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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
27/74

もっとワガママに・・・



  ー・・・ー



「このまま突き当りを右ずっと進むのよ!」


「ありがとうございますクリスティアラ様!!」



空から得体のしれない物体が落下してくる。しかしその物体の内包する魔力の密度から人体に有害だということは否が応でも理解させられた。あれを民たちに触れさせるわけにはいかないとは、クリスティアラとアルセーニスは住民たちの避難に回っていた。



『クリスティアラッ!その地区の避難はもういい!貧民街の方に出遅れた人たちがたくさんいるからそっちに回ってくれ!!』


「わかったわ!」



遠隔からアルセーニスの思念伝達を受け取り、次なる方向へ走っていく。しかし焦って【感知魔法】をおざなりにしてしまったクリスティアラは曲がり角の死角からやって来る人影に気がつかなかった。



   ー・・・ー



「突き当りからずーっとずーーーっと右よ!!」


「ありがとうございますアリア様!!」



教会本部へ一直線に突き進んでいくアリア。通りがかるパニックに陥った人々をさりげなく誘導しつつペースを落とすことなく目的地へと向かっていった。



「ありがとうございます!」


「いーのいーのっ!」



しかしどこぞの仮面の全身タイツみたいに並列思考がぶっ飛んでうまいわけではない。誘導とイクオを追いかけることの両方を狂いなくこなすのは決して楽なことではない。不覚にも曲がり角の奥からくる魔物の存在に気がつかなかった。



  ー・・・ー



「うん?」


「わっ!」



丁度曲がり角のど真ん中で激突してしまった。屈強な魔物にぶつかってしまった少女は体勢を崩してドタリと尻もちをついてしまった。



「あいったたたた・・・っ」


「大丈夫ですか?」



ぶつかってしまった少女に公爵夫人(まもの)はスッと手を伸ばす。少女は礼を言ってその手をつかもうとしたとき、二人は目が合ってしまった。



「あ、ありがとうございま・・・・・えっ・・・」



胸から強い鼓動を感じる。ドクンドクンと強い音が苦しくなるほど体を波打つ。嗚呼、これほど強い衝撃を今まで受けたことがあっただろうか。


















「アリアぁぁぁぁぁあぁぁああぁああああああああああああ!!!!!!」


「ひぃぃいいい!!お母さまぁぁあぁあああああああああ!!!?!??」



クリスティアラの背後に大噴火する火山が見えた気がした。鬼の形相という表現すらもはや生ぬるい般若ヅラ。泣く子も黙る顔面凶器。周囲の人間はその殺気とも見分けがつかない怒気に、絞め殺される家畜よりも悲惨な悲鳴を上げる。混雑した町は一瞬にして阿鼻叫喚の地獄へと変貌してしまった。



えてして親に叱られるとき子供はドキドキするもので・・・。




  -・・・-




「おおおおおおっ!!!」


「ワッハッハッハッハ!!」



住宅の屋根の上。二人は青く輝く雪の降る中で戦っていた。

レチタティーヴォは魔力をチャージする。渦巻く魔力が【演算魔法】や【魔力感知】なしでも肉眼でとらえられる。イクオは凄まじい魔力をものともせず、腕をプラプラ軽くステップするだけの体勢で受けて立つ。

レチタティーヴォの足場がバゴンッ!と陥没し、残像だけを残して姿を消した。



「【千乱飛剣】!!!」


「おせぇ!!」



一瞬にして全方位に展開された斬撃の網。一つ一つが熟練に達した強者の一撃。くらえばひとたまりもない。しかしイクオはそれら全てを体重移動だけでさばききる。スルスルと右へ左へ斬撃をかわす。あたりの建物が切り刻まれ、イクオの立っている足場のすぐ後ろは崩落して消えていった。

イクオの足は一歩も動かせてなかった。



「はぁ・・・はぁ・・・・・っ・・・」


「ばててきたなレチタティーヴォ。休憩すっか?」


「・・・いらない気づかいです!」



イクオは【演算魔法】でレチタティーヴォの戦闘法を解析していた。小さな動きの癖も見逃さず、攻撃の軌道を暴き、避けるべきルートを編み出す。もはや【集中】を使わなくとも寸分の狂いもなくレチタティーヴォの動きに対応していた。



「はぁあ!!」


「よっ!」



振り下ろした聖剣をすれすれでかわす。足場だった建物は真っ二つに両断される。しかし紙一重でかわされる。聖剣の刃を踏まれて聖剣を動かせなくされた後、空いた足で膝蹴りを顎にきめられる。



「がはっ・・・くっ!!」


「もっとだ!もっと本気を出せレチタティーヴォ!!じゃねーとお前は俺にすら勝てないぞ!!」


「・・・!?」



ぐらりと倒れそうになったレチタティーヴォに吠える。



()()()()()使()()!!」



イクオの読みではこの決闘は八、九割負けると踏んでいた。しかしそれはレチタティーヴォが聖剣の真の力を解放した正真正銘の全力でだ。戦いが長引けばイクオは【演算魔法】でどんどん相手の動きに対応していき手が付けられなくなる。長期戦に向かないイクオだが、敵の戦闘の解析が進んでしまえば直ちに長期戦はイクオの独壇場へと変わるのだ。

聖剣の力を使わなければレチタティーヴォは、格下なはずのイクオにも勝てない。



(・・・・それはできないんだよイクオ・・!もう私はアリアを引き留めるのにためらいを感じてしまった。何かを成し遂げるという強い意思のない詠唱に聖剣は応えてくれないんだ!)



レチタティーヴォは聖剣が使えなかった。半端な思いでは聖剣は振るわれることを許さない。何度も聖剣に魔力を込めたはずなのにいつものように聖剣の力は発揮されなかった。

それを分かっていてイクオはレチタティーヴォを挑発する。



「全力を出しやがれこのタコ!腰抜け!ヘタレ男爵!!」


「伯爵です!」


「じゃあヘタレ伯爵!!」


「って誰がヘタレですか!!」



子供のようにギャーギャーわめきたてるイクオにレチタティーヴォも調子を崩される。



(ヘタレ・・・何故この程度の言葉に私は腹を立てているのだ。わからない。いつもなら歯牙にもかけないというのに・・・)



何故かイクオの言葉が神経を逆撫でた。たまらなく悔しく感じた。得体のしれない悔しさがレチタティーヴォの心にまとわりついた。イクオはさらに続けて攻め立てた。



「お前は勘違いしている!笑顔で見送られてもアリアはちっとも喜んじゃくれないぞ!」


「!?」


「何なら地団駄踏んで悔しまれた方がアリアは精々するってもんだ!」


「アリア様はそんなお方ではありません!!」


「あいつはそんなお方だよ!!あいつは令嬢の皮を被ったロマン主義者だ!!」



叫びながら逃げる。吠えながら追いかける。繰り出された斬撃は全てすり抜けるようにかわされる。それでもお構いなしに技を繰り出し追いかける。技のキレは落ちていき、段々と熟練さや流麗さがなくなってくる。語りに力が入ってしまい、肝心の戦いに集中できなくなってきていた。



「お前だって本当は悔しいだろ!アリアを連れていかれるのがさぁ!」


「そんなことは・・・」


「お前がためらってて聖剣を使ってないのなんざ知ってんだよ!婚約者を誘拐されたお前にはブチギレる権利がある!アリアを渡さないって言えよ!!」


「それはアリア様の意思ではない!!」


「お前の意思を聞いてんだよ!!」



怒りのあぜ道を浮かべに浮かべて吠えまくるイクオ。レチタティーヴォも剣を振るうのをやめて大声で話すだけになっていた。戦闘中の無駄話はいつの間にか口論に変わって、いつしか口げんかにすら発展していた。



「あぁそうです!私は腹立たしい!全力を出せない私に!!好き勝手言ってくれる貴方に!!何も相談してくれなかったアリア様に!!」


「・・・!」


「何故ここまで私は悔しい!!こんなみじめな気持ちは初めてです!!」



腹立たしい。その言葉を口にしたのはレチタティーヴォにとって初めてだったかもしれない。怒りの気持ち。不満。鬱憤。それらをレチタティーヴォは全て飲み込んでいた。言葉を覚えて一年もたたずにイム神の信者としての自覚に目覚めてから、レチタティーヴォは信仰心が全ての心の柱だった。



(レチタティーヴォ・・・!お前はどこかで、神ではなく人に思いを打ち明けるべきだったんだ!ここがお前の懺悔室だ!!一生分の不満を飲み込むにはお前の体じゃ小さすぎる!!)


「まだワガママが足りない!お前はまだ取り繕ってる!!本当の自分の思いに気づきやがれこの分からず屋!!」


「・・・わかりませんよ・・!わかりませんよ自分の気持ちなんて!!」



ボロボロと心が決壊する。自身の気持ちを抑え込んだまま死ぬまで生きるなんて土台無理な話なのだ。抑え込んでいた感情がこぼれ始める。今のレチタティーヴォはとても心が弱かった。まるで友に悩みを打ち明けるかのように、言葉が口からこぼれ出る。とめどなくあふれてくる。



(俺は叫ぶ!アリアを連れ出すために!お前を救うために!そしてお前の障害になることが俺の役目なんだよ!!)



イクオは歯を食いしばる。鼻に力をギュッと込めて息を限界まで吸い込む。頭の中に思い描くのはアリアのことではない。今この瞬間、イクオは一人の友のことしか考えていない。


友の怒りのはけ口になること。ただそれだけのためにイクオは今は全力だ。













()()()()()()()()()()()んだろぉぉおおお!!!」












「・・・・・・・・」






「お前は役立たずな自分にキレてるわけじゃない!もっと自己中心的でワガママな理由なんだよ!!」






「・・・・・・・・・・」






「今まで心の抑圧をずっと続けてきたんだろ!?アリアの気持ちを優先して自分の気持ちに気づかないでいたんだろ!?」






「・・・・・・・・・・・・・」







「お前は優しすぎるからな!自分の気持ちなんざ全部後回しにしてるから!いつだって自分の気持ちに気づいてないんだ!!」







「・・・・・・・・・・・・・・・」








「また後回しなのかよ!また自分を押さえつけて他人を優先すんのかよ!!」








「・・・・・・・・・・・・・・・・・」








「もういいじゃねーか!!もう十分じゃねーか!!いい加減に素直になれよ!!」









「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・っ!」










「もっとワガママになれよぉぉぉおおおぉおおおおお!!!!」






















「私はアリア様を渡したくない!!」










何よりも自分の気持ちを優先したワガママだった。貴族騎士としての役目だとか、アリアの気持ちだとか、イクオの決闘の付き合いだとか。一切の義務感のない初めての自分の言葉。



この日初めてレチタティーヴォは友に自分の意思を打ち明けた。



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