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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
24/74

悪徳貴族としての嗜み



「はぁ・・・はぁ・・・・・クソっ・・・!何でこんな目に・・・!!」



肥えた身体を必死に揺らしてデニスは逃走する。クリスティアラに見つかる数分前の事だ。






元々生まれの良かったデニスはすぐさま上級貴族の一角にくい込んだ。教会側にもコネを作り、そちらでも見る見るうちに出世していった。当然コネの力だが、コネだけで出世できるほど貴族社会は甘くない。


それを可能にしたのは数年前の事だ。デニスが雇った探索者が、『ある物』を見つけてきたのだ。歴史的大発見であった。当時まだ無名であった探索者が起こしたその奇跡を、デニスは心の底から賞賛した。





デニスは『ある物』を手に入れるために事故を装って探索者を殺した。





それからデニスは貿易関連の行政を掌握。嘘の貿易リストを作り他国と自国とで流出する情報をコントロールした。偽装した荷車に食糧を入れ、あたかも他国から輸入したかのように自国の土地で育った食糧をこの国に流した。


他国と自国から貿易の為に出された金をどちらからも徴収することにより莫大な富を手に入れる。デニスの出世は加速していった。


しかしその築き上げた権力は、この結婚式で全て瓦解する事になる。





『イクオとデニスは陰で繋がっていたのだ!!』





「んな訳ないだろアホ共めぇぇえええ!!!」



サラのネームバリューで嘘情報をゴリ押しで信じ込まされた事によりデニスはあの場所を離れるしかなかった。留まること即ちクリスティアラに殺される。ならばこの国を捨てる他に道はない。



「何で・・・こんな事に・・・!あんな雑で下品な騙し方は初めて見ましたよ!!」



デニスは地位を捨てる判断が恐ろしく早かった。幾らその他に方法が無いとはいえ、その即決ぶりは真似できるものではない。この逃げ腰と慎重さが枢機卿たらしめた所以。

しかし惜しいものは惜しい。今まで築き上げてきた地位が音を立てて瓦解するという事実は耐え難い。デニスは手から血が流れるほどの拳を握りしめた。


だがデニスはまた別の場所でやり直す術を持っていた。



(まだだ!『アレ』さえあれば私は何度でも返り咲ける!直ぐに『アレ』を回収してこの国を出る!!そうすればまたやり直せる!!)



デニスは教会本部の謎の部屋から『ある物』を回収し、そして小屋から出てくる所だった。





「【グレーテスト・クロス】」


「うわぁぁあぁああああ!!!」


「ノォォオオオ!!?」




間一髪でかわしたデニスの腕には、大事そうに布で包まれた物が抱えられていた。跳んで避けたが、そのどっぷりした贅肉で庇い大切な物には傷一つ付けなかった。



「くそぅ・・・・・何でこんな目に!!」


(・・・落ち着け。こうなってしまえば愚直に逃げればまず捕まる。ここで使うべきは足ではなく頭だ!まずはクリスティアラの心に揺さぶりをかける!)



矢継ぎ早に駄弁りたい愚痴をデニスはスっと飲み込む。そして整然とした態度でクリスティアラに向かい合う。抱えていた物を地に置いて、そして全身で語りかけるように喋り出す。



「随分と荒々しいじゃないですかクリスティアラ様?」


「あ゛あ?」


「いえいえいえ!わかります!大いにわかりますとも!ゲオルグ様の件ですよね?」


「・・・・・」



クリスティアラから買ってしまった恨みをデニスはしっかり理解していた。いや、理解はしてない。知っていた。知識として知っていただけでクリスティアラの気持ちなどわかっているはずもないのだが、デニスは嘘で取り繕い言葉を続けた。



「私は確かに貴方の息子であるゲオルグ・イェレミエフ様を粛清騎士団に引き入れました」


「貴方の言葉などもう耳にはしたくない。殺しはしないわ。檻にぶち込まれて一生を後悔しなさい」


「えぇ引き入れましたとも!しかし、それは悪いことなのですか!?」



クリスティアラの眉が ピクリ と動く。

デニスにとってイェレミエフ家から恨まれることは当然わかり切っていた事だ。その事も視野に含めて、デニスはこうなった時の対策をちゃんと練っていた。



「ゲオルグ様は魔物に対して確かな恨みを持っていたでしょう?私はその怒りを解放しなさいと教えてあげただけです」


「だまれ!それが悪だと言っている!!」


「それのどこが悪いと言うのです!?貴方に『魔物を憎んではいけない』と諭されてから、ゲオルグ様はその言葉を受け入れるのにどれだけ苦しんだか!!」


「・・・・・っ!!」


「全てを受け入れる事がどれだけ残酷な事か!!彼はその言葉を呪いのように自身に戒め、自らを偽り抑圧してきた!!

私は彼を救ってあげたのです!果たして悪は一体どちらなのでしょう!?」



クリスティアラは言い返せない。


デニスの言う事など放っておけばいい。所詮は戯言。しかしクリスティアラはその言葉を聞き流すことは出来なかった。

愛する息子が『ただ魔物を滅殺する機械のような存在になってしまった事』への責任が、自身にもあるのではないかと、そう心の底で思っていた。



「貴方はゲオルグ様が魔物に憎しみを持っている事を知っていたのですよね?しかし貴方は『憎しみに囚われてはいけない』と、そうゲオルグ様に教えました」


「そ、それの何がおかしい!!『イム神教』は愛の宗教!それは恋愛に限らず、親愛や友愛、あまねく愛を全て受け入れることにより魂は救われる!」


「そう!その愛故にゲオルグ様は魔物を憎んだ!!

『愛した者を魔物によって殺された』。だからゲオルグ様は今も戦場に立っている」


「・・・・・っ」


「よく言えたものですねぇ!愛した者を無くしたことも無くのうのうと生きてきた貴方が!『憎しみに囚われてはいけない』!?なれば彼の憎しみの矛先はどれに向ければ良いのでしょう!?」


「・・・・・・くっ」


「貴方は良かれと思って授けた教えでしょうが!ゲオルグ様はさぞ苦しかったでしょう!!愛する者を殺した者を愛せよ!?

何という無慈悲!!何という残酷!!」



クリスティアラの弱みに漬け込む。ゲオルグの事を今も愛しているからこそクリスティアラは言い返せなかった。



「私はただ彼の心を解き放ってあげただけなのです!!敵を憎んで何が悪いのです!!その心を抑圧し、ゲオルグ様を苦しめていたのは一体どちらなのでしょ・・・」




「そこまでだデニス枢機卿様」




「・・・・・そろそろ待ったをかけてくる頃だと思ってましたよ。アルセーニス公爵殿」



今まで静観を決めていたアルセーニスだったが、とうとう口を開いた。

怒りに我を忘れている様子はない。冷静な顔だった。



「クリスティアラ。奴の言葉に耳を貸すな、とは言わない。僕達が犯した取り返しのつかない失態だ。十二分に後悔すべき。

でもだからこそ奴をここで捕えるんだ。同じ過ちを繰り返さぬよう。もう二度と愛する子供たちを失わぬよう。あの頃を後悔すべきは、今じゃない」



デニスは チッ と舌を打つ。想像以上にクリスティアラを立ち直らせるのが早い。

「今はコイツに集中しろ。終わってからクヨクヨしろ」。そう思わせられてしまったら、クリスティアラの足止めはもう困難だ。



「・・・そうね。今は目の前の問題に集中しましょ」


「うん・・・。

デニス枢機卿様。そういう事です。何を企んでいたかは知らないが、子供もいない貴方に説教を食らう程、僕達落ちぶれちゃいないんでね」


「小言が多いです。そんな子供もいない様な人間に息子を取られたという事実だけはお忘れなきよう」



クリスティアラは【模造聖剣】を構え直し、アルセーニスは魔力を身体に纏わせる。

足止めはここまでだと覚った。



(予定より早いが充分だ。もうアレは大量の魔力を吸っている筈。それを利用すればコイツらから逃げ切る事など造作もない)



デニスは足のつま先から魔力を放つ。その軌道はゆっくりと地面を伝って進み・・・



「クリスティアラ!!」


「【グレーテスト・クロス】!!」



アルセーニスは魔力感知持ち。デニスの魔力の動きを見逃さなかった。合図に刹那で反応したクリスティアラの斬撃が再びデニスに襲いかかる。



「【土魔法 クリエイション】!!」



デニスは地面にトンネルを作り地中に逃げた。

クリスティアラの攻撃により、もう既に崩壊していた小屋が更に原型を失っていく。積み上がっていた瓦礫は塵と化し、弾けて割れた他の小屋の窓は、今度は縁ごとひしゃげた。(次いでにアルセーニスは空高く吹っ飛ばされた)



「・・・手応えはあったけど・・・・・微妙ね。当たりはしたけどダメージとしては支障はないわ・・・あら?あなた?」



アルセーニスは泡を吹いたまま木に引っかかって気絶していた。

クリスティアラは ツカツカ と歩み寄ったあとアルセーニスを襟首を掴んで下ろし、平手を掲げる。



「起きなさい。寝ている場合ではありません」


《パァーン パァーン》


「へぶっ! ふぐっ!

はっ!?デニス枢機卿様は!?」


「逃げられたわ。あの男、逃げ足だけは一流よ」


「・・・そうか」



アルセーニスはパンパンに膨れ上がった頬をさすりながら状況を確認。

クリスティアラの放った【グレーテスト・クロス】で辺りは壊滅状態だが、デニスが出てきた地下への出入口は綺麗に土で塞がっていた。作り出したトンネルも痕跡が綺麗に消えている。



「・・・おかしいね。あの一瞬の出来事でこれだけの事ができるか?デニス枢機卿様はそんな芸当が出来るほど魔法に精通していない」


「何らかの外的要因があると睨んで良さそうね」


「十中八九あの大事そうに抱えていた物だろうけど、あれは一体何なんだ?」




  ー・・・ー




「はぁ・・・はぁ・・・・・」



肩からドクドクと血が流れる。確かに回避することは出来た。しかし完璧ではなかった。致命傷は避けたものの、大きな傷を負ったデニスは地下で作った空間に腰を下ろす。



「まだだ。まだ私は死ねない・・・はぁ・・・はぁ・・・。私はこの力で巨万の富を得るまで死ねないのだ」



肩を壁に擦りながらデニスは ズルズル と進む。【土魔法】でトンネルを作りながら地上に向けて登っていく。しかし手に大きな荷物を抱えて進むのがデニスには辛くなってきた。



(とにかくここを出なければ!この国ではない何処かへ!幸い今は【風避けの護符】を持っている。これで国の外へ出れば私の勝ちだ!!)



【風避けの護符】を懐から取り出す。

この国に【風避けの護符】を流通させないようにするのはデニスも苦労した。貿易の来た人々を買収したり、アリアが作り方を学ぼうとするのを全力で邪魔したり、誠にみみっちい話ではあるがデニスは暗躍していた。


貿易を進めることは長い目で見ればこの方が得をする。国が裕福になった方がデニスも最終的には利益が上がる。そんな事はデニスも理解していた。

それでもデニスが頑なに【風避けの護符】を広めなかったのは個人の思想だった。



自身が何時までも国の権力者としてこの国に君臨していたかったからである。デニスはこの国の貧民たちを見て嘲笑いたかったのである。



それだけの為にデニスはわざわざ貧富の差が激しくなるような政策をとった。生まれの良くない下賎な民がいい思いをするのをよく思わないが為に。


ようはデニスは人間のクズだった。





イクオは教会本部地下の謎の部屋でそれを確信した。



その事によりイクオに決意させてしまった。『アリア誘拐だけじゃ足りねー。もっとこの国をぐちゃぐちゃにしてやらー』と。





デニスは気付いていなかった。その大事そうに抱えている荷物に、イクオの【スクリプト】がかけられている事に。



『土魔法を発動させて5分後、魔力を放出しろ』



『ある物』の制御の為にくっつけていた魔道具。その魔道具の魔力の流れを【魔力放出】によって狂わせる。そうすると何が起こるか。



北の神聖王国大混乱の大事件まであと5分を切ったということは間違いない。

『アリア誘拐事件』は山場に差し掛かる。



なんか今までろくに登場もしていないゲオルグの可哀想な話が増えていく!

ゲオルグの悲劇に関しては今はさして関係無いです。ゲオルグがしっかり登場して、色々とゲオルグのキャラを知ってから、より掘り下げていきます。



ゲオルグは努力する天才タイプ。元々剣の天才が、常人が真似出来ないような修行を積みに積みまくった感じ。

もう手が付けられないほど強くなり過ぎて今は神聖王国No.1です。


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