英雄は化け物に堕とされたそうな
深々と頭を下げるマオーに、私はただ首を傾げるしかなかった。
「死んだ?私が?なんで?」
別に死ぬこと自体に恐怖はないのだが、ただ、あまりに唐突な話に、頭が追い付いていなかったのだ。
「君が持っているそれ。その盃。それは、魔王しか使用してはいけない特別な盃なんだ。ソイツで魔王以外の者が使用すると、やがて死を迎える呪いがかかっている。訳あって、魔王たちの間で取り決められたことでな。この呪いは、魔王三人の合意がなければ、解けないんだ。」
「あぁ、そういうことなの?あちゃー。そりゃ、参ったねー。まぁ、大体さ、人の盃で酒は飲んじゃいけないよねー?特にマオーは王様だもんね。平民の私じゃ罰当たりもいい所か。」
私は手の中にある金色の綺麗な盃を眺めて、小さく息を吐く。
なるほど、マオーの話では、こんなに綺麗な盃に、私は殺されてしまうそうだ。
まぁ、最後はマオーたちのおかげで楽しめたし、こんなに満たされたまま死ねるなら、いいか。
<でも、それだと、桃太郎さんが私の声が聞こえる理由にはならないよね?>
「それなんだけどな・・・たぶんその・・・あ、いやー・・・言っていいのかこれ。でも、相手は人間で・・・英雄だし・・・あーでもなー・・・。」
マオーは、みるみる顔を赤に染めながら、私の顔を見つめてくる。
なに?急にどうしたの?そんな、可愛い顔で見つめないでよ。
なんか、私まで赤くなってくるじゃない。
ただでさえ、マオーは美形すぎるのに···。
ふと、思い出されるのは、月を背にフワリと降りてきた姿。その幻想的な姿は、今でも私の脳裏に焼き付いている。
どうせ死ぬ身だ。この際、認めておこう。私はそんな彼の姿に一目惚れしていた。
異世界の人間だというそれもまた、妙に納得させるだけの力がたしか目の前の彼にはあって、そこもまた不思議と興味を唆られた。
私を一人の人間として、剣を突きつけ、正々堂々と戦いを挑もうとしてくれた彼。
私の話を聞き、共に酒を酌み交わしてくれた優しい彼。
私の料理を美味しいと言ってくれた彼。
私のことを見て、私の話を聞き、この存在を認めてくれた彼。
この僅かばかりの時に、私は彼を知れば知るほど、惚れ込んでしまっていた。
ならば、理由はどうあれ、目の前の彼に殺されるなら、本当に私は幸せ者なのかもしれないと、その時、私は心から感じていたのだ。
「いつ頃、呪い殺されるのかな?」
「もって・・・日の出までだろうな。」
<そんな!?なんとかならないのアルくん!?>
「あー、うむ・・・。それなんだがな、恐らく死を逃れることは、無理だろう。」
「ふふ。ありがと、ルーシーちゃん。でも、せっかく、こんな幸せな気持ちになれたんだもん。このまま死なせてくれていいよ?」
<良いわけないよ!私も初めて出来た友達なのに!こんなお別れやだよー!>
「ふふ!私のことを友達って言ってくれるの?嬉しいなぁ!」
「何を言う。ここまで、酒を酌み交わし、俺の舌を満足させることができた者は、そうそういないぞ。魔王リベリアルもまた、お前、桃太郎を友と認めよう。」
「あはは!やったー!嬉しいな!最後に友達ができたよ!」
「あぁ!誇りに思え、桃太郎!」
<うぅ・・・。やだよー、桃太郎さんともっと一緒に居たいよ!>
「なんのなんの!まだまだ時間はあるんだし、もう少し、お酒に付き合ってくれてもいいんだよ、二人とも?」
最後だから。少し、友達にワガママ言ってもいいかな?
私はマオーの腕に抱きつきと、その胸に撓垂れ掛かる。
あれ?なんだろ。酔いが回りすぎたかな?少し、身体が重いや。
「桃太郎・・・大丈夫か?」
「あ、ごめんね?酔いが回りすぎたかもしれない。少し、気だるくて・・・。ちょっと聞いて欲しいことがあるんだ。最後だし。」
「あぁ、いいぞ。しかし、今夜は少し冷えるな。大丈夫か?」
マオーは私の肩を抱くと、そっとマントらしきもので、私を包み込む。
秋の少し冷えた空気が完全に遮断され、ほんのりと温かさに包み込まれる。
「はぁー・・・温かいね。マオーは。本当、こんな温かさ、久しぶりだわ。」
「そうか。」
「うん・・・。マオーは私の武勇伝や噂は知ってるかしら?」
「英雄桃太郎だな。それと・・・いや。」
言葉にしようとして、彼は口を閉ざしてしまう。
優しい人ね、本当に。
「えぇ・・・。合ってるわよ。英雄桃太郎。そして“化け物桃太郎”。その二つが、私の通り名。今では、化け物の方が、世の中には浸透しているわね。」
マントの間から、中庭を眺めながら、私は一人小さくほくそ笑む。
「昔はね、ここも賑やかだったのよ?それはそれは、多くの人々が出入りしていたわ。」
「そうなのか。人気者だったんだな、桃太郎は。」
「えぇ。自分で言うのもなんだけど、この美形だし?鬼も倒せるほど強いし?鬼たちから踏んどったお宝もあるし。私はもう、色んな人から引く手数多だったんだから。でも、そんな生活も長くは続かなかった・・・。本当・・・末永く幸せに暮らせると、思ったんだけどなぁ。」
そして、思い出すのは、自害を望むほど心を壊されていくまでの道のりだ。
英雄桃太郎が辿った、化け物への道のり・・・。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
話しぶりからして、かなり深いところまで、彼らは私のことを知っているだろう。
しかし、それでは足りない。それだけの話では、私を知り得たとは言いがたい。
私が今、どういう立場に追い詰められたのか。
何を感じ、何を思い、何を恐れていたのか。
ぜひ、聞いて欲しい。
私の名を優しく呼んでくれる、最初で最後の男に。
故郷へ帰ってしばらくして、屋敷への出入りする人間が大分落ち着いた頃の話だ。祖父母も他界して、家に一人となった私も嫁入り前に、いい歳となり、そろそろ身を固めるべきかと悩んでいる頃だった。
その頃から頻繁に沢山の男たちが私の元を訪れるようになったのだ。
私の容姿が噂となり独り歩きしたのか、大名や君主の耳に入ったようだった。
しかし、不思議なことに誰一人として、私の名を知って訪れる者はいなかった。
『相手を娶りに尋ねてくるのに、相手のことを何も知らないとは、何事かしら?いいわ、教えてあげましょう!私の名は・・・!』
私は呆れながらも、自分の名前を告げた。するとどうだろう、名を聞けば、皆、恐れて逃げ帰っていくのだ。
強い女を御することもできないのだろうか。
なんとも情けないその背中に、私はガックリと項垂れた。
それでも私は十人、二十人と訪れる人が増えても、包み隠さず『鬼を倒した者の名』を高らかに名乗り続けた。
だって、この名は愛する祖父母が付けてくれた、この世でたった一つの名だったから。
それを誇りとし、感謝を込めて名乗ってきたのに、皆は引きつった笑いを浮かべて私の前から姿を消した。
五十人、六十人、どんな大名や坊ちゃんが来ても名乗り続ける。
そうしているうちに、疑問が生まれた。
『私の名は、なぜこんなにも恐れられているのだろう?』
そんなあるとき、都で私の噂を聞いた。
『実は桃太郎は人の子ではないらしい。妖から生まれた化け物だから、幼い子供でも、鬼も倒せてしまったそうなのだ。』
『いやいや、実は桃太郎は鬼の子らしい。人の世に紛れ、女子供を拐い、食べてしまうのだそうだ。』
『実は・・・。実は・・・。実は・・・。実は・・・。』
などなど、耳に入ってくるのは身に覚えのない噂話ばかり。
私は憤怒し、噂の出所を探った。
探るのは簡単だ。何せ、噂を辿ればいいのだから。
しかし、噂の出所を知って私は後悔した
噂の出所は『私の助けた人々』だったのだ。
思い返せば、納得のいく話でもある
鬼に襲われ、苦しんでいた村人たち。
彼らは、私が訪れる前から鬼に苦しめられていた。
鬼は女を攫うと孕ませては産ませ、孕ませては産ませ、ただそれを繰り返した。
やがて女は心が壊れ、最後は自ら命を絶っていった。
そうなれば、また新しい女が攫われた。
遺族である親類や恋人は鬼を倒した私を見て、何故もっと早くに来なかったのかと激怒した。
奪われた宝はいらないから早く出ていけと、鬼から奪い返した宝を投げつけられた。
当時、私は子供だったので、なぜ村人に怒鳴られ、なぜ虐げられたのかも理解できぬまま、ただ混乱と悲しみに暮れ故郷に戻るしかなかった。
噂の出所を突き止めた私は、近隣の村や都を探った。
噂は果てなく土地の続く限りどこまでも、広がっていた。
故郷に帰ればの村人たちまでもが噂を知り、私を恐れていることが分かった。
だから、昔、家をよく訪れていた人々の足も遠退いていたのだとその時、初めて気付かされたのだ。
私は家に帰ると、ひたすら泣いた。
これ以上人と関わり、嫌われ、恐れられ、離れていくことが怖くなって家に引きこもった。
しかし、引きこもりもそう長くは続かない。家にある食料が底をついてしまったのだ。
空腹に耐えかねた私は、食料を調達するための家を出ることにしたが・・・。
『怖い···怖い・・・。人が・・・目が・・・噂が怖い・・・。でも、お腹が・・・。』
しばらく、戸口で外を眺めていた私は腹の虫に急かされる形で、何とか家を飛び出す。
『村は駄目・・・。顔が完全に知れてるもの・・・。そうよ・・・!都なら・・・!人の出入りも多いから、逆に私だと気付かれないかもしれない!』
私は、僅かな期待を胸に、それでも、ビクビクと震えながら都へ出た。
しかし、私の顔を見た皆は、恐れ呆れ怒り多様な表情を見せた後は目も合わせない。
そして、何も売ってくれない・・・。
私は・・・更に絶望した。
噂はもう、私の手を完全に離れ、確信へと昇華してしまっていたのだ。
生きるために思案し、私は顔を隠して買い物に出た。
怪しんだ者も居たが、旅芸者だと告げると同情したように苦笑してオマケをくれる。
難なく買い物が出来る上に、女一人の旅芸者とだと分かると優しい対応。
『皆のために闘った桃太郎』と『旅芸者』の扱いは雲泥の差だった。
それがあまりに悔しく滑稽で寂しくなった私は、買った桃を泣きながら食べ、沈む夕日を背にして一人帰路に着いた。
あの時の桃の味は今でも忘れられない。
甘くてとろけるようで、しょっぱくて・・・あんな不味い桃は今まで食べたことがなかった。
次第にそんな生活にも慣れ、人と関わらないようにして過ごした。
それでも心は擦り切れていく・・・。
寂しさに押し潰された私は命を絶つことにした。
誰にも知られずひっそりと死のう。そう決めた私は今まで頑張った自分へのご褒美に月見をすることにしたのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「そんな時に、貴方たちは現れたのよ・・・。」
そう呟いて、私は目の前のマオーを見上げる。
彼の顔は、少し険しかった。これは、どんな表情なのかしら。人と関わりを断ちすぎたせいね。上手く汲み取れなくなっちゃって。ふふ・・・。可笑しいったらない。
「辛かったな。もう大丈夫だ、桃太郎。もうお前は一人じゃない。」
「あ・・・。」
彼の手が優しく、私の頭を撫でつける。大きな手だな。大きくて温かい手だな。
本当に・・・マオーは・・・優しすぎる・・・。
「う、うぅ・・・!ひっく・・・!うわあぁーん・・・!」
「・・・よく、頑張ったな。一人で、よくここまで、生きてきた。」
「あぁー・・・ひっく!うぅ・・・ああぁぁぁ・・・!!」
彼が一撫でする度に、私の目からとめどなく涙が溢れ出る。
溢れた涙は、やがてずっと我慢していた感情を呼び起こしていく・・・。
「なんで、私だけが、こんな想いをしなくちゃいけないの!?こんなに虐げられるの!?人のためにこんなに頑張ったのに!?なんで、生きることすら許されないの!?」
「あぁ・・・本当にな。」
今日会ったばかりのマオーに、この感情的な言葉をぶつけたところで何か変わるわけではないことは分かっている。こんなのは、ただの八つ当たりだ。
そんなことは、十分に分かっているはずなのに、一度外れた感情のタガは簡単には戻ってくれなかった。
「私は嫌いよ!こんな、私を拒絶する世界なんて、私は大っ嫌い!」
「そうか・・・。」
それでも彼は、相槌を打つ。私の想いを否定などせず、ただ頷いてくれた。
だから、心の奥底にしまっていた言葉を・・・英雄たらんとする者が・・・決して口にはしてはいけない言葉をついには・・・口にしてしまったのだ・・・。
「こんな世界・・・滅びてしまえばいいのに・・・!」
その瞬間・・・世界は真っ暗になった・・・。
月が隠れただけのかと思った・・・。
「分かった・・・。唯一無二の友の願いだ・・・。俺が、その願い聞き届けよう・・・。」
そう聞こえた、瞬間・・・。私はゆっくりと縁側に下ろされる。
隣に座っていた彼は、立ち上がり、私の頭を最後にぽんぽんと撫でると、踵を返してゆっくりと満月の浮かぶ空を見上げていた・・・。
「・・・マオー?」
月を見上げた彼の姿が、目に映る。
「ルーシー。分かっているな?俺たちの友が泣いている・・・。」
<うん・・・。泣いている。>
「俺たちの友は心から望んだ。」
<うん・・・。望んだ。>
『世界の滅びを!!』
二人の声が重なった瞬間、マオーの周りに黒い何かが渦巻いた。
それは、辺り周辺だけではなく、私の身体からも出ていることが分かる。目視できるほどの“闇”。次第に、身体から力が抜けていく・・・。
マオーに吸われているこれは・・・私の生命力なの?
「くくく・・・!あぁ、生命力とは少し違うな。お前の中に溜まっていた負の感情さ。お陰で・・・少しばかりだが、力を取り戻せたぞ?」
<うん。この世界は“負の感情”がなんでか分からないけど、薄かったからね。純粋なアルくんの戦闘能力しか当てにできなかったけど、今なら、少しの無茶もできそうだよ。>
「そうか・・・。なら、“あのスキル”は使えるな?」
<うん。それくらいなら、大丈夫そう!>
「くくく・・・!そうかそうか!あははは・・・!では、そこで大人しく見ていろ、桃太郎!世界の滅びゆく様をな!」
「・・・滅び!?待って!マオー!何をする気なの!?」
マオーが剣を、地面に向けて軽く振り下ろす。彼に纏わりついていた闇は、その剣の表層に集まり、やがて一滴の雫となって剣先に集まっていく。
見た瞬間に分かった。アレは良くないものだ。あの一滴の雫の中に、この辺り一帯の“良くないもの”が凝縮されているようだった。
その一滴がポタリと・・・地に落ちる。
一滴の雫は徐々に世界を侵食し、やがて彼の足元を覆い尽くしてしまった。
そこから、大きくて屈強な化け物が、その赤い瞳をギョロギョロとさせながら、這い出してくる。
「そ、そいつは鬼なの・・・?」
「くくく・・・さてな?こちらの呼び方は知らないさ。さぁ、顕現せし我が忠実な下僕、オーガよ!この凶悪な力で、この世界を好きに蹂躙するがいい!」
『 グルル・・・!ガゥアゥ、ガアアアァァァ・・・!!! 』
オーガと呼ばれたそれは、マオーに応えるように獣の如き雄叫びを上げた。そのまま一足で軽々と屋敷の塀を飛び越えると、その姿を塀の向こうへ隠してしまった。
その重い足音だけが、少しずつ、ゆっくりと遠ざかっていく。
「ねぇ!あの鬼はどこに行ったの!?」
「あぁ、今、下の村を襲いに行ったところだ。なに、大丈夫だ。すぐに片付くさ。」
「村を襲いに!?なんで、そんなことをするの!?」
「なんでって、そりゃ、俺を怒らせたからに決まってるだろう?この魔族の王である俺の友を、泣かせたのだ。当然の結果だな。」
<アルくんは、短気だからね。元の世界でも、機嫌を損ねて何個もの国を滅ぼして来たんだよ?>
彼は、屋敷の塀に易々と登ると、鬼が降りていった村を眺めながら笑っていた。
<あはは!凄いね!オーガちゃんったら、魔王さまの手前だから、一生懸命に村を壊してるよ!>
胸元のペンダントに宿る大精霊も、演劇を見るように、面白そうに眺めていた。
「この分だと、そう長くはもたないな。やはり、人間の作るものは脆い。ここが終わったら、次は隣の村でも潰しに行くか。そして、その次は大きな都を破壊しよう。」
<さんせー!>
あぁ、そうか・・・。この人たちは・・・いや、コイツらは人の心なんて持ってないんだ。だから、こんなにも楽しそうに、破壊される村を眺めていられるんだ。
「やめて・・・。そんなことしないで。今すぐ、やめさせて!」
「なーに?お前が言ったんじゃないか?世界など滅びてしまえと。だから、わざわざ、特別強力なヤツを召喚してやったんだぞ?」
「・・・たしかに言ったわよ。こんな世界、滅びてしまえばいいって。でも、それは私の一時のワガママだもん。そんなので、多くの人が傷付いてしまうなんて、それを黙って見ているなんて、ましてや笑って見ているだなんて、私にはできないわ!」
「化け物だと、蔑まれてもか?生きていなくていいと、言われているのにか?お前の存在を否定する世界をか!?特別な存在を、認めることなく、感謝することなく、身勝手な世界をか!?こんなにも醜く哀れな人間たちなど捨て置けばいいじゃないか!お前を認める人間だけを残せ。あとは殺してしまって構わないだろう?なぁ?」
くつくつと口元に笑みを浮かべたまま、マオーは私を見下ろしていた。そこにはもう、あの時の、優しい瞳など面影もない。彼の口から滑るように出てくる言葉には優しさなど微塵も感じなかった。
あぁ、本当にこの人は・・・心からそう思っているのだ。人間など、虫以下の存在だと。
「・・・そんなの、できない。私はみんなを守るわ。たとえ、みんなから蔑まれて疎まれて、切り捨てられようと、私は皆を助ける存在でありたい。」
「なぜだ?」
「だって、私は・・・かつて英雄と呼ばれた存在だもん!たとえ、化け物と言われても、私は最後まで英雄であり続ける!私が私自身を英雄だと誇れる限り!!愛する人々が付けてくれたこの名前を、高らかに、名乗り続けてやるわよ!!」
私は傍らに置いていた愛刀を手に、すぐに立ち上がると、塀の上に一足で飛び上がり、マオーの横をすり抜けていく。
「なんだ、行くのか?」
「えぇ・・・。ごめんね、マオー。」
もう、彼の顔は見ない・・・。きっと、怒っているだろうから・・・。
私の置かれた環境に胸を傷め、私のために世界を滅ぼさんと、あの鬼を召喚してくれたのだから。
その想いを私は、また私のワガママで切り伏せようとしている。
本当に私は、最低だ・・・。
やっとできた友を、私の想いひとつで振り回し、挙句の果てに、裏切ってしまったのだから。
私は最低の“化け物”だ・・・。