魔王は相手を知るそうな。~英雄桃太郎編~
月が夜空の頂点に差し掛かった頃、俺は桃太郎のいる屋敷へと足を向ける。
昼間からルーシに監視してもらっていたが、やはり、家主は家に引きこもっているようだった。
「引きこもりの英雄か・・・。楽しみだな!どんな英雄なんだろうな!」
夜は魔族にとって、どんな場所でもホームと変わりない。さらに、今夜のように満月となれば、俺の力は更に強化されていく。
レベルが下がったとはいえ、基本スターテスは死亡前を引き継いでいるそうだから、俺の中では、万全といえば万全の状態だった。
体調面、精神面、つまるところスターテスだけならば・・・。
ただ、本当に万全なのかと聞かれれば、俺はすぐさまNOと答えるだろう。
違和感は、この地に降りた時。その時から感じていた。
まぁ、詳しい話は、また今度話そう。
とりあえず、今は目の前の英雄だ!
コイツを、倒さないと!全ては始まらないのだ!
<アルくん、倒しちゃダメじゃない?>
「おっと、そうか。話し合いだったな、話し合い。んー・・・。でも、少しくらいなら、力比べくらいしてもいいんじゃないか?彼女はこの国の英雄らしいじゃないか。向こうの勇者と比べてどれくらい強いか、知りたいんだよなー。」
うずうずと、興奮を抑えることもできずに、俺は一歩一歩近付く屋敷の主に期待を膨らませる。
<英雄桃太郎か・・・。アルくんが休んでる間に、私の本体に聞いてみたの。そしたら、桃太郎というのは、人間の世界のお伽噺に出てくる英雄らしいよ。>
「お伽噺?へぇ、どんな話だ?」
<聞かれると思って、準備してたんだ。私の美声と迫力の語りに酔いしれなさーい。では、大精霊の語り部による、桃太郎のお伽噺、始まり始まり~。>
「おー。(自分でそこまで自信を持てることがすごいなぁ、と思ったことは伏せて、魔王さまの優しさを民衆に見せつけてみる顔!ドヤ!)」
<なんか腹立つけど、まぁいいや。こほん・・・!昔々ある所に、お爺さんとお婆さんが住んでいました。>
開始3秒で眠い!要約するとこんな内容だったと思うぞ!(魔王さまー!カーット!)
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈英雄桃太郎┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
昔々ある所に、爺さんと婆さんが同棲生活。婆さんが川で大きなモーモを(σ´∀`)σゲッチュ♡したので、さっそくHOMEでモーモをパッカーンしました。中から元気な男の子が爆誕したので、モーモから産まれた、桃太郎とネーミングしました。
驚きの速さで、スクスク成長。噂で鬼が暴れ回っていると聞いて、桃太郎はhave heartache。
そして、桃太郎はキメ顔で、お婆さんにこう言った。「明日から、僕のために毎朝、味噌汁を作ってくれないか?鬼に震える未来なんて、僕が終わりにしてあげるから。(キラ!)」こうして、桃太郎は鬼退治へ、向かうのでした。
餞別に、お婆さんがキーアイテム“きびだんご”を桃太郎に渡します。
爽やかなイケメンスマイルを残し、感謝を述べて、桃太郎は旅立っていきました。婆さんはドキドキして二十歳まで若返りました。
そんな、婆さんの横顔に見惚れ、爺さんも三十歳まで若返りました。お互いの顔をみて、お爺さんとお婆さん・・・いえいえ、若い男女は、その晩、激しく燃えあがりました。
旅の道中で犬、猿、雉に絡まれた桃太郎は、三日三晩、拳と拳で語り合い和解しました。
最後の晩に酒とツマミの美味しい、可愛いチャンネーたちが接客してくれる大人のお店【店名:きびだんご】で、チャンネーの大きなたわわに実ったモーモを堪能した四人は、お帰りの時間となりました。
『桃太郎さん、ごちそうさまでぇーす!』
「え?なに言ってるんだい?僕、お金なんて持ってないけど?ていうか、ここは、君たちが絡んできて負けたんだから、君たちが払うべきでしょ?」
『ま、マジかよ・・・。』
なんと、四人は無銭飲食だったのです。さー大変。なんとか、ツケにしてもらった桃太郎は、仕方が無いので、多額の賞金がかかった鬼をモンスターハンターすることにしました。
お婆さんからもらった“きびだんご”で、飢えをしのいでいた桃太郎ですが、貰った日から何日も経っていたので、食中毒になってしまいました。
桃太郎は激しい腹痛で病院に運ばれ、優しい美人ナースさんに手厚い治療を受けました。美女看護婦のお陰で、スッキリ・・・スッカリと治った桃太郎は再び旅を再開します。
なんとか、無事に鬼ヶ島に到着した桃太郎たち。
近接武器でイヌ、サル、キジは遠方支援でパーティを作ることになりました。
桃太郎は病み上がりのため、司令官としてサインを出す大変に重大な役職に就きました。サングラスに葉巻がよく似合います。
大勢の屈強な鬼の軍勢をみて、ガクブルな三匹のお供。
そこで、桃太郎は背後でショットガンを空に向けて撃ち抜きました。そして、イケメン顔で爽やかにこう言って鼓舞したのです。
「背中は俺に任せろ。泣き言や弱気から、僕が君たちを守り抜いてやる!だから死ぬ気で、前に進みな!」
『・・・ま、間違いない。下がれば、殺される!』
前門の鬼、後門の桃太郎に挟まれた三匹は、死に物狂いで戦い、とうとう、敵の親玉を引きずり出すことに成功しました。
ですが満身創痍の三匹。もう、腕も上がりません。
「待たせたな。あとは任せろ。」
『も、桃太郎さぁん!』
そんな三人を庇うように、桃太郎は前に出ると、ショットガンやマグナム、閃光弾や手榴弾を手にド派手なショータイムを始めるのでした。
鬼ヶ島を完全に制圧した桃太郎たちは、集められた金銀財宝を持ち帰ると、チャンネーたちのお店にお金を払い、無事故郷へと帰りました。
故郷へと帰った桃太郎は、一夜を共にしたナースの女と、旅の仲間の三匹と、子沢山の若い男女の家で末永く幸せに暮らしましたとさ。
おしまい。
◌⑅◌┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈┈◌⑅◌
はい、カット!お疲れさーん!素晴らしいな、俺のシナリオは!
<んー・・・誰?え?アルくん、聞いてた?私の語りを聞いてたかな?>
「聞いてたさ。英雄桃太郎だろ?眠くなるような内容だったから、魔王なり解釈を挟んだだけだ。」
<いや、眠くなるっていうより、寝てたよね?完全に私の話した内容とは別人になってるからね?>
「人間の言葉に、“行間を読め”って、言葉があるだろ?読んだら、こうなったよな。」
<行間から読みすぎだよ!むしろ、行間が主文になっちゃったよ!老夫婦の営みとか、想像したくないよ!美人ナースとか、一言も出てきてなかったよ。桃太郎が銃火器持ってるよー、こわいよーこわいよー。魔王さまの頭がこわいよう。>
「しっ!もうすぐ着くから、静かにして。ショットガンが飛んでくるよ!」
<ないよ!時代が違うよ!昔々だって、言ってるじゃん!今、一番の脅威は核爆弾並に爆発してる魔王さまの解釈だよ!もう無理だよー、元の世界なんて帰れないよー。>
「じゃあ、二人でここに残るか?結婚しよう、ルーシー。俺のために、毎朝、味噌汁を作ってくれよ。」
<・・・・・・ば、バカぁ!>
「ごふっ!?」
家の前で、足元の影から大きな黒い手が出てきて、俺を天高く吹っ飛ばす。大精霊の顕現魔法か。久々だなぁー!
<わわわっ!?ご、こめん!アルくん!>
「いや、いいさ。俺には黒魔法で、ダメージは通らないし。ここまで高く上がったなら、丁度いい。このまま英雄宅に、のり込むとしよう。」
<え?いいの?玄関からじゃなくて?>
「ははは!どこの世界に、チャイムを鳴らす魔王がいるかい?魔王は魔王らしく!ド派手に登場だぁー!」
俺はそのまま、桃太郎の邸宅へと、重力に逆らうことなく、真っ逆さまに墜落していった。