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昔々に転移した魔王は優しいそうな?ふむ(´・ω・`)?  作者: 黒崎黒子
第一章 ~魔王転移編~
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魔王は桃太郎に出会ったそうな

「黒魔法・重力操作。っと!」


<おー、さすが、黒魔法の魔王さま。鮮やかなお手並みですね。>


屋根くらいまで落ちたところで、自身の重力をカットして、ゆっくりと屋敷の庭に着地する。

下手に地面に穴ぼこでも開けたら、家主に後で何を言われるか分からないからな。


足元が綺麗なままなことに、ほっと胸を撫で下ろすと、視線を感じ顔を上げる。


「ん?あぁ、君が噂の英雄かな?」


「・・・・・・。」


団子だろうか?それを口に入れようとしたところで、俺が空から降りてきたから、びっくりさせてしまったようだ。


目を白黒させながら、口を開けたまま、固まっている。

急な来訪を、しかも、予想外の場所から登場した俺が悪いよな、常識的に。謝罪した方がいいか?


「あ、あのー、すまないな?急に押しかけて。昼間に一度、来ようとしたんだが、大名だか、君主だか、わからんやつが邪魔してな。また、時間を改めて来たんだが・・・。またしても、タイミングが悪かったか。すまない。」


「・・・え?あ、いやいや!大丈夫よ?来た時間より驚いたのは場所だもの。まさか、空から人が降ってくるなんて思いもしなかったから、意表を突かれただけよ。」


クスクスと口元に手を当て、女性は笑うと、俺を眺めてまた目を丸める。


「貴方、人間ではないのね?」


「ん?あぁ、人間ではない。魔王だ。といっても、聞き覚えはないだろうな。この国には魔王はいないそうだし。」


「マオー?知らないわね。外国から来たの?最近、海の向こうから、異邦人がやってくるって、皆が言っているのは聞いてたけど・・・。」


「厳密には違うな。外国からではない。異世界から来た。」


「異世界?外国より遠いの?」


女性は縁側から降りると、カランコロンと下駄を鳴らして、俺の前に歩み寄る。少し、警戒心が見て取れるのは当然だろうな。


「あぁ、この世界と別の世界。人によっては、過去や未来かもしれんな。パラレルワールド、異次元、名前はなんでもいいか。とりあえず、文化も種族も何もかも違う遠い遠い場所から来た。」


「へぇー。よく分かんない!」


にっこりと女性は笑うと、その長い黒髪を揺らして、首を傾げる。可愛らしいな。大人っぽさの中に、少しの幼さも見え隠れする。


「で?そんな、異世界の人がなんで、私の家に来たのかしら?」


「英雄がいると聞いてな?手合わせを願いに来た。それと、もう一つあるが・・・まぁ、それは後でいいか。とりあえず、今は桃太郎、君と勝負がしたい。」


魔剣ディアボロスを抜き放ち、目の前の女性に突き付けてみせる。

女性はキョトンとした顔で、魔剣と俺の顔を交互に見比べると、深くため息をついて、ヒラヒラと手を振り返した。


「私の命を取りに来たなら、別にいいわよ?貴方になら、あげてもいいわ。この世界の男たちに、散らされるくらいなら、異世界の人の方が幾分かマシだもの。」


踵を返して、縁側に戻ると団子を口に放り投げ、酒を干す。そうして、そのまま俺に向かって盃を掲げると、にっこりと微笑んだ。


「私は独り身だもの。この命なら、露と消えても、誰も気にもとめないわ。だから・・・ね?私を殺す前に、酒に付き合いなさい。丁度、今日で最後にするつもりだったのよ、私も。最後くらい、楽しい思いをして、この世を去りたいわ。」


「・・・自害するつもりだったのか?」


「そう。死にたくなるほど、月が綺麗だったから。」


そう言って、女性は空に浮かぶ月を眺めると顔を歪ませ、やがて、咽び泣き始める。


「私、もう一人ぼっちだから・・・ひっく・・・。どこにも、居場所が、ないもの・・・ぐす・・・。うわあぁーん・・・!」


「そうか・・・。」


<アルくん・・・。>


泣いている女性に武器を振り下ろすほど、俺は非情な上に、非常識ではない。魔王だけども、魔王なりの筋は通しているつもりだ。


俺は桃太郎に近付くと、彼女の握りしめた盃を奪い、じっくりと観察する。


「ふむ。丁度よかったな。この世界の食べ物や酒には、興味が出てきたところだ。付き合え、桃太郎。」


彼女の手を取り盃を返すと、縁側に腰掛け、収納空間から黄金色の盃を取り出す。


「この盃に合う酒だといいがな。」


「スンスン・・・。清酒しかないわ。それで良ければ。」


「原料はなんだ?」


「米よ。」


「米?んー・・・近いのはライスか?」


「らいす?ふふ・・・本当に異世界の人なのね。まぁ、見た感じから分かるけど。マオーの世界のこと、教えてくれるかしら?」


「まぁ、分かることならな。」


注がれた酒を見つめ、俺は一気に酒を干す。口に転がし、鼻を抜けて酒の香りを楽しむ。


「うむ。悪くない。」


「ふふ。ツマミもあるわよ。あと、これは私、桃太郎お手製のきびだんご。料理には、自信あるのよ?」


「ほう?俺は魔王だぞ?魔族の王だ。うまいものを見極める舌は、長い年月で鍛えてきている。俺の舌を満足させることは、そう簡単にできるとは思わぬ事だ···くくく!」


「ふふふ!全ては食べてから言いなさい!喰らえ!マオー!」


隣で含み笑う桃太郎は、女性らしいその細く長い指で、きびだんごを摘むと、俺の口に放り込んできた。


「っ!?うまぁー!ちょ、なにこれ、チョー美味いんですけど♡」


<え?美味しいの?アルくん、私も食べたーい!>


▼桃太郎はきびだんごを振舞った!

▼魔王に会心の一撃!魔王は怯んだ!


「やるじゃないか!だが、この煮物はどうだぁー?」


「ふふ。いもの煮っころがし。これも得意料理よ?」


「ほう?あむ・・・。くっそ!美味いじゃないか・・・!」


<アルくん!私も!私もちょーだい!>


▼魔王に会心の一撃!魔王は弱っている!


「魚はどう?」


「魚は向こうで食べ飽きた。他のを・・・『御託はいいから!』むぐ!?・・・あれ?俺が食べてきたのって、メダカだったかな?こんなに美味しい魚なんて知らない・・・。」


<ジュルルルルルル・・・。アルぐ~ん・・・。>


▼魔王は過去の料理と目の前の料理を比べて、混乱している!


「参ったか、マオー!でも、まだまだあるわよ。実は作り過ぎちゃってね。できれば、そっちの子も食べてくれると助かるけど・・・無理かしら?」


<じゅるり・・・。え・・・?私!?>


「なわけないだろ?お前の声は、契約者である俺にしか届かないはずだ。向こうでも、そうだったろ?」


<そ、そうだよね?>


ルーシーは大精霊だ。今はこのペンダントを依り代にしているといっても、この世界と関わるには、顕現するしかない。


顕現していないルーシーは、この世界へ一切の物理干渉は出来ないのだ。顕現するのは、食事の時とルーシーの力が必要となった戦いの時だが、それも、俺とルーシーの合意がなければ成立しない。


今は顕現していないので、お互いの精神でしか会話できない状態なのだ。


「いや、だから、聞こえてるって言ってるのよ。えーっと、名前は?女の子なのは分かるんだけど・・・。」


「・・・だれが?俺は男だが?」


「そりゃ、貴方は男でしょ。十分にカッコイイわよ。そうじゃなくて、女の子よ。可愛らしい声の。近くにいるんでしょ?」


<や、ややややっぱり、聞こえてるよ!アルくん!>


「はぁ、だから間違いだって。慌てるなよ。カチャカチャいわせたら、怪しまれるだろ?」


胸元を抑えて、焦って暴れ回っているペンダントを落ち着かせる。


「あ、もしかして、その胸元で揺れてる水晶にいるの?なに?小人かしら?」


隣の桃太郎が、俺の胸元を覗き込んでくる。明らからに、胸の中に興味津々である。


<だああああ!?やっぱり、聞こえてるよ!アルくん!>


「おいおい、マジかよ。」


俺は観念して、胸元のペンダントを取り出すと、桃太郎の前にぶら下げる。


「へぇー、すごいなー。知り合いに一寸の男の子はいるけど、こんな小さな小人は見たことないよ。」


<あ、あんまり見ないで~!恥ずかしい!>


「勘違いを正すと、中に人は入っていない。俺と契約した大精霊が宿っているんだ。」


「へぇー!神様みたいなもんだ!すごいなぁー!」


<えへへー!そうなの、ルーシーはすごいんだよ!>


「ルーシーちゃんっていうんだ!よろしくね!」


<よろしくね!桃太郎さん!>


女子二人は仲良く、キャッキャウフフと語り合い始める。


それを横目に、俺は首を傾げていた。なんで、契約者じゃない桃太郎にルーシーの声が聞こえるのか。不思議で仕方なかった。


契約というパイプが繋がっていなければ、語り合うこと以前に“大精霊に気付くこと”もできないはずなのだがな。


「こく・・・こく・・・ぷはー・・・。ん・・・?あ。」


ふと、自身の持つ盃を飲み干して、気が付いた・・・。


あぁ、やらかしてるわ・・・俺。


隣を見ると、“黄金の盃”でこくこくと美味しそうに酒を呑む美少女の姿があった。


自身の手に持つ盃を再び見る。白い陶磁器の美しい盃。


「っ!?だああぁぁぁ・・・!やらかしたあぁぁぁ・・・!」


「な、なに?どうしたのよ、急に!?」


<どうしたの、アルくん?>


「すまん!桃太郎!お前、死んだ!」


「え?えぇーなんで・・・?」


俺は桃太郎を見ると、深々と頭を下げることしかできなかった。



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