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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
22/74

決別の時来たれり







  ー噴水公園ー







(・・・・・・)



銀の鎧に身を包んだ男が噴水公園のベンチに座っていた。意匠を凝らした白銀の鎧だ。

背中には二本の剣を背負っている。こちらの剣は装飾はそこまで派手ではないが、ただの剣と思わせない何かが帯びているように見えた。


男は何も喋らず

ただベンチに座っているだけだ。






(・・・・・・)







(・・・・・・・・・)







(・・・・・・・・・・・・











                  ・・・っ!)






「・・・・・・・・・・・・ぁぁ」


(・・・・・・・・・)






「・・・・・・・・・ぁぁぁああ」


(・・・・・・)






「・・・・・・ぁぁあぁぁああぁああああ!!!」






   《ドゴォォォオオオオオンン》






(・・・)


「・・・ゲホッゲホッ!

あー。ん゛ん!あ゛ー!よしっ!」


「よしっ!じやないよイクオ!飛ぶなら飛ぶって言ってよ もー!」


「ハッハッハ!悪ぃな!」


「悪ぃなって・・・ケホッケホッ!」


「・・・・・フフフ」



地面を抉る程の勢いを持った何かが、否、何者かが空から飛来してきた。ギャーギャー騒ぎながら土煙に咳き込む二人。

様子が何だか可笑しく思えて白銀の騎士は少し笑い声を漏らしてしまう。


その笑い声にギャーギャー騒いでた二人が気付く。少し間を置いた後、空から飛来してきた男は咳払いの後に何事も無かったかのように喋り出す。



「・・・・・待たせたか?」


「いいえ全然。さっき来た所です」


「嘘ね」


「嘘だな」


「えぇぇ・・・」



ベンチから男はゆっくりと立ち上がる。

そして宣言する。ここに立つ意義を示すために。目の前の友を推し量る為に。


そして戦うもう一つの理由・・・



「勝負です。貴方と決着をつけるときです」


「おいおい、喧嘩を売ったのは俺だぜ?でもいいや。その喧嘩、言い値以上で買った」



イクオはその仮面の下で口を月の如く歪ませる。

レチタティーヴォは背中の二本の剣に手を掛ける。

アリアはじっとその行く末を見届けるのみ。



彼らは友人だ。共に食事をし、言葉を交わし合った。自らの経験を語り合い、顔を緩ませて微笑み合った。

その記憶を胸に抱いたまま、彼らは向かい合う。


そこに憎悪は無い。

怒りは無い。

悲しみは無い。

負の匂いは一切無い。


決別の時は来た。月は争い合う運命を背負う彼らを見離さぬよう優しく照らす。風は揺るぎない決意を抱く彼らを見届けように静まり返る。



「私の名はレチタティーヴォ・アルハンゲルスキー。アルハンゲルスキー家の現当主にして、教皇様より『執行の騎士』の名を賜った至高の三騎士の一人。

イクオ。貴方の首、貰い受ける」



「俺は部沢 郁男。ただの通りすがりのイケメンさ。

首はやんねーよ。渡すのは誰かの財布で(しま)いだ」






時は今・・・・・・














































満ちた。











「イ ク オ ォ ォ ォ ォ ォ オ ォ ォ オ ォ オ オ ォ ォ ォ オ オ ォ オ オォ オ オ オ オ オ ォオ!!!!」


「レチタティーヴォ ォ ォ ォ オ ォ オ ォ オ オ ォ ォ ォ オ オ オ オ ォ オ オ オ オ ォ オ オ!!!!」



【跳躍Lv10】


【アルハンゲルスキー流剣術Lv65】



イクオの蹴りが、レチタティーヴォの剣が、あたりの空気を押しのけ音を出してかち合う。冷たい風が爆風の如く公園中を巻き込む。



「くっ・・・・・」


「ぬぬ、ぬ・・・・・・でぇ!!」



先に弾き飛ばされたのはイクオだ。何かを吹き飛ばすのに特化したイクオの蹴りだが、レベルの差かそれとも筋力の差か押し負ける。

足が宙を浮いたイクオだが直ぐバク転のように地に手をつく。手で【跳躍】。高く跳び上がる。



「ワッハッハァーー!!」


「【飛剣】!!」


「遅せぇ!!」



向かってきた斬撃をイクオは蹴って弾く。空気が弾けたような音がした。イクオはクルクルと回って公園にある木のてっぺんに着地する。そしてレチタティーヴォの背後の方向に目掛けて



「【跳躍】!!」


「【クロス】!!」



背後に回ったイクオを先読みしてレチタティーヴォは後ろにスキルを放つ。イクオはスキルでその攻撃を見切り、かわすべくまた位置を定めて



「【跳躍】!!」


「【肉体強化魔法】!!」



レチタティーヴォの背後から右斜め前に駆け抜けようとしたイクオに追いつこうと



「【跳躍】!!」


「【心眼】!!」



「【跳躍】!!」


「【アルハンゲルスキー流剣術】!!」



【跳躍】【嗅覚】


【跳躍】【飛剣】


【跳躍】【魔力増加】


【跳躍】【千乱飛剣】


【跳躍】【嗅覚】


【跳躍】【クロス】


【跳躍】【飛剣】


【跳躍】【剣術】


【跳躍】【剣術】


【跳躍】【敏捷】


【跳躍】【心眼】


【跳躍】【怪力】


【跳躍】【怪力無双】


【跳躍】【体術】


【跳躍】【嗅覚】


【跳躍】【心眼】


【跳躍】【体捌き】


【跳躍】【剣術】


【跳躍】【飛剣】


【跳躍】【飛剣】


【跳躍】【飛剣】


【跳躍】【千乱飛剣】





アリアはその異様な戦闘を【鑑定眼】で狂いなく捉えていた。レチタティーヴォは今まで培ってきたその技術を惜しげなく発揮する。方やイクオは多様な【跳躍】を使い分け自由自在に跳び回る。

両者互角・・・・・では無い。少しずつイクオは押されていた。



(ちぃ!!やっぱ長い間磨いてきた戦闘技術と付け焼き刃の素人戦術では力の差は歴然!真っ向勝負では八割・・・いや九割負ける!)



レチタティーヴォは前回戦った時に比べて格段に強くなっていた。あれから鍛錬を積んだのもあるが、本来は二刀流での戦い方が主流だったらしい。手数が多いからほぼノータイムで【千乱飛剣】が使えるようになっていた。



(てかお前二刀流かよぉー!ちくしょうカッコイイなー!!二本で一つの聖剣だったのか!)


「真面目モードは終わりだ!こっからは小細工を使う!スキル【集中】【演算魔法】!!」



イクオの思考スピードが加速する。イクオの【集中】は何かを並列して考える事に特化している。今現在のレベルでイクオが無駄なく並列集中できる物事の数は四つ。


一つ目の集中ストックは【マジック・オペレーション】で相手の魔力を感じ取る。


二つ目は【アタック・プロジェクション】で攻撃位置を予測する。


三つ目は相手の攻撃を回避する為に使う。


そして四つ目は・・・・・




「【集中】スキル・・・。それは精神に対する負担が大きい。長くは使えないでしょう!」



レチタティーヴォの読みは当然当たっている。集中力はMPのように使えば減っていく。使えば使うほど集中力は切れていき、後の戦闘に大きく響いてくる。



「【集中】スキルがきれたら終わりです!!」


「・・・・・・・・」



普段戦闘中でも饒舌なイクオだが、集中スキルは意識を特定の物事に集めるスキル。故にイクオは極端に無口になっていた。しかしそれは口での話。イクオの頭の中では思考の大戦争が勃発していた。



(消費魔力量120、使用スキルは【剣術】だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は上32度に右26度、左足を曲げて体を横にずらす。消費魔力量130、使用スキルは【飛剣】だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は下60度に左から右へ水平、スキル【跳躍】を使用し左方向へ回避、消費魔力量50。消費魔力量70、使用スキルは【嗅覚】だと判断、消費魔力量から0.2秒後に補足されると判断。消費魔力量無し、自身の剣術での追撃だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は・・・情報会得失敗、回転を利用してそのまま右手で攻撃すると仮定・・・正解、上体を後ろに反らし空中で回避。【跳躍】スキルを発動、魔力を60消費、バク宙で体勢を立て直す・・・成功。消費魔力量130・・・250、使用スキルは【飛剣】だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は左手上45度 右手下52度の同時切り、【跳躍】スキルを・・・否、下へ潜り込む・・・成功。【跳躍】スキルを発動、魔力を70消費、地に手をついて顎方向に攻撃・・・魔力ベクトルから後方への体重移動で回避すると判断。スキル未使用で右回りで相手の正面を向きながら回し蹴り、右への体重移動で回避されると判断、頬を掠め極小ダメージを視認。消費魔力量120、使用スキルは【剣術】だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は左手約並行に溝落ちから頭を狙い、開いた足を曲げて膝で挟んで受け止める、小成功、両膝に極小ダメージを確認。消費魔力量無し、自身の剣術での追撃だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は・・・情報会得成功、左手で上30度頭への刺突と判断、右に首を傾けて回避・・・不足と判断、上体を右30度傾ける、回避・・・成功。消費魔力量1,020、使用スキルは【千乱飛剣】だと判断、魔力ベクトルと視線から攻撃は上32度に右26度、下22度に左41度、上30度の左から右の横方向、右下から左上にかけて地面から67度の角度で切り上げ、下13度の左から右の横方向、・・・・・・・・・と判断、現在の体勢で回避の成功率は5%、困難と判断。【跳躍】スキルを発動、魔力を70消費、地に手をついて後方に30メートル移動。【集中】スキルの魔力出力を上昇、魔力を60消費、回避最適ゾーンの演算を開始、10%、20%、30%、40%・・・・・。消費魔力量1,020、スキル【千乱飛剣】の使用を確認、回避最適解現在83%、プラン実行、右斜め前にスキル未使用の跳躍、0.04秒後に左方向へ滑り込み、立て直し0.07秒後に左斜め後ろ地面から67度の角度で【跳躍】スキルを使用、消費魔力量70、回避・・・中成功、右脇腹と左頬と右肘と右足首に小ダメージを確認)



この間わずか十秒。高速思考を並列して行う。先程までの動きとは明らかに違うイクオにレチタティーヴォは驚く。しかし直ぐに対応する。

スキル【剣術】のスピードを上げてイクオを追い詰めようとする。



(長続きしないスキルを切ったと言うのにイクオの動きには攻撃らしきものが混ざっていない。どういう事だ?何の狙いが・・・・・?)


「・・・何か狙いがあるのならさせません!【千乱飛剣】!!」



イクオは後ろ向きに倒れるように、その無数の斬撃を地面ギリギリでかわす。仰向けに倒れた体を蹴上がりで起き上がる。



(何だこの違和感は。事態は変わってはいないがイクオの動きに微妙な変化があるような気が・・・)


「炙り出す!【剣術】!!」


「甘い!!」


「っ!?」



レチタティーヴォの股の下を潜ってイクオは後ろに回る。

イクオは【集中】スキルに集めていた意識を元に戻す。いつもの状態に戻ったイクオは再び喋り出した。イクオは【集中】スキルを切ったのだ。


レチタティーヴォは距離を離す。そして魔力をチャージして相手の動きに備える。



(スキルを切るタイミングが不自然すぎる・・・!何かを仕掛けてくる・・・いや、もう何か仕掛けている!!)



イクオは仮面の下でニヤリと笑う。間違い無くイクオは何か仕掛けている。レチタティーヴォはイクオの動きを少しも見離さないよう注視する。

だからこそレチタティーヴォは見落としてしまう。既にイクオの術中だと言うことに。



「周りを見なレチタティーヴォ。面白い物が見れるぜ?」


「・・・・・意識を逸らす目的ではなさそうですね」



レチタティーヴォは目線だけで周囲を確認する。レチタティーヴォには()()が何なのか分からなかった。

自身を中心に円が描かれ、小さな模様が散りばめられていた。いや、模様と言うには規則性がありそうに見える。何かの文字に近かった。



「文字、ですかね・・・?戦闘中にこれを描いていた訳ですか・・・」


「おめーらの文明にはない代物だからな・・・教えてやるよ。そいつはな・・・」



イクオは パチン と指を鳴らす。【肉体強化魔法】が使えるレチタティーヴォなので、【演算魔法】や【魔力感知】程ではないが魔力の扱いには慣れている。レチタティーヴォはその指から発せられた微かな魔力を辛うじて感じ取った。


しかしもう遅い。






「『魔法陣』って言うんだ」






その瞬間、魔法陣から放たれた光にレチタティーヴォは飲まれた。



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