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正体

 女神の水晶の周り、黄色と紫色に加え、緑色と橙色の花が咲いていた。僕を嘲笑うかのように。


「くそがっ!」


 思わず声を荒げる。どうやら僕の策はなんら意味のないものだったらしい。


 横たわる、1人の人物。黒石に光る紫の星はは全て消えていた。


「資格者、ビガラの秘宝が全て消滅したため。試練失敗となり代償として命を頂きました」


 抑揚のない声に、誰もが現状を直視できていなかった。


 白い輝き、僕の秘宝は7石。第4フェイズから1石プラス。


 黄金色に輝くアーリアの秘宝。輝きは9石、第4フェイズから1石プラス。


 桃色のリーファの秘宝、輝きは6石。第4フェイズから増減はなし。


 赤の輝き、ヒサトの秘宝。輝きは6石、第4フェイズから増減はなし。


 青い輝き、パーミルの秘宝は11石。第4フェイズから増減なし。


 黄緑色の輝き、フーラの秘宝は8石。第4フェイズから増減なし。


 紫色の輝き、ビガラの秘宝はゼロ。第3フェイズから実に6石のマイナス。


 銀色の輝き、ジークスの秘宝は7石。第4フェイズから増減はなし。


 緑色の輝き、モーテルの秘宝は11石。第4フェイズから増減なし。


 第5フェイズ終了時の秘宝はこのようになっていた。


「どうして…………」


 アーリアの呟きに悲愴が伴う。


「誰か、感知した人はいないですか?」


 ビガラの秘宝は6石。堕天使1人ではこのフェイズで全て破壊することはできない、堕天使に協力者がいる。それは決定的となった。


 冷静なジークスの問いかけに反応する者はいない。


 前回同様、各資格者に誓約を付けた。1石の秘宝を使用し、組んだ1人に『虹雲』の中で意思疎通をしている人がいるか判明すると願う。そして、もう1人にその人が先の願いを発動させたか判明すると願う。組んだ2人の秘宝を復元させる。これで堕天使と協力者の繋がりを切ったはず。事実、前回は秘宝の動きはなかった。


「これはヒガラが死んだグループ、つまり、ラクとヒサトが組んだのじゃ。始めに秘宝を使い連絡を取った。ヒガラに気づかれるが関係ない。このフェイズでビガラを殺すつもりだったからのぉ。2人いれば3石ずつ破壊に当てれば殺せる。以前からビガラの秘宝を減らしていたのもこのためじゃ」


 フーラが淡々と話した。眼差しは冷たく凍り付くように。視線は周囲に伝染していく。自ら提案した作戦で死亡者が出た。しかも、初めての秘宝がゼロになった命。ザーリス殺しをしたヒサト。それを庇った僕。2人と組んでいたビガラが狙われた。疑う条件は嫌というほどある。


「違う! 俺もラクさんもそんなことしていない。そうだ、他のグループ3人が堕天使と協力者2人だ。そうしたら他の3人1組もビガラを殺せる。秘宝を破壊できるのは最大15石。6石しかなかったビガラの秘宝なんて簡単だ!」


 切羽詰まったヒサトの説得。資格者の顔は変わらず、疑いの目をアーリアにも向ける。


「それはありえません」


 低い男性の声。未だに素顔を白い仮面で隠すジークスが真っ向から否定する。


「どうしてだよ!」


 自信に満ち合われたジークスの声にヒサトの声は少し上擦った。


 ヒサト、必死なのはわかるけど。それは確かにありえない。


「まず、3人1組の組分けはラクさんが決めたものだ。さっきの君の3人のグループが共謀したなら、たまたまその3人が同じ組にいたことになる。それにその場合、僕達は既に負けていた。第3フェイズ時、サヒトが犯人とばれる前に堕天使側は4人となっていた。破壊できる秘宝は20石。2人は殺せる計算になる。そうすると、残り7人のなかで4人が堕天使派閥。強行突破できる人数です」


 白い仮面の奥から優しくの強い声で推理を展開する。


「そして、フーラさんがいっていることも疑問点があります。ラクさんが堕天使ならわざわざ回りくどい提案しなくてもいい。他の資格者がヒサトの秘宝を砕いている間、誰か1人の秘宝はゼロにできたでしょう。そしたら、残りは7人。しかも、誰か堕天使が見当も付かない状態です」


 皆の視線が白い仮面に集中する。疑いの目は再び僕に向けられた。それを真っ向から反対し庇ったのだ。


 ジークス、仮面から何を考えているのかわからないけど、今の推理は堕天使とその協力者なら僕を庇う意味がない…………のか。


「そうだよ。みんな炎龍を誰か倒したのか、もう忘れたの! ザーリスさんを殺した犯人を突き止めたのは誰! ラクを疑う理由なんて1ミリもないんだから!」


 ジークスの主張にアーリアが声を張り上げて同調する。資格者達の顔が変わる。ビガラの秘宝を砕けたのは僕とヒサト。でも、僕ならそんなことをする必要があるのかといった迷いの顔、頭の中は混乱しているだろう。


「ふむ、たしかにジークスの意見も一理ありますな。なら、話を切り替えましょう。これからの行動について、犠牲者が出て8人になった以上、先ほどの作戦はもう使えませんからなぁ。かといって敵は2人以上。はっきりいって、今は窮地に立たされているのぉ」


 フーラは難しい顔になって腕組をする。うぅ~んと唸り声を上げた。


「せっかくの金ずるもいなくなっちゃたし。まあ、死んでも約束は果たされるよね?」


 ふてくされた表情で頬を膨らますパーミル。組んでいた足を入れ替えた。


「そうですね。まだ、金をせびることもできたと思いますが」


「うわっ、流石商人、腹黒い」 


 眉をピクリと動かし、大きくリアクションを取るパーミル。


 2人ともビガラの死にショックを受けているようすはない。


「パーミルさん、モーテルさん。もっとお金が欲しくないですか?」


 含みを持たせた声、ジークスの突然の言葉に戸惑いを覚えながらも。目を輝かせ、ジークスの白い仮面の奥。綺麗な瞳を見つめる。


「そりゃあ欲しいよ」


「ええ、当たり前です」


 金の貪欲な2人は即答した。


「ラクさん、アーリアさん、リーファさん。村のことは私が何とかしましょう」


 今度はゆっくろ柔らかい声で、僕ら3人に声を掛けた。


 何とかしましょうだと? いったいどういう意味だ?


 隣のアーリア、リーファを見る。互いに首を傾げた。


 村の復興は確かに、ザルク家クラスの貴族なら可能ではあるが、そんなところに財を投げ入れれば、さすがに他の事業に手が回らず、没落の道を辿るだろう。それに、リーファの村から疫病をなくすことはそれ以上に難しい。医療分野は帝国軍が握っているのだから。


「そんなこと不可能だって顔していますね。まぁ、無理もありません。ですが、私には可能です。みなさん、薄々気づいていましたと思いますが私は旅人ではありません。まぁ、旅は好きですけど。本当は私――――――――」


 そういいながら、仮面に手をやる。


「こういう者です――――――」


 白い仮面に隠れていた素顔。銀髪の短髪。細いまつ毛。やさしい瞳。小さな顎。


 ゆっくりと息を飲んだ。その一族と会うのは2度目だ。


「あなた様は――――――」


 顔は帝国中に知れているだろう。王族は新聞などに載るこも多い。単に名前が同じだけで気付く訳がない。女神の試練は命賭けだから、国の最要人が自ら参加しているなんて普通の発想では辿り付かない。


「まさか、王子が女神の試練に参加しているなんて……………」


 アーリアが呆然と呟いた。ジークス・マルス帝国第三王子。千年も前から続く王族一族、マルス王子その人で間違いない。


「これで、私が今言ったことが簡単であることが理解していだだけたと思います」


 一同が唖然としたまま、正体を現しても丁寧な口調は変えずに、むしろ、温和な表情と王子という称号が合わさり、とてつもない発言権を有している。


「恐れ入りました。ジークス王子ならば1000万ルスなど造作もないことです。それにしても、もしビガラさんが生きていれば腰を抜かしていましたでしょうな~」


 ニコニコとしながら、ジークス王子に媚びを売る。ビガラから、ジークス王子に様変わりか、流石は商売人。確かに、王子なら2000万ルスを用意するなんて、パンを買うようなものだ。僕らとリーファの村も軍に声を掛ければ、鶴の一声で要請が出る。実質的にもうアーリアとリーファの願いは叶ったも同然………………ではない。


「王子、失礼ながら申し上げます」


 使ったことのないような丁寧な言葉遣いで、震えを含みながら提言した。


「村の復興、本当に約束して貰えるのでしようか?」


 ジークスの優しい瞳が一瞬、動揺が見られた。


「それはどういった意味ですか?」


 口調は変わらず柔らかい。そのギャップが恐怖を生む。


「正確には正式な約束になるのか、ということです。ジークス王子が村の復興を約束したとき、それは絶対に叶うものなのですか?」


 腹の奥から低くはっきりとした声を出した。ここで萎縮はしない。ジークス王子はルールの穴を突いている。・この試練の中での約束はのちに現実となる。その場合、資格者が死亡しても変わらない。約束が可能なものでなければならない、だったら、本当はできない約束を、できるように見せかけることで相手を従えられる。約束が本当に実行できるのかどうかは判定されない。


「もう一度いいます。それはどういった意味ですか?」


 ジークスの顔は変わらないが、声音は若干低くなった。人が気づくギリギリのラインだ。


「ジークス王子、あなたは第三王子です。王なら絶対の権力があるでしょう。次の王と噂される第一王子。カークス王王子。軍で中将の位にいるラークス王子なら特定の村をえこひいきする力もあるでしょう。しかし、失礼ながら、ジークス王子にはそういった権力の類の噂は流暢させていません。もし、本当に村の復興が可能でありましたら、それができる根拠をお話しして頂きたい」


 視線は真っすぐ、ジークス王子を見る。帝国は絶対王政、この国の人が王族に何か意見なんてできるはずもない。それができるのは、それが可能なのはよそ者である僕だけだ。


「なるほど。第三王子である私にはたった2つの村を救う。そんな力もないということですか。わかりました。『虹雲』の中にいても誰の証言も得られません。よって、私の権力も証明できない。信じて貰いたい、そうとしかいえないですね。それに、私はビガラさんのように特定の誰かと組むことは考えていません」


 ばっちりと満面の笑みで言い放った。


「では、何が目的ですか?」


「今の状況が非常にまずいからです。堕天使とその協力者がいることが明白になり、誰もが疑心暗鬼になっている。以前のように、みんなで協力して1つの作戦を飲むことが難しくなった。立案者が堕天使ではないか。協力者ではないかといったように。ですので、約束をすることで、作戦を承諾することをしてもらいたかったのです」


 つまりは、1000万ルスも村の復興もたかだか、作戦に協力するためのことだけで支払うことになる。


「もちろん、作戦を伝えてから約束するつもりですよ」


 眉を潜める。ここで、堕天使側に有利な提案をしたならそれは自白しているようなものだ。


「教えて貰っていいですか?」


 猜疑心の満ちた声だったが、ジークス王子は嫌な顔ひとつせず、むしろ頬を緩める。


「作戦と呼べる程のことじゃないです。みなさん、各々思うことがあり秘宝を発動したい人もいるかもしれませんが、ここは全て秘宝の復元に回しませんか?」


 本人がいっているうように、作戦なんかじゃない。ただの意思統一だ。


「堕天使側は2人。10石以下の資格者、モーテルさん、パーミルさん以外は次のフェイズで死ぬかもしれないそれを抑止しましょう。みなさん、どうですか?」


 やさしい微笑みで資格者達を見渡す。


 他の資格者達も即座に頷き同意を示した。


 王子ってこともあるけど、秘宝を復元しようって提案に反対する人はいないだろう。


「わかった。それには同意する。ただ、少しアーリアと2人だけで話がしたい。いいかな?」


「はい、構いません。私はあなたも、アーリアさんも堕天使側だと疑っていませんから」


「いいぞ、若い2人だからな。ほぉほぉほぉ」


 フーラの冷やかしを無視し、他の資格者の承諾も受け席を立つ。


「アーリア、いこうか」


 少し戸惑っているようす。周囲を見渡してからアーリアも席を立った。



 広場から歩いて5分ほど。一応、耳を立て後を着けている人がいないが確かめる。


 まぁ、いないよな。王殺しの跡をつけようとする人がいるなんて。


「まさか、ジークスさんが王子だなんてね。ということは堕天使じゃないのかな?」


 ジークスの名と顔は帝国中に知れている。普通に考えれば、ジークスは堕天使候補から外れる。しかし、とある噂が頭を過ぎる。


「アーリア、聞いたことないか。王族は人ではないという話」


「うん、あるよ。帝国の人なら誰しも」


 古の時代、スキルを有していた当時の王に、戦争で打ち勝ったのが現在まで続く王族だ。戦力は圧倒的な差。それを覆すほどの力があったということ。巷で噂される。今までは王族が自分達の尊厳を高めるために流暢して話だと思っていたけど。


「王族は天界人かもしれないっていう噂だよね」


 そういう噂があるため、ジークスが堕天使である可能性も考えなくてもならない。


「でも、王子ぽくなかったね。言葉も丁寧だった」


「あぁ、しかも僕の正体を知っても何もしなかった」


 殺した帝王はジークスの実の祖父。正体を明かした瞬間、怒りで斬りかかてきたもおかしくないし、秘宝を砕くことなら簡単だ。それをする動機も許されるだろう。だが、実際には僕の秘宝の数は減少していない。


「それで話って、何がわかったの? それともイチャイチャするためにここまできたの」


 茶目っ気たっぷりに笑みを溢す。イチャイチャってなんだよ。


「まだ、確証はないけど高確率で協力者を1人見つけた」


「誰!」


 目を開き、驚いた顔で固唾を飲んで言葉を待つ。


「リーファだ」


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