンジェリーナと我が親友アリアの力をもってしても、彼の『断罪の騎士』を打倒するのは難しいだろう。



イェレミエフ家の長男、ゲオルグ・イェレミエフの『東の大陸』への出陣。

今生の別れなんかじゃない。帰ってこれる機会だってある。しかしあの一件からゲオルグとイェレミエフ家の間に大きな亀裂が走ったのは明白だった。

それを止めることができずに立ちすくむアリアの家族たちの後ろ姿。当時はまだ近衛騎士の見習いだった私は、クリスティアラ様に力を見込まれて弟子としてしごかれていた。私は幸か不幸かその一部始終を見ていたのだ。


あれだけ強かな師匠が悲しみに満ちた表情を見せたのはあれが初めてだった。

あれだけ優しそうだったアルセーニス様が怒りに満ちた表情をしていたのは初めてだった。

あれだけ兄を誇りに思っていたアリアが、兄の出陣で膝から崩れ落ちるように泣いているところを見たのは初めてだった。


デニス。奴はイェレミエフ家に大きな傷跡を残した。奴は人の不幸を嘲り笑い、食い物にして生きる外道だ。北の神聖王国の汚点であり、必ず取り除かねばならない因子だ。私は近衛騎士としてあの男をいずれとらえなければならない。


いや、私の動機はもっと身勝手な話だ。



私は友を泣かせたあの男が許せなかったのだ。





  -教会本部 屋上-



世界樹は教会本部を地下から屋上まで突き抜けるように立っている。葉は黒く樹体は灰色。実は青白く輝き、『実る』と『落ちる』を繰り返す。数は膨大で、今夜は星のような雪に見舞われた。

【世界樹の実】は現在【吸収】の力を封じられ、地に落ちるも芽吹かずその形を保った。降り積もる【世界樹の実】は、地面や建物の屋根を輝く世界に変えた。



『・・・・・』



屋上付近から世界樹を少し上ったところにデニスはツタでくくりつけられていた。世界樹に取り込まれた際に【吸収】の餌食になったのだろう。もともとは肥満体だったデニスだが急速にエネルギーを失い、太ったまま表面が干からびていた。



「教皇様!!・・・・・ゼェ・・・ハァ・・・」


「アンジェリーナ・・・来たのですね」


「何で貴方はサラッと無茶をしに行くんですか!?・・・ってデニス!?」



教会本部の屋上までアンジェリーナは駆け付けた。すでに教皇と近衛騎士の男が到着しており、そのデニスの惨状に鉢合わせていた。アンジェリーナもその変わり果てたデニスの姿に驚く。



「彼は今は世界樹の権限を奪われた状態・・・もう彼から世界樹に何かを働きかけることはできない・・・ひとまずは安心よ・・・・・」


「は、はあ・・・私としては世界樹に権限という概念があること自体が驚きなのですが」



デニスに意識はない。今はただぐったりとうなだれたまま世界樹の一部として同化している。アンジェリーナは聖剣に手をかけた。



「教皇様。あれしきの距離なら私の【飛剣】でデニスを世界樹から切り離すことが可能です。如何いたしましょう」



キッと世界樹と同化したデニスをにらむ。どこまで惨めな姿になり果てようと、彼の意識にまだ敵意が宿っている限り油断はできない。魔力を込めようとするアンジェリーナに対し教皇がとった対応は・・・



「よしなさい。アンジェリーナ」


「・・・何かあったのですか?」



すぐさま行動に移せるであろうアンジェリーナを教皇は止めた。アンジェリーナが疑問を投げかけたのは至極当然だろう。



「今日はよく【啓示】が下る・・・イム神様は()()()がかなり気になるのですね」


「は・・・啓示・・・・・?まさか教皇様!?」



  ー・・・ー



『ぐぅ・・・ハァ・・・ハァ・・・・・』



デニスは意識を取り戻した。吐きそうなほどの虚脱感をこらえ、息を吹き返した。デニスはあたりの確認をする。

視点がはるか上空。街は光り輝き、教会本部は半壊。有り得ざる状況にも体のだるさのおかげでパニックにならずに済んだ。



(そうか・・・私は世界樹に取り込まれて・・・・)



どうせ死ぬならこの国を道ずれにしたいと限界まで願い、世界樹が一時応えてしまった。そんなことなどつゆとも知らないデニスは、霞がかった意識でこの先の自分の行動を考える。



『まずはここから出なくては・・・・・どうにかしてこの国を脱出する方法を考え・・・・・・




ハァ?』





前方から飛来してくる()()を視覚でとらえることは温室育ちのデニスには到底無理な話だ。デニスのデップリ太った腹に強烈な()()がめり込む。



  -住宅街 上空-



「ぃぃぃいいいっっっっ・・・てえええええええ!!!」



イクオはグランド・クロスをしのいだ。体中が切り傷まみれになったがそれでも意識はハッキリしている。前回のような瀕死の状態までは追い込まれていない。



(あぶねー・・・【スクリプト・ボム】を使っちまった。爆風で吹っ飛んで何とかダメージを流したが、決め手の一つをここで失った。残っている【スクリプト・ボム】は一つだけだ。これではレチタティーヴォを仕留めきれねー)


「うん?この魔力反応は・・・・!」



【演算魔法】でとある人物((ブタ))の魔力をキャッチ。こちらの気配を感じ取って飛んできたのだろう。足からサラの炎を噴出しこちらに向かって一直線に向かってくる。



「ナイスタイミングだピグ!!」


「じゃかあしゃい!!わしゃあの物騒な世界樹について文句を言いに来ただけじゃ!!」


報告 連絡 相談(ホウ レン ソウ)しっかりしろよイクオ!あんなの聞いてねえよ!』



ギャンギャンと喚き散らす変態二人組にイクオは有無を言わさず足を突き出す。渾身の力を込めてピグの顔面を踏んず蹴る。



「ブギッ・・・ィ♡」『ぎょぺぇえ・・・!』


「足のジェット全開にしとけよピグ!【跳躍】ぶちかますぞ!!」



ピグはめり込んだ顔からニヤリと歪ませた口をのぞかせる。足の裏から噴出される炎が勢いを増す。

イクオの【跳躍】スキルとピグの弾力性を組み合わせた大跳躍。



(前回のお披露目はアンジェリーナにスキルを封じられていたから中途半端になっていたが、今回はスキルMAX&サラのロケットブースターの勢いを乗せた究極の【跳躍】複合スキル!!)


「させませんッ!!」



青い流星が先を回り込む。レチタティーヴォだ。こちらも超高密度の魔力を推進力に空をかけている。その超人じみたスピードに驚く様子もなくイクオは待ってましたとばかりに声をあげる。



「来たなレチタティーヴォ!!追いかけっこだ!待ってほしくば捕まえてみなーァ!!」


『三位一体(泣)!!』


「【人・・・」


「力・・・」



『「「・・・キャノン】!!!」」』



爆発的加速。ていうか後方でサラの魔力がマジで暴発している。巻き込まれたピグの恍惚とした喘ぎ声とサラの悲鳴が響く。

しかしその声を置き去りにするスピードでイクオが【跳躍】。レチタティーヴォの真横を単純なスピードで通り抜けた。



「はっ!?この状態の私をスピードで出し抜いた!?」



凄まじい速度が出た。かつてこれ程のスピードを肌で感じたことはなかった。しかしそのスピードに耐えれるだけの肉体をイクオはまだ持っていない。全身切り傷まみれのイクオから血がこぼれる。速度に耐えられないイクオから血が絞り出されて赤い尾を引く。外野が耐えきれずツッコんだ。



「きたなッ!?」


『なんて下品な流星だ!』


「へげッ・・・ぶ・・・ごぅえ・・・・・!!?」

(風圧で潰れる!空気抵抗ってこんなにも体に負荷をかけるのか!?あと聞こえてっからド変態コンビ!!てめーらも人のこと言えねーからな!?)



レチタティーヴォも負けじと追いかける。赤と青の流星が光る雪の降る夜にかける。一方はお世辞にも奇麗とは言えない血まみれの流星だが。この泥臭さはイクオらしい。



「くっ・・・凄まじい速度だ。追いつけないとは・・・!」

(しかしこれは飛行ではない。あくまでスキルを利用した跳躍だ。いずれ速度が落ち・・・落ち・・・・・)


「・・・!!? イクオ!?その方向は!!?」



イクオは今まで戦場を移動するように仕向けていた。世界樹の発芽と同時にわざわざ世界樹の方角へ移動。レチタティーヴォと飛んでいたときは【スクリプト】で軌道をずらし、ピグとサラの力を借りてまで戦線を離脱。

レチタティーヴォはイクオの狙いにようやく気付いた。世界樹の力を知ったレチタティーヴォは、何故イクオがわざわざ背を向けてまで世界樹の方向へ逃げていたのかを理解した。



(何故こんな簡単なことに気付かなかったんだ!思えば世界樹の発芽の原因はイクオだ。イクオが世界樹の性質を理解していないはずがない!そして世界樹を利用しないはずがない!!)


「世界樹の権限を奪い取るつもりか!!?」


「うヴ・・ヴぃヴぃ・・・ヴァッハッハッハッハーァ!!!」



世界樹の方向へ一直線に飛んでいく。目指すは教会本部の屋上付近。つまりはデニスがくくりつけられている場所。



(世界樹に触れて権限を奪う!世界樹には約五百年間溜め続けた魔力がたんまりある!その魔力を手に入れなければ俺はレチタティーヴォに対抗できない!!真っ向勝負で勝つって決めてんだ。何が何でも同じ土俵に立ってやる!!)



空中で体を丸めてクルクル回転する。そして背筋を伸ばし、右手右足を前方に突き出し、左腕の脇を占める。その恰好はまごうことなきライ〇ーキック!



(本来権限を奪うだけなら世界樹のどこを触れても問題ねー!けど俺にとっては問題ありありなんだよ!!)


ヴぉ()()()()()()ヴぉ()()()ヴぇ()()()()()()!!?」



全身の体重をかけ、全力の力を込め、全霊を持って、顔を合わせたこともない男にフルパワーで攻撃!惚れた女の受けた仇を、今ここで勝手にぶち返す。

(ちゃんとうまく言えるよう発声練習した)イクオの出せる最強の必殺技!



「【ハイパー・ウルトラ・メガ・グレート・ミラクル・ワンダー・レジェンド・エクストリーム・キィィィィィイイイイイイイイイイイイッッッックゥゥゥゥゥゥウウウウウウウアアアアアアアアアアアアア】!!!!!!」





『ハァ?


ハグァアアアアアアアアアアアアアアアア!!!??』



デニスの腹に直撃。突然飛来していた血まみれ全身タイツにリアクションをかます暇もなくデニスは世界樹に極限までめり込む。



「ちょっ・・急に止まれな・・・うわあああああ!!?」


「ギャアアアアアアアアアアアアアアア」

『ギャアアアアアアアアアアアアアアア』


「『ほげぇえ!!!!??』」



続いてレチタティーヴォも激突。突然の衝撃に耐えきれず世界樹はくの字にひしゃげた。


恐らく一番の被害者は世界樹である。



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