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オレンジ色の空とキミの影  作者: ひろゆき
4/27

 壱 ーー 遠のく影 ーー (4)

 誰にでも、こだわりというものがあると思います。そのこだわりに共感してもらえれば嬉しいけれど、不思議がられたりすると、ちょっと寂しい気がします。それでも、どうしてもこだわりを曲げたくない。なんか難しいところだと思います。

               4



 あらためてSNSを開こうとして、行動に移ったのは通話を切ってから三十分が経ってからである。

 写真を片付けなければ、と何かと理由を作って遅らせていたのは、学がまだちょっとSNSに臆していたからである。

 スマホはもう準備している。あとはアカントを入力してしまえばいいだけ。

 胡座を掻きながら、膝の上で頬杖を突く。しばらく目蓋を閉じ、唇を噛んでいた。

 目蓋の奥の暗闇に浮かび上がるのは、夢で見た渡瀬由紀のぼやけた影であったのは、皮肉でしかなかった。

「っよし。いこうっ」

 パッと目を開き、恐れる自分を鼓舞するために声を張り上げ、恐怖心を払拭すると、そのままの勢いでスマホを操作した。

 スマホの画面に広がるのはある人物のSNSの画面。アカント名の横には、どこかの建物をシルエットにした写真が載っていた。

 そこにはいくつもの投稿が反映されていた。

 載せられているのは投稿者は卒業生なのか、自分の学生時代の思い出や、今の生徒に対しての文句などが書かれている。

 圭介の話では、冗談に乗っかかる者もいると言っていたが、確かに遊びだろうと思える投稿も見えた。 

 なかには、在校生を特定するような投稿もあったが、そこに学の望む投稿はなく、半分は肩すかしになり、胸を撫で下ろした。

 ただ、気になる投稿も少なからずあった。

 それは学校に関する噂が書かれている。それらを読んでいて、学はため息をこぼした。 

「なんだよ、これ。ただの学校の七不思議じゃん…… バカか」

 圭介の話を思い出し、これのことか、と呆れて丸めていた背中を伸ばした。

「ったく。小学生じゃないんたから……」

 学はホラーといったものを苦手とするなか、学校にまつわるものは特に嫌がっていた。怪奇現象と呼ばれるなかでも、特に「学校の七不思議」とは、小学生が作った幼稚な話だと捉えてしまい、恐れよりも現実離れした気がして本気で嫌がっていた。

 だからこそ、ここに似たような項目が投稿されていることに、少なからず憤りを抱いてしまう。

 ある意味、期待を裏切られてしまい、苛立ちながらも項目を動かしていると、このアカントが生まれた当初の項目にまで遡っていた。 

 そこで、手が止まる。


 突然、クラスから消えてしまった人。


 言葉が入ってくると、急激に胸がざわめいて食い入ってしまう。


 その日、一日が始まろうとしていた日の朝のHR。担任が出席を取り終えたあと、奇妙な違和感がありました。

 誰か一人、呼ばれない気がしたんです。

 そのときは気のせいだと思っていたのですが、次の日、また次の日と、誰か一人が呼ばれない気がしてなりませんでした。

 無論、この違和感を確認しました。けれど誰もが、「知らない」「誰のこと?」と、誰も覚えていないのです。

 そして、それは私も同じでした。

 誰かがいた。

 そんな気がするのに、それが誰であったのか、そもそも、男の子なのか女の子なのかも、それすらも分からないのです。

 それでも、誰かがいたはずなんだと思える気持ちは消えませんでした。それは一週間、一ヶ月、一年経ち、そして卒業してからも。

 あのとき、本当に誰かがあのクラスにいたのでしょうか?


         **期生


「……ーー期生ってことは、僕の十年先輩。一年経って卒業ってことは、十一年前の出来事ぬるのか……」

 このアカントの最初の方に投稿されたもの。ここからいろいろと変な内容が連なっていた。

 投稿を読み終え、学は焦燥感に苛まれてしまう。

 それまで嫌がっていたのに、今は真剣に食い入ってしまう。誰かに訴えるような、手紙を書いているような内容に、より現実味を増していると感じずにはいられず、静かに息を呑み込んだ。

 この人は、捜している人に再会できたのだろうか? ーー

 ありきたりな疑問が浮かんだが、それ以上のことは何も投稿されていなかった。

 この投稿に対して、いくつかのリツイートがあった。

 それらは、「誰それ?」「そんな奴いた?」「バカらしい」といった、批判や冗談めいた投稿ばかりになっていた。

 それらは、この投稿の直後に集中しており、最近では誰もリツイートしていない。

 いや、最近では、このアカントに反応を見せる者がいなかった。

 悩みを投稿した者に対し、辛辣な言葉で返す群衆に嫌気が差し、目を逸らしてしまう。

 そのまま動作を終え、スマホをベッドに放り投げると、ベッドの脇に凭れ蛍光灯を眺めた。白い明かりが目に降り注ぎ、頭がクラッとしてしまうが、目を逸らさなかった。

「……同じだよ。これを投稿した人と……」

 胸苦しさを助長する結果になってしまった。

 むしろ、これを読んでしまうと、夢なんだと納得しようとしていたはずなのに、疑念が強まっている気がしてならない。

 渡瀬由紀は実際にいたはずなんだ ーー

 似た思いの人がいると知ると、より気持ちは強まってしまった。

 自分とは関係のない人や、場所で自分と境遇が似たようなことがあったとしたら。それは、もしかすれば自分とどこかで関係のあることなのか。そうなるとそれって怖いことなのか。どちらになるんでしょうね。

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