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金色覇気

はっきりとした口調でしっかりとその名は耳に刻まれる。その言葉に、ラク、アーリア以外は、目を見開き。特に、パーミルは全身が硬直したように固まって動かない。


「おい! 今のは本当か!」


 これまで冷静な口調で一貫していたジークスも、声を荒げながらリーファに説明を求める。


「はい、本当です。私は堕天使の協力。最も、ラクさんには前から気づかれていました」


 そういって、視線を僕に移す。他の資格者も一斉に驚愕の視線を送った。


「はぁ? どういうことだ? だったら、何で先にいわない!」


 狼狽しながらヒサトが尋ねる。頭を抱え混乱を隠そうともしない。


「リーファは協力者。ヒサトと同じようにこの試練中に堕天使側になった。リーファの願いは村を疫病から救うこと。だから、堕天使は提案したのだろう。私に協力すれば、村を病気から救える。その証拠にリーファにかかっている病気を治療した。おそらく、堕天使のスキルか、天界の薬なのか。リーファを治すことでその力を証明した。なら、リーファの選択は簡単だ。堕天使に協力する。そうすれば、資格者が生き残っても、堕天使が生き残っても、リーファの願いは叶う。資格者の中で唯一、願いの中で自分が入っていなかったのは、リーファだけだった」


 説明を終えると。リーファは俯いた。自分の咎に押しつぶされるかのように。


「みなさん、ごめんなさい……………」


 呟きを最後にリーファはしゃがみ込んだ。鳴き声が途切れ途切れ聞こえる。呼吸が上手くできず、過呼吸気味に。断続的に息を吐く。


「リーファちゃん!」


 アーリアが傍により優しく背中を撫でる。本当ならもっと話を聞きたいが、もうそんな状態じゃない。


 リーファも良心の呵責があったのだろう。堕天使に協力すれば、自分の願いは叶う。でも、そのために他の8人の資格者達を殺さなければならない。もともと、試練内容不明で参加した。何でも願いが叶うのだ。それなりに非情なことをする覚悟はみんな持っていた。それでも、リーファが最後に資格者達の味方をしてくれたのは、リーファがまた、村の皆と暮らしたかったから。


「そっか…………、全部わかったね」


 冷たい声、凍てつく視線が僕達を刺激した。振り向くと、口角が下がりきり、笑みの影もなく。細く尖った目で。倒れ込むリーファを睨んでいた。


「リーファが協力者。そして、ラクくんが堕天使だ」


 口を僅かに開き、冷徹な声で小さく話したにもかかわらず、余りにも冷たい声は胸にじんと染みた。


「悪いですけど、協力者と認めたリーファの自白、パーミルさんが堕天使と見て間違いないと思います」


 パーミルの声質に臆することなく、ジークスが言葉を紡ぐ。


「どうして? リーファが堕天使の協力者ってことは確実と思うよ。でも、協力者が堕天使っていった人が本当に堕天使だと思う?」


「ふむ…………なるほど」


 パーミルの指摘に、ジークスは俯き考え込む。


「待ってよ!」


 声を荒げたのはアーリアだ。目尻を上げ怒りの形相を浮かべる。


「それで何でラクが堕天使になるの!」


「ラクくん、どうしてリーファが堕天使の協力者だとわかっていて。みんなに言わなかったの?」


 パーミルの冷徹な口ぶりは変わらない。


「まず、リーファが堕天使の協力者だという確証がなかった。それと、できればリーファをまた、資格者達側に戻したかった。リーファの心情は動いている。そう感じた――――。こんな女の子が、未来を見たくないはずないだろ」


 口を閉ざすと誰も口を開かない。それぞれ視線を交わすだけの異様な時間が続く。


 リーファ…………。本当だろうか、パーミルの理論もわかる。僕が堕天使だということは間違っているけど。


 もし、余り考えたくないけどまだ、リーファが堕天使側なら……。嘘をついている可能性がある。その場合、協力者はヒサト、堕天使はジークス。ジークスはヒサトを失態だとして秘宝を砕いている。成り立つのか? リーファが本当のことをいっているときは簡単。堕天使がパーミル、協力者がジークス、リーファ。または、ヒサト、リーファのどちらか。


「リーファが本当のことを言っている場合、堕天使はパーミル、協力者がおそらく、ヒサト。リーファが言っていることが嘘の場合。堕天使はラクか、アーリア。協力者はヒサトとリーファ。もし、パーミルが協力者ならここで反発する意味がない。自らの秘宝を砕かせることによって、堕天使を守ることができる。もっとも、パーミルが堕天使と協力するような願いには見えなかったですけど」


 パーミルの願いは、美貌を保つこと。もちろん、自分が生きていなければ意味がない。


「そして、パーミルのいっている疑問。ラクがリーファを協力者だという疑惑があるなら、みんなに開示する必要があった。リーファさんが寝返るのか、今もわかっていない状況なのですから」


 ジークスの主張に奥歯を噛みしめる。やはり、ヒサトが今も協力者だとは考えにくい。なら、ジークスは確実に堕天使側の人間ということになる。


「だが、ラクさんが堕天使なら――――――――。そもそもこんな回りくどいことをしなくてもいい。王殺しのラクさんなら、第1フェイズが始める前。資格者達が個々に森を散策していたときに闇討ちをしればいい。少なくことも、2、3人は軽く殺せたでしょう」


「確かに、そうだ!」


 ヒサトが激しく相槌を打つ。アーリアも同様だ。パーミルは唇を噛みしめる。


 皮肉なことだな。あんなに恐れられた、王殺しの証明がここにきて僕の潔白の材料となるなんて。でも、なんでここにきてジークスは僕の擁護を? 僕を取り込むつもりか?


「じゃあ。そこの女が堕天使だよ」


 パーミルは砂漠のように乾いた声で、アーリアを指差した。


「何をいっている!」


 全身の血が沸騰する。頭の中がぐちゃぐちゃに、歯を砕きそうな程食いしばらなれれば、パーミルの後ろに周り込み、首を刎ねそうだ。


「だって、みんなはラクじゃないっていう意見でしょう。私も確信はないし、そもそも1人ではラクくんの秘宝は砕けない。だって、17石もあるからね。それも怪しいと思うけど…………」


「それは、俺が復元しまくったからだ。俺を信用してくれたのは、ラクだけだったから、あと同村のアーリアもいたからだろ?」


「うん、ラクだけは信用できるから――――――」


「そうそう。おかしいと思わない。誰も、ここまで生き残っているアーリアを疑わないなんて。きっと、協力者が庇っているよ」


「お前は! いい加減にしろよ。アーリアが、そんなことをするはずがない」


 パーミルの言葉に耐えられず、思わず立ち上がり睨みつける。


「それは、同郷だからでしょ。だったら、聞くよ。何で、ザーリスが死んだとき。アーリアは防衛結界を発動しなかったの?」


「アーリアは僕が守る。だから、必要ない」


「そのあと、ラクくんが砂蠍に襲われたあとも? それと、私はラクに聞いていないの。アーリアに聞いているの」


 冷たい視線が、アーリアを見据える。


 やめろ、ダメだ。アーリア、本当のスキルを見せるべきじゃない。


 アーリアは悲壮漂う視線に少し頬を緩まし、「大丈夫」と小声で呟いた。


「私…………ごめんなさい。スキルを偽っていました。本当のスキルは――――――これです」


 瞬間、金色のオーラがアーリアを包む。月光のように、静かな光。


「これって…………」


 パーミルが息を飲む。


「ごめんね。ラク、でも、私だけ黙っていることなんてできなかった」


 アーリアの声が耳から流れる。これでアーリアは堕天使になる。金色の覇気のスキルを見せて堕天使だと思わないはずがない。女神の試練と同じく、世界の伝承だから。


 沈黙な数秒続いた。資格者達の容赦ない目がアーリアを捉え続ける。アーリアは目を逸らそうとはせず、歯を食いしばっ耐えていた。


「じゃあ。アーリアが堕天使じゃん」


「違う、『金色覇気』は邪気から身を守るスキルだ。暴力や、悪意はアーリアには通用しない。ただの人のスキルだ」


 熱を帯びて話したが、資格者達には一切、伝わっていない気がした。


「とにかく、私からはラクか、アーリアが堕天使側だから、2人の秘宝を砕くことにする」


 パーミルの目つきは鋭く冷気の籠った視線を浴びせられる。


「ここで、パーミルの秘宝を砕けばそれで資格者達の勝ち。みんなの命も救われるよ」


 リーファは落ち着きを取り戻し、眉間に皺を寄せ懇願するように両手を合わせる。


「『虹雲』まで残り1分です」


 残り6人。協力者のリーファとまだ正体を掴めていない堕天使。次のフェイズで、犠牲者が出たなら。資格者達は追い詰められてしまう。


「残り10秒、9.8、7、…………」


 ここで見つけ出さなければ、終わる。


 唇を噛みしめ、握り拳をつくる。横目で、アーリアを見つける。視線に気が付いたのか振り向き琥珀色の瞳を見据える。


 大丈夫、アーリアは絶対に守りゆく。何があろうとも。


「6、5、4、3、2、1、『虹雲』の時、開始です」


 眩い虹色に光を浴びせられた。


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