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閃き

 試練の間の中心である女神の水晶付近に一同が集まる。ヒサトを覗いて8人の資格者達。ビガラは右足を揺らし、苛立ちを隠せない。フーラも溜息をつく。


「だから、何回言わせる。こいつが堕天使で終わりだろ!」


 怒号に近い言葉が浴びせられた。


「違う! ヒサトは堕天使ではない。ザーリスを殺せなかったらどうする? 直ぐにバレて試練は終わり。リスクが高すぎる」


「だから、ザーリスを殺せる強さがあるってことだろ。ヒサト、いや、堕天使には」


「それならビガラがいっていた通り、皆殺しにする。ザーリスを確実に殺せる実力ならそれができる」


 ビガラの舌打ちが聞こえた。


「だから、それはお前の主観じゃねぇか! どうして言い切れる」


 目尻を吊り上げ、蛇のような眼光が注がれる。


「僕は元、暗殺者だから。人の強さは確実に測れる」


 言い切った言葉に納得はしなかったがこれ以上話しても無駄だと感じたのか、ビガラは自分の席に戻った。


「ラク、そなたのいうことも一理ある。確かに、ヒサトは堕天使ではないかもしれない。じゃがぁ、生かす理由はあるのか? 堕天使に肩入れした者じゃ。もし、ラクがいなければ皆殺させていたかもしれん」


 確かにそうだ。正直、ヒサトに弁明の余地はない。むしろ、ヒサトはここで殺されるべき存在。僕と同じように。


「ヒサト。どうして堕天使に協力した? そもそも堕天使は誰だ?」


 ザーリス殺しが判明してから、ヒサトは地に伏せ嗚咽を漏らしていた。普通に考えれば、次のフェイズで秘宝を全て破壊させ死ぬ。他の資格者は自業自得といった表情で見る。まぁ、当然だよな。


「堕天使の姿は見てない。確認できなかった。全身が黒色に光っていて、身長も性別もわからない。ただ、機械的な声で協力すればあなただけは生かしてやりますって。そして、秘宝の加護を受けた。次のフェイズにも力を授けます。そうすれば、あなたは英雄を越えますって。実際に第2フェイズにまた来て肉体強化の加護を受けた。まるで、自分の身体じゃないみたいに。この力なら誰でも勝てる気がした。じゃあ、ザーリスを殺してみましょうっていわれて。そして、高ランクの魔物を出現させ、あとの資格者は魔物を掃除してくれる。生き残るのは、あなたと私だけだって」


 身勝手な考えと行動に罵声が起こる。当たり前だなこれは、待てよ! それって――――。


「ヒサト、第1フェイズのいつに堕天使が現れた?」


 こっちの質問の意図がわからないのか、首を傾げながら答えた。


「えっ~と、6分頃だったと思うけど…………」


 その言葉に目を見開く。


「ということは秘宝を3石発動している。力のために1石、姿を隠すことに1石、ヒサトの『虹雲』のところへ移動にするのに1石。計3石の秘宝を発動している――――――」


 言葉の意図に気づいた資格者は目を細める。


「じゃが、ラク。第1フェイズ後に秘宝が3石減少、7石になっていたのはラクだけじゃ」


「つまりは、お前が堕天使ってことか。ラク」


 ビガラがからかうようにいった。


「違う。ヒサト、堕天使はその後も一緒にいたか?」


 指摘にヒサトは首を振った。


「いや、一方的に話したあとは消えてしまった。具体的な話は第2フェイズのときだった」


 歯ぎしりがするほど奥歯を噛みしめた。事態はかなり深刻だな――――。


「堕天使の秘宝が減っていない。ということは、他にも協力者がいる。そいつに秘宝を復元して貰ったはずだ」


 言葉が資格者達の胸に突き刺さる。ヒサトがザーリスを殺したことを自白した。これで堕天使のヒサトの秘宝を破壊しきればそれで試練は終わる。命も助かり、願いも叶う。と思い込んでいたときに、ヒサトは堕天使ではないという言葉。真実なのか嘘か、混乱する頭の中、さらに、堕天使の協力者が他にもいる。みんな戸惑っている。当然だろな、堕天使とその協力者以外は。


「ちょっと待って、ラクくん。それじゃあ、数が合わなくない?」


 頭の上に?を浮かべリーファが困り顔を見せる。


「さっきの秘宝の発動に3石、もう1石秘宝を発動して協力者に会ったらこれで4石の消費。6分以降に協力者に会っても復元できる石は1つだよ」


「うん? つまり、リーちゃんはラクくんが堕天使って疑っているの?」


 相変わらずのほほんと表情でパーミルが問いただした。


「違います! 単純にヒサトさんが堕天使じゃ…………ないかなって」


 恐る恐る、目線をヒサトに移す。鬼気迫る表情でヒサトは首を振り否定する。


「リーファ、少し秘宝に捕らわれすぎだ。まず、堕天使ともう1人の協力者が第1フェイズから組んでいた場合。堕天使がヒサトを唆せているときに秘宝を復元できる。それにスキルもある。『虹雲』の中でも意思疎通ができるかもしれない。方法はいくらでもあるよ」


 説明を終えると、リーファは深い頷きを見せた。納得の表情を浮かべる。


「ガタガタいわず、ヒサトを殺すべきだ。それで試練が終わればヒサトが堕天使だったってこと。違うのなら、こいつのいうことを信用して推理すればいい」


 ビガラはむっとした顔で言い放った。


「そんな! 堕天使じゃない人を――――――」


「アーリア。やさしい人じゃな。しかし、ヒサトの罪は消えない。それに、またいつ裏切るかわからん。やはり、生かしてはおけないな」


 フーラが鋭い眼光でアーリアを凝視した。


「それは堕天使の思うつぼだ。資格者にヒサトを殺させるための」


 堕天使、なんて狡猾な奴だ。ヒサトを唆した。恐らく、生き残ったらヒサトも生き延びるなんて嘘だろう。利用する気満々だ。


 まず、ザーリスを襲わせる。そこで、ザーリスが死ねばそれでいいし。ザーリスが反撃しヒサトを殺しても資格者が1人減る。次に炎龍を召喚させ資格者を襲われる。堕天使はそれなりに力があるのだろうか? 炎龍の出現でも生き残る自信がある。


 そのあともしっかりと秘宝を発動、結界を貼り足を見せない。しかも、別に協力者がいる。秘宝の数が11石のモーテル、11石のパーミル以外は範囲内。


「じゃあ、他に堕天使が誰か、協力者が誰か、お前はわかっているのか!」


 ビガラの怒りの声が耳を突く。


「いや、わからない。でも、堕天使の動きをセーブする方法がある」


「ほぉ? それはどんなものじゃ?」


 フーラが興味深そうに視線を送る。


「まず、3人1組に別れる。1石の秘宝を使用し、組んだ1人に『虹雲』の中で意思疎通をしている人がいるか判明すると願う。そして、もう1人にその人が先の願いを発動させたか判明すると願う。これを3人で回すように発動させる。秘宝が減少しないように2人の秘宝を復元させる。もし、ヒサトが誰かと繋がっていたとしても、先の2つの願いで誰かと繋がっていることがわかる。恐らく、堕天使はそれを避けるため、秘宝を先の4回の方法で使用するだろう。結果として、堕天使が自由に秘宝を使えるのは1石だけとなる」


 説明を終えるとフーラ、ビガラは頷く。


「なるほど、作戦に必要なのは9人。ヒサトも必要ってことか――――――。わかった、ザーリス殺しを見つけたのはお前だ。今回はお前の策に乗ろう」


「ヒサト」


「はっ、はい!」


 フーラの重い声に背筋を伸ばして返事をする。


「次、裏切れば――――わかっておるの」


「はい、もう裏切りません」


 威厳のあるフーラの問にヒサトは間を置かず返答した。


「わかった。わしもラクの策に乗ろう。他に、反対の者はおるか?」


 フーラの呼びかけにゆっくりだが。他の資格者も頷いた。


 よかった。これで堕天使側は大胆な行動は取れなくなる。


「では、組分けは――――これでいいですか?」


 3人3組の組分け。僕、ヒサト、ビガラの1組。アーリア、フーラ、モーテルの1組。リーファ、パーミル、ジークスの1組だ。


 まず、ヒサトと組でくれる人は僕とアーリアぐらい。みんな内心、ヒサトがまたいつ危害を加えるかわからないと思っている。誰も同じグループになりたくないだろう。僕のグループに入れるのが丸く収まる。


 ビガラ派閥の3人が固まると不信感が生まれる。その空気は不味い。資格者同士で疑うことになれば堕天使の思うツボ。3人はバラバラでリーダーのビガラはできたら、傍で見たい。あくの強い貴族とグループになりたい人も少ないだろうから僕のグループ。これで1組は決定。


 モーテルとパーミルは別で、僕と同村のアーリアと何故か懐かれているリーファは別の方がいいだろう。あとの組み合わせに特に意味はない。


 僕の提案にリーファが驚きながら「寂しい」っていっていたが他から特に異論はでなかった。


「――――3、2、1、『虹雲』発動。第4フェイズ開始です」


 そして、また虹の光に包まれる。


 虹色の鮮やかな雲も、既に4回目。見惚れることはもうない。


 まずは作戦通りに。


 宙に浮かぶ白い石。その中の1石を手に掴む。


「発動。ビガラが誰かと意思疎通しているとき、それを感知することを願う」


「その願い叶えましょう」


 白く発光し、秘宝が消滅する。


「発動。ヒサトが僕に意思疎通をしているか、と願っているかを感知することを願う」


 先ほどと同じく、白き光が灯り儚く白石は消滅する。


 これで発動は終わり、あとは。


「復元。ビガラの秘宝を復元する」


 紫色の光。七色の雲を突き抜ける。


 ビガラ、第1フェイズ後から、自らの派閥を作り資格者達の足並みを乱して、ザーリスの秘宝を砕いた。資格者達を狙うのは、堕天使側の行動ともとれるが。自らの、命を何よりも第一とする。その観点からするとビガラの行動は合理的。ただの、生きたい資格者なのか――――。


「復元。ヒサトの秘宝を復元する」


 赤色の閃光が『虹雲』から飛び出す。


 ヒサト。彼は恐らく堕天使ではない。そして、もう堕天使の協力者でもないはずだ。


 残る行動は1つ、それももう決まっているけど。


「復元。――――――――」


 これでこのフェイズの行動は終わった。堕天使も大胆な行動は取れないはずだ。でも、堕天使の足取りは全く掴めていない。誰が堕天使、協力者だ? 


 ヒサトは騙されていた。堕天使に生き残ったらヒサトも生きられる。それは、嘘。なら、他の協力者が同じ話を言われ騙されていたらあの場で白状したはず。なら、なぜ、協力者はまだ堕天使に協力する。資格者の秘宝が全滅したら死ぬんだそ、そんな人いるのか? みんな願いを叶えたいはず…………っ!


 脳裏に一筋の閃き。はっと、靄が取れた気がした。


 そうか、それなら堕天使に協力してもおかしくない人がいるかもしれない。


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