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オレンジ色の空とキミの影  作者: ひろゆき
20/27

 参 ーー 二人の存在 ーー (1)

 もしかすれば、自分にとって嫌なことが起きるかもしれない、と追い詰められているのに、思いのほか気持ちが晴れていて、逆に清々しいときってありませんか? それって、知らないうちに気持ちが覚悟を決めているからなんですかね。それとも、やっぱり諦めているからなのか……。それなら、覚悟を決めて向かい合う方がいいんですかね。やっぱり……。

               1



 不思議と、長く感じる日々ではなかった。

 書き込まれた日まで、学はごく普通に学校に通っていた。その間、屋上に一度も向かっていないことを除けば。

 それでも、意識が呆然とする時間がなかったわけではない。自分の席で頬杖を突きながら、外の流れる雲を眺める回数は増えていた。

 時折、教室を眺めては授業中の静けさ、休み時間の賑やかさを、学は傍観者として眺めていた。視線を傾けた先、若林の席は空席となっている。彼女は最近、ずっと欠席になっている。

 若林が欠席であることに、少なからず学は安堵していた。彼女と対面して、どんな話をすればいいのか想像ができないでいた。



 チャイムが鳴り、どこか束縛された雰囲気から開放された放課後。ざわめきが広がり、みんなが思い思いに動き始めるなか、学はそそくさと荷物をまとめて屋上へと急いだ。

 緊張しているはずだった。それなのに心が躍っている高揚感は不思議な感覚で、体はふわふわとしていた。

 ようやく由紀に会える。

 なぜかは分からない。それなのに、あの投稿が由紀であると、半ば確信的な思いがあった。

 屋上に繋がる階段をゆっくりと上り、扉のノブに手をかけると、より心臓が激しく脈打つ。学は一度深呼吸してから扉を開いた。

 扉を開いた瞬間、外からの風が一気に流れ込み、一緒に流れてきたほこりが目に入ってしまう。

 咄嗟にうつむいて目をこすり、涙目になりながら屋上に踏み込む。

「……ガク」

 特徴的な自分の呼び声に手が止まり、視線が上に動き、霞んでいた視界が一人の女子生徒の姿を捉える。

 女子生徒は鉄柵に凭れながら、薬品会社のビルをバックに屈託ない笑みを浮かべていた。頬に特徴的な笑窪を浮かべて。

「……若林?」

 現れたのは若林だった。由紀に呼び出されたのだと考えていた学は戸惑い、動けなくなる。

「よかった。あの投稿、読んでくれたんだね」

「どうして、お前が?」

 安堵した様子の若林に、重たい足を動かし、彼女に近寄りながら問う。

 若林は右手で左手の肘を掴み、小さな体を抱きしめるようにして、顔を背けた。彼女の笑みは消え、儚さが漂う。

「あれを書いたの、私だから……」

 学の足が止まる。

 以前なら、彼女の隣で座ったり、鉄柵に凭れていたのだが、今は若林と一定の距離を保ちたかった。

 疑いは持っていた。けれど、突然言われてもどう答えていいのか、歯痒くなる。

「なんなんだよ、それ。大体、お前、由紀を知ってるのか……」

 ふと、あの文庫本のしおりが意識を刺激する。

 学の動揺をよそに、若林は静かに頷く。

「……あり得ないよ」

 弱々しい声が風に流され、学は額を手で押さえながら、何度もかぶりを振る。

「……だって、だって、みんな、みんな由紀を知らないんだよ。忘れてるんだよ。絶対にいるのに。僕だって…… 忘れかけてた…… それなのにっ」

 困惑と苛立ちから叫んでしまう。

「なんで、お前は知ってるんだよっ」

「SNSに投稿したのも、前に高原くんにメールを送ったのも、私だから……」

「メールって、あの「ゴメン」って、やつ?」

 また静かに若林は頷く。

「なんだよ、それ。なんでそんなこと。そんな回りくどい……」

 身を乗り出し、一方的に声を張り上げる学。若林は短く答えながらもうつむいたままで、これでは学が彼女を責めているようにしか見えない。

 気づけば息が上がっており、肩を大きく揺らしていた。

「ーー信じて」

 混乱していると、若林が重い口を開く。聞き取りにくい小声に、学が「えっ?」と首を伸ばしてみると、言葉とは裏腹に、鋭くそれでいて凛とした眼差しを向けた若林と目が合い、萎縮してしまう。

「今から言うことを信じてほしいの」

「信じるって、何を?」

「お願いだから信じてっ」

 強く頼まれてしまうと、嫌なことでも渋々受け入れるのか、それともちゃんと断るのか。どちらを選びますか? 受け入れたくないのに、受け入れなければ、前に進めない。辛い判断を迫られると、難しいですね。

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