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〜異世メン〜  作者: マルージ
第一章 氷の国のロマン姫
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レチタティーヴォ・アルハンゲルスキー

  ーアルハンゲルスキー邸ー


レチタティーヴォ・アルハンゲルスキーの朝は早い。


5時に目を覚ましたら歯を磨き髪を整える。


5時半には簡単な朝食を済ませ、


6時には心身ともに清らかにして司祭よりも早く教会に着き祈りを捧げる。


6時半には再びアルハンゲルスキー邸に戻り、自らの鍛錬を開始する。


7時半には皆が起き始めるので、入念に汗を流したあと彼の仕事が始まる。


心身ともに気持ちよく暮らせる規則正しい生活だ。




  「「「どこがですか!!!??」」」




「は、はい?」



従者たちの全力ツッコミが今日遂に炸裂した。レチタティーヴォは困惑する。心当たりが全く無いとでも言いたげだ。



「レチタティーヴォ様は働きすぎです。朝は5時なのに夜は3時ほどじゃないですか。もう少しお体を休まして下さい。あとの仕事は我々がしておきます」


「いいんです。私はこの生活を辛く思ったことはない。それに至って健康な体だ」


「それは貴方が超人の領域にいるからです・・・」



レチタティーヴォは有能だ。しかしワーカホリックという訳では無いが、彼は働きすぎる節がある。



「そうですよ?レチタティーヴォ」


「アリア様・・・?」


「貴方がそんなだから部下の彼らは休みずらいのです。働きすぎる上司は尊敬される分、心配をかけさせてしまったり、休むのを申し訳なく思わせてしまうものです」


「・・・・・はい・・・」


「イム神教 第二十項『汝、勤勉であるべし』。貴方は敬虔な信徒故に、これらのイム神様の教えを護り過ぎる」


「・・・・・」


「イム神教だけが正しい考え方とは限らないのです」


ちょっとレチタティーヴォはムスッたれていた。アリアは割とイム神教に忠実な信者ではない。彼女の考えはさっきも言った通り、イム神教が絶対と考えていないのだ。確かにその通りだと思う時はレチタティーヴォにもあるが、それでも屋敷を脱走したり、夜中歩き回ったりする人にイム神の教えを説かれて説教されたくはなかった。


「・・・私は私が正しいと思う道を歩むだけです」


「そうね。私もよ」


誤解されそうだが、レチタティーヴォ自身アリアが嫌いという訳では無い。ただ型にはまらないアリアの考え方が少し苦手なのだ。


アリアはそのまま屋敷内のどこかへ行ってしまった。取り残されたレチタティーヴォと従者たち。少し間を置いてからレチタティーヴォが喋り出す。


「・・・ちょっとムキになってしまいました。反省です。私は今日は部屋で休んできます。後のことはよろしく頼みます」


「はい、是非そうしてください」


「アリア様のオペラのレッスンの指導はフュードルに頼んでおきなさい」


「はい、お休みください」


「うん。後それと今日はアルチェミー男爵がやって来るから果実を用意しておきなさい。彼はリンゴが好きですからね」


「わかりました。お休みください」


「それとデニスとエレーナが言っていたカーテンだけど、やはりそれらしいのは無いみたいだ。近々また探す予定だけどもう少し待っt・・・」


「「「お休みください!!!」」」


「・・・・・・はい・・・」



  〜(´・ω・`)ショボーン〜



レチタティーヴォは最近少し不運だ。侵入者との戦闘で屋敷はボロボロになってしまったし、何故か自室が荒らされていたし、実はアリアが屋敷を脱走していた事が発覚し公爵家にこっぴどく怒られたし。まぁ 散々だ。


「イム様。慈悲深きイム神様。最近少し風当たりが良くないように感じます。前向きに生きますのでどうか見守り下さい」


彼にとってイム神教は最大の心の支えだ。毎日規則正しい生活を送っていれば、失態もイム神様が必ず許して下さる。自らの行いを間違い続けない限り、イム神様は見守ってくださっている。

そう思うととても心が軽くなる。誰かが自分の努力を見てくれていると思うとレチタティーヴォはどんな辛いことにも立ち向かえるような気がした。


自室に着いた。謎の存在によって荒らされた部屋は使用人たちのおかげですっかり元通りだ。


「あの時、侵入者の言う通り本当に豚が入り込んだんじゃないかな?」


少し冗談を言ってみて、イム神様に祈りを捧げた後早めの就寝。





ある日の夢を見る。





「アリア・イェレミエフ様・・・・・・。貴方の妹の名前じゃないですか!?」


「そうだ。我が妹の名だ」


「アリア様はイェレミエフ家の中でもとりわけご寵愛を受けた御方。私は男爵家を出た者。身分の差があり過ぎます!」


「今の貴様は伯爵だ。我々イェレミエフ家は貴様がもっとも相応しい男だと判断したのだ。他の有象無象とは違う。胸を張れ」


「うぞっ・・・。とても貴方の顔からは私を歓迎しているとは思えないのですが・・・」


イェレミエフ家の人は顔に出やすい。妹を渡したくないという気持ちが顔に100%出ていた。しかしアリアの兄も執行の騎士には強い信頼があった。


「我も貴様が敬虔な信徒であるのを認めている。確かに誰にも渡したくない気持ちは有るがアリアももう結婚を考えなければならない年だ。相手が貴様なのは貴様が最もマシだったからだ。」


「ははは。『断罪の騎士』様に認めて下さるとは身に余る光栄です」


『断罪の騎士』ゲオルグ・イェレミエフ

彼と実力で肩を並べられる存在は世界で見ても数える程にしかいない。教皇からは『断罪の騎士』以外に『剣聖』の称号も与えられている。その実力たるや神聖王国最強の男の名に恥じない。


「まだ完全に認めた訳では無い。アリアは強い。貴様よりな」


「存じ上げております」


「俺はアリアより強い男が誕生するまでアリアを嫁がせないつもりでいた。だがこの国には貴族という制度がある。待つことは出来ないようだ」


アリアの実力は神聖王国のNo.3だ。

トップが『断罪の騎士』、

次に『法の騎士』、

そして『アリア』、

最後に『執行の騎士 レチタティーヴォ』が入る。アリア以上の実力を持っている男がゲオルグ以外いなかったのだ。


「貴様はアリアを超えろ。そしてふさわしい男にいずれなれ」


「・・・・・ありがとうございます」


「・・・二度と言わん・・・・・」


ゲオルグはこんなことを言うのは柄じゃない。何となく居ずらくなったのかフイと後ろを向くといつもの厳格な顔つきに戻って言う。


「我は東の大陸に戻る。穢れた魔族共を駆逐し、世界に平穏をもたらせるために」


神聖王国過激派。彼は魔族を良しとしない粛清騎士団の団長だ。粛清騎士の仕事はただ一つ。魔族をこの世から滅ぼすことだ。

闇魔法とかに手を出していないから人道的には割と良心的なのかもしれない。騎士の矜持は守る人だ。





この日にレチタティーヴォはアリアとの結婚の話を聞いた。愛の国だがそんなに色恋沙汰に首を突っ込まない方だったからこの話にレチタティーヴォは大きく驚いた。

しかしその後の見合いでさらに驚くことになるのだった。





「貴方と結婚する気は無いわ」


(はいーーーーー???)


「貴方が嫌いだからとかじゃなくて、私が政略結婚が嫌だからよ」


(えぇ・・・えぇ・・・・・・)


ちまたでは令嬢の鏡と呼ばれているのが嘘のようだった。アリアは被っていた猫を全て脱いで話してくれた。その気持ちは嬉しかったが、信じられない気持ちでいっぱいになった。本当のアリアを見た瞬間だった。


「婚約破棄を狙っているのですか!?無茶です!公爵家と断罪の騎士が結婚を承認しているのですから今更覆りませんよ!」


「あら、貴方は優しいですね。他の人達は皆「私には魅力がありませんか?」とか言って引きずって来るのに貴方は私の身を案じてくれるのですか?」


「貴方の身だけではなく国家レベルでの損害についての話です!貴方が婚約を破棄する話になったらどれだけの人に迷惑をかかると思ってるんですか!」


令嬢の鏡と謳われたアリア・イェレミエフの婚約破棄。理由が「政略結婚が気に食わないから」じゃなくても許される話ではないだろう。アリアというブランドに大きな傷を入れてしまう。


「そうですね・・・。イェレミエフ公爵家やアルハンゲルスキー伯爵家だけでなく、両家にコネを持った多くの貴族達の顔に泥を塗ることになりますね」


「分かっているなら・・・・・」


「おかしくないですか?」


「・・・・・・えっ?」


「ここは北の神聖王国ですよ?」


イム神の教えの一番重要な項。第一項・・・


「『汝、愛を妨げてはいけない。汝、愛を諦めてはいけない』。貴族制度が絶対なら、なぜ私達の国は信仰の国と呼ばれているのでしょう。なぜ愛の国と呼ばれているのでしょう」


「・・・・・・」


レチタティーヴォは言い返せなかった。本来一番大事であるはずの教えをレチタティーヴォは忘れていたのだ。いや、忘れてはいない。本当の意味を理解してなかったのだ。

レチタティーヴォが本当に敬虔な信徒であるなら、第一項を無視してはいけなかった。


「貴方は愛に生きていない。人の生き方は人それぞれだからそこを攻めている訳では無いわ。でも私は愛を知りたい。理解できない私は愛に生きる事は出来ないのでしょうか・・・」


「それは・・・・・」


「断じて違うわ。私は愛に生きることが出来る。そんな気がしてならないの」


アリアの勘の鋭さは有名だ。当然レチタティーヴォの耳にも入っている。アリアが何かを断言する時は、予言とすら言われるほど正確だ。


「・・・・・・少し考えさせて下さい」






(イム神教は愛の宗教。アリア様が結婚を望まない以上、私はアリア様の狙う婚約破棄に協力するべき。しかしそれはイェレミエフ公爵家が許さないだろう)


レチタティーヴォは愛という感情を否定はしなかったが理解してはいなかった。彼は底辺貴族だった自身の家を立て直し、貧民街や住民たちの生活をより良くするために今まで生きてきた。レチタティーヴォにとって愛の応援は確かに大事だが、アルハンゲルスキー家に傷をつけることは簡単に決断できることではなかった。


(しかし、アリア様の為に命を賭してでもお仕えするべき・・・でもそんな事をすれば・・・・・)



「粛清だ」






「うわぁぁぁぁああぁああああ!!!」


断罪の騎士に殺される夢を見たところで目を覚ます。外はすっかり暗くなっていた。


「夜・・・ですか・・・・・。従者達は仕事を遂行できたのでしょうか・・・」


レチタティーヴォはムクリと起き上がる。月光が窓から差し込み、夜の部屋を幻想的にする。カーテンを開けてみると皆は家の明かりを消してすっかり寝静まっていて、月の光だけが煌々と輝いていた。


「美しい・・・。アリア様はこの様な景色を見るのが好きみたいですね。彼女は情趣を解する心を持っている」


(思えばアリア様は騎士が姫を連れ出すようなおとぎ話がとても好きでしたね。愛に生きれると断言するというのはそこから来たのかもしれません)


レチタティーヴォは夜の警備に取り掛かろうとする。ゆっくり寝てしまったからこれから朝まで働く気だろう。愛を理解する前に従者の言いたかったことを理解して欲しいものです。



「あっ!・・・・・・はぁ・・・」



レチタティーヴォは見てしまった。屋敷からこっそり抜け出したマントを羽織ったアリアの姿を。これでまた公爵家から大目玉を食らうことは間違いない。レチタティーヴォは肩をズンと落とした。


「うーん、夜に叫ぶのはいけませんね。しょうがない。直接行って注意してきましょう」


レチタティーヴォは身支度を整える。簡易的だが祈りも済ませ、窓から飛び降りる。まだ遠くには行っていないはずだ。全速力で追いかけた。


(恐らくアリア様には私が追ってきたことは分かっているだろう。感知魔法が使えたでしょうからね。ですが私にはアリア様の知らない嗅覚強化がある)


右へ左へとアリアは撹乱しようと動き回る。しかしレチタティーヴォはそれらの罠を全て見切る。

アリアは【感知魔法Lv23】でレチタティーヴォは【嗅覚Lv21】なのでレベルはアリアの方が上だが、頭のキレはレチタティーヴォが上だった。行先を見つけて直ぐに先回りした。


「そこですね!」


建物の屋根に上がり追いかける。凄いスピードだったがコースの使い方はレチタティーヴォが上だ。屋根から飛び降り着地してアリアの前に立ちはだかった


・・・・・



はずだった。



「・・・・・・は?・・・」


「・・・・・・ぶひっ♡」


マントの中には豚が入っていた。そして下品な顔を寄せて笑う。


「貴様か次の主人候補はぁぁあぁあああ!!!」


「えぇえええぇえええ!!?」


哀れレチタティーヴォ。最近いいとこ無しである。

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