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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
23/74

イクオの新たな力


イクオはこの世界に『魔法陣』という概念が存在しない事にキレた。魔法陣を展開して魔法を放つというシチュエーションはイクオで言うところの『ロマン』に該当した。そして「無いなら作ればいい」という発想に至ったのだ。


何が言いたいかというとイクオは500年前の技術である、簡易魔法陣技術【スクリプト】を独学で編み出したのである。

何百年に一人といった天才の所業を、何の変哲もない高校生であった イクオ が成し遂げることが出来たのはひとえに【演算魔法】の力があってこそである。

イクオは想像の産物である【魔法】を数値化し、文字に直してしたためる術を知っていたのだ。



イクオは衣服の裏に【スクリプト】貼り付ける事により様々な魔法を自身に付与している。【魔力遮断】によってアンジェリーナ達を撹乱したのも【スクリプト】によるものだ。


当然【スクリプト】で習得した魔法の数は少ない。【魔力遮断】と【魔力放出】、そして・・・






「【スクリプト・ボム】!!」



イクオが戦闘中に描いた魔法陣の中心で爆発が発生する。爆発音とともに辺りの物質は吹き飛ばされ、爆風を巻き起こす。レチタティーヴォはその爆発に呑まれた。


【スクリプト】による【地雷魔法】である。



「ふぅ・・・この一撃の為さ・・・長続きしない【集中】スキルをここで切ったのは」


「さっきのは何?イクオ」


「魔法陣っつーもんだよ。詠唱(ことば)で魔法が放てんなら魔法陣(もじ)で魔法も放てんだろってな」



もうもうと立ち込める土煙を払い除けて、レチタティーヴォは顔を出す。流石に倒しきれはしないが、与えることが出来たダメージは少なくない。



「ゴホッゴホッ・・・驚きました。まさか魔法を設置するとは。私の・・・いえ、我々の知らない技術です。自身で編み出したのなら賞賛するに余りある」


「お褒め頂き恐悦至極。【古代演算魔法】スキルがありゃあ簡単なもんさ」


「・・・その【演算魔法】も我々の知らない技術のようですね」



イクオもレチタティーヴォも余裕そうで消耗は激しい。

イクオは【スクリプト・ボム】で大量の魔力を消費していた。魔力をチャージしたとしても、あと二発が限界だ。レチタティーヴォも爆発が堪えていた。



(見た目以上に二人とも消耗してる。まだ余裕はあるけどこのペースで疲弊していったらイクオの方は長くは続かない。

でもイクオ。もうレチタティーヴォに同じ手は通じないよ)



アリアはこの戦いの鍵は【スクリプト】にあると踏んでいた。効果的にレチタティーヴォにダメージを与えるには【地雷魔法】が一番の有効打。如何に上手く【地雷魔法】を当てるかがこの戦いの勝敗を決める。



「もう同じ手は通用しません。次は避けます」


「そう言うのフラグって言うんだぜ?意地でも回収させてやるよ」


「フラグ・・・・・?」



東の方角に爆発音。


クリスティアラが起こしたものだ。レチタティーヴォは少し反応を見せたが、イクオは想定内といった表情だ。レチタティーヴォは直ぐにイクオの仕業だと理解する。



「一体全体 何をしたというんですか貴方は」


「デニスと俺が繋がっているっていう嘘を流した」


「・・・やってくれましたね。クリスティアラ様が動けない」


「うんにゃ?それ以外にも目的が・・・うおっ!?」



唐突に戦闘が再開される。レチタティーヴォの連撃をイクオは無駄な動きをしまくって回避する。これは堪らないとイクオが距離を取る。



「っとぉお!?」


「それ以外の目的?」


「おう・・・よっ!!」



応戦として蹴りを繰り出すが最低限の動きで回避される。さして距離を取っていないのがイクオにはちょっと悔しい。



「むむむ・・・・・デニスって奴がいんじゃん?」


「デニス枢機卿様?」


「そ。そのデニス枢機卿っつー(やから)が随分と大変なもんを隠していやがったのさ」



戦闘をしながら会話する。二人の戦いは下手くそなダンサーと一流のダンサーの共演の如く美しさに差があった。

しかし、注目すべきは会話の内容だ。そのイクオの言う所の大変なものにレチタティーヴォは食いつく。



「確かにデニス枢機卿様は謎な点が多い。何かと外の国から来た方々に圧力をかけたり、この国の人々が外へ出るのを渋ったりと、何かがバレないようにと立ち回るのに必死ですね・・・・・



ふっ!!」

【クロス】


「甘い!!」

【アタック・プロジェクション】



「・・・まさか貴方は何か知っているのですか?」


「どうかな?当ててみな」



知っていると思わせるような言い方だ。間違い無くイクオはこの国の深淵を覗いている。レチタティーヴォでさえ知り得ない謎をイクオは掴んでいる。

教会本部の地下にある謎の部屋。魔力遮断だけでなく生体魔力を感知する魔道具さえ完備させた厳重な部屋だったが、イクオなら侵入は可能だろう。



「・・・一つ確認させて下さい。そのデニス枢機卿様の謎とやらは、我々の決闘を害するものですか?」


「・・・・・レチタティーヴォ。お前による」


「フフッ・・・なら安心です。私は教会本部にいるアンジェリーナ様やクリスティアラ様、アルセーニス様を信じます。あの人達ならば解決出来る」



イクオとの決闘を投げ出さない。そうレチタティーヴォは宣言した。いや、そう言うのは分かりきっていた事だ。レチタティーヴォなら必ずそう回答するだろうとイクオはとっくの昔に理解していた。



「全くお前って奴は最高だな。約束を果たすだけでなく随分とまぁロマンのあるセリフを語ってくる。」


「・・・ロマン?」



レチタティーヴォは疑問を持つ。しかしその疑問に言葉を返したのはイクオではなかった。



「イクオの大好きなものよ。この胸を高鳴らせる自由の文化よ・・・」


「! アリア!?」



静観していたアリアからの返事にレチタティーヴォは注目する。



「私はね、レチタティーヴォ。私はイクオにロマンを教えて貰う為にイクオについて行くの。彼をここまで突き動かすロマンというものに全身で触れてみたいの」


「・・・・・」



レチタティーヴォは黙ってしまう。決闘を止める気は無い。しかしそのアリアの真っ直ぐな目にレチタティーヴォは考えてしまう。


世のため人のため、アリアとの婚約を取り消すわけにはいかない。しかしアリアはそれを嫌がっている。

愛を称える『イム神教』の信徒だからこそレチタティーヴォの心に隙が生まれる。考えてはならない事だ。しかしそれでもチラと頭をよぎってしまう。


アリアの事を思うなら、本当はアリアを止めない方が・・・・・





「つまんねー事考えんなよティーヴォ」


「!!?」



その思考を止めたのはイクオだ。あの時のレチタティーヴォの愛称をイクオは口に出していた。仮面越しでも声色で真剣なのが感じ取れる。



「アリアの気持ちは考えるな。そんなもんお前が勝ってから考えろ。アリアにロマンを見せ付けるにはお前の全力は必要不可欠なんだよ!それになぁー!!」


「・・・?」


「俺はティーヴォに言ったよなぁー!?

『もっとワガママになれよ』ってなぁーー!!?それがどうした!!お前はまだ自分の心に気づいてないのかよ!!?」



レチタティーヴォは怖気付く。その情熱には狂気が帯びていた。

気持ちの強さは突き詰めれば狂気にだって変われる。突然訳も分からないまま異世界に飛ばされて「ロマンだロマンだ」と叫んでいるコイツは当然頭のネジがとんでいる。


その並々ならぬ情熱にレチタティーヴォは押されていた。しかしそれは恐怖が全てではない。

何か自分にとって大切なものが胸に打ちつけられた。そんな気持ちをレチタティーヴォは感じていた。



「言葉責めでも暴力でも何でも使って解らせてやるよ!!あーそうさ戦いはまだまだこれからだ!!【スクリプト】の真髄!得と味わえやぁー!!」



イクオは再び襲いかかる。友に大切な事を教える為に。捨ててはならない感情があると拳で伝えるために。イクオはその力を存分に振るう。




  ー市街地ー




住民たちは寝静まっている時間、の筈だった。

街中に解き放たれた殺気を生存本能か直感かで感じ取った住民たちは、窓から見えないように身を潜めて ガタガタ と震えていた。絶対に怒らせてはいけない猛獣のテリトリーに入ってしまったかのような表情だ。



「・・・・ドコダ・・・・ドコダ・・・・・・?」



見るも恐ろしい顔をした何かがこの街を徘徊する。幸いな事に住民たちは隠れるのに必死でその何かをこの目で確認した者はいなかった。徘徊している怪物が公爵夫人であると気付かれたら流石に問題である。


今にも消えてしまいそうな表情の住民の内一人の家にある男が侵入する。



「どうも・・・」


「キャア・・・・・ッ」


「しーーー・・・」



男に口を押えられる。侵入した男は・・・



「あ、アルセーニス公爵様!?」


「うん。今ちょっと外に大変危険な人(自分の妻)がうろついてるんだ。僕がこれから話すルートに従ってここから避難して欲しい。わかるかい?」



住民の女性は コクコク と必死に頷く。

とにかく住民たちを避難させる。万が一にもクリスティアラの暴走に巻き込まれる事だけは、この国の公爵として避けなければならない。(流石にそこら辺はクリスティアラも考慮しているとは言え念の為)



(一定区間の人々の避難が既に済んでいたのは有難かった。恐らくレチタティーヴォだろう。彼は公園付近が戦場になることを見越していたな?)



やはりイクオとの決闘は双方の間で決められていた事だったのだなとアルセーニスは確信した。

おっと。今はレチタティーヴォの手際に感心するよりもやるべき事があったのだ。



「ひとまずここいら一帯の避難は完了。クリスティアラももう直ぐデニス枢機卿様の別荘に辿り着く」



アルセーニスが怪しいと踏んでいた場所の一つである。別荘と言ったら語弊があるかもしれない。そこは目に付きにくく建物もみすぼらしい。権威を辺りに撒き散らすデニス有るまじき場所だ。別荘と言うより小屋といった感じだ。

そして感知魔法によりアルセーニスは知っていた。この小屋が()()()()()()()()()()()()()()()()()()()



「きな臭い。恐らくそれは教会本部の『謎の部屋』に繋がっている。魔力遮断の魔道具で外部からの干渉も絶っているなんてきな臭すぎる」



サラマンダーが話していたこの国の食糧問題についてはアルセーニスにとっても興味深い話だ。


食糧の貿易についての本当の情報はデニスが独占していて外部に意地でも漏らさなかった。嘘の貿易リストを掴まされていたのに気付いたのはアルセーニスにとっても最近の事だ(その妙な手腕はある種の尊敬すら生まれるが、それは置いといて)。それは絶対にバラしたくない何があるという事の証明だ。


ちなみにイクオ達が作戦会議で見た貿易リストは正しく本物である。



「サラマンダー様は本当の情報を掴んでいる。彼はこの国の何を知ったのか・・・」



しかしこれも今考えるべき事ではない。「デニスを捕らえたら全部吐かせてやる」とアルセーニスはとりま心に決めた。

アルセーニスはデニスの小屋に辿り着いた。感知魔法でその内部の状況を感知する。



「・・・・・いたなデニス枢機卿・・・」












「ソコニイルノネ・・・」


「え、ちょっ」



クリスティアラは ブツブツ と詠唱を唱えると、手から【神聖魔法】で構築された光の剣が出現する。



「【模倣聖剣】」


「クリスティアラ!?待って!それは待って!!ダメダメダメこんな街中で・・・」


「【グレーテスト・クロス】」


「うわぁぁあぁああああ!!!」



クリスティアラの渾身の一撃。ありとあらゆる建物を巻き込む無慈悲の鉄槌が市街地のド真ん中で炸裂。振り下ろされた聖剣は聖なる力を持って市街地を破壊。

嗚呼、哀れアルセーニス。お前はまたもや始末書に追われることになる。




  ー???ー




「ノォォオオオ!!?」



デニス、紙一重で回避。地下への道へと滑り込み間一髪でクリスティアラの一撃をかわした。

この男、悪運強くてしぶといのだ。その癖ちゃんと有能だから手に負えない。



「クッ・・・クリスティアラ?不味いですね・・・」


「デニス枢機卿様ぁあ??」


「こ、こわっ!?」



目が紅く煌々と光るクリスティアラにデニスは恐怖する。



「くそぅ・・・・・何でこんな目に!!」



デニスは冷や汗を全身からかいて戦慄する。どんな猛獣だろうと敵わないと思わせる程の殺気を、デニスはその身一面に受けていた。





今のクリスティアラの実力は

アリアより下でレチタティーヴォより上です。

ランキング的にはNo. 3,5と言った所です。


種族は人間で年齢は50歳を越えています。それでこの実力なんですから恐ろしい事です。全盛期はどれだけ強かったのでしょう。考えたくもない話です。



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