魔王は復活したそうな
ふわふわと心地よい感覚に、目を開けると、真っ白い空間が広がっていた。
寝ているのか、立っているのか、それを確認しようと辺りを見回すが、何も見えない。
感覚もふわふわした感覚しか伝わってこず、あやふやなままだった。
手を見る。ない。足を見る。ない。腹は?ない。
この分だと、首もなさそう。
つまり、頭だけ?
気持ち悪っ!?
いやいや、というか、身体がないんじゃないか?
魂だけの存在と化しているとか、そんなところだろう 。
そんなことを考えていると、不意に何かがぶつかって来る感覚がした。
プニプニと、俺の水風船のような愛らしいフォルム(願望)に、無作法に体当たりしてくる何者かがいる。
ぷにん!ぷにん!ぷにぷにぷに・・・ぷぷぷぷ・・・ぴとっ!(照)
(ゾワッ!?)な、なにしてんだ、こいつうぅぅぅ!!?
ついには、くっついてきたそれに、いよいよ堪忍袋の緒が切れた俺は、少し身を引いて、一気に全力の体当たりをぶちかます。
ソイツは叫びをあげながら(幻聴)、遥か彼方へと飛んで行った。
あー、たぶん、大丈夫。壁とかなさそうだし。
たぶん、アイツ、闇魔道士だし。
だいたい、こんな状況でふざけてくるの、あのアホしかいない。
大方、俺に気付いて、ジャレてきたのだろう。
本当に、めんどくさいヤツ。
なんて考えていると、頬のあたり(だと思われる場所)に再びプニプニとした感触。なに!?もう戻ってきやがったか!
ぴとっと引っ付いてきたソイツを俺は、手を伸ばして払い除ける。
・・・・・・あれ?手?俺って、丸っこい愛くるしフォルムじゃないの?
あ、あぁ・・・てことは、さっきまでのは、夢なのね?
なーんだ。闇魔道士を今度こそ、葬れたと思ったのに・・・。
また手の甲に、ふよんと柔らかな感触が伝わったので、とりあえず、今度は鷲掴んでみる。正体を知りたい。すると同時 に「ひゃ!?」と女の子のか細い悲鳴が聞こえた。
悲鳴?こ、これはまさか!?女の豊満な胸の感触じゃないかい!?
驚いた俺は目を見開き、瞬発力全開ではね起きた。
そう、起き上がるという行動ができた。
つまりだ・・・
「う、うおぉー!!?身体がある!見える!聞こえる!声も出る!俺は・・・俺は!生きている!!ふははは!!この魔力、前よりも漲っているぞおぉー!」
漲る魔力を全身に巡らせ、魔王らしい笑いを浮かべての、全力のガッツポーズ!
ただの体力と魔力のムダ使いである。
「えーっと・・・。大丈夫そうですね?」
「ん?あー、すまない。嬉しさのあまり、取り乱していたな・・・。君か?状況的に俺を介抱してくれたのは?」
目の前には、黒い布で目を隠しているナイスバディな美女が、ソファーに腰を下ろしていた。
「えぇ。あなたが死んですぐに、私が復活させたのですが、なかなか起きないので、失敗してしまったのかと諦めかけていました。」
俺の声を聞いて、生きていることを再確認したのか、ほっと、その素晴らしいお胸を撫で下ろしていらっしゃる。
「そうだったのか!魔王の俺を復活させてくれたのは、君なのか。ありがとう!では・・・。」
しっかりと、感謝の意を述べていたところで、俺は瞬時に収納空間から魔剣ディアボロスを抜き放ち、目の前の目隠し美人に突きつける。
「あら・・・?なにか、お気に召しませんでした?」
「いや?この身体は確かに、復活している。いつも通り、前回よりも、少し強くなっているようだし。まぁ、これは魔王特権スキルの一つ《魔王復活》の、おかげだろうけどな。」
魔王の俺は一度死ぬと、生前の記憶を失うことなく、スキルも保有したまま、蘇ることができる。おまけに、復活特典として1パーセントの全ステータス上昇を見込めるのだ。
かく言う俺は、今回で20回目の死亡。なんと、基本ステータスより20%の転生ボーナスが上乗せが成されている状態だ。
初期値オール20%の上乗せだぞ?凄くないか?ズルくないか?
死んでも再び百年くらいで復活して、レベリングとは関係なしの1%のステータス増加だ。素晴らしい。
そう。ネックなのは、この復活までの期間だ。
俺はなんと、魔王として初めて地上に誕生してから、今現在で2000歳なのだ。
でもまぁね?分かるだろ?詰まるところさ、クソ使い勝手が悪いスキルでもあるんだよ。
復活まで、百年だぞ?俺を倒した勇者なんて、とっくに死んでるから、リベンジもできないでやんの。しかも、また、一見さんの勇者に殺される始末。やるせないよなぁー・・・。
じゃあ、早く復活すればいいだろうと、思うかもしれないが、そうもいかない。
復活に必要な魔力は、36,500MP。
俺の魔力はレベルカンストで、9,999MP。
そんな魔力、誰がおいそれと出せるだろうか。
それを目の前の女は、普通に出しやがったんだよ。
少なくとも、俺の居た世界で、そんな化け物はいなかったはず。
確かに、目前の女性が代表者として復活の儀を行った可能性はあるが、俺の探知に何も引っかからないから、それはないだろう。
そう、それも、目の前の女性をより警戒している理由の一つ。
俺の魔力探知にこの女が引っかからないのだ。
ステルス状態。妨害などでもなく、単に引っかからない。
さっきから魔眼を使って、相手のステータスを覗こうとしても・・・
《───》
称号 ───
職業 ───
レベル ───
保有スキル ───
だぞ?なーにも分からん。魔王の魔眼も通じない。
魔眼封じのアイテムでも持っているのか?
「とりあえず、俺を復活させたのは、君で間違いないだろう。問題は、どれくらいの時間が経っているかだ。百年経ったならいい。自然発生という形で、俺は蘇るけど、君は言った。“死んですぐに復活させた”と。つまり、一日と待たず、君は俺を復活させたのだ。その魔力総量は、ざっと見積っても36,500MP。とても、君みたいな美人さんが、所有できる量じゃない。どっから持ってきたんだ?その膨大な魔力は。」
「・・・美人なんて、初めて言われました。」
「いや、聞けよ!」
剣を突きつけられても、クスクスと美人さんは笑顔を絶やすことは無く、この余裕。これはいよいよ、大物だな。俺とは別の魔王か?俺を含めて赤と白の魔王の三人のはず・・・。赤はあの激情のガキだろ?白はその姉で幼なじみのアイツ。そのどちらでもない。
「ふふ・・・。私はあなたの友人みたいなものですよ。一方的に、わたしが知っているだけですけどね。それでも、友人が傷付いたのなら、助けないのは酷いじゃありませんか。ねぇ?」
「・・・・・・。」
なんだ、コイツ。ヤバいヤツなの?太古の文献にあった電波系女子ってヤツか?
最終的にお花はお友達♡とか、言い出さないよな?
「むー?失礼なこと考えてませんかー?」
俺の表情を見た女は頬を膨らませ、俺を見上げてくる。
不覚にも、少し可愛らしく感じてしまった。
「・・・はぁ。やめだ、やめ。戦意が削がれたわ。まぁ、復活はできたことだし。相手の正体なんて些細なことだしな。それより大事なのは・・・。」
魔剣をしまい、女に一歩歩み寄ると、その長い髪に手をかける。
絹糸のようにサラリとして、良く手入れされている。どこの女よりも美しい。何処かの貴族かもしれないな。
「恩人に、失礼した。どういう意図にしろ、俺を復活させた君には、権利がある。望みはあるか?」
「魔王は魔族の長ですけど・・・類に漏れず、召喚者の望みを叶えるのですか?」
「悪魔どもがやっているのに、俺がしないワケにはいかんだろう?下の者に、模範となるのも、王としての務めだ。」
「まぁ!律儀な方ですね!ますます、惚れて直してしまいますわ!」
にこりと、女は微笑みを浮かべると俺の手を取り、目隠し越しにこちらを見上げる。少し、頬が染っているように見えるのは、気のせいだろうか。
「でも、願いはありませんよ。私は陰ながら貴方の姿を、見守っていられればそれで十分ですもの。元気になって良かったです。」
「それでは困るんだがな?じゃあ、これは借りにしておく。何かあったら、すぐに呼べ。この魔王リベリアルが、君の前に立ち塞がる壁を完膚なきまでに破壊し、襲いくる困難からもお前を守り抜いてやろう。」
「ふふ!まるで、プロポーズのようですね!魔王さま!」
「茶化すな!」
嬉しそうに微笑む女は小指を出すと、ゆっくりと指切りをする。
「では、約束です!指切りげんまん、嘘ついたら・・・聖剣千本飲ーます!」
「聖剣って、シャレにならな・・・!?」
「ふふ!指切った!・・・ふふ。では、私とあなたは、魂の繋がりを持ちました。私がピンチの時は助けてくださいね?代わりに、あなたのピンチは、私が助けますよ!」
「おい、話を聞け・・・って、え?君も助けにくるのか?」
「はい!」
瞬間、俺たちの小指に金色の指輪が嵌る。
これは、契約の指輪!?コイツ、錬金術師か!?それか、魔術師・・・。
「いえいえ、どちらも違いますよ。私はあなたの友人です。ふふ。これで、魔王さまと私は魂の友人!マブダチですよ♡」
女は明るく笑みを浮かべたまま、俺の小指に嵌った指輪を撫でる。
「この魔王を捕まえて、マブダチとは・・・。ふふ、おかしな奴だな、君は。いいだろう。助け助けられ、俺たちは、互いを支え合おう。」
俺は、女の手を取り、その小指に嵌った指輪を眺めて口元を緩める。
「では、魔王さま。あなたを元の世界へ帰して差し上げましょう!」
女性が立ち上がり、祈りを捧げた瞬間、俺の足元に魔法陣が浮かび上がる。元の世界ということは、無事に救えたんだな、良かった。
それにしても、転送魔法に時空魔法、空間魔法と、盛りだくさんの複雑な陣だな。
瞬時にこれを生み出すとは、やはり、目の前の女は只者ではなさそうだ。
「ありがとう。名も知らぬ友人よ。借りはいずれ。」
「借りなんて思ってませんよ。貴方は私の友であり、救い主ですから。」
「救い主・・・?」
彼女がそう答えた瞬間、俺は転送された。
次に目を覚ましたのは、辺り一面、美しい緑に覆われた草原だった・・・。