今現在、あるところに
豊富な資源と澄んだ空気が満ち満ちる人間の都より遥か東に、木々が鬱蒼と覆い茂る樹海がある。さらにその樹海を抜けると、砂嵐が毎時間吹き荒れる広大な砂漠が広がっている。
さらに進むと、波風荒れ狂う海が広がり、その先に、人間たちが恐れる未開の地、暗黒大陸が広がっている。
闇の根源である魔素が濃密すぎるため、気象は安定せず、日中は天から光が指すことははない。長い年月をかけ過酷な環境に晒された植物や動物は変貌してしまい、強力な有象無象のモンスターの姿に変化してしまって久しい。
その大陸の中央に構えられた大きな城。
その城こそ、魔王の根城であった。
「あー、少し肌寒さがあるな。風邪ひきたくないなー。明日は大事な決戦日だし。勇者くるかな?来るよね?ふふふ・・・、楽しみだなー。どうしてやろうかな?まずは、軽く重力魔法(中)で隕石ふらせて、ド派手にお出迎えしてあげてー・・・。」
そこで1人、ブツブツと呟きながら寝室に向かう男。
この男こそ、本作の主人公!
【 魔王 リベリアル 】その人である!
(`・ω・´)ふんすっ!
ドドーン!!
今日の昼は確かに暑かった。
もう9月も中頃だというのに残暑が続く今日、俺は少し薄着にしていた。
夕方くらいには部屋に戻る予定で出てきたのだが、闇魔道士に呼び止められたのが運の尽き。
明日、使う兵器の準備に駆り出されたのだ
結果、解放されたのは夜が訪れ始める時間
秋らしい、少し冷たい風が肌を容赦なく撫でつける
「ふうー、しかし、寒い。」
空に煌々と輝く月を眺めて、はたと気付く。
「満月か」
この大陸は、月の影響のため夜には魔素が薄まり、こうして夜の間だけ、空を拝むことが出来る。
月の光は不思議なことに、我ら魔族の力を幾分にも高めてくれる最愛の友でもあった。
故に、その姿を見るだけで、自然と気持ちは昂ってくる。
明日は、勇者との決戦の日だ。
長かった。本当に長かった。
それも、明日で終わりだ。
明日には、城に乗り込んできた勇者パーティを血祭りにあげ、その遺体で最高の闇の勇者パーティを作り、人間界を逆に滅ぼしてやるのだー!クフフのフ~・・・!
「うわー!!!魔王!魔王おぉぉー!!大変ですー!」
「何事だ?俺は今、闇堕ち勇者で世界征服しよう!の脳内シュミレーションに忙しい!」
「そんなことしてる場合じゃないんですよ!魔人兵器《赤鬼》が暴走を始め、城内の仲間を斬り倒しているんです!」
「はぁ!?バカじゃないの!?なにしてんの!?明日、勇者来るんだよ?なに、勝手に仲間減らしてんの!?」
俺の足元に転がり込んできたのは、先程まで研究室にいたはずのアホ魔道士ファウスト。
え?なんて?暴走?なんで?
見れば、ファウストを追いかけるように、魔人兵器がこちらに向かってきていた。なんか、連れて来とるぅー!?
《敵発見!敵発見!魔王級高濃度の魔力ヲ確認!魔攻ヲ最大二設定!魔防ヲ最大二設定!対象ヲ排除シマス!超電磁砲、発射五秒前・・・。》
俺に目を止めた瞬間、警報アラートをワンワンと鳴らし、魔人兵器《赤鬼》は口をアングリと開く。
《四、三・・・。》
「おいおい、空いた口が塞がらないのは俺の方だってのに、はぁー・・・。とりあえず、極大魔法は当然危ないから、中位魔法くらいで、破壊しとくか?」
俺は、魔人に相対するように腕を向けると、できる限り低濃度の魔力を込めて氷結の矢を放った。
「魔王おおぉ!いけません!今のソイツに魔法は!」
「え?なんだって?」
《二、一・・・。》
ファウストが叫びをあげると同時に、俺の腰にしがみつく。
しかし、その叫びが聞こえるより早く俺の手から放たれた貫通性MAXの氷結の矢は、綺麗に《赤鬼》の口に飛び込んだ。
んー!よし!我ながら見事な射だったな!今年一番のクリーンヒットじゃないか?
なんて、自身の腕前を自画自賛していると、突然、ガクガクと目の前の魔人兵器もとい、ガラクタが震えだした。口はあんぐりとしているので、少し怖い・・・。
《異常発生!異常発生!内部に高濃度の魔力ガガガ検出ウウウサレレレマシタ!魔鉱石二重大ナ損傷確認!魔力ヲ制御デキマセン!損傷率74%!自動回復不可!自動回復不可!》
腰にしがみつく闇魔道士に目を向けると、この世の終わりを目にしたように、目の前のガラクタを見つめる。
「あーあー、死んだなこれ。」
「は?え?」
《モウ、自爆シカネーヨ!ソレジャ、最後二!魔王様!バンザーイ!》
お腰につけた闇魔道士の言葉に、間の抜けた声を返した瞬間、目の前のガラクタは、両手を挙げて光り輝きはじめる。
「自爆!?バカじゃないの!?なにしてんの、コイツ!?俺、魔王だよ!?魔王リベリアルだよ!?親に向かって自爆って!?」
「あー、残念ですけど、敵味方分かってないです、アイツ。」
「はぁ!?なんでー?プログラムしてないの!?」
「えーっと・・・忘れてました・・・(๑>•̀๑)テヘペロ」
「ちょ、おまっ!?マジでぶっ殺す!」
闇魔道士の胸ぐらを掴んだ瞬間、辺りが強烈な光と爆音とともに吹き飛んだ。さながら、超級爆炎魔法を使用したような、太古の文献に遺されていた“核弾道ミサイル”とかいう兵器を打ち込まれたような衝撃だった。
城はもちろん、城の中に居た仲間たち、全てが吹っ飛んだ
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瓦礫の中から這い出すと、俺の足元に転がるファウストをつまみ上げる。
魔王の底なしの魔力を防御魔法に全力で注げば、この程度の爆発などなんてことはない。かすり傷も負わんのだよ!あーっははは!
あー、死ぬかと思った・・・。
「きゅ~~。」
「この、ど阿呆が。どうすんだよ、これ。」
ファウストをつまみ上げたまま、かつてそこにあった城を見上げると、そこには、真っ黒な亀裂が空間に出来ていた。
徐々に、亀裂は大きくなり、次第に周囲の空気が亀裂に吸い込まれていく。
「あー、なんだっけこれ。確か、昔の文献に同じのあったな。強力な魔力がぶつかると、異次元の扉が開かれる場合があるんだったな。で?それから、どうなるんだっけか?」
ぼーっと、亀裂を眺めていると、吸い込まれる空気が徐々に増えていく。いつの間にか、周囲の魔素が視認できるほど濃く渦を巻いて、穴に吸い込まれていく。
「あー、そうだ。“ブラックホール”になるんだよな。で?そうそう!全て吸い込み、この星すら飲み込んでしまうんだよな。怖いねー。え・・・飲み込んじゃうの!?やばいじゃん!?のんびりしてる場合じゃねよー!おい!起きろ!ファウスト!」
「んん・・・あれ?魔王様?もう朝ですかー?なんか、全身痛いので、今日、有休貰いますねー。」
ガクガクとファウストを揺さぶって起こすと、寝ぼけた超級ど阿呆なことをほざく。
「朝じゃねぇーよ!ていうか、朝日拝めなくなりそうだよ!世界なくなりそうなんだけど!?」
「あはは!アホですね!魔王、世界滅ぼしたら、征服どころじゃありませんよ?」
「アホにアホって言われたー!ショック!半分、おまえのせいなんですけどねぇー!?」
「部下の責任は上司の責任!故に、全部魔王様の責任です!」
ふふーん!と、ファウストは胸を張って、全責任を俺一人に押し付けてくる。あぁ・・・確かに。コイツを一番側に指名したこと自体、間違いだったわ。
任命責任という観点では、確かに、俺の責任だな。
「うわ、サイテー。コイツ、マジでサイテーだわ。マジでクビにしとけばよかった。」
「あはは!私をクビにしてたら、脳筋しかいないこの魔王城は、未だに大混乱ですよ。」
「最後に大混乱にした奴がよく言うよ。はぁ・・。で?どうすればいい?我が軍、最高の頭脳の持ち主殿?」
自身をこれでもかと、褒める前向きなバカに、俺は苦笑を浮かべると目の前のブラックホールを指差す。
話してる間にまた少し大きくなっていた。
というか、もう目の前だわ。
「ふふん!ほら、死ぬ気で、ほんと、死ぬ気で究極の黒魔法を、アレにぶつけて下さい。」
「アレに?吸い込まれる瞬間って!?えーっと、するとどうなる?」
「率直に言えば、魔王は死にます。近くの私も死ぬでしょう。でも、世界は救われます。」
「え?死ぬの?俺、死ぬの?志半ばも、半ばなんだけど?魔王が世界のために死ぬとか、初耳!」
長い戦いを経て、ようやく世界の半分を手にしたのに?
もう少しで、勇者と相見えることができたというのに?
せめて、死ぬなら、勇者の必殺技で、死にたかった・・・。
「まぁ、世界が終わっては、元も子もないか。『化け物と人間の友好』は次回に持ち越すとしよう。」
ひとまず、俺の我儘から始まった世界征服はこれまでかな。
無念・・・だけどでもまぁ。
「これが、俺たち魔王軍のしでかしたことなら、王である俺が尻拭いをしないとな。」
「ふ・・・、仕方ありませんね。最後までお供しますよ、魔王さま。」
「なに、カッコつけてんだ、アホめ。おまえのウッカリ病が、原因だろうが。」
「( ´・ェ・` )クーン・・・。」
「ふざけてないで、ほら、力を貸せ!さっきの防御魔法で魔力を半分持ってかれてるんだよ、俺は。」
「あ、死亡保険出ます?」
「出る出る。ウチは、ホワイトな会社だからな。お前んとこの、孤児たちに、送金されるよう手続きされてる。」
「よかったー。」
ぽっかりと口を開けたブラックホールに俺たちは飛び込むと、吸い込まれる瞬間、全力まで高めた魔力をぶつけた。
「んじゃ、最後だ!盛大にいくぞ!」
「さらば!愛しき、子供たち!」
《極限黒魔法!TERA・GRAVITY!》
そうして俺たちは、亜空間ミキサーの力にズタズタに引き裂かれながらも、なんとかその口を塞ぐことに成功した・・・。
と思う。
いや、分からんよ?だって、死んだんだもの。確認しようがないもんなー。
まぁ、あの世があるなら、そこで聞くさ。