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犯人

「ぐっ…………」


 声が漏れた。腹に刺さる針、伸びるのは黒い昆虫類のような皮膚。ごろごろとした震えが伝わる。今度は盛大に大地が割れ黒き光沢の姿を現す。


 後ろに下がり針を抜き取る。噴き出す血を抑えるために右手で傷口を抑えた。


 でも、傷口は対したことじゃない。それよりも――――――。


 指先に違和感、痺れのようなもの。手に広がり、腕に広がり、身体全体に及んでいく。


 もう、毒が充満している。まずい、このままじゃあ――――――。誰が、あいつを倒す。


 歪む視線で黒い魔物を見つめる。黒い光沢の殻に大きな両手の鎌、尻尾の先は尖り、先端は赤い血が残っている。砂蠍、地中に潜り不意打ちを生業とする魔物。


「『アイス・ストーン』」


小屋ほどの大きな氷の岩石が砂蠍の頭上に出現する。


「暗殺者は本来、姿を見せてはいけないよ」


 苦しみに顔をしかめながら、パーミルを見る。今までと変わらない、いや、少し口元が笑っていた。


「『アイス・ブレイク』」


 砂蠍は急ぎ、持前の両鎌で穴を掘り地中に逃げようとするが、氷の地獄から免れない。氷の岩石は砂蠍に直撃し、氷の岩石と共に粉々に砕かれた。


 砂蠍のランクはC。不意打ちを免れればそれほど脅威な魔物ではない。


「ラク! 大丈夫!」


 息を切らしながらアーリアが駆け寄る。右腕の服を引っ張られた。晒された傷口は紫色に変色し、アーリアが唇を噛みしめる。


「アーリア、大丈夫だよ」


「だめ、見ていられない」


 腰に携えたポーチから包帯を取り出す。解毒薬の小瓶。ぽつりと液体が傷口に染みる。アーリアの治療を受けながら焦りを隠す。予定が狂う。そろそろ、10分経った…………。大丈夫、アーリアのおかげで身体は動く。


 眩しさが試練の間を包む。


「「なっ!」」


 巨大な『虹雲』内に太陽の光は届かない。虹色の光が日光の代用品だ。上空から放たれる新たな眩しい光。資格者達は目を細めながら、そいつを見ると資格者達は言葉を失った。


 白い光を帯びた龍。輝きは温かく神々しいオーラを秘めている。


「あれは伝説の――――――」


 ヒサトが酷く狼狽したようすで呟いた。


「あぁ、Sランクの魔物。光龍じゃ」


 輝く翼を翻した。光線となった輝きが資格者を襲う。


「ヤバイ! どうする」


 ヒサトが慌てたようすで周りを伺う。


「仕方ないのぉ~。『結界』」


 フーラがそう呟くと七色に輝くオーラが包み込む。


「えっ?」


 目が点になるヒサト。


「お前は本当に脳みそが付いているのか?」


 他の資格者達も七色のオーラを纏う。包まれていないのはヒサトとラク、アーリアだけだ。


「ちょぃ…………マジで! 何でこんなことになるんだよ!」


 声は虚しく、光線の轟音にかき消される。


「死ぬっ!」


 祈るかのように目を瞑る。それしか、ヒサトにはできない。


「目を開けてもらろうか」


「えっ?」


 目を開けたヒサト。横たわる光龍の姿に目玉を右往左往する。ヒサトを無視して、他の資格者。特にビガラに視線を預けた。


「まず、結論からいうと。ザーリスを殺した犯人はヒサトだ」


 突然の宣言に一同に驚きの声をあげる。一番、口をあんぐりと開けたヒサトは言葉を飲み込むと急いで口を開く。


「はぁ? 何言っている。俺がザーリス大将を殺した。どうやって? 殺したくても殺せないし、それとも何か証拠があるのか? 英雄の力を舐めるなよ。例え、堕天使でも大将は倒さない。軍神、ザーリスに傷をつけられるのは同じ化け物の領域、王殺し、ラク。お前だけだ」


 息を切らし、胸で呼吸をするヒサト。額から汗が流れる。その反応を見て、仮定が確信へと変わっていく。


「みんな、光龍の攻撃を防いだ。その結界は何だ?」


「これは女神様の防御結界です。前回のフェイズでザーリスさんが襲われ、炎龍が出現しました。身の危険を感じたので、秘宝を1つ削ってでも発動させました」


 すぐ隣にいたリーファが答えた。アーリアと一緒に治療をしてくれている。


 少し震えていた。まだ、恐怖は残っているのか。


「前回のフェイズでは僕が堕天使と疑われザーリスを殺したという見解だった。それに、誰かが炎龍を出現させた。リーファの判断は至極真っ当。実際に多くの資格者が結界を発動させていた。みんな、そうすると推測できた。光龍なら僕のスキルなら一撃で終わる」


 その言葉に、ビガラの眉が潜む。


「推測できた? てめぇ、どういう意味だ?」


「光龍は僕が召喚させた」


 発言に動揺が広がる。自らSランクの魔物を召喚し、資格者を襲ったと供述していることになる。


「でも、勘違いしないで。みんなを傷つけるつもりはなかった」


「はぁ? 伝説の魔物を召喚させといてよくいうな!」


 ビガラが突っぱねる。他の資格者の多くも軽蔑の色を浮かべる。


「光龍は伝説の魔物なんかじゃない。ジークスさんなら知っているかな?」


 視線は白い仮面に移る。


「あぁ、ラーズクス地方にいると聞いたことがある。たしか、性格は大人しいと聞く」


「うん、流石に今回は攻撃したが。光龍は体内から光を発光する。光属性の攻撃、翼の防御は確かに強力だ。けど、僕には相性が良すぎる。体内から強烈な光を放つということは影も身体から近く大きい。『影使い』なら、一瞬で移動し逆鱗を砕ける。昔は任務で何匹も討伐したから、僕にとってはゴブリンを倒すより簡単だ」


「いや、光龍はSランクの――――」


「それは誤りじゃ」


 フーラが横槍を入れる。


「美しい鱗の価値を上げようと、商人が圧力を掛けランクをSランクに引き上げた。それでもAランクはあるがのぉ。まぁ、お前さんなら楽勝じゃろう」


 にこやかな笑みを浮かべる。先ほどの鋭い視線もない。どうやら、僕がいいたいことが分かってみたいだ。


「話を戻すよ。堕天使が無理やりに命を奪うように仕向け身の危険を感じていた。資格者みんなの共通認識だ。僕は力がある。アーリアは僕が守る。だから、僕達には『防御結界』は必要ない。ヒサト、君はどうして『防衛結界』を発動させなかった?」


 真っすぐにヒサトを見つめる。耐えかねたのか、ヒサトは目線を外した。


「そんなこと思い尽きもしなかった。それだけだ。次のフェイズになったら発動させる」


 ぶっきらぼうにそう返事をした。


「必要なかったからだろ。ザーリスを殺す程の力を有しているから」


 ヒサトの目尻が吊り上がった。今度は怒りの視線を僕にぶつける。


「ふざけるな! 『防御結界』を発動していなかっただけでザーリスを殺ろしただと、いいかがりもよしてくれ!」


「違う、そこじゃない。自分でわかっているだろ。光龍に何をしたのか」


 光龍の翼を指す。息絶えてもなお、輝きを放つ翼の中央下付近、拳ほどの大きさのへこみがあった。


「それは抵抗しただけだ。光龍の光線から逃れるすべはないと思ったから、どうにかして奴を討とうと。俺の腕が伸びるのはさっき見せただろ」


 激昂しながら喚く、しかし、みんなの視線は冷たくなるばかり。


「光龍の翼はどの物質よりも硬い。もし、そんな力があればザーリスを殺せるほどの力を持つことになる――――」


眉を上げ、目が泳ぎ顔色が一気に蒼白した。喉仏が動いた、息を飲んだのだろう。


「あぁ、それは女神様の力だ。俺も秘宝を砕いた。みんなは『結界』という防御に使ったけど。俺は筋力増幅に使った。ただ、それだけだ」


 声は裏声に。焦り首を振る。疑いの視線が増していることに気づているだろう。


「サヒト、それはない。さっきの状況で強くなる願いを望むことなんてありえない」


 その言い切った言葉にただ目を丸くする。いった意味がまだわからないようだ。言い返すようすがないことを察すると言葉を続けた。


「どうして、僕は堕天使だと疑われた?」


 目を丸くしたヒサト。ようやく、自分の過ちに気づいたらしい。


「強い…………から」


 絞り出した声は自白に近い。


「僕が暗殺者ってこともあるけど、一番の理由はザーリスを殺せるのが僕だけだと判断された。強い者が疑われる。そういう流れだった。だから、みんなは攻撃手段ではなく『結界』という防衛手段を取った。ヒサトが今回、何も発動しなかったのは、前回でその力を得てザーリスを殺した。そうだろ?」


 ヒサトは周りを伺う。皆が皆、口を閉じ疑惑どころか、確信の視線を浴びせる。


「違う……。違う………俺じゃない!」


 必死に首を振り、絶叫するが誰の耳にも届いていない。口を開いたままのヒサトの目は灰色にくすんでいく。


「いや、疑って悪かったよ。王殺し、いや、ラクくん。まさか、こんな貧乏兵が堕天使だとは思わなかった」


 ビガラの態度が様変わりし、見下す目が今度はヒサトに変わる。


「なるほどの~、若い者はやることが大胆じゃあ、そのおかげで堕天使を見つけられた」


 フーラが安堵の溜息を漏らす。


「私達も生きて願いと10億ルスゲットだね!」


 パーミルが笑顔でモーテルに話しかけ、モーテルは頷きながらも鼻の下を伸ばしていた。


「やったね! ラク、これで村を元に戻せるよ!」


 まるで天使のような笑顔で語りかけてくるアーリア。


 和やかな雰囲気が漂う。ザーリス殺しの犯人が見つかり、あとは堕天使であるヒサトの秘宝を砕くだけ。ザーリスは死んだが、もう犠牲はなく願いが叶えられる。そんな空気をヒサトがぶち壊した。


「聞いてくれ! 確かに、俺はザーリスを殺してしまった。けれど、俺は堕天使じゃない!」


 一瞬、静寂が過ぎる。


 この試練は疑われたら終わり、恐らくヒサトは次のフェイズでみんなから秘宝を破壊させる。ヒサトが堕天使ならそれで試練は終了――――――だが。


「ヒサト、正直に答えてくれ。ザーリスを殺すこと。いったい誰に頼まれた?」


 空気が停滞し、ピリピリとした感覚が肌を刺激する。雰囲気に逆らう発言をした自覚はある。


「何で…………」


 ヒサトの驚きを隠せない顔はそれが事実だと告げていた。



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