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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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結婚式(決戦)前夜


『ダメよ 私は貴方のもとにはいけない』


姫は悩んでいた。彼は敵国の王子だ。確かに姫は彼を愛していたが、敵同士である姫と異国の王子が結ばれるということは許されることではない。


『私たちは決して結ばれることは無い たとえ神が許したとしてもお父様とお母様は許さない』


王子は月光を背に姫へと手を伸ばす。姫は伸ばされた手に戸惑いながらも手を取れずにいた。


『何故? 愛し合う二人が何故結ばれてはならないのだ 私達のただ純粋な愛がなぜ許されないのだ』


『私たちは敵同士 地位が 力が 名が 私たちを妨げる』


王子は手を握る。姫が驚き、手を振り放そうとするより早く声を張り上げる。


『ならば私は捨てよう 地位も 力も 父から賜った名でさえ 私は貴方の為ならば全てを捨てて愛し合うことを誓おう』


王子の真っ直ぐな目に姫は見とれてしまう。たとえ敵同士であったとしても、王子は諦めなかった。そんな所を姫は好きになったのだ。


『全てを・・・・・捨てて・・・?』


『そうさ 俺と一緒に全てを捨てよう そして永遠の愛を得よう



   さあ!』





  〜・・・〜


「お疲れ様。フュードル」


「お疲れ様です。アリア様」


アリアはオペラのレッスンをしていた。今度の舞台はアリアとレチタティーヴォの結婚式で披露するものだ。

神から最も寵愛を受けたとされる『令嬢の中の令嬢』アリア・イェレミエフ

国民から教皇まで多くの支持を得た『執行の騎士』レチタティーヴォ・アルハンゲルスキー

この二人の結婚式は北の神聖王国の歴史に刻まれる。


「う〜ん。しかしいいのでしょうか。アリア様とレチタティーヴォ様の結婚式なのに王子役を私が演じてしまって・・・」


「フフフッ。いいのよ。そんなこと誰も気にしないわ」


他愛のない会話をするが、本人たちの心は張り詰められていた。世界的な大きな舞台なのだから失敗は許されない。今までにない気合が練習場に満ちていた。

そこに一人の人物が現れる。


「良い調子ですよ。アリア」


「お母様!!来て下さっていたのですね!」


物語の序盤に登場した顔に出やすい奥様。アリアの母。レチタティーヴォの屋敷にアリアを送ってからというもの、アルハンゲルスキー低で数々の脱走を繰り返していたと聞いた時のアリア母はそれはそれはえげつない顔をしたそうだ。


「脱走を繰り返していたと聞いたからどうなったかと思いましたが、いつも以上に練習に熱心で安心しました。レチタティーヴォはアリアのお眼鏡に叶いましたか?」


「はい!お母様の言う通りに見定めてきました!レチタティーヴォは私の生涯を捧げて愛するに足るお方です!」


真っ赤な嘘である。しかしそんなことも知らずに舞い上がるように嬉しくなったお母様はますます上機嫌になっていく。

メイド達は「本当か〜?」という目をアリアに向けていた。メイド達の方がしっかりしてしまった。


「本番当日は明日。今日はしっかり身体を休めなさい。それと・・・」


アリア母は顔を引き締める。いつもの親バカモードではなく仕事モードの時の顔だ。


「当日には例の事件のイクオが現れると噂されています。ですが結婚式を中止にすることは出来ません」


既にイクオが現れるということは北の神聖王国の上層部には知れ渡っていた。さすがに多くの人々の耳には入っては無いが、それでも舞台に立つ役者の人々には知らされていた。


「教皇様だけでなく、南の大陸や西の大陸からも人々が来ています。何より教皇様が中止にしてはいけないと【啓示】を受けている。

教皇様のお言葉は絶対です。我々は教皇様のお言葉を神のお言葉として実行しなくてはなりません」


決意をさらに高めようとアリアの母は話し出す。しかしそれをアリアは遮った。


「お母様。明日の本番は必ず成功させます。同じ舞台に立つ皆様と一緒に最高の舞台にしてみせます」



嘘八百である。


(流石に心が痛いなぁ。お母様のことは大好きだし、できれば悲しませたくはない)


確かにアリアは脱走の際に母に対して沢山の嘘をついてきた。

しかし今回の嘘は母をとても苦しませかねない。いや、必ず苦しめるだろう。必ず舞台を成功させると言った矢先に攫われる。酷い嘘だ。


(・・・でもね、お母様。私は本当にやりたい事を見つけたの。

イクオと世界を逃げ回って多くの事を知りたい。何よりイクオの『ロマン』とは何なのか。この目で、この耳で、この身体で知りたい)


母に本当の事を言いたい。でもアリアはイクオの作戦に何も介入しないと決めていた。警戒を解くことも、警戒を強めることもしたくない。

アリアは『令嬢の中の令嬢』としてすべき事を全うする自分を演じる。



「だからお母様。安心して見ていてください」


「アリア・・・。どうやらお節介が過ぎたようです。役者の皆様もますます良くなっていっています。北の神聖王国の名に恥じぬよう。期待しています」


「「「はい!!」」」


最後の練習を終えた。アリアにとっては家族の様に暮らしてきた舞台の仲間との本当に最後の練習だ。

舞台の傍で演奏してくれるオーケストラの皆に、同じ舞台に立つ役者の皆に、舞台裏で沢山動いてくれる裏方の皆に、アリアは挨拶と礼をする。


(本当にこれが最後かもしれないんだ。皆と話すのが・・・・・。別れってこんなに辛いのね・・・)


悲しい気持ちが溢れる。みんなを騙す形で別れるのはお転婆でも善人なアリアには少し辛かった。

しかしイクオについて行くと言ったのはアリア本人だ。後悔するまいと前を向く。涙を流すまいと歯を食いしばる。

アリアは前を向き直した。






アリアは中心街の教会本部に泊めてもらっている。自室に戻る為にアリアは廊下を移動していた。


「・・・・・・?」


ふとアリアは外がなんだか騒がしいのに気付いた。何だか外が明るい。そしてそれは感知魔法を発動させることにより、外で何かが燃えているのだと気付いた。


「・・・っ!!」


アリアは走り出した。そして瞬く間に教会本部の公園に辿り着いた。


「一体どうしたの!?何があったの!?」


「あっ アリア様!!あれを・・・・・!!」


「何!?・・・・・・


               ・・・へ?」


アリアは妙な声を出して呆ける。あまりに常軌に逸脱していた。そして冷静に戻った時、これは彼らの仕業だと即座に理解した。






教会本部の大きな壁。そこには多くの炎が音を立てて燃えていた。

その炎は線を描き、点を描き、文字になっていた。そして文字は壁いっぱいに広がる文を為している。

その紅蓮の文字は夜の教会を明るく照らし、皆の目に焼き付けた。





『異世界から来たイケメン貴公子』


『ブサワ イクオ 現る』


『目的はただ一つ』


『公爵令嬢 アリア・イェレミエフの誘拐である』


『明日 ここ教会本部にて 俺は必ずアリア・イェレミエフを奪う』


『待っているがいい』


『怪盗 イケメン仮面』





「何故だ!?何故あの男が結婚式に!?」


「それよりも見て!!アリア様を・・・!」


「なんて奴だ!我々だけでなくアリア様まで狙うとは!!」


教会本部公園で大騒ぎしている中、アリアはただ呆然としていた。


(何で?イクオは何故こんな事を?こんなの警備の警戒度を上げるだけの行為じゃない!)


理解出来ない。リスク以外何物でもない行為にアリアはパニックを起こす。しかしそれ以上にアリアは




(何でこんなに私は 高揚しているの!?)




震えるような笑顔で拳を握り締める。

アリアはイクオに「これがロマンなのだ」と見せつけられている気分だった。「してやったり」と自慢げに笑うイクオの姿が容易に想像できた。


皆と別れる悲しい気持ちでいっぱいだったのが少し晴れた。そして悲しい別れをするまいと心に決めた。


(イクオがこんなに元気にバカをやっているのに私がしんみりしててはダメだ!)


「この国中のみんなに!いや、世界中のみんなに!私の気持ちを素直に伝えるんだ!!」



  ー・・・ー



アンジェリーナは教会本部の別の建物の窓から煌々と光る紅蓮の文字を睨んでいた。


「あの阿呆は一体何を考えているのだ!?」


アンジェリーナは罠かと勘ぐる。理解のできない行動だ。イクオは確かに突飛な発想を躊躇なく実行するよな男だ。にしても今回はアンジェリーナにも訳が分からなかった。


「このメッセージの意図は何だ!?・・・いや・・・」


こっちもこっちで大パニックだ。しかし直ぐに冷静になる。そう、イクオはこういう時に回りくどいことをしない。


「なるほど。正面から我々を突破するというのだな・・・・・」


アンジェリーナは約一年前の『イケメン事件』の被害者だ。それも教皇お墨付きで近衛騎士として行動していた。彼の事を間近で見てきたのだ。



「・・・・・舐められたものだ」



闘気を発する。イクオに「かかってこいや」と言われた気分だ。こちらでは不敵な笑みで挑発をするイクオを想像した。



  ー・・・ー



レチタティーヴォは公園から少し離れた所でその騒ぎを見守っていた。本来火災を静めるべく救援に行くべきだがレチタティーヴォはその文字を睨んでいた。


「まさかこんな行動に出るとは・・・驚きました」


国家転覆罪を起こした張本人が現れると犯人自らが宣言した。ここまで公なら結婚式は中止になってもおかしくは無い。しかし結婚式は中止にならないとレチタティーヴォは直感していた。


「アリア様・・・貴方がその気なら私は全力で貴方を止めます。そしてイーグを・・・イクオを捕らえます」


決戦の時は近い。

イクオは弱い。本来レチタティーヴォは全力を出すまでもない相手だ。しかしレチタティーヴォはイクオに自らの全力を出すと心に決めた。

敵としてか・・・友としてか・・・


レチタティーヴォはイクオがこちらを真剣な目で見つめているような気がした。



  ー・・・ー



『ふぅ、任務完了。こんな形で俺の魔力を使うとは・・・イクオの野郎の考えることはやはりわからん』


サラマンダーは炎の精霊。この予告状を書いたのはもちろんサラだ。サラは無線代わりの石に魔力を送って予告状の成功を知らせる。


『さあ・・・忙しくなるぞ?』


霊体化でフッと姿を消す。



  ー・・・ー



「おーおー。ド派手にやらかしとるのう」


マンホールの下に隠れていた豚野郎ことキャプテン・ピグレットはマンホールの蓋を開けて、その騒ぎを見ていた。


「アイツはバレて無いじゃろうのう?イクオが何やら決意を固めてからかれこれ半月が経っとる。イクオも急激に強うなった。そんなヘマはせんじゃろう」


ピグはブヒヒと不敵な笑い声を響かせてマンホールの蓋をそっと閉じた。



  ー・・・ー



「アリア様!やはり今後の結婚式は多少のリスクを背負ってでも中止にするべきです!!」


「いいえ!やるべきよ!ここで中止にしてしまえばイクオを捕らえる機会はもう来ないわ!」


一人の従者とアリアは言い争っていた。

結婚式は北と西と南の三国が集まる大きなイベント。今更中止にできないとは言え、国家転覆罪の男がこうも宣言するとなるとそうも言ってはいられない。


「無理です!こうなってしまえばもう取り返しがつかない!それに貴方の身に何かあれば・・・!!」


「いいえ、それでもよ・・・。レチタティーヴォとの結婚式は国の問題なんて関係ない。そうでしょう?ここは愛の国よ!?」


「・・・・・本気なんですね・・・アリア様・・・」


「えぇ・・・・・本気よ・・・」



(・・・やはりアリアはそう言うと思っていたぜ)



従者は心の中でニヤリと笑う。全てが計画通りとでも言いたげだ。明日の結婚式でアリアの誘拐も、レチタティーヴォとの決着も、全てが終わると思うと従者は心の中で笑わずにはいられない。


「我々は貴方を全力でお守りします。結婚式が成功しますよう、どうか心より願っています」


「えぇ。必ず成功させてみせます」


「信じますよ・・・」


従者。いや、例の男はアリアとすれ違って行く。


(何故かは分からないが、教皇が結婚式の中止を止めているのが助かった。それが無ければ結婚式は中止になっていたかもな・・・。俺がこの国に起こす影響を過小評価していたのは反省点だな)


男は屋敷の柱の影に隠れた後ふぅと息をついて思考に入る。

背後には炎による明かりと騒ぎの声が聞こえる。男はその光をバックに柱から伸びる影に身を隠す。


(さぁ・・・パーティの始まりだ!勝負だレチタティーヴォ!)




長い明日が始まる。




  〜結婚式 当日〜



お正月だからなのかそれぞれの抱負みたいなことになった。


ちょっと早いですが北の神聖王国編の最終章です。イクオは無事にアリアを拉致れるのでしょうか。

乞うご期待。

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