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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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イクオの術中



「突然現れ・・・・・消えた・・・?」


「!?」



近衛騎士の一人は絶句する。それもそのはず、その様な技術は伝承にすら残っていない。隠された500年以前の古代文明の領域だ。



「そんな事は有り得ません!!突然無から誕生するようなもの!

かの大英雄レオン様の伝説の魔法【空間魔法】でさえ出現した後は魔力の名残があった!!」


「だと言うのに・・・!」



予想外の展開にアンジェリーナは焦る。感知魔法と魔力感知はイクオを探す上での要だ。それを封じられれば高い変装技術と逃走術を持ったイクオを見つけ出すことは困難を極める。



(最悪の展開だ。奴は誰も知らない『魔力を欺く(すべ)』を知っていた。こうなってしまえば感知魔法も魔力感知も役に立たない!)



アンジェリーナは冷静さを欠く訳にはいかないと深く一度深呼吸をして対策を再び練る。



「アンジェリーナ様。やつの現れた場所は?」


「・・・4番役者控え室。ただそこには人がいない。誰かを捕らえて変装するためではないな・・・」


(現れたのはほんの一瞬。あんな短い時間にできることは少ない。いや、相手が何らかのきっかけで少しだけ魔力を漏らしてしまった可能性もある)


「そこに捜索班を二名向かわせ痕跡を探せ。そこに現れたのに何か目的があるなら何か見つかるかもしれん」


「はっ!!」










「アリア様・・・・・」


「えぇ レチタティーヴォ。近衛騎士たちが動き出しましたね。恐らくイクオが現れたのでしょう」



アリアとレチタティーヴォは会食の最中で今の会場の現状態を把握した。実力のある者たちは何人かその動きに気付いていた。

アンジェリーナの見せた焦りは、この教会本部で何か異常事態が起きたことを想像出来る。



「そう言えばイクオが貴方に勝つと言っていたわ。レチタティーヴォはイクオと出会うことは出来るの?」


「出来ますよ。奴が必ず現れる場所を私は知っています。あの男の計画の全貌をつかむことは出来ませんでしたが」


「レチタティーヴォが計画の全貌はつかめていない?イクオは凄いですね。かのレチタティーヴォに計画を悟らせないとは」



レチタティーヴォ登場時にサラッと解説したような気がするが、レチタティーヴォは切れ者である。ヒントすら与えているというのにレチタティーヴォに計画を悟らせないのは凄いことなのだ。



(恐らくイクオは私の想像を超える行動を起こしている。あの男の前では常識は通じない。それこそ魔力感知を掻い潜るくらいの・・・)



根も葉もないデタラメだ。しかし今日に限ってレチタティーヴォの予想は大当たりしていた。



「レチタティーヴォ」


「はい」


「貴方はイクオに全力を出しますか?」


「はい。イム神の名に誓って」


「フフっ それを聞いて安心したわ。貴方がイム神の名に誓うということは絶対なのね?」



イクオの仕掛けた決闘。アリアに言われるまでもなくレチタティーヴォは全力を出す気でいた。元々手を抜くことをしない性格のレチタティーヴォだが、アリアの問に対する即答は本気という言葉だけでは形容できない気迫を帯びていた。


その会話に水を差す男が一人。



「やぁ アリア嬢。今日は楽しんでおられますかな?」



小太りの男が現れる。大層な装飾を施した祭服だ。以前に乾杯の音頭をとっていたデニス枢機卿だ。位はレチタティーヴォとアリアより上である。

アリアとレチタティーヴォは小さく礼をする。



「これは枢機卿様。如何なされました?」


「アリア嬢の結婚はこの国の歴史から見ても誉れ(ほまれ)高き事です。これもイム神のお導き。イム神様も大層お喜びなさっていることでしょう。(わたくし)もこの結婚式に参加出来ることを・・・・・」


(はぁ・・・枢機卿きらーい・・・・・)


(私には目もくれず無視ですか。全くこの男は・・・)



レチタティーヴォとアリアは心の中でため息をつく。枢機卿は話が長いのだ。それだけならまだいいのだが、枢機卿の長話には大義に欠けている。

ただお決まりのセリフをつらつらと並べるだけだったり、人の気持ちも考えずただ「イム神の教えだ」と戦に赴く騎士たちを動かしている。


ハッキリ言って不快だった。



「そ れ と ! 枢機卿様?まだ【風避けの加護】の量産は目処が経っていないのですか?」


「あぁ それですか?いやはや面目ない限りです。何とか量産体制を整えたいのですが【風避けの加護】というのは材料費もかかり作るのも並の職人ではこなせないのです」


「北の国は作物がなかなか育たない土地だから【風避けの加護】で貿易を楽にするのはとても重要です!多少の出費が出ようともリソースを割く必要は十分ありますよ!」


(そもそもこの結婚式は私たちのためじゃなく他の国、特に西の国との貿易を進めるためのようなものじゃない。貿易したいならまず土台をしっかりさせなさいこのアホ!バカ!)



なんてことを本人の前で言うことは出来ないので営業スマイルを顔に貼り付けて話を聞く。レチタティーヴォはとっくに別の人の話に付き合わされていた。



(やはりこんなものか・・・。コネを作りたい一心で話しかけてくる人達ばかり。そこにはイム神様の意思も意向も関係ない。ただ「儲かりたい」それだけだ)



レチタティーヴォもレチタティーヴォでこの国の現状にうんざりしていた。勿論そんな人たちばかりではないのは理解していた。でも金に目がくらんだ人達がこの国の上層部には多すぎた。



((はぁぁああ))


「・・・枢機卿様。そろそろ私はオペラの発表会の準備に取り掛かります。まだ話したいのは山々ですが、ここで失礼します」


「おや?もうそんな時間ですかな?貴方はこの結婚式の主役なのですからもう少しこの場に留まってはいかがですかな?」


「残念ですがオペラでも私は主役(主演)なのです」


「そうですか・・・残念です」


「・・・・・行ってくるのですか?アリア様」


「えぇ。それではまた」



そう言ってアリアは退場した。レチタティーヴォの話もひと段落ついた様なのでここにはレチタティーヴォと枢機卿の二人が取り残されていた。

枢機卿はジロジロとレチタティーヴォを見る。



「おやぁ?レチタティーヴォ殿ではないですか。気付きませんでしたな。ホッホッホ」


「・・・・・そうですか」



レチタティーヴォは若くして多くの人々の支持を得て底辺貴族から成り上がった。枢機卿にとってレチタティーヴォは面白い存在ではない。わかりやすい嫌う動機である。

枢機卿は皮肉ったらしく喋る。



「貴方という人がアリア嬢の夫として選ばれるのはとてもとても意外でした。貴方とアリア嬢では身分の差が大き過ぎるのでね」


「確かに私は男爵家で生まれた。貴族の結婚にしては些か身分の差が大きすぎるのは分かっていますよ」


「何時まで貴方は貧民街の人々に構っているつもりです?あんな下等な人々に構われると我々も困るんですよ」


「・・・下等、ですか・・・・・」


「汚らわしく意地汚い。そんな人々と貴方が仲良くされていると他国に聞かれてはたまりません。

貴方だけでなくアリア嬢まで評判を落としてしまいます。アリア嬢も大層気を悪くされるでしょう」



レチタティーヴォの内心は当然キレていた。

レチタティーヴォにスラム街を任せるように仕向けたのは枢機卿である。「仲良くされたら困る」とはどの口が言っているのか。

ただそれは別にいい。スラム街を立て直すのはレチタティーヴォの目標だ。

何よりも腹が立つのは愛する国民を馬鹿にされた挙句、アリアまで話題に出されたことだ。



(気を悪くする?彼女に限ってそれは天地がひっくり返っても無い)


「お言葉ですが枢機卿様。アリア様はそうは思わないでしょう」


「む、何かね?」



レチタティーヴォは立ち上がる。勿論怒りの感情は少しも洩らしてはいない。威風堂々たる様である。

『執行の騎士』は言われっぱなしで終わらない。遠回しな発言が苦手なレチタティーヴォの割と分かりやすい反撃が始まる。



「アリア様は貧しい民を慮る慈悲深き御方。アリア様は貴方が下等と罵った人々を憂いているのです」


「それが何なのです?」


「・・・民が貧困なのは貴族の行政の不備が原因。この国の財政は貴方の仕事の管轄です。アリア様が気を悪くしているのは貴方ですよ枢機卿様」


「・・・っ!今はアリア嬢の評価の話をしているのではありません。貴方の身の振り方の話をしているのです!」


「イム神教 第十八項『財は溺れるものに在らず 弱き者を守る法であるべし』。

私はイム神様の御心に従うまでです。貧民街の人々を守るのに何の間違いがありましょう」


「アリア嬢が「貴方を愛したのが間違いだった」と後悔する日が必ず来ると、そう言っているのです!」


「イム神教 第七項『財では愛を誓えず』。

例え貧しくなろうともアリア様は後悔なんてしませんよ。私のやり方も含めて全て受け入れてくれる御方です」



『愛』というワードを持ち出した時点でこの口論はレチタティーヴォの勝ちで確定していた。

イム神教は愛の宗教。イム神教の教えにおいてレチタティーヴォに勝てる者はいない。



「くっ・・・ぬぬ・・・・・」



声を張ってしまったせいか人が集まって来た。流石に他国の重鎮の前で民を下等とは罵れない。枢機卿は悔しそうにこの場を後にした。



「・・・・・(ため息をこらえている)」


(・・・はぁぁあぁああぁあああ)



表情には出さない。そうこうしている内に人が集まって来るのだ。「次の話し相手は私だ」と言っているかのようだ。気を鎮めて次の話し相手に備える。


底辺貴族だった彼にとって、パーティといった社交的イベントは苦手の分類だ。別に陰キャという訳では無いのだが、貴族のパーティは人の汚い所が見える気がして嫌なのだ。



(アンジェリーナ様、大変そうだな・・・加勢したい)





  ~数時間後~




アンジェリーナはまたイクオの魔力を捉えた。しかし今度はアンジェリーナは冷静だ。

また一人別の騎士がアンジェリーナに報告に入る。



「アンジェリーナ様!!魔力感知班が今度は地下倉庫でイクオの魔力を捕捉しました!!」


「あぁ。私も感知した」


「前回感知してから間が短過ぎます。瞬間移動的な何かでしょうか」


「いや、イクオならこの距離を走り抜くことは可能だ。瞬間移動の可能性もあるが現実的では無い」



最初の発見からアンジェリーナは数度にわたりイクオの魔力を感知した。しかしイクオの現れたであろう場所は何処も手掛かりが無い。



(そもそも出現が一瞬過ぎる・・・あんな短期間で出来る事といったらたかが知れている)



イクオの意図は分からないたままだ。しかしアンジェリーナはジワジワとイクオを追い詰めていた。イクオの次に現れる場所を割り出し、特定する事もあと少しで可能だ。



「第二資料室に向かえ。イクオは1〜3階ほど階層を移動し、高確率で突き当たりを左に曲がる。今近い者を直ちに向かわせろ」


「はっ!!」


(逃げ続けているようだがそうはいかない。貴様は悪知恵は働くが軍師ではない。あと二、三手で詰みだ)



近衛騎士団の実力は北の神聖王国でも屈指の実力だ。仮にイクオが瞬間移動をしているとしても現れる一瞬に視認することが出来たら捉えることはわけもないだろう。

事実、イクオが瞬間移動などをして移動していたのならば最早詰みは確定していた。


瞬間移動をしていたのならば・・・だが。



「アンジェリーナ様。これを・・・・・」


「・・・ん?」



差し出されたのはランプだった。年代物だが装飾は褪せていない。とてもセンスのいい品だ。しかしそれ以外には特にこれといった特徴は無い。ごく普通のランプだ。

しかし・・・・・



「・・・このランプ、文字が書いてあるな。しかし何だこの文字は。見たことがない言語だ」


「はい。イクオが移動したと思われる部屋全てにこのような文字が書かれた物がありました」



魔力の名残も感じない。ただ得体の知れない文字が書かれただけのランプ。



「ひとまずこれは保留だ。恐らくイクオの適当な錯乱か、我々の知り得ない技術か何かだ」


「そんな物あるんですか?」


「わからん。ただイクオは我々の知らない術を持っているのは確実だ。もはや何が起きてもおかしくは無い」



この文字こそがこの半月で身につけたイクオの切り札の一枚。何もノーヒントで生み出したものでは無い。アイデア自体はありふれた物だからだ。




『67時間35分28秒後に魔力を放て』




そう日本語で書いてあった。


『日本語』

イクオの故郷の言語だ。



『魔力の発生装置を設置する』


アンジェリーナがこの簡単な罠に掛かるのには理由があります。


『◾◾◾』という概念がまだこの世界の現代には普及していないからです。

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