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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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世界の神秘 人類の脅威


ある物は強さの象徴としてその大陸の最も高いところにて強者たちを見守る。


ある物は何万年も前から存在し、変わらず大切な物を守り続けている。


ある物は大陸を支え、その地全ての生命を担っている。


ある物はその地全ての腐敗した魂を吸い尽くし、その地の中心に鎮座した。



ソレは世界各地で見られる不思議な生命体。効果はそれぞれだが、大陸に及ぼす影響はどれも計り知れない。その大陸に生息するあまねく生命はソレの恩恵を受けている。恩恵を受けなくともソレはその国のシンボルとして力強くその地に根差した。




発生は約500年前の旧人類の時代より前。遥か太古の時代よりその存在が確認されている。しかしいつ頃からこの世界に発生したのか、その正確な年代は不明。旧人類の文献が残っておらず、『大英雄レオン』の持ち帰った文献でしかその実態を確かめる事が出来ない故、未だソレの実態は謎に包まれている。



話はそれるが、

かの大陸にはソレが無い。


西の大陸の学者たちによると、その地に植物が育たないのはソレが存在しないからであるとされている。

あるか否かで大陸の状態は一変する。確かにソレが存在しないと言うだけで、かの大陸の植物が育たない理由は完結できる。事実、ソレの存在を新人類史になってからの約500年間、かの大陸では一度として確認できていない。

誰もがその学者たちの意見に口出ししなかった。





しかし実態は違った。



その大陸に確かにソレは存在していた。未発達なままではあったものの、確かにその地にて存在していたのだ。


ただ一点。

ソレが大陸に必ず恩恵をもたらすという事が大きな間違いであった。

必ずしも恩恵を与えるに非ず。今は、この地に不幸を、災いをもたらしていた。











  ー教会本部 正門ー




『「ブヒヒヒヒヒヒヒヒ(誰か助けてくれぇぇえ)!!!」』


「うぉぉおお!!?」



そんなデニスの抱えた爆弾の存在をつゆとも知らず、教会本部の正門前でドンパチやっている奴らがいた。

辺りは建物を巻き込み炎上し、燃え盛る炎が騎士達を翻弄する。ピグの想像以上の厄介さに騎士たちは手を焼いていた。跳ね回る豚一匹、変態一匹にアンジェリーナはほぼ一対二の状態で戦い続けていた。

アンジェリーナは片手に聖剣、もう片方の手に大きな盾を持って燃え盛る豚野郎と相対していた。



「ええい何だその挙動は!シャンとしろ!!」


「ブヒン」『ギャァァアアア!!?』



アンジェリーナの繰り出した刺突にピグは自分から飛び込んでいく。顔面で聖剣を受け止める。グニリ とピグの顔が内側に向けてめり込む。


なんと貫けない。


メリメリ と音を立ててその剣先を顔面いっぱいにめり込ませ耐えている。

しかしどうやら痛みは共有しているらしい。下衆なピグの笑い声の陰にサラの悲痛な叫びが聞こえる。そんな悲鳴もお構いなしに(いや、多少は気の毒に思っているが)握っている聖剣に力を込める。



「ハァ!!」


「ブヒイイィィ!!」



ピグは弾き飛ばされる。建物を5つほどぶち抜き二人は浮遊する。強力な攻撃をくらったはずのピグだが、ひるむどころかピンピンしている。



「ブヒイーヒヒヒヒヒ!!」『痛ァいもうやだぁ!』



アンジェリーナはハッと自らの足元を確認する。先ほどすっ飛ばしたはずの豚の豚足が地面をつかんでいた。腕からギリギリと音が聞こえる。



「まだまだじゃサラ!もっぱつ【パッション・ゴム】いくぞぃい!!」


『まって師匠!!まって!まって!!まってぇぇえええ!!?』


「【ファイヤー・パッション・ゴム】!!」


『ホギャアアアアア!!!』



後ろ足から炎を噴出し推進力を得る。凄まじい速度の豚肉の塊が炎上しながらアンジェリーナ目掛けて突っ込む。

アンジェリーナはその汚い豚肉を迎え撃つことを選んだ。盾を構えて2人めがけてスキルを発動する。



「【シールドバッシュ】!!」


「ブギュウゥウゥゥ♡」『ぎょぺえぇえぇぇ(泣)』



盾で殴られて再び弾き飛ばされ、今度は6つ建物を貫通した。遥か彼方に吹っ飛ばされたピグの方角から笑い声が微かに聞こえる。気持ち悪い。

しかし悪態をついている暇はない。アンジェリーナのもとへ一人の騎士が報告に入る。やることは何しろ一つではない。街への被害が馬鹿にできない状況なのだ。



「アンジェリーナ様!この炎、消えません!!【水魔法】が使える者を集めましたが、通常の水では消える様子が・・・!」


「ちっ やはり【精霊魔法】と同じものだったか。【魔香水】や【聖水】といった魔力を含んだ水ではないと消す事はできんぞ!」



街はサラの力によって発生した炎が燃え広がっていた。しかし当然、消火活動、だけに専念できるほど彼らも待ってはくれない。



「ブヒヒヒヒヒヒヒヒ!!!」


「第2波、来ます!!」


「総員警戒!!」



《パァーン》



瞬きの間にピグは戻ってきた。着弾地点と思われる場所から破裂音のような弾ける音とタイルの破片が飛散する。姿は見えない。

間もなく建物という建物をやたらめったらに弾け周り、破裂音が絶え間なく響き続ける。四方八方から風圧を巻き起こしあらゆる物を破壊する。



「ぐあっ!!」


「ぐはっ!!」


「一箇所に集まり背中を合わせろ!認識できない速度ではない!やつの認知に集中を割き、この状況を切り抜けることを考えろ!!」



(トン)ッ と燃え盛るピグは着地する。至る所の着弾した場所から煙が出る。アンジェリーナは嫌な予感を感じた。



「っ!! 着弾地点には近づくな!爆発するぞ!!」



煙が出ていた所が全て ブクリ と赤く腫れ上がる。一定の間を置いたあと、破壊された順に爆発が連鎖する。爆発音が重なり合い、騒音をけたたましく鳴らし始めた。

爆発に次ぐ爆発。辺りの建物は炎に包まれた。



「く・・・こいつ戦いながら力の使い方を・・・・!」


「ブヒッ!ブヒッ!ブヒヒヒヒ!!」


『ヴィランかなんかかな?』



炎がさらに燃え移り、建物という建物を無差別に燃やし尽くす。



「アンジェリーナ様!!町への被害が大き過ぎます!精霊の炎では消火に時間がかかり、敵への対応が間に合いません!!」


「ええい!奴への対応は私に任せておけ!お前らは消火に専念しろ!!」



アンジェリーナはピグを振り返る。どうゆう訳かピグに斬撃が効かない。かたや打撃も効かない。魔法も効果は薄かった。単純にピグは頑丈過ぎるのだ。



「くそっ!なんて気分の悪い戦いだ!」



相手の猛攻が一旦終わり、アンジェリーナは一息つくと同時に愚痴を吐き捨てる。

相手の精神の限界が来るまでつっかかり続けるピグの戦闘はしっかりアンジェリーナ相手にも通用していた。あの精神力お化けのイクオでさえうんざりしたのだ。神聖王国No.2相手にもその手段は有効だった。



「そんなに褒めるでない」


「断じて褒めてなどいない!そこまで恥を晒して恥ずかしくないのか!?」


『諦めな・・・。師匠は晒した恥さえも力に変える・・・ぐふっ』



一瞬で跳ね回り全身を強打したサラが身体中を押さえて弱った声で話す。



サラはピグと違って痛いのは嫌だし死にそうだったら今すぐ【仮契約】を解除して逃げることができる。


ハッキリ言ってアンジェリーナ相手にガチンコで戦っても勝ち筋はない。本来のサラならサッサと【仮契約】をきって逃げ出していたところだ。


しかしサラがそれをしないのは



「・・・・・気の迷いが見えるのう。アンジェリーナとやら?」



サラから見ても今のアンジェリーナに対しては退く必要を感じなかったからだ。



「・・・どういう事だ?」



アンジェリーナは神聖王国No.2だ。その筈なのに今のアンジェリーナは弱すぎる。少なくともピグが突っ込んできた時にその顔面を貫こうと思えば貫けれていた。



「やれやれ。どうせアリア嬢の事を思えば止めない方が良いのでは?とか考えてるんじゃろ。

全く、レチタティーヴォと言い貴様と言い、貴様らは良い奴すぎじゃな。これならデニスの方がまだ人間らしい」


「・・・っ!」



心境がバレている。確かにアンジェリーナは全然本気を出していない。アンジェリーナにとっては悔しいがその通りだった。今確かにアンジェリーナは戦闘に集中できていない。

そのアンジェリーナに対し、ピグはため息ながらにこう答える。



「お主が本気を出せないと踏んでいたからイクオはワシらにおヌシの足止めを依頼したのじゃな?奴は何処まで想定しているのかわからんの」


「この状況が既にイクオの手の内だと?」


「さぁの?ワシらの知る所では無い」


(くそっ、腹立たしい話だ。イクオは私が本気を出せないということを知っていた?人の心境を計画に組み込むとは。


・・・いや、何より腹立たしいのはそのイクオの結論に核心を突かれている私自身だ)



アンジェリーナは悔しさに下唇を噛む。全くその通りだった。アンジェリーナはピグを相手に全力を出し切れていない自分に苛立っていた。

頭に浮かんできた余念を振り払おうと首を振る。今は目の前の問題を解決しなければ話は進まない。そう思うとアンジェリーナは再び相手を向き直す。



その時だった。後方の教会本部から轟音が鳴り響いたのは。






  ー・・・ー






「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!」



地下深く、男の絶叫が響いていた。


地下では何かが蠢いていた。ギシギシ と音を立てて動くソレは、地下でできた空間の壁を押し退け地上に姿を現そうと生え上がる。


叫んでいる男はデニスだ。



(何故だ!何故だ!!何故急に暴走し出したのだ!!私の制御魔法は完璧だったはず!細心の注意を払って今まで制御してきたのに・・・!!)



ソレにデニスは取り込まれていく。もがき苦しむデニスを物ともせずソレは無慈悲にデニスを取り込んでいく。

最初は足から吸収されていた。次は腰まで、そして腹を飲み込み、



「あああ・・・ああ・・・あ・・・・・・・・」



頭さえも吸収される。そして助けを求めるように伸ばされた右腕も間もなく取り込まれるだろう。




  ー・・・ー




「・・・・・・・・・わかった・・・」


「はぁ?」



デニスを探して走り回っていたアリア夫婦ことアルセーニスとクリスティアラ。走っていた彼等だが、アルセーニスは急に停止した。



(いや、まだ確証が持てない。しかし個人の力で大陸を支配するなど不可能だ。ならば何かの介入が必ず入っている。デニスはもしかしたら・・・)



「何がわかったのですか、あなた。今はデニスを見つける事を・・・」


「クリスティアラ」



アルセーニスは手のひらをクリスティアラに向けて黙り込んだ。何やら ブツブツ と呟いていたが直ぐにクリスティアラに向き直る。



「クリスティアラは大陸規模で影響を及ぼす魔道具(マジックアイテム)を知ってる?」


「・・・サラマンダー様が仰ってた事ですか?・・・・・知りませんね。明らかに魔道具の域を超えています」



南の大陸の王でさえそんな魔道具は持っていないだろう。クリスティアラは知らないと答えた。しかしアルセーニスの返答は・・・



「ある。確かにあった。古い文献にしか少ししか載ってないし資料も少なかったが、それでも確かに魔道具としてソレは存在する!」



その後、教会本部の方角から崩落の音が鳴る。




  ー・・・ー




「アリア様!!何故抵抗するのですか!!」


「ごめんなさい。でもイクオ達の決闘に水を差すわけにはいかない。私が連れ戻されればイクオは本気を出せない」



クリスティアラの仕向けたメイドにアリアは立ちはだかっていた。イクオの捕縛とアリアの奪還を目的としているメイド立場はアリアに手荒な真似はできない。



「それよりもあなた達はお母様の下へ戻った方がいいわ」


「? 何を仰って・・・」



アリアはメイド達に引き返すことをすすめた。メイド達は首を傾げる。



「イクオと上空でいた時、イクオからこの国の謎を聞いたわ。私の予想が正しければもうすぐ向こうで手が足らなくなる」





教会本部の方向から轟音が聞こえた。

メイド達は振り向く。アリアは教会本部に『何かが突き抜けている』所を見ていた。



「な、なぁ!?」


「えっ!?」


「ありゃりゃ!デニス枢機卿様は教会本部の地下に逃げていたのか。これは大変だ。よりによって教会本部地下で【発芽】してしまった」



教会本部の内部から何か大きな物が蠢いていた。爆発後のキノコ雲の様にみるみると教会本部の壁や天井を押しのけ大きくなっていく。




「あれは・・・・・」





アンジェリーナが

ピグが

サラが

アルセーニスが

クリスティアラが

全員がその正体を呟く。









「「「「「・・・・・・・・世界樹・・・」」」」」



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