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オレンジ色の空とキミの影  作者: ひろゆき
21/27

 参 ーー 二人の存在 ーー (2)

 人に自分の疑いが晴れるためには、どう説明すればいいのか。自分のことを信じてもらうにはどうするべきなのか。それは、すべてをさらけ出すだけ? それで信じてもらえるのか……。

                2



 言っている意味が分からず問い返すが、それを上回る声で重ねられ、若林の気迫に気負ってしまう。

 何を話すのか構えていると、若林は夕焼けの空を見上げ、視線を宙に彷徨わせて思案していた。

「そうだね。まずはメールかな」

 自分のなかで話がまとまったらしい。

「あれは頼まれたの。お姉ちゃんにあなたに伝えてほしいって」

「ちょ、ちょっと待って。あれはーー」

「ーーそう。あのゴメンって、言っているのは、渡瀬由紀。私のお姉ちゃん」

「ーーはぁっ?」

 唐突すぎて一瞬時間が止まり、間の抜けた声を発してしまった。驚きを通り越して、無駄に瞬きをしてしまうだけで。

 信じることなんてできない。しかし、若林は冗談を言っている節などなく、真剣な眼差しを止めない。

「私とお姉ちゃんとは、双子の姉妹なの。お姉ちゃんはちょっと入院中で自由に動けないから、私が代わりにいろいろやっていたの」

「入院って喘息が…… って、そうじゃないっ。そもそも、双子の姉妹って、なんだよ。いきなりそんなこと言われたって…… 大体、苗字が違うじゃないか。顔だって、全然似てないし」

 入院と聞いて、一瞬喘息に苦しむ由紀の顔がよぎったが、それよりも二人が姉妹であると言われて取り乱してしまう。

「嘘、だよね。冗談じゃ?」

 必死に拒む学に若林の表情は変わらない。

「じゃぁ、やっぱり、あのしおりは……」

「やっぱり見つけたんだね。だから探さなくていいって言ったのに。そうよ。あれはお姉ちゃんが昔に懸賞で当てたやつ。私もあの小説が読みたくて借りたの。多分、高原くんなら見つけるかなって思ってた。だから、こうして話そうと思ったの」

「だからって…… そんな、急にそんなこと言われたって、信じられないじゃないか。そんな、二人に全然、接点なんてないじゃないか」

 学は耳を塞ぎたい思いでかぶりを振ってしまい、若林の声を拒絶してしまう。

「お願い、信じて。私たちが姉妹だってことを信じてもらえなかったら、これから話すことなんて、もっと信じてもらえなくなってしまうんだからっ」

 若林は声を荒げ、必死に訴えてくる。

「苗字が違うのは親が離婚して、親権が分かれているから。顔が似ていないのは、二卵性だからよ」

 動揺する学に若林は静かに話す。動揺はまだ鎮まらない。けれど、幾分落ち着きは取り戻し、話に耳を傾けられるようになった。

 説明にも筋は通っており、納得もできる。けれど、それは普通の話なら。百歩譲っても、一つだけ譲れない、納得のできない点があった。

「じゃぁ、じゃぁ、これはどう説明するのさ」

 本当なら、声を張り上げて迫りたかったが、気持ちとは裏腹にオドオドと情けなく舌が絡みそうになる。

 学はおもむろにカバンに手を入れ、万が一にと、持ち出していた写真を取り出した。十一年前、「お姉ちゃん」と呼んでいた、若林に似た女の子を撮った写真を。

 若林に駆け寄り、写真を差し出すと、若林の目に微かな動揺が走ったのを学は見逃さなかった。

「これって、若林じゃないよな。ただの他人の空似だよな」

 信じたかった。「違う」と否定してもらえるのを願って、写真を持ち出していたために。

 切羽詰まる学に、若林は顔を上げて目を細める。屈託ない笑顔でかぶりを振る。

 安堵から学は首をすくめた。

「……怖いよね。全然、変わってないんだから」

 耳を疑い、顔を上げる。

「なんで、否定しないのさっ」

 先ほどの笑顔は幻だったのか、若林の顔はいつしか引きつっていた。

「結局、これがすべての原因だったんだろうなぁ」

「ーーじゃぁ」

「うん。これは私なの」

「んな、そんな話あるわけないだろっ。だって、これ、十一年前に撮ったやつなんだよ。そんなはずないじゃん。年を取らないって」

「そう。私は十一年前から十七歳のままなのよ」

 冗談はやめてほしい。そんなこと誰も信じるわけがないじゃないか ーー

 声に出して否定することができなかった。

 黙り込む学をよそに、若林は体を反転させ、鉄柵に肘をかけて辺りの風景を眺めた。

「ねぇ、あのビル。なんの会社か知ってる?」

 急に話題を変えて聞いてくる若林。夕日に染まるビルを指差した。

「あれは、薬品会社のビルだろ」

 話を戻してもうまく話を続ける自信がなく、そのまま話に乗った。

 それでも、もとからビルを嫌っている学。詳しくは知らなかった。正式な名称すらも。

「あのビルが何か関係あるの?」

 ようやくワカバヤシノそばに立ち、学も鉄柵に肘を突いてビルを眺めた。手には写真を握りながら。

「私とお姉ちゃんはあのビル、あの薬品会社の“実験台”だったの」

「…………?」

「……嘘だろ。って聞かないんだ」

 動揺はしている。平静を装うとしているのだが、目は激しく泳いでしまい、目の前のビルが揺れてしまう。

 屋上に来てから十分も経っていない。この短い時間でいろいろありすぎて、整理できずにいて反論するのも忘れてしまっていた。

 隣で虚ろな眼差しを注いでいる若林を気にしつつ、ずっと黙っていた。

「十一年前、あの会社で大きな新薬の開発があって、そのたくさんの実験者のなかに、私たちはいたの。選ばれた理由は、私たちが二卵性の双子だったから。同じ双子でも、一卵性とはまた違った反応を見せるかもしれないからって」

「ーーなんだよ、それっ」

 内容に信憑性がないにせよ、黙っているつもりでいたのだが、あまりに安易すぎる話に割り込んでしまう。

「……信じられるわけないよ。由紀とお前が姉妹だって話すら、僕は信じられないんだから」

「お願い、信じて」

 柵を強く握り、これまで積もっていた不満を一気に吐き出したが、それ以上に意思の強い若林の声が学の声を掻き消した。

 全身から力が抜けていき、学はその場に倒れ込むように座り込む。

「双子だからって、なんでお前と由紀が選ばれたんだよ。双子なんてほかにも一杯いるだろう」

「両親がね、そこの研究員だったの」

「けど、離婚したって」

「別れたって職場が一緒っていう人はいると思うよ。きっと」

「でも、自分らの子供だろ。それをその、実験台って……」

「そこは親としてより、研究者だったんだろうね。二人とも」

 研究者としての探究心? バカバカしい ーー

 憤りが膨らむが、これを若林に咎めても見当違いなのは痛感しており、奥歯を噛み締めるだけに終わる。

「それで、どうなったの?」

 本当は聞きたくない。けれど、話を進めるしか術ではなく、学は重たい口をゆっくりと開く。

「うん。それでね、小さかった私たちに、実験段階の新薬が投与されたの。忘れもしない。「FLOWER」って書いてあった」

 それは虚構の出来事、現実には絶対にあり得ない出来事なんだと、疑うことができない。でも、実際は自分の知らないところで起きていることは、すべて現実なのかもしれない。信じることが難しくても。

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