告発
ラクさんとアーリアさんの2人が試練の間から席を外し5分。その間、口を開く人はいなくて重苦し空気はずっとそのまま。
「これで増々、あの2人が怪しくなったな」
フーラさんの荒々しい声だった。言葉を発したにもかかわらず空気が軽くなるばかりか、更に重くなる。
「うん! 私も外に出るね」
意を決したように、パーミルさんは立ち上がり森へ向かった。
「待て。ここでこの場を離れるということは、誰かとの密談の機会を作る堕天使側の人間という推測が成り立つぞ」
試練の間を離れ森の中に消えようとするパーミルさんに向かって、フーラさんは苦言を呈する。パーミルさんは、「ふん」と鼻で馬鹿にして。
「こんな誰がいるかわからない森で話し合うようなバカな堕天使ならいいよね」
と言い残し、森へ消えた。
「確かにそうでしね。私もちょっと気分転換に。『結界』のおかげで襲われることはないでしょうし。いいですよね。王子」
私は立ち上がり笑顔を作ってジークス王子を伺う。ジークス王子はまるで仮面のような笑みを浮かべていた。
「私に許可を取る必要はありません。約束は各約させれいるのですから」
ジークス王子は気にも留めず、また、自身も立ち上がり。
「まぁ、確かに気分転換は必要です。気晴らしに森の空気でも吸いましょうか」
「あ! それいいですね」
私が賛同したところで。横目でフーラさんの顔を覗く。一瞬、刺すような視線とぶつかって、フーラさんが目を逸らした。
「わしは何も資格者達の動きを矯正するつもりはない」
そういうと目を閉じ、腕を組んで俯いた。
「じゃあ………………。お言葉に甘えて」
そういって私は試練の間をあとにした。
森の中の霧。僅かに七色の光が含んでいて、木々も包み込みカラフルな葉っぱ見たい。すっごく綺麗で、こんな試練じゃなくて旅行とかで見たかったな。殺伐とした女神の試練じゃ、景色に構う余裕なんかないじゃん。
そう、今はそんなことを考えている余裕はない。どうして、あの人はあんな行動を取ったのだろう。今のままでよかったのに。
今のままで――――――――。堕天使はきっと勝てる。
「リーファ」
呼ばれた声にびくっとなった。背筋が伸び恐る恐る振り返る。
何で………………。ラクさんがここに。
振り返るとまるで待ち伏せしたように木の陰からラクさんとアーリアさんの姿が見えた。
「リーファ、単刀直入にいう。君が堕天使の協力者だ」
「えっ!」
ラクさんがどうしてそんなことをいったのか、私にはわからなかった。
小さな頬がブルブルと震えているのが目に見て取れる。瞳孔がぱっちりと開き、動揺が隠せていない。どうやら、僕の推理は間違っていなかったようだ。
「ラク」
後ろからアーリアが顔を覗かせる。
「あぁ、頼む」
そういうとアーリアは一歩、前に出た。震えるリーファを包み込むような眩しい笑顔でアーリアは語りかけた。
「リーファちゃん、気持ちはわかるよ。村を救いたい。その願いは私達も同じだから」
アーリアの声はやさしく、聞いているだけで癒される声だった。
「何を…………いって、2人とも。どうして、私が堕天使の協力者?」
声色は震えている。目をキョロキョロさせて瞬きを繰り返す。それでいて、視線を合わせると音速で目を逸らした。
「理由なんて何でもいいの。私達はリーファちゃんが協力者って知っている。知った上で話したいことがあるの」
アーリアの瞳は強い。リーファはそれを見ると唇を噛みしめた。
「だったら、何を話すの! 協力者、堕天使の仲間で資格者達の命を狙う、裏切り者。その人に何を話すの。私を協力者だと思っているなら、今すぐそこの王殺しを使って首を刎ねればいい!」
激昂した声が森の中に響き渡る。
「リーファちゃん、大丈夫だよ。私達はリーファちゃんを咎めるためにこの場をつくったわけじゃないよ」
アーリアは優しく呟いた。
「えっ?」
アーリアの返答に、ちょとんとした顔に変わったアーリア。
「やっぱり、ラクが伝えるべき。だって、ラクがそうしたいと思ったのでしょ」
振り向き笑みを見せるアーリア。口パクで「大丈夫」といっている気がした。
僕がそうしたい…………。
視線をアーリアからリーファに移す。瞳は未だ揺らいでいた。僕にもできるかな、アーリアみたいに人の心を動かすことが。唾と一緒に決意を飲み込み、声を掛けた。
「リーファ、聞いてくれ。僕はリーファの判断を尊重する。僕だって資格者達を殺してでも叶えたい願いがある。でも、それでいいのか。本当にリーファはそっちでいいのか、自分で選んでいるのか。これから胸を張って生きていけるのか。もう一度、よく考えてほしい」
声はきっと震えていた。上手く気持ちを伝えられたとは思っていない。けど、今の気持ちを真っすぐに伝えたつもりだ。
鋭い視線を僕に注いだあと。リーファは俯いた。僕ら3人はそれから誰も話そうとはせず、ただただ、時間を浪費する。
「――――3、2、1、『虹雲』発動。第7フェイズ開始です」
虹色が発光し、身体を包む。
「どういう意味ですか――――――?」
光に包まれる中、リーファがそう呟いたように聞こえた。
もはや、慣れ親しんだ『虹雲』の光景。幻想的な風景を見入ることなく思考に入る。
残るフェイズは4ターン。個人としての行動回数は20回。フーラのいう通り、堕天使を見つけ出さなくてはならない。
協力者はリーファだ。あの反応を見てもそれは間違いないだろう。あとは堕天使ともう1人の協力者がいる。
残るは僕、アーリア、パーミル、ジークス、フーラ。さっきの議論で、フーラとジークスはお互いに疑い合っていた。とすると2人が堕天使と協力者ということはないのか。
だったら、残るパーミルは確実に堕天使側だということになるが…………。
パーミルのいっていた通り、互いに喧嘩をした振りなのかもしれない。本当は、協力者だと確信しているリーファの秘宝を砕きたいけど…………。それじゃあ、さっきリーファに会った意味がない。
リーファにまた、資格者側に戻ってもらわないと。そして、堕天使を見つけ出す。
虹色の輝きが見慣れた試練の間に誘う。
溜息は漏れる。予期はしていた。信じることはできなかった。無力だな、僕は――――――。
銀色のタイルに横たわる。ご老人。
「資格者、フーラの秘宝が全て消滅したため。試練失敗となり代償として命を頂きました」
「これで残る資格者は6人…………」
アーリアのポツリとした声が試練の間に反響した。
白い輝き、僕の秘宝は17石。第6フェイズから5石のプラス。
黄金色に輝くアーリアの秘宝。輝きは13石、第6フェイズから2石マイナス。
桃色のリーファの秘宝、輝きは10石。第6フェイズから増減はなし。
赤の輝き、ヒサトの秘宝。輝きは2石、第6フェイズから4石マイナス。
青い輝き、パーミルの秘宝は11石。第6フェイズから増減はなし。
黄緑色の輝き、フーラの秘宝はゼロ。第6フェイズから9石マイナスにされた。
銀色の輝き、ジークスの秘宝は15石。第6フェイズから増減はなし。
第7フェイズ終了時の秘宝はこのようになっていた。
「どうして、ヒサトが死んでいない!」
立ち上がったジークス。目尻が上がり、恫喝のようなゲスの聞いた大声でこちらを睨む。
「ラクさん、ありがとうございます」
ヒサトはむせながら、泣きじゃくっていた。
「ヒサトは堕天使ではない。前にもいったが、堕天使ならばザーリスを単独で討つなど、そんな危険な行為はしない」
重い足踏みが聞こえた。ジークスの目尻は吊り上がり鬼と化す。
「だから、その根拠はどこにある。初めから、堕天使は秘宝を砕くことで資格者を排除することななど考えていない。堕天使はただ、武力行使するつもりだった。王殺し、ラクがいたため、予定が頓挫しただけだ。とにかく、これで…………。残りの6人中、3人が堕天使側となってしまった……………」
舌打ちが鳴り。項垂れ視線が暗くなる。俯いた顔を覗き込むと苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。
「そうだ。今、話べきことはそれだ。ヒサトが堕天使側にいるかどうか。本当に、今回の議論がラストチャンス」
はっと、ジークスが顔を上げ。慌てながら早口で捲し立てる。
「ねぇ、ラクくんはどう考えているの? 聞きたいな」
流石のパーミルのこの状況の中、笑みを殺し伺う。
「いったとおり、単独でザーリスを殺めるのは危険だ。堕天使側だったとすれば、このフェイズで死んでいる。ヒサトの秘宝を破壊したもう1人は誰だ?」
ヒサトの秘宝の数は2石。秘宝を復元したのは5石。前回フェイズ、6石から2石になった。ということは9石の減少。誰かと誰かが破壊したということになる。
「うん、私だよ」
パーミルはあっけらかんと話した。
「ヒサトが堕天使側、でないという確信はない。だが、僕はやっぱりヒサトが堕天使側だとは思えない」
ゆっくりと、でもはっきりとした口調で言い切った。
「ラクさん!」
ヒサトは目を輝かせ、こっちを見る。
「そうですか…………。しかし、ヒサトをこのまま生き残すことはできないと私は考えています」
神妙な面持ちでジークスが意見を述べ。
「うん、それは私も同じ」
パーミルはこくこくと頷きそれに乗った。
しばらく、互いの顔を見合わせる。誰が、堕天使なのか。犠牲者は4人。しかも、堕天使の足取りは全くといっていいほどわかっていない。
焦る気持ちを抑えながら。ふと、視線がリーファと合った。
結局、リーファとの会話はあのまま。あの反応は堕天使の協力者と見て間違いないだろう。堕天使側に組みした理由を含め。だったら、こっちに戻ってきたほしい。願いを叶えたい、そのためだったら、命など欲しくもない。そんな連中の集まりだ。でも、きっと。どこからに揺らぐ思いがあるって思いたい。
リーファの瞳が揺らいだ。そんな気がした瞬間だった。
「もういいよ」
リーファが突然、声を上げた。もじもじとした小さな声。でも、決意の強さが感じられる声だ。
「リーファ――――――」
ゆっくりと、リーファの言葉を待つ。少しずつ、鼓動が速くなる。通じたのか、僕の言葉が。
「私が、堕天使の協力者です――――――。そして、堕天使はパーミルです」




