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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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北の大陸の謎


「はい!」


『質問を許可しよう!』


「何でデニス枢機卿様はアリア様を差し出したんですか?」


『それはデニスの金儲けに邪魔だったからである!

アリアは【風避けの護符】の研究に力を入れさせようとした!しかし、他国間での貿易が色んな所で盛んになると食料市場をデニスが独占出来ない!故にアリアの存在がデニスにとっては厄介だったのである!!』


「あぁ~。だからあんなに()()()()()()()【風避けの護符】がこの国に普及してないのね。可笑しいと思った」


「え?貿易楽にして国を発展させた方が長い目で見たら利益多くね?馬鹿なの?」



ドヤドヤと他国の重鎮モブが話し合っている。喉の奥で詰まっていた北の神聖王国の謎がようやく喉を通った気分だろう。

サラは嘘に本当を混ぜて国の機密事項をぶちまける。事実、デニスがこの国の発展を妨げているのは本当の事である。理由は不明。

『イクオとデニスは裏で繋がっている』という一点を嘘として込めただけでデニスは早くも悪者扱いだ。



「そう言や、デニスだけ食糧市場を独占できていたのは何でだろう」


「あぁー確かに。デニスは一体何処から食糧を仕入れていたんだろうな・・・・・」


「サラマンダー様。何か知りません?」


『む? ふむ・・・・・』







  ~半月前 アリア誘拐作戦 作戦会議~







「うん?そう言やおかしいな・・・」



イクオはサラから提供されたデニスの情報を見て首を捻る。自分の持ち帰った情報に間違いは無いと鼻高々に自慢していたサラにとってその言葉は派手に耳に入る言葉だった。ついでに野次馬・・・否、野次豚(やじぶた)も話に混ざる。



『何だ?何かあったか?』


「面白い事でもあったのかの?」


「いやさ、俺の前世の記憶だと北の神聖王国って立地的には十分な植物が生える筈なんだよ」


『何だよ、また前世がうんたらかんたらと話をし出す気か?』


「ぶっちゃけ飽きたのう」


「テメーら・・・」



北の大陸は前世で言う所のロシアに近い。


ロシアではタイガと呼ばれる針葉樹林がある。すぐ側には小麦や綿花などといった物も育てられている。つまり、確かに育てられない作物は少なからず有るだろうが植物は育つのである。


しかし北の大陸はどうだ。四季に関係なく朝も昼も夜も吹雪で覆われていて植物なんか全然育たない。何でこんな所に国が有るのかもサッパリな立地なのだ。



『北の大陸って植物生えんの?』


「んな話は聞いた事がないのう・・・」


「うーん・・・説明するのは面倒臭いな・・・・・世界が球体であるっていう説ってこの世界にもあんのか?」


「一般的には球体で通っとるの」


「なら話は早い。気候の差が生まれるのはズバリ、太陽の照りつける時間の差なのだよ」


『何だ?その喋り方』



イクオは世界中で何故気候がそれぞれ違うのか、また位置が全然違うのに同じ気候の地域があるのか説明した。

宇宙が回っているのではなくこの星が回っている事や、地軸の存在等を教えた上で何がおかしいのかを説明していく。



「話を戻すが、北の大陸はえげつないほど植物が育たない。でも地理的にはここには植物が育つ筈・・・なんででしょう」


「いや知らんわい」



イクオは「おかしい」と言っていた情報資料をサラに渡す。



『これか?』


「それだ」


『なになに?デニスの貿易リスト?しかもこれ・・・㊙︎って書いてあるな。そんなやべー奴なのかね?』



サラは(いぶか)しげに資料を捲っていく。その横でイクオは更なる解説を追加していく。



「さっきピグ言ったよな?『北の大陸で植物が育つなんて聞いた事がない』って」


「ぬ?おう」


「じゃあ()()()()()貿()()()()()()()()()()()()()()()んだ?」


「・・・・・ぬ!?」


『マ・・・マジだ・・・・・・食糧の貿易リストに書いてあるのは肉類ばっかで野菜や穀物のたぐいが全然無い!』



サラは次々に貿易のリストを捲っていくがどれもこれも野菜や穀物といった物の欄が極端に少ない。一番必要なはずの植物類がだ。

まるで全てを自給しているかのようだった。



「ここでおさらいだ

・北の大陸は気候的に植物が育つ

・しかし北の大陸には植物が無い

・だと言うのに食糧を自給出来ている

そこから導き出されるのは・・・?」


『デニスだけ植物を育てる術を知っている・・・いや、最悪デニスはこの大陸の土壌を支配している・・・?』


「いや無茶じゃろ。それこそ聞いた事がないわい」



デニスは大陸の植生をコントロールしている。

現実味としては限りなく薄い。大陸を支配するなんて神話の力の域だ。



『そう言や魔力遮断の魔道具のお陰で霊体化しても行けない場所があった。そこの情報は得れてないな』


「デニスの部屋か?」


『だな』



それを聞いたイクオは肩を回してアップを始める。乗り込む気満々だ。事実、サラが調べる事が出来ない以上はこのメンバーで次に情報収集が得意なのはイクオだ。



「俺の仕事だな・・・!」


「イクオ・・・これから潜入期間に入るから情報交換出来んぞ。お主しか知れん」


「あっ・・・・・」






  ~現在~






『デニスが何処から食糧を調達していたか、か・・・分からん!』



聞いてた重鎮モブはズコズコとコケ出す。知りたかった情報だけは抜けていた。



(イクオ・・・お前は俺の入れなかった魔力遮断の部屋の中を知っているのか?お前はこの国の何を見たんだ?お前はこの国の植物が育たない理由を知っているのか?)



サラは謎を心の中に残していた。イクオの話が本当だとしたらそれは確かに興味深い話だ。サラとて気になりもする。



(まあでも作戦の予定を変更して俺らを収集しない所を見ると、そんなに重要な事では無かったみたいだな。重要だとしても作戦には支障が無いと言うことだな?)



サラはそう解釈すると演説さながらの語りを適当に締め、霊体化をして フッ と消えていった。辺りは「サラマンダー様が急に消えた」と喧騒が残された。




その傍では更に物騒な喧騒が・・・




「コンバット・メイド達!!」


「「「は、はい!!」」」


「私と夫はデニスを追う。貴方たちはイクオとアリアを追いなさい」


「「「了解!!」」」



アリアの母ことクリスティアラは自身のメイド達に指示を下していた。クリスティアラ専属のメイド達は奥様の顔面凶器にビビりながらも了解する。



神聖王国には実力の序列が有る。



No.1『断罪の騎士』ゲオルグ


No.2『法の騎士』アンジェリーナ


No.3『令嬢の中の令嬢』アリア


No.4『執行の騎士』レチタティーヴォの順だ。



しかしそれは騎士の間での話。



クリスティアラ・イェレミエフ

アルセーニス・イェレミエフ公爵の妻にして元『至高の三騎士』。アンジェリーナの師として剣術を叩き込んだその実力は折り紙付きで、亜竜の首をもぎ取ったという逸話すらある程だ。

肉体的スペックのピークを過ぎてしまったが為に今は過去程の実力は無いが、それでも彼女が怒りに身を任せてこの場で暴れ回れば、無事で済む人は数百人中で十人を超えない。



そのクリスティアラが自らアリアを救出するのを後回しにしてデニスを追いかけるのには訳がある。



「我が愛する息子を戦場へ送り出した罪!今こそ払ってもらおう!!」



イェレミエフ家の長男にして現『至高の三騎士』ゲオルグを神聖王国の過激派に巻き込むよう洗脳し、粛清騎士団に入れた事への怨みであった。

魔物の殲滅を第一と考える彼に最早、母のクリスティアラの想いは届かなくなってしまったのだ。ゲオルグはデニスの手で戦場へ駆り出されたのだ。



「やっと正体を明かしましたね。これで後腐れ無くあの男を捕えられる。私から更にアリアまで奪おうものなら容赦はしない!!」



クリスティアラは跳ぶ。凄まじい爆音とともに風圧が辺りを巻き込む。舞散った埃が止む頃にはもうクリスティアラの姿は何処にも無かった。

取り残された夫のアルセーニスは「はぁ」とため息をつくと教皇の元へ向かう。



「・・・教皇様。我々は枢機卿デニスを捕らえる為に動きます。どうかお許しください」


「・・・・・全てを許します・・・・・」


「有り難きお言葉」



普段はフラフラしている頼りない父親だが、この時は仕事モードの顔だ。当然、アルセーニスにもデニスへの怒りがある。確固たる意志を持ったアルセーニスは手強い。



(さて・・・。サラマンダー様が仰っている事は恐らく嘘が含まれている。サラマンダー様が霊体化をして教会本部内をうろついていたのはこの時の為に情報を集める事。だとするとサラマンダー様はイクオと繋がっているな?)



数回の思考でイクオとサラが繋がっている事を把握する。アンジェリーナ以上に魔力感知が優れていたアルセーニスはサラが霊体化して教会本部に潜入していたのに気付いていたのだ。



(恐らくイクオとデニス様が繋がっているのは嘘だ。まずアリアが攫われてからサラマンダー様が突然この話をし出すのはタイミングがあまりに不自然だ。クリスティアラをデニスに割かせるのが目的だな?)



アルセーニスは駆け出した。もうクリスティアラの姿は見えないがデニス枢機卿がただちに向かいそうな場所には目星がついていた。



(先ずはクリスティアラの元へ行き、デニスを捕らえる。何せクリスティアラには・・・・・)



遠くで爆発のような音が聞こえる。妻が何かやらかしたのが手に取るように分かる。



「僕が必要なんだよなぁ!」



泣きそうな顔でクリスティアラの通った道を追った。嗚呼アルセーニス。お前はクリスティアラのストッパーなのだよ。






  ー教会本部 正門ー






「・・・我が師クリスティアラ様を暴れさせたのは・・・・・」


「おう。うちのサラじゃ」


「なんて事を!!」



アンジェリーナは頭を抱える。アンジェリーナならばクリスティアラを止められる。しかしピグの片手間に止められる程クリスティアラは甘くない。クリスティアラの前に立つのならアンジェリーナは全力で向かい合わなければ。



「さぁどうするアンジェリーナとやら。クリスティアラを止めると言うなら止めはせん。だがイクオの元へ行くと言うなら通す訳にはいかん」


「・・・クリスティアラ様の怒りの矛先はデニス様だったな。なら放っておこう。あの男の事だ。師匠相手でも煙に巻くことは出来よう」


「お、良いのう。立場的にはこっちに来るのは不味いんじゃがワシ個人としては向かってくれるのは有難い」



近衛騎士達が教会本部の入口付近に集まろうと忙しない音を立ててこちらに向かってくるのが分かる。



「近衛騎士団は総勢100名にも満たないが、私が直々に鍛えた精鋭達だ。貴様一人で対処できると思うなよ!!」


「他の出口やらここへの道やらはサラがめちゃくちゃに塞いでややこしくしとる。近衛騎士総員を相手には出来んのは残念じゃが、まぁワシの負担的には問題なかろう」


『お待たせぇ!師匠っ!』



人魂が現れたかと思えばそれはやはりサラマンダー。これまでの道という道を溶かして繋げてきたから今や教会本部内は軽く迷宮状態だ。援軍の出はだいぶ抑えられた。



『イクオに言われた所を封鎖するだけの簡単なお仕事さ。問題はその後だな』


「サラマンダー様か・・・やはりそちらに付いていた様だな。私の見立ては正しかった」


『悪く思わないでくれよアンジェリーナ殿?俺はイクオと師匠の元に付く。俺の目的の為にな・・・』



サラの身体が炎となって溶ける。ドロドロと燃えるマグマのように融解したサラは渦を巻いてピグを包み込む。ピグの体は炎に消えた。



「何じゃこの炎!全く熱くないぞ!」


『【仮契約】する炎っスから熱くないのはしょうがないと思って下さいよ師匠っ!』


「か・・・仮契約?何だそれは?」


『そうさ【仮契約】さ!!これこそが俺の旅する目的だ!!』


「そんな事よりワシは炎に包まれるっちゅーからめちゃくちゃ熱いのを期待してたんじゃが・・・・・」



炎は霧散して飛び散る。その中から赤みがかった豚がいかにも残念そうに立っていた。熱せらりた金属のように熱を帯びて煌々と輝いている。



【仮契約 ピグレット 豚の丸焼きモード】



「いや何だそれは!?」



ピグはサラと【仮契約】を行う事により一時的にサラの力を受け継ぐことに成功したのだ。

つまり何が言いたいかって言うと、なんの悪夢なのか変態二人組が遂に融合を果たしたのである。まさかまさかの合体である!



『はははぁ!俺と師匠は一つになったのさぁ!!』


「ブヒヒィ!何か弟子がキモイから調子でてきたわい!!」


「『いくぞオラァァァァァァ!!』」


「寄るなぁぁああ!!」



紅く輝く豚が奇声を上げながら街を跳ね回ると言う新手の地獄が始まった。





【仮契約】


サラの持っている魔力を一時的に他者に讓渡するというもの。本契約であるスキル【契約】に比べて活用出来る魔力量に限度はあるものの、使い勝手のいいサラの【炎の魔力】を使い放題できる。使用できる魔力量はサラの魔力量に依存する。





サラの目的は【契約】相手を探すことである。

そしてもう一度言うがサラの目的は思いの外 直ぐ叶う事になる。

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