弐 ーー 遠い日の姿 ーー (2)
趣味には大きな力があると思うんですよね。どれだけ嫌なことがあっても、趣味に没頭すれば、辛さを紛らわせることもできるのだから。まぁ、没頭しすぎてダメな場合も少なくはないのかもしれませんが……。
2
無骨なカメラを手に取ると、冷たくても手にしっくりと馴染み、一度も使ったことのないカメラだとしても、学の頬が緩む。
リビングの食器棚に入れられていたカメラを取り出し、初めて父親に持たせてもらったとき、もっと大きく感じていたのを懐かしく思い出していた。
手にしたカメラは内部が壊れており、すでに実用性はなくしていたが、捨てるべきか躊躇う父親に、学が懇願して置いてもらっていた。
使えないからと、自由に触っていいと言われたあとは、フィルムも入れないまま首から下げ、写真を撮る格好だけをして楽しんでいた。
当時はカメラ越しに風景を眺めるだけで楽しかった。
学がこのカメラから手を放したのは、父親が写真に興味を持つ学に電気量販店で買った安物のデジカメをもらうまでである。
大した機能はなかったが、学は毎日気持ちを踊らせ、外に飛びたしては保存量を考えずにシャッターを切っていた。
* * *
「人は変わっていくんだよね。それを私は見たかった。けれど、私…… 私はあれと同じなんだよね。突然現れて、姿を変えていかない」
何を言っているんだ? ーー
「ここも変わっていくんだろうね……」
なんで、そんな悲しそうな顔を…… ーー
「あの空も、あそこに行けば、もう見られないのかな……」
なんでそんなことを言うのさっ…… ーー
なんで? ーー
「ーーお姉ちゃん」
自分の呟きに驚き、学は目を覚ました。
頭痛が襲い霞む視界は、見慣れた自分の部屋の天井を眺めていた。 夕飯まで少し時間があった。
別にすることがなかった学は、軽い疲労感に襲われたのでベッドに横になり、夕飯まで仮眠を取ろうとしていた。
寝起きで意識が薄いなか、学はさらに混乱に襲われ、目の前が真っ白になってしまう。上体を起こしてベッドの上で胡座を掻くが、うつむく頭が重たく、手の平で支えなければそのままベッドに倒れそうになる。
膝元を眺めながら何度も瞬きを繰り返し、意識をしっかりと保とうとする。
「……誰だ、お姉ちゃんって?」
姿が見えたわけではなかった。
儚い声が宙に舞っていた。それでいて、どこかで聞いたことのある声。
女の声だったのは確か。由紀の声でもなかった。それでも、寂しげに呟いていた声が学の胸にじわりと滲み込んできた。
右手で胸を強く押さえた。外から圧迫しないと胸の奥が破裂しそうに苦しい。
由紀を夢で見たあとの朝に襲われる喪失感。それとはまた違う痛みが学の胸を締めつけていた。
忘れ物があった。
それは決して取り戻しに行くことができないもの。
それは思い出なのかな?
じゃぁ、どうすればいい?
思い出すことが取り戻すことに繋がるのだろうか?
やっぱり難しい……。




