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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
18/74

数々の想いを交差させ今、開演の時


『ロミジュリ?』



イクオに『氷の国の姫』の話をしたらそんなことを言われた。イクオの前世ではそんな名前の物語があったらしい。



『敵国の相手と恋に落ちるっつー話は前世で似たようなものがあった。さして詳しい訳では無いけど』


『へぇ・・・』


『あれ?そもそも敵『国』だったっけな?国じゃなかったかもしれん』



どんなストーリーなのか聞きたかったが物語の全貌までは知っていなかったらしく、詳しく聞くことは出来なかった。



『ただロミジュリは悲恋の物語だけど氷の国の姫の方はハッピーエンドだな。何より王子の性格がアクティブだ』



悲しい物語らしい。うる覚えながらもイクオはその作品『ロミオとジュリエット』と『氷の国の姫』に違いを教えてくれた。



『ロミオはジュリエットが死んだと勘違いして服毒自殺してしまうんだ。取り残されてしまったジュリエットもロミオの持っていた短剣で後追い自殺をしてしまう』


『・・・・・それは・・・』



言葉が出なくなってしまった。イクオ曰くだが、私の生まれた世界はハッピーエンドの物語が多いらしい。実際私もバッドエンドの物語をあまり知らない。



『主観っつーか趣味の話だけど、俺はロミジュリより氷の国の姫の方が好きだな。こっちの方がはっちゃけてて頭が悪い。ロマンがある。

悲しい話はロマンと呼ぶにはちょーっと不謹慎だ』



少し意外だった。後々考えたらイクオの性格的には当たり前なのだが、それでもイクオはロミオとジュリエットの方が好きだと思っていた。故郷の物語だからそっちの方が好みに合っていると思ったからだ。



『またロマン?ホントにその言い回しが好きなのね』


『おう!大好物だ!』



ロミオとジュリエット


シェイクスピアという人が書いたらしい。イクオの前世では有名人みたいだ。

北の国には悲劇が少ない。大英雄レオンが持ち帰った物語に悲劇は無かったのかもしれない。あの人は優しすぎる人だ。



『イクオの前世では他にはどんな話があったの?』


『うーん、桃太郎とか?』


『ももたろー?』



『はるか昔、二人のヒーローがいた。

その名もパーフェクトGEEさん!

アルティメットBARさん!』


『え、何それ』


『GEEさんは山へ熊殺しの必殺技を編み出しに、BARさんは川で殺人巨大エイ、カーコンヒマンチュラを探しにそれぞれ旅に出た!』


『名前カッコイイ!』


『BARさんはそこで見たのだ!』


『カーコン肥満チュラ?』


『いや、幻の生物ネッシーを!』



誰かツッコんでくれ。



『百年の激闘の末、BARさんはネッシーの腹を気合いで叩き割り遂に戦いは決着した』


『人間!?』


『するとどうした!

ネッシーの腹からは一人の赤ん坊が飛び出した!隙をつかれたBARさんは赤ん坊のジャーマンスープレックスによって気絶してしまう!』


『な、何か面白くなってきた・・・』


『GEEさんはBARさんを取り返す為に、赤ん坊、桃太郎の住まう桃ヶ島(ももがしま)へと向かうのであった・・・!』




イクオは前世での物語を沢山話してくれた(まともな桃太郎もちゃんと話してくれました)。どうも悲劇ばかりではないみたいだ。


イクオの生まれ変わりについての話、俗に言う転生は実を言うと私は信じきれていない。荒唐無稽の話だとも思う。

でも頭から否定する気にはなれなかった。それはイクオが嘘をついていないと思ったからではない。信じた方が楽しいだろうと思ったからだ。


根拠も現実味もない話を信じる。疑うことをしないことは愚かな行為かもしれない。

でもイクオは言っていた。現実逃避から生まれた文化があると。そしてその文化は、イクオの世界で当時無敵だった貴族社会が覆るまで人々が耐え続ける力となってくれたことも・・・



それを『ロマン』と呼ぶことを・・・



私が転生の話を聞いた時に感じたものが『ロマン』なのか。それはまだ私には分からない。これから教えて貰うつもりだ。




  〜オペラ発表会 前〜




「おや?レチタティーヴォ殿の姿が見えませんな」



枢機卿のデニスはキョロキョロとその場を見渡してレチタティーヴォを探した。もうオペラが始まるまで数分も無い。誓のキスを劇中にすると宣言したからにはいてもらわないと困る。

だと言うのに教皇様は時間通りに始めろなどと言うし、枢機卿はもう面倒くさくなっていた。



(全く。このサプライズを企画したのはアイツらじゃないか。非常識で礼儀知らずで・・・あんな小娘や若造がモテはやされるのだからいよいよ国民は分からん)



枢機卿デニス

財政管理の職に就いていると言われていたが、実際は財政管理に深く携わる貴族と太いパイプで繋がっているだけだ。

基本的には金に目が眩んだ金の亡者だが北の神聖王国での発言権と影響力は大きく、教皇を除けば権力1位なのも伊達ではない。

悪い噂が影で流れてたりもするが、それでもこの国が枢機卿を残しているのはその地位とコネの広さが他国まで拡がっていて馬鹿に出来ないからだ。



(まぁ戻ってくるでしょう。教皇が始めろと言ったんです。すぐふらっと帰ってくる・・・)




  ビーーーーーーーッ




劇の開始のベル。耳慣れない音に皆が注目する。オペラの発表会自体には興味が無かった枢機卿でさえ「今から始まる」と思うと少しドキドキした。



『本日は『氷の国の姫』にご来場いただき誠にありがとうございます。開演に先立ちましてご来場のお客様にお願い申しあげます。

客席内での飲食はご遠慮ください。 また 全館禁煙となっております。

また、許可のない写真撮影、録音、録画の魔道具の使用は固くお断りいたします。

皆様のご理解・ご協力をよろしくお願いいたします』





  ー氷の国の姫ー





雪の降る朝。白い陽光に照らされ、雪たちは美しく舞い、川は眩く輝き流れる。川には石造りの橋が架かってあり、一人の少女が歌を歌っていた。退屈なような、日々を儚むような、そんな姿だった。



その橋の上で彼らは初めて出会った。橋の上で退屈そうに歌っている姿が王子にはたまらなく美しく見えた。

花と呼ぶには大人しい。香るような美しさではなく、透き通る氷のような美しさだった。歌も晴れやかな歌声ではなくどこか哀愁を帯びていた。



王子も歌に加わる。姫は少し驚いたが歌を歌い続けた。悲しそうな曲調は段々楽しそうな雰囲気になり、舞も何だか大きくなる。楽しくなってきたふたりは最後まで歌を歌いきってしまった。



『麗しきそこの君 名前を聞きたい』


『私は・・・・・』



慣れない口説き文句に姫はオドオドと対応する。退屈そうな目にほのかな光が宿る。この時から彼らは互いに思いを寄せていた。


まだこの頃は王子も姫も敵どうしだということを知らない。迎えに来てくれた人々が何だか慌ててたのを少し不思議に思ったくらいだった。

二人はそうとも知らずに自身を磨く。「出世して力をつければまたあの人に会えるかもしれない」。そう勘違いしてしまう。


そして二人は本格的な戦争が始まって初めて、想い人が敵なのだと気づく。王子は敵のお偉いさんから姫の名前を、姫は家臣から王子の名を聞いてしまう。



『嗚呼 なぜ私たちは愛し合えない運命か

 互いに想い合うことのどこが罪だと言うのだろう

 理解出来ない 分からない

 誰かを想うことは間違いでは無いはずだ』



王子の悲しみの(うた)。それは悲恋の嘆き。立場が、地位が、生まれ持った名でさえ、その恋の行方を妨げる。

王子の嘆きは誰にも届かないまま吹き荒れる吹雪に掻き消された。




  ー教会本部 外ー




レチタティーヴォは寒い外を歩いていた。舞台は見ていなかった。台本を暗記しているレチタティーヴォにとって、イクオがどのタイミングでやって来るのか想像できたからだ。

もしそのタイミングに居合わせていたらイクオと約束した『噴水公園で待つ』という約束を果たせなくなる。イクオほどレチタティーヴォは足が速くない。



「・・・・・・」



人の気配が無い。別に結婚式が有るからとかでは無く、夜の北の国は出歩く人が少ないのだ。風避けの為の外壁がこの国を囲んでいるとは言え、寒さや風を完璧に防ぐことは不可能だ。

だとしても極端に人の気配が無いのには別の理由があるが。



「・・・・・・」



北の国の夜は星が見えない。遥か上空には吹雪の壁が吹き荒れていて星の小さな光は妨げられる。ただ月の光だけがぼんやりと輝いている。





  ー氷の国の姫 意地悪な泉の精ー




幾度か密会をしていた彼らだが、姫は王子に「同胞を殺した敵国の者」という印象が与えられることを恐れた。姫はいつも通りに会うことを極力避けるようになった。


王子は何とかして姫に会いたい。王子は聖なる泉に住む泉の精のもとへ行くことにした。

曰くそこへ行けば自身に必要なものが得れると聞いたからだ。



『泉の精よ 泉の精よ

 どうか力のない私に力をお与えください

 何者にも隔てられない力を

 願いを叶えられるだけの力を』



姫に再び会うために王子は泉の精から三つの代償を払い、三つの魔法を受ける。


一つは美しい容姿を失い、全てを見透す目を得た


二つは権威を失い、困難を脱する知恵を得た


三つは信頼を失い、何者にも負けない力を得た



王子は今まで積み上げてきた全てを捨てた。

容姿は変異し醜くなり、慕っていた者たちは次々と離れていった。

権威は瞬く間に崩れ、地位を全て失った。

信頼はことごとくを裏切られ、自国で信じれる者は最早誰もいなくなっていた。



『嗚呼 姫・・・我が麗しい想い人

 もうすぐ貴方の元へ辿り着く

 どうか待っていてくれ』



冷たい風が無慈悲に王子を襲う。頼れる仲間は一人もいない。ただ強靭になってしまった体を突き動かし王子は進む。

幾ら生まれ変わったが如く力を得た王子でさえ、自然の脅威には抗うのは難しい。


意地悪な泉の精は二人が結ばれるのを面白く思はなかった。容姿も権威も信頼も失った王子を、姫は罵ると思っていたのだ。



『姫! 姫よ!

 会いたかった!会いたくてたまらなかった!

 さあ行こう 誰も知らない地へ!

 地位や名に縛られない遠い国へ!』



ボロボロになりながらも王子は姫の元に辿り着いた。身にまとった服は擦り切れ、顔は歪みおぞましい。美しかった姿はもう何処にも残っていない。王子はもう人と呼ぶことも出来ぬ化け物となっていた。

姫は言い放った。



『醜い

 貴方なんて人は知らない』



姫は王子だと分からなかった訳では無い。『醜い』なんて本当は思っていない。そんなことで姫の愛は揺るがない。

しかし敵国の王子を愛することで不幸になるのは自分たちだけではない。家臣や国の民達、愛する両親。多くの人たちの幸せと自分自身の身勝手を天秤にかけ、姫は王子を遠ざけることを選んだのだ。例え王子に恨まれようとも。


予想だにしていなかった姫の言葉に王子は頭が真っ白になった。

悲しみ、苦しみ、無力感、絶望

負の感情が交差する。

王子は泣き出したくなった。走り出したくなった。しかし最早王子には泣き出す力も走り出す力も残されていなかった。





  ー舞台 観客席ー





アリアの両親であるイェレミエフ夫婦は音一つ立てず舞台を見守っていた。アリアの演技は今までの比べ物にならない真剣さを感じ、観客の見る姿勢すらも操っていた。



「・・・・・・」


「・・・・・・」



アリアの母は『醜い』と言い放つ(アリア)に少し表情を歪めた。悲しさを噛み殺したような顔で王子を罵る姫をアリアの母は憂いた。



「・・・・・・」


「・・・・・・」



アリアの母にとってその表情とセリフは何だか胸騒ぎがした。

アリアはそんなことを言う子ではない。しかし苦しいながらも遠ざけようとする姿勢が何だか怖かった。近い内に自分たちに向けられるような気がしたのだ。



『ただいまより15分間の休憩でございます』



観客席にいる人々は肩の力を抜く。中には立ち上がり小さく伸びをする者もいた。



「アリア・・・・・凄かったな・・・」


「えぇ。今までで一番気合が入ってますね・・・」



真剣な顔付きが直らなかった。アリアの父も今までにないアリアの没入ぶりに少し違う雰囲気を感じ取っていた。真剣な子だったがあそこまで覚悟を決めた顔は見たことがなかった。



「やはりイクオの予告状の件だろうか・・・」


「どうでしょう。アリアはトラブルに緊張するような子ではないので・・・」


「・・・・・大丈夫。アリアはもうあの年で私より強い。君に似てね。

下手に誘拐するものならアリアが返り討ちにしてくれるよ」


「そうだといいのですが・・・」



アリアの父の顔にも少し不安が見える。アリアの母の顔には不安の層がダダ漏れだ。

我が子に受け継がせた天性の感。

『別れ』と言うワードがアリアの夫婦の頭の中で音を立てずに回っていた。




『まもなく開演でございます。

『氷の国の姫』においでのお客様はお席についてお待ちください』




オペラのセリフ回しって・・・何だ・・・・・・?



イクオ 笑い有り泣き有りの冒険譚

アリア ラブストーリー

サラ  エロ

ピグ  ハードボイルド


趣味趣向も人それぞれですね。

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