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ルール

 赤、橙、黄、緑、青、藍、紫、色鮮やかな色取りをした巨大な雲が目の前に広がる。

 

「綺麗だね」


 サラサラとした金色の髪は腰まで伸び、琥珀色の瞳、薄紅の唇。子供のように小さな顔。水色のスモック・ブラウスに白いスカートといった素朴な服装。


「アーリア、ここまでありがとう。村まで気を付けて」


「もう、大丈夫だよ。ラク。心配するなら、自分のことでしょう。これから、『女神の試練』に挑むのだから……」


 アーリアの瞳が曇った。一気に息を吸い込み。言葉を放つ。


「ねぇ、やっぱり、私も付いて――――」


「駄目だ。『女神の試練』は命を賭る。アーリアを連れていけるはずがない」


 瞳が潤む。下唇をギュッと噛みると。滴が頬を流れた。


「でも…………。嫌だよ。考え直してよ。確かに、このままじゃあ、村は元に戻らない。だからって、ラクが…………。ラクが犠牲になることなんてないじゃない!」


 小柄な身体がラクの胸に収まった。まるで、雲を抱いているみたいに軽い。ゆっくりと、頭に手を遣り言葉を紡ぐ。


「心配するな。僕の強さはアーリアが知っているだろ。絶対に帰ってくると約束するよ」


 両肩を持ちゆっくりとアーリアを引き離す。アーリアは変わらず、俯きながら涙を溢す。


「約束だよ…………」


「ああ」


 小さくも、確実に頷いたアーリアを見て踵し『虹雲』に足を進めた。



 僕を変えた人、僕が唯一、大切な人。


「ラク、ごめんね…………」


 伏し目がちに、申し訳なさそうにアーリアは頭を下げる。


「なん……で。どう……し……て。アーリア、どうして付いてきた!」


 怒り声を上げてしまった。息も荒い。アーリアが付いてきてしまった。この命を賭ける戦いに。


「ラク、やっぱり私も試練に参加する。ラクだけが命を賭けるなんて、おかしい。私も村のために戦う。

止めたって、無駄だからね」


 琥珀色の瞳が一心にラクを捉える。覚悟を決めた眼差しは意思の強さを示す。


 この眼をしたアーリアは何をいっても無駄。あの夜と同じ眼だ。村が襲われこのままじゃ廃村になるなんて聞かされたら、命を捨ててまでも『女神の試練』を受ける。少し考えればわかったことだろ。


 アーリアを救いたい。僕を救ってくれたアーリアを何としても救いたい。ここで、アーリアが死んだら本末転倒だ。状況は簡潔。アーリアを守りながら試練をクリアし、アーリアの記憶を元に戻す。それしかない。


「わかった。一緒に村を救おう――――」


「うん、私とラクがいれば、どんな試練でも乗り越えられるよ」


「そうだな」


 僕が村を守り切れなかったから、アーリアの記憶は前に進まなくなった。もう、あの時のような失敗はしない。



「資格者が全員集まりました。ここは試練の間。これより、『女神の試練』の概要を説明します。1人ずつ、女神の秘宝に触れて下さい」


 女神の秘宝は虹色に輝く水晶に間違いないだろう。肝心なのは…………。


「わしが初めに行こうかの。こういうのは年を喰った順と相場は決まっておる」


 フーラは口が閉じる前に席を立ち、のろのろした足取りで女神の秘宝に近づく。


「待て、じじい。俺が一番に行く。年長者は最後まで見守るのが常だろ」


 ビガラが即座に立ち上がりフーラを一瞥し動きを止める。2人の睨み合いが数秒、目の奥から眼力を放ち開始前から火花を散らす。


「やめてよ~。年の順番なんてしたら年齢がバレちゃう。こういうのはレディーファーストでしょう。モテないわよ。あんた達」


 空気を読んだのか、甲高い猫のような甘える声でパーミルが2人の睨み合いを静止する。


 フーラの目つきから鋭さが消え失せ、目尻が下がり温和な表情に戻った。


「ほうぉ、それもそうじゃの」


「はぁ? そんなこと関係ない。帝国では男女共に選挙権があるだろ」


 パーミルの提案にビガラは納得していないようすで目くじらを立て怒鳴り散らす。


「おい、誰でもいいから早くしろよ! こんな順番が試練に影響すると思っているのか!」


 まるで、恫喝。骨の髄まで震わせる声でザーリスは言い放った。それを聞いたビガラは渋々座り黙り込む。


 まだ、試練の内容は決まっていないが。世界最強の男を敵に回したくないのはビガラも一緒か。


「じゃぁ、ビガラさんとパーミルお姉ちゃんの意見をいいと取りして、年少者で、レディーファーストの私からいくね!」


 子供だからか。それとも肝が据わっているのか。この空気で、率先して前に出るのか。


「あぁ、いいぞ。ただし、あとは面倒だ。小娘から時計周りでいいな」


 ザーリスの提案に、みな思うところはあるだろうが。ビガラは睨みながらも頷き、他の資格者も同様に了解を示す。


 時計周りってことは僕が最後か。


 リーファが元気に石椅子から立つと、スキップをしながら女神の秘宝に近づいた。


「なにが、起きるかな!」


 小さい手が女神の秘宝に触れた。眩い光がリーファを包み。やがて光が収まる。


「何、これ?」


 ピンク色の宝石。大きさは小石ほど。だが、放たれるオーラは女神の水晶と変わりない。そんな宝石がアーリアの周りに10石。輝きながら宙に浮かぶと、流星のように移動しリーファの座席上空に浮かぶ。


「全員が秘宝を所有してから説明します。次の資格者はどうぞ」



「次はラクの番だね」


 落ち着かないのか、足をバタバさせながらアーリアが声を掛けた。


 アーリアの秘宝は金色か…………。周りには他の資格者のように秘宝が漂っている。金色に輝く石はアーリアを色づかせるように照らす照明。


 リーファはピンク。ザーリスは黄色。ヒサトは赤色。パーミルは青色。フーラは黄緑色。ビガラは紫色。ジークスは銀色。モーテルは緑色とそれぞれの資格者に色めく秘宝が割り当てられた。


「いってくる」


 立ち上がり、数歩で女神の秘宝に手が届く所まで着いた。まだ、何も起こっていない。資格者は秘宝が気になりながらも、目線を僕にちらちらと遣る。


 女神様は僕達に何をさせるつもりだ――――――。


 不信感が積もるなか、ゆっくりと右手を伸ばす。虹色の輝きに触れた。暖かく心地よい何かが流れる。心が自然と安らぐ、瞬間。虹色の光に包まれた。


「これは…………」


 目を開け、首を振り回す。周りには白く輝く秘宝。僕を照らす太陽の光のように発光しながら宙を舞う。


 僕の秘宝は真っ白、女神様の皮肉か…………。


「資格者、全員に秘宝が行き渡りました。では、これより試練のルールを説明します」


・10名の資格者に1人10石ずつ、秘宝を配られる。今から10時間後に秘宝を1石でも所有している資格者は願いが叶えられる。


・秘宝の所有数が0となった資格者は命が奪われ、試練失敗となる。


・今から、49分後。資格者は強制的に『虹雲』に包まれ、そこで秘宝を破壊、発動、復元ができる。そのぞれのアクションには1石に2分掛かり、同時に複数のアクションはできない。


・秘宝の破壊は、他の資格者の秘宝を1石破壊できる。


・秘宝の発動は、試練の中で願いを1つ叶えられる。しかし、女神の力を超える願いは除外。


・秘宝の復元は他の資格者の秘宝を1石復元できる。


・『虹雲』に包まれると、最低1石秘宝を利用、破壊、発動、復元のアクションを取らなくてはならない。


・『虹雲』に包まれる時間は11分間。


・『虹雲』は消えると、49分後にまた現れる。その周期をフェイズと呼ぶ。


・『虹雲』の出現回数は10回。10回目が消えると試練終了とする。つまり、第10フェイズまでが試練となる。


・1フェイズごとにに所有できる秘宝の数が1石増える。


・この試練の中での約束はのちに現実となる。その場合、資格者が死亡しても変わらない。ただし、約束は現実可能なものしか約束できない。


・10名の資格者の中に、1人『堕天使』が紛れている。


・『堕天使』は他の資格者、全員が死亡することで試練達成となる。


 以上が試練の内容となっております。私は資格者の検討を祈っております」


 それだけ言い残すと。七色の眩しさが収まり虹色の輝きを失った。もう、私から話すべきことは全て話しましたと言わんばかりに。


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