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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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イクオの決意 レチタティーヴォの覚悟

「そうですね・・・私にとって宗教とは心の支えです」


「心の支え・・・ですか」


「イム神様の教えに則って規則正しい生活をし、祈りも欠かさず捧げる。規則正しい生活をすれば、イム神様は私を見て下さるって思えるんですよ」


「ふーむ・・・」


「自分の努力をちゃんと見てくれていると嬉しい。自分には理解者がいると思うだけで心が軽くなる。何だか力が湧いてくる。神とは全ての信者の理解者なのです」


「なるほど。例え地上の世界に自分の努力を認めて貰える人がいなくても、神様は理解してくださると思えるわけか」


(「祈りを捧げることによって救われる」。そう聞くと陳腐に聞こえてしまうが、確かにそれは納得できる。理解者がいるかいないかで心のありようは大きく変わる)








「でも神様って人が苦しくても何も助けてくれないじゃないですか。戦争で信者が沢山死んでも関与してこないですけど・・・」


「ふむ・・・・・確かにそうですね。人がどれだけ苦しくてもイム神様が自ら救いの手を差し伸べたことはない。

ですがそれは人が起こした問題です。神が起こした問題は神が、人が起こした問題は人が解決すべきです」


「自分で解決しろって事ですかね?」


「はい。イム神様はあくまで理解者であって楽をする為の近道ではありません。この戦争は人が自ら解決しなくては」


「はー・・・ま、確かにそりゃそうですか」


(神様に言わせりゃあ人が勝手に自分の名前使って戦争してるってだけで、助けてくれって言われても困るだけだわな)







「イム神様への解釈は人それぞれです。

粛清騎士の皆様のように神は魔族を許さない高潔な方と思う人もいれば

私のように神を人の心に寄り添って下さる慈愛に充ちた方と思う人もいます」


「あれ?解釈の幅が結構フリーダムですね」


「人の数だけ思い描く神がいる。とも言えます」


「おぉ・・・その考えはありませんでした。目からウロコです」


「? なんの言葉ですか?」


「あ、このことわざは無いのね」


(人によって思い描く神は違う・・・か。人の心は千差万別。人によって神の理想像が違うのなら、人によって神の性格が変わるのもまた道理か)







「イム神様の教えで重要なのは

・『自身の心、そして愛に正直であれ』

・『強かな心であれ』

この二つです」


「正直!強い心!って感じですね。長い間人の心の支えであり続けるわけですよ」


「えぇ!イム神教の歴史は長いですよ!

・・・と歴史について自慢したいのは山々なんですが、如何せん古代のイム神教は謎の点が多く、今と昔のイム神教が恐らくだいぶ違うのです」


「ほう?それはまたどうして・・・」


「正典の原書が中央の大陸の聖地にあるんです。レオン様は原書ではなく写本を持ち出したので・・・」


(ちょっと待て、今とんでもなく大事な情報がカミングアウトされたぞ!?)







「そう言えば、愛の宗教ならレチタティーヴォ様は愛する人とかいるんですか?」


「ティーヴォでいいですよ」


「いえ流石にそれは・・・」


「ははは。それにしても愛する人ですか・・・どうなんでしょうね。私は恋の相談をされる事はあっても恋をした経験は無いので」


「・・・・・・」


【演算魔法 心魂覗く顕微鏡マインド・パーセプション


「・・・そうですか。少し困らせてしまいましたか?」


「いえ。そんな事は」


ほんの少し感情を読む魔法を使った。感情の種類を見分ける魔法は感情の大きさを量る魔法より難しく、結果も不安定だ。

イクオはそれでもレチタティーヴォの感情を捉えた。







話が弾む。イクオのたまに出る失礼な物言いにレチタティーヴォが腹を立てることはない。逆にレチタティーヴォの長い語りにイクオがイライラすることもない。

二人とも変人だ。

ロマン主義馬鹿に、感覚が麻痺った働き馬鹿

しかし謎の相性の良さに長く話し込んでしまっていた。


(・・・それにしても良い奴だ。なるほどこれは国民に好かれる訳だ)


レチタティーヴォは何故成り上がれたのか。確かに本人の努力は大きいが、もっと大きな要因があった。


ズバリ人気である。


人々を励まし、驕ることなく謙虚でい続け、誰よりもイム神の教えに忠実。教皇も非常にレチタティーヴォのことを買っていた。

上司にも部下にも国民にも慕われていたのだ。


人の心に寄り添う姿が、誰よりもイム神の姿を体現していたのかもしれない。


「なんだか話し込んでしまいましたね。どうも『執行の騎士』の称号を得てからというもの友達ができにくい。悩みや意見を誰かに話せて良かったです」


「こちらこそいい体験をしました」


(割と本音だ。どうも宗教っていいイメージができなかったが存外納得できる話が沢山あった。ま、前世の宗教とは割とズレてそうだがな)


レチタティーヴォは時計を見る。もう時計の針はお昼に差し掛かっていた。


「では。私はこの辺りで」


食後の祈りを終えた後、レチタティーヴォは立ち上がる。


「仕事ですか?いつもお疲れ様です」


「えぇ。でも今回は休めた方ですよ。最近従者達が休みを作ろうと頑張ってくれるので」


「休んだ方がいいです。睡眠時間は多く取りましょう」


(普通あんなに夜遅くまで徘徊するとは思わんがな。早よ寝ろ早よ寝ろー)


自分の食事代は自分で払うと言ったが奢られた。「誘ったのは自分だから奢らせてくれ」との事だ。変に粘れば失礼かなと思い、イクオはこれ以上言うのは止めた。

店の前より少し離れた所で別れの挨拶を済ませる。


「今日はありがとうございました」


「いえいえ。こちらこそ奢ってもらって」


「機会があればまた会いましょう」


「・・・・・恐らく直ぐ会うことになりますよ」


「?」


イクオは少し表情を歪ませた。だが悟られまいと直ぐに表情を笑顔に戻す。


(そうだ。直ぐ会うことになる。今度は友としてではなく敵として・・・)


話さなければ良かったと一瞬でも後悔してしまった。イクオは一瞬でも後悔してしまった自分を心の中で叱咤した。


一度は前世で後悔しながら死んだ。もう後悔をする生き方はしたくない。


「そう言えば名前を聞いていなかったですね」


「・・・イーグです」


イクオは適当に思い付いた偽名を喋る。そして・・・


「これを・・・」


「これは・・・財布ですか?」


「道に落ちていました。仕事を増やすようで申し訳ありませんが、どうか持ち主のもとへ返してくれませんか?」


イクオは盗んだ財布を取り出した。

イム神教の教えを聞いたからか、レチタティーヴォと一時の友としての時間を過ごしたからか・・・。とにかく今は悪いことをする気分にはなれなかった。

ただ目的は実はもう一つ・・・。イクオは財布に紙切れを捩じ込んだ。


「分かりました。必ず届けましょう」


「ありがとうございます。それでは」


「はい。それでは・・・貴方にイム神様の加護があらんことを・・・」



「・・・もっとワガママになれよ・・・・・」



「はい?」


疑問の声がレチタティーヴォから上がる。しかしイクオは振り返らず手を振るだけで去っていき、そのまま人混みの中に消えた。


「ワガママ・・・?何だったんでしょう」


レチタティーヴォは渡された財布に目を向ける。すると財布には一枚の紙切れが挟まっていた。






  ーアジトー



「ただいま」


『遅い!!腹減ったー!!メシー!!』


「悪ぃ。道草食いまくって腹いっぱいになっちまった。お前らのメシは無い」


『えぇえ!!?』


「この扱いの悪さ!くぅ〜堪らんのう!!」


イクオは騒ぎ立てる変態共に目もくれず資料をあさり出す。いつも通りの反応を見せないイクオに疑問を抱いてサラとピグは後ろから資料を覗く。



「・・・・・これだ・・・!」



イクオは数枚の資料を取り出す。


「何の資料じゃ?」


『これは・・・アリアが主演のオペラの台本?』


「あぁ・・・良いねサラ。どんなセリフがあるか、どんな動きをするか、どれも細かく書いてある。お手柄だ」


『褒められた!気持ち悪っ!!』


(脚本  『氷の国の姫』

姫役はアリアで王子役はフュードル。・・・誰だそれ?

てかアリアとレチタティーヴォの結婚式なのに劇中の結婚相手の役者はレチタティーヴォじゃないのかよ)


イクオとアリアが二人で時計塔のてっぺんで話し合っていた時。アリアはこの話を沢山聞かせてくれた。アリアが一番大好きな物語だ。


(ティーヴォとの再戦はやりたいからやるじゃ駄目だ。やらなくちゃいけない!アリアを誘拐するにあたってティーヴォは超えなくちゃならない壁だ!!)


イクオは拳を握り締めて心の中で宣言する。レチタティーヴォと再戦すると。

  

「さて!再び作戦会議だ!!」


『えぇーメシは!?』


「お前ら馬鹿どもにくれてやるメシは無い!欲しけりゃ自分で取りに行け!

では、まず連絡としてアンジェリーナだけでなくレチタティーヴォにもバレた」


『ばっ バカヤロォォオオオ!!?』


「まあ落ち着け これはそんなに問題じゃない。何故ならアンジェリーナの時点で警戒度はMAXだからだ」


『返す言葉も無い!!』


「サラ、うるさいぞ。喧しさでキャラを立てようとするでない」


『はい師匠!』


ピグのセリフとともにサラはビシッと敬礼をかます。サラはピグの事を完全に師匠と呼ぶことに決めていた。イクオは「えぇ・・・」と表情に出す。


「お前ここに来てキャラがブレッブレだな。

ん゛んっ! お前らにやってもらう事は単純だから安心しろ。弱ぇヤツにはこなせんが馬鹿でも理解は出来る」


イクオは仮面の下でニヤリと笑う。サラとピグは表情を見ることは出来ないがイクオの声で笑っていると気付く。


『・・・何かろくでもないことする気だな?』


「楽しみじゃのう。ブヒヒヒヒッ」


(財布に挟んで渡した紙切れ。あれを見ればティーヴォはイーグの正体が俺だと気付くだろう。後は奴が俺の誘いに乗ってくれるかだ・・・)







ーアルハンゲルスキー低ー



「ただいま戻りました」


「お帰りなさいませ。レチタティーヴォ様」


「イワン。この財布を持ち主のもとへ届けてくれ」


「かしこまりました」


レチタティーヴォは足早に廊下を歩く。通り過ぎる従者達に挨拶は欠かさないが、その顔つきは厳しい物だった。


「レチタティーヴォ様?どこかお身体が優れないのですか?」


「ん? あぁいや そういうわけじゃないんだ。ただやることが・・・いや、やらなくちゃいけないことができたんだ」


心配で声をかけたメイドにレチタティーヴォは返事をする。






「結婚式は中止にするべきだ!!」


レチタティーヴォ低には『法の騎士』アンジェリーナが来ていた。冷静な顔つきだが、真剣さの裏には焦りが見える顔だった。


「お前とアリアの結婚式に例の事件のイクオが現れる!結婚式は中止に・・・」


「ならないですね」


「っ!?」


レチタティーヴォは更に冷静に言い放つ。当日まで半月しかない。教皇や多くの貴族が集まるだけならまだしも、西と南の重鎮までこの結婚式には集まる。急に中止すると国の信頼に関わる。それに・・・


「貴方が自ら私に話を持ち出したということは教皇様の啓示ですね?なら教皇様が止めようとしていない限り結婚式は止まらない。何よりアリア様が中止にさせない」


「何故アリアが!?アリアは結婚を破棄しようと・・・・・あっ」


「別に気にしなくても結構ですよ。アリア様が婚約破棄に向けて動いていたことは知っていましたから」


レチタティーヴォは知っていた。アリアが自分の屋敷を度々抜け出していたこと。そしてそれは誰かに会いに行く為だということを。その相手の正体をレチタティーヴォはついに掴んだのだ。


(イクオ・・・貴方の誘いには乗りましょう。決着をつける時です)


レチタティーヴォは手に握っていた紙のキレを暖炉に入れた。暖炉の火に放られ紙切れは燃える。火の着いた紙切れにはこう書いてあった。




『結婚式当日、俺ことブサワ イクオが現れる。誰も連れずに中心街噴水公園に来い。決着を着ける時だ』




「アンジェリーナ様。私がイクオの相手をします」


今までに見たことないレチタティーヴォの覚悟を決めた顔にアンジェリーナは認めるしか無かった。


魔法の名前はイクオが勝手につけています。アリアから技を放つ際に口に出した方が魔法が発現しやすいと言われたからですね。

(それ以前からも魔法を宣言してたのは単にイクオが厨二病だからです)


声に出した方が発現しやすいというのは、イメージがしやすく精神の力を発揮しやすいから


と“現代では”考えられています。




思わせぶりな伏線発言ばっかしてますけど全部覚える必要は無いです。回収する時しかり、その他の場面でもおさらいをする話はいずれ出します。


・・・出す努力をします・・・・・・。

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