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オレンジ色の空とキミの影  作者: ひろゆき
27/27

 参 ーー 二人の存在 ーー (8)

 残るものは後悔? それとも惨めな自分に対する嫌悪感。悩むことは、もう遅いかもしれない。そこに差し伸べられる手はあるのか……。

              8



 折れ曲がった便箋に、まだ読んでいない部分が残っているのに気づいた。学は慌ててその一枚を一番上にして読み始める。



        追伸



 高原くん、気づいていたかな。高原くんって、私たちのことを聞いているとき、お姉ちゃんの名前を絶対、最初に言っていたのを。私のことを聞くにしたかって、お姉ちゃんのことを心配してから。

 私が無言の電話をしたときだって、すぐに「由紀か?」って。いつもお姉ちゃんが先だったんだよね。 

 私はそれが悔しかったんだよね。だから、ふざけて「ガク」と呼んじゃったんだよね。お姉ちゃんが高原くんのことをそう呼んでいるのを聞いていたから。ゴメンね。

 本当に高原くんはお姉ちゃんのことが好きなんだよね。最初は私が「お姉ちゃん」だったのに。

 私はそれが一番悔しかったの。私も本当は…… ううん。これは書かないでおくね。

 最後に私のワガママを一つ書かせてもらうね。どうか、怒らないでね。

 もし、私が一人だけ助かったとしても、そのときは私と会ってください。そのとき、「おかえり」と言ってください。


                     若林 望



 由紀のことが好き ーー

 手紙に書かれていたこの一行をもう一度読み返した。

 確かにそうだったのかもしれない。

 今となっては素直に受け止められる。けれど、由紀に告げたことはなかった。

 恐れていたんだと痛感させられる。告白することで、これまでの関係が崩れてしまうのを。

 何も言わなければ、これまでのままでいられるのだと臆病になっていた。

 また目の縁が熱くなって泣き出しそうになっていた。

 悲しいから。 

 二人が帰ってこない可能性が高いから。

 それら二つも当然あった。

 しかし、学の感情を震わせていたのは悔しさ。事情を知っても何もできない自分が惨めで情けなかった。

 実際、若林から事情を知らされて一週間。薬品会社のビルに乗り込もうとすれば時間はあった。しかし、向かっていない。

 足が動かなかった。

 ただ学校の屋上からビルを眺めることしかできなかった。それだけ学が弱かった。

 二人は帰ってくるのか? ーー

 どちらか一人だけ ーー

 もしかしたら二人とも ーー

 帰ってくる? ーー

 帰って…… ーー

「……クソッ」

 手の届かないところに二人が離れてしまった。手を伸ばしても、その先には漆黒の闇が広がり、伸ばした手は無残に空を切るだけ。

 突きつけられる現実に、学は低く重たい声で叫喚した。

 こぼれそうな涙を堪え、手紙と絵を眺め、絵の裏に何かが書かれていることに気づく。



 この風景を嫌いにならないで。

     ごめんなさい。そして、ありがとう。



 嫌いにならないで。

 読み終えた瞬間、堪えていた唇が震える。

 このビルのある風景を嫌い、目を背けるのは二人から目を背けること。

 二人の存在を拒絶してしまうのと同じに思える。

 短い言葉が容赦なく胸に突き刺さる。

「……クソッ」

 溢れる涙が頬を伝った。



                        了 

 今回の話について、最初から考えていたのは、学の前に由紀は出現させないでおこうと、考えていました。それでいて、そばに感じる存在として。そこで若林をどう表すべきにしようか、と。その上で、どんな形が一番なのかを考えて、今回のような形にしました。そして、学にとって二人とも大切な存在なのですが、二人に苦しむ彼の気持ちが少しでも伝わっていただければ嬉しいです。最後まで読んでいただき、本当にありがとうございました。

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