左手
銀色の秘宝、帝王の象徴の色。まったく、汚らわしい。己の血を恨みたくなる。が、最後の仕事をしなければ。
「破壊。資格者、パーミルの秘宝を破壊する」
あいつらにここでパーミルの秘宝を復元させる勇気はない。自分が死ぬかもしれとき、確実に堕天使と思われる人物の秘宝を破壊する。
予定通り、これでいい。これで――――――堕天使が勝てる。
女神の試練、試練を乗り切れば、願った願いが叶う。逆にいえば、願った願いしか叶えられないということ。多くの資格者はそれで満足だろう。私自身も自分が王になることを願った。不敗した帝国を、兄達から王権を奪いさることで。腐りきった帝国を滅ぼすつもりだった。
「その願いで本当に帝国を滅ぼせると思っていますか?」、堕天使にそういわれたとき、私自身も王族の血に染まっていたことを強く痛感した。自らが王となり、舵を獲りさえすれば何もかも思い通りになると思い込んでいた。いや、実際に兄達から王位を奪い、王として悪政を敷けば帝国はほぼ壊滅させられる。
ただし、ほぼだ。そこを堕天使に突かれた。そして納得した。「こちらにつけば、確実に帝国を滅ぼせます。なぜなら、これは資格者達が願いを叶えるための試練ではなく――――――」
「破壊。資格者、パーミルの秘宝を破壊する」
これで、5石。パーミルの秘宝を破壊した。おそらく、命はあと数分だろう。まぁ、それは私も同じ。私の秘宝は確実にゼロになる。
心臓に痛みが走った。ゆっくりと目を閉じ、身体は支え切れずに地に伏せる。
人生に後悔はない。違うな、後悔するような人生を送ったつもりがない。ただ、これからの帝国の改革に一石を投じられた。去り際で、やっと自分の思う儘に行動ができた。心残りがあるとすればラクに。祖父を殺してくれてありがとうと、それから、ごめんと君には辛い結末になる。
虹色が包む。
ゆっくりと手を見つめた。左手で右手を包み込む。「ねぇ、左利きに矯正しない。右手で何かするたびに、暗殺者時代を思い出すのでしょ。だった、思い出さないために左利きに変えようよ。これからは新しいラク誕生みたいなかんじでさ」
いつかのアーリアの言葉から、僕は左手を使うようになった。習慣は不思議なもので、ぷつりと暗殺時代の記憶はフラッシュバックすることはなく。記憶は徐々に薄れていった。「うん、いいことだよ。ラクが前に進んでいる証拠」とアーリアは笑ってくれた。
「ねぇ、前から聞きたかったけど――――――――。どうして、僕を許してくれるの?」
アーリアを殺そうとした自分。殺されないとはいえ、笑って傍にいてくれる。はっきりいって、異常な少女。
「それはね。私は、人を信じないと許さないと生きていけないからだよ」
そうか――――――。それなら、全部繋がる。
「発動――――――」




