アリアの特訓
ー時計塔ー
「おじゃまします」
「おいおいアリア。レチタティーヴォに追われてたじゃねーか。ちゃんと巻けたからいいけど気をつけろよ?」
「アハハ・・・まさか感ずかれるとはね。でも大丈夫。ピグレットが手伝ってくれたから。ティーヴォが私に【嗅覚】がバレてないと思ってたのも幸いね」
「・・・あいつサラより使えるな」
「これでレチタティーヴォはしばらく動けないはずね」
アリアはググッと伸びをする。夜中に抜け出すのはアリアにとって簡単とは言え気は抜けない。アリアは鑑定眼を発動させる。
「むむむ・・・・・【集中】のスキルが増えてるね。いい判断。著者もいいセンスね」
「おうおうこの著者知ってんのかよ」
「えぇ!この著者は古い考えに囚われないいいスキルを記してくれるの!」
「ピグが紹介してくれた。いいスキルを見繕ってくれたさ」
イクオとアリアは時計塔の壊れたてっぺんで腰をかける。ここは高くて見晴らしがいい。街の灯りはないが青い月の光がよく当たる。ちょっと青がかった世界で二人は話し合う。皆には内緒だ。
「そのイクオの【イケメン】ってスキルはどうやって手に入れたものなの?」
「やっぱ珍しいか?」
「珍しいも何も聞いたことないよ。そもそもLv100なんて古代の文献にも記されてないの」
「なら話そう!俺が今までどんな事をしてきたか!」
「俺は転生者といってな、別世界から来た存在なんだ」
「別世界?」
「そう!魔法も無く、スキルも無い。こことは全く違う世界だ!」
「そして神様は俺にスキルを与えてくれたのだ!」
「イム神様と会ったの!!?」
「いや、その人がイム神かどうかは分からない。ただ神と呼ばれているとは言ってたかな」
「この国のほぼ全ての人を魅了してしまったんだ」
「・・・・・それがイクオがこの国にここまで嫌われている理由なのね」
「あぁ。俺はこの国に酷い事をしてしまった。失望したか?」
「フフフッ いいえ。だって無差別の魅力はわざとじゃないんでしょう?自分から仮面を被るなんて凄いじゃない」
アリアはどんな突拍子のない話も全て受け入れてくれた。それも百点満点の反応をしてくれる。イクオは何だか照れてしまい、ますます口が回っていく。前世の事まで話そうと思ったが本来の目的を思い出し、思い出話はここでお開きだ。
「・・・アリア。今まで俺が出会ってきた人達の中で一番強かった奴は『法の騎士』だ。でもアリアは法の騎士に匹敵するほど強いと感じる」
「そうね。アンジェとは二勝四敗ね」
「アンジェってぇー・・・・・あぁ アンジェリーナか!法の騎士の名前だな。てかすっげーな。やっぱレチタティーヴォより強ったか」
「うーん。あの人は才能が無いからなぁ」
アリアは強い。イクオ自身、戦ったところを見た事はないがその内包する魔力量だけは法の騎士より高かった。恐らく剣技といったテクニックの分野で法の騎士に一歩劣るんだろう。
しかし並外れた実力があるのは確実だ。
「俺に戦いを教えて欲しい」
「・・・・・えー」
アリア自身はもっと話を聞きたそうだった。このまま話を続けたいと顔に描いてあった。説得しなければならない。
「俺はレチタティーヴォに勝ちたい。もう一度あの執行の騎士と戦って、今度は逃げずにちゃんと勝ちたいんだ。でもこのままじゃ絶対に勝てない」
「そうね」
アリアは肯定する。アリアはあの時の戦いをほぼ一部始終見ていた。イクオはあの時、レチタティーヴォのグランド・クロスを避けるようになるまで急成長を遂げた。しかし生き残っただけで、試合には勝てても勝負には負けている。あの時アリアが助けてくれなかったらイクオは死んでいたのだ。
「俺は素人だ。戦闘の経験が必要なんだ。それも格上との」
「それで私にね・・・・・」
もう一声欲しいと言った感じだった。
(うーん。あとちょっとの気がするんだけどなー。やはりアリアの心を動かすのに必要なのは・・・・・)
ティキーン!
「俺がレチタティーヴォに勝つところを見せてやる」
「くぅっ!・・・随分と興味をそそる誘い方をするね」
しばらく うーん うーん と考えていたがついに折れて観念する。
「よし!いいよ、訓練に付き合ってあげる!」
「あざーーーっす!!!」
90度体を曲げたお礼のポーズ。アリアはちょっとびっくりしたが直ぐに笑って適応した。流石である。
さあアリアとの訓練が始まる。
「会話をしながら戦うこと。イクオは頭の中で、会話しながら、計算しながら、避けるルートを考えながら、反撃の隙をうかがいなら戦いうこと。」
「おおう・・・・・やる事が多いn・・・」
アリアの拳が顔面に直撃。
「なばすっ・・・・・・」
「もう訓練は始まっているよ!!」
「べうっ・・・!!」
遠くへ吹っ飛ばされる。壁に激突しそうになったがクルリと回って着地する。慌てて体制を立て直し、イクオは臨戦態勢になる。急に訓練が始まった。両者素手だが動き方がまるで違う。イクオは完全に独自の何の型もないめちゃくちゃな動きだが、アリアは武術に精通したような美しい動きだ。
「変な戦い方ね!跳躍に頼りすぎると着地場所を狙われやすくなるから基本は地に足をつけたまま避けなさい!!」
「押忍!」
ぴょーん
「こらぁ!!」
(о`Д´)=⊃)`з)バキィ
「ぶゅふぅ!!」
イクオはアリアの猛攻に避けるのでいっぱいだ。演算魔法で相手の動きをよんでいるイクオでさえ、動きをよみ返される。恐ろしい勘の鋭さだ。
(何とか蹴りを食らわしたい!!)
「こんの!!」
「あまい!!」
蹴り上げる為に脚を上げようとすると足の小指を踏まれた。えげつない。
「いぃいい っ てぇえ!!」
「計算が止まっているよ!」
もう片方の足小指もゴシャア
「!〜〜〜っ!!〜ー〜〜〜っ!!(声にならない悲鳴)」
「戦闘も止めない!」
股間をグシャア
「ぁ(この世の絶望を知った顔)」
意識が無くなりそうになったところをカッと食いしばる。
(む っ かぁーー!!)
「おのれぇ!!【演算魔法 不思議の天秤】!!」
アリアの魔力を感知。現状の魔力量を知れば、攻撃の予知をより正確に早く行える。勘で演算魔法を越えられてたまるかと必死だ。
(平常時 45,000って高っ!?グランド・クロスと平常時で並びそうじゃねーか!)
アリアは神聖王国で魔力量が一番高い。神聖王国が東の大陸へ出兵する際、アリアは兵全体に風避けの魔法をかけ続け大陸を渡れるほど魔力量が異常なのだ。神聖王国No.3と言われる所以の一つである。
(現状と平常時の魔力量に差がないってことは今アリアはスキルを使っていないのか!こんだけ魔力があっても使わずに手ー抜かれてるってかなりショック!)
しかし魔力を強く視認できればこちらのもの。
「【死を指す羅針盤】!!そう簡単によませやしねーよ!!」
アリアの攻撃をかわし始める。さっきより格段に良くなったイクオの動きにアリアは秒で適応する。しかしやっとまともな戦いになったのは事実だ。反撃もできる。
「オラァ!!」
やっと脚が上がって蹴りが放てた。簡単に避けられたが。一歩進歩した。
(いける!このまま相手の動きを読み続けて戦えば隙のできる瞬間を計算して割り出せる!このまま・・・)
アリアはニヤリと笑って口を開き出す。
「ni sotisekanasui kakui toranamisi・・・・・
【感知魔法 音を捉える視界】!」
「うそーん!!」
(何さっきの謎言語!・・・あ、聞いたことあるわ。あれは確かサラが言っていた魔法文明語!つまり魔法の詠唱!!)
アリアの動きも変わる。何とか蹴りを食らわしたいが脚が上がれば抑えられ殴られる。跳躍すれば脚を掴んで投げられる。相手の戦い方を完封する見事な戦い方だ。
「【集中】とはその名の通り、意識を特定の思考の中にギューッと集めること」
足払い
「ぐうっ!!?」
「イクオの【集中】は一つの意識ではなく、複数の意識に集中力をバラバラーッと分散してそれぞれを同時に考えるものよ」
かかと落とし
「コポォっ!!」
「イクオは最初に言った四つの項目に全力で集中しなさい」
腕を掴んで投げ、地面に叩きつけられる
「へべえっふぅ!!!」
「それ以外の事は考えてはダメよ」
掴んだままグルグル宙で振り回す
「おう! えう! あう! へう!」
「【集中】のスキル発動時にそれを無意識で出来るようになれば・・・」
ジャイアンスイング(片手)
「おげうぅ・・・・・!」
「イクオのティーヴォに勝てる確率はグググッと上がると言えるわね」
撃沈
「(死ーん)」
「はひひひょっふのほほをはんはえふほひへ、ほへひはひははんはへはひほうひふふ!へんほうふうひひひひひひっひひゃひふふにはえはひひはひほほはひーはへはは!」
「そういう事よ!ボコボコにされながらもしっかり聞いていたのは高ポイントね!」
顔がぶくぶくに腫れ上がったイクオが身についたことをおさらいする。
「あ 【神聖魔法】は使わないわ。自然治癒力を鍛えるにはどうしても神聖魔法は使ってはいけないからね」
「ひぇーー!!」
絶望に落ちた顔(コブだらけブドウ顔)。アリアの訓練は想像以上にスパルタだ。話を聞いてないとバレたら攻撃が苛烈になるし、計算をサボったら隙をつかれてフルボッコ。一区切り着いた頃にはイクオはブドウに成っていた。いや、ブドウが生っていた?
「さぁ!今日はここまでね!またここに来るわ。演算魔法は一日中唱えておきなさい。並列思考を平時で練習しておけばだいぶ変わってくるわ!」
「ふぃっふ」
(くっそー悔しいな。まぁアリアに一杯食わせるなんてレチタティーヴォに勝つより難易度が高いからしょうがないけどね。でもなー うーん でもなー)
悶々とするイクオ。やはりボコボコにされて悔しいものは悔しい。何か勝つようになる手はないか、訓練の間の戦闘でヒントになるようなことを探す。すると一つ、気がかりな点を見つけた。
「あ、そうだアリア!!」
口調が戻ったことはツッコんではいけない
「何?」
「なんか魔法を放つ時に詠唱してたよね?あれって何?」
「あぁ。詠唱は知ってると便利よ。明らかに効果が上がるからね」
(詠唱は効果が無いみたいな世界じゃないんだな。無詠唱でも魔法は使えたから絶対に必要なものでは無いんだろうけど、でも効果が上がるのか・・・・・)
「どうやって知ったんだ?本か?スクロールにでも載ってないだろ?」
スクロールに詠唱は載っていない。方や本だって載ってたところを見たことがなかった。イクオはこの国の言語を学ぶ際、図書館に入り浸っていた時期があったから本は割と知っている。
「うーん 何だろう・・・難しいわね・・・・・。詠唱っていうのは同じ魔法でも人によって違うのよ」
(ファッツ!?)
「術者のイメージとも少しズレるみたいなのよ。どうやって知ったかって聞かれたら、そうね・・・・・・」
しばらく考えてからアリアは面倒くさくて投げたような感じで
「スキルの意思かな!!」
そう言って外へと飛び出して行った。
(スキルの意思って何?)
・・・・・・・・・
「スキルの意思って何ぃぃいぃいいぃいいい!!?」
さっぱり分からないままアリアとの会話は終わった。
北の神聖王国編ではイクオは詠唱を習得しません。もう少し先の話ですね。
なんで詠唱を唱えるとスキルや魔法の効果が上がるのかは謎に包まれています。アリアも知らないし教皇も知りません。真実を知るのは今は亡き旧人類の人々と、大英雄 レオン・ロイヤルだけになります。
ですがアリアのセリフは核心をついていると言えるでしょう。