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刺客

 色鮮やかな『虹雲』の中も3回目だからだろうか。それとも、今の心境のせいだろうか。墨でも塗ったかのように暗く重い。


 見つかるのか。もし、僕の推測が間違っていたら犯人はわからない。第4フェイズで集中砲火。堕天使も他の資格者達に加わって秘宝を破壊尽くす。


 きっとアーリアは僕の秘宝を復元してくれるだろう。最後まで、僕を「堕天使じゃないです」とかっていって庇うだろう。何故だが、アーリアはそんな人間だ。僕にはよくわからない人間だ。死は恐れない。いや、恐れる感覚がない。でも、きっとアーリアは泣くだろうな。それだけは、アーリアだけは守る。


 虹の砂時計が落ちると同時に、秘宝に手を伸ばす。


「発動。――――――――」 


 虹の光が身体を包む。慌て、首を回すと神々しいオーラが輝きを増していく。心の準備もままならないまま。


「その願い叶えましょう」


 簡素な女神の声が耳を突いた。虹色の光が身体を包む。一瞬にして、視界が真っ白に。景色は変わらず虹色。だが、目の前に1人の人物がいた。


 この人が堕天使だったら――――――。ここで殺さなければならない。


 息を潜め視線を下げる。『虹雲』の中でも影はある。いつでも、『影使い』を発動できる体制に。ビガラじゃないが、確かに僕は天界人などに後れを取らない自信がある。


 目の前の人物はまだ前を向いている。すでに何かアクションを起こしたあとだろうか。まだ、こちらに気づいていない。小さく息を吸い込み、内に潜めせている小型ナイフをいつでも引き抜ける構えを取りながら声を掛けた。


 目の前の人物は一瞬、凍った目をしたあと。熱を帯びて視線を注ぐ。


「お前は――――――」




――――――2分後。


 再び、虹色の光が包み込み。元の『虹雲』に戻った。


 どうやら、『虹雲』間の移動は2分が限界らしい。それを超えると、自分の『虹雲』に強制送還されるのか。


 これで犯人がわかった。でも、何だ? この違和感は――――――――。


 犯人は特定できたといっていい。でも、証拠がない。こちらから仕掛けなければ――――。


 目の前の秘宝に手を伸ばす。


「発動。次の秘宝の願いを10分後に発動することを願う」


 これは一種の賭けだ。他の資格者を危険に晒すことになるけど、みんなが僕を堕天使だと疑っている。だからこそ、犯人が浮き彫りになる。上手くいけば僕が堕天使候補から外れ同時にアーリアの疑いも晴れる。彼女もスキルを偽ったままで。


「発動。光龍の召喚を願う」


 堕天使、お前の勝手にできるのはここまでだ。さぁ、正体を明白のもとに晒して貰おうか。



 虹の輝きに誘われ、再び試練の間に戻ってきた。直ぐ周囲を見渡す。今回は誰も倒れていない。ザーリスを除く9人。全員が無事に生還していた。姿を確認すると視線は席の上部に移りそれぞれの秘宝の残りを確認する。


 白い輝き、僕の秘宝は5石。第2フェイズの12石から7石マイナス。


 黄金色に輝くアーリアの秘宝。輝きは7石、第2フェイズから1石マイナス。


 桃色のリーファの秘宝、輝きは6石。第2フェイズからマイナス2石。


 赤の輝き、ヒサトの秘宝。輝きは6石、第2フェイズからマイナス2石。


 青い輝き、パーミルの秘宝は11石。第2フェイズから1石プラス。


 黄緑色の輝き、フーラの秘宝は8石。第2フェイズから1石マイナス。


 紫色の輝き、ビガラの秘宝は6石。第2フェイズからマイナス4石。


 銀色の輝き、ジークスの秘宝は7石。第2フェイズからマイナス2石。


 緑色の輝き、モーテルの秘宝は11石。第2フェイズから1石プラス。


 第3フェイズ終了時の秘宝はこのようになっていた。


「今回は誰も殺さなかったようだな」


 再開の挨拶もなしに、ビガラが唾を吐くように言い捨て軽蔑を乗せた視線が注がれる。


「ちょっと! どうして、ラクって決めつけるの!」 


 アーリアの擁護も資格者達には伝わらず空に虚しく響いた。


 わかっている。俺は王殺し。いくら、足を洗ったといってもその事実は消えない。僕が大犯罪者であることは変わらない。それは仕方がない。過去を消すスキルは所有していないし、どうしようもない。もっといったら、資格者のみんなにどう思われているかなんてどうでもいい。


 ただ、アーリアは……………。アーリアだけは救わないと。


「これを見ろ!」


 ビガラが周りの秘宝を指す。数は6石。3石の秘宝が減少していることになる。


「モーテル、パーミルにそれぞれ俺の秘宝を1石復元するように指示をした。自分で使用した秘宝が1つ。本来なら1石増えているはずだ。4石の秘宝は誰かに、いや、ラクに壊されたことになるな」


 ビガラの声は刺々しい、自分の秘宝がかなり減少され焦りも見える。あたりまえか、秘宝の数は命尽きるまでのカウントダウンと同じ。


「ビガラ、秘宝が減少し動揺するのもしかたない。じゃが、今はラクの話を先に聞くべきじゃ」


 たるんだ目尻から小さな瞳が覗く。一度見たら引き込まれる底なし沼のような目力がある。でも、そんな視線、いやほど浴びてきた。


「わからなかった…………よ」


 たどたどしい声、語尾は聞こえないほど小さくなった。


「ほら見ろ! こいつが堕天使だ!」


 ビガラが叫ぶ。


「違う。ラクはそんな人じゃない!」


 アーリアが叫び返す。


「そんなこと信じられるか! 次のフェイズ、みんなでラクの秘宝を破壊する。そうすれば試練は終わる」


「そんなことしたら、王殺しが今すぐ、みんなを皆殺しにするんじゃ…………」


 ビガラの声にヒサトが怯えながら主張する。


「はぁ? それはならないように――――――」


 ビガラはヒサトを鼻で笑うかのように馬鹿にしようとした、そのとき。


 肌の痛覚が刺激させる。空気が急速に冷えた。冷気が痛みとなるほどに。何が起こった? 疑問と同時に轟音が響く。空からだ。見上げると霰が降る。発生源は氷の輝きを持つ蒼い翼、羽ばたきひとつで、木々を凍らせ、マイナスの世界に引き込む。炎龍と双璧を成すSランクの魔物。氷龍だ。


「まっ! また!」


 リーファは腰を抜かし座り込み。歯をガタガタと震わせ、白い息が漏れる。


「大丈夫、リーちゃん」


 駆け寄ったアーリアはリーファに手を差し伸べる、満面の笑みはこの窮地でも同じで、リーファの頬が少し和らいだ。コクリと頷きアーリアの手を握る。


「ラク。話は後じゃあ。ここは是非とも力をお借りしたい。ひいてはそれが堕天使ではないという1つの理由となる」


 険しい顔でフーラが協力を要請した。


「放置していれば僕も危ない。討伐したいが…………。空に停滞したままでは―――」


 僕の力は暗殺術。人を殺す技術だ。様々な標的、幾千とあるシチュエーションに対応するための戦術は多岐に渡る。正直、ザーリス相手でもいい勝負ができると思う。でも、魔物は別だ。空の標的を殺す手段なんてない。人間は空を飛べないから――――――。


 唇を噛んだ仕草がバレバレだったのか。フーラの目つきが変わる。


「氷龍を地上に誘きよせる。そこはわしがやろう」


「フーラ…………」


「勘違いしては困るが、まだわしはお前さんを信じたわけじゃないぞ」


「わかっている」


 それは僕も同じ。でも、僕に助け船を出す行為。それをするメリットが堕天使にあるのか?


「俺も…………参加する!」


 震えた声の出所に思わず耳を疑った。震えていたのは声だけでなく、身体全体。それでも勇敢に氷龍に立ち向かう姿勢を見せる帝国軍人。


「ほぉ、ヒサトも手伝ってくれるか」


 フーラが感心したようすで尋ねる。


「あぁ、俺のスキルだったら簡単に氷龍を地上に降ろせる。まぁ、そこの雪女の助けはいるけどな」


 パーミルに目を遣る。きょとんと首を曲げ、「私?」と呟いた。他の人は身体が震えたり、白い息を吐いたりしているがパーミルだけ顔色を変えず、むしろ、元気いっぱい。これもスキルの影響なのか、極寒の地ではパーミルには勝てないな。あと、数分後でここもそれに様変わりしそうだけど。


「何を手伝ったらいいのかな?」


「簡単だよ。氷龍までの空間、奴の攻撃と動きを止めてほしい。雪女なら余裕だろ」


 パーミルは一瞬視線を上に上げ、アヒル口をつくる。考えている仕草、そう捉えておこう。


「わかった。こんな感じ? 『スノー・コール』」


 パーミルの周囲に小さな光が輝く。秘宝の美しさではない。光は雪に変わり。風が吹いたようすはないが、舞うように重量に逆らい空へ浮上する。突き上げる吹雪が氷龍を襲う。


 氷龍はじっと固まる。同じ氷属性の猛攻。効果は薄いようだが、翼を閉じて防ぐ。それにより急激に温度が上がったのか、霧が発生する。


「さすが、雪女。上出来! 『長腕』」


 威勢のいい声をあげ、ヒサトが両手を伸ばす。『スノー・コール』の範囲外から空を進み停滞する氷龍の片足を両手で掴む。


「見ていろ! これが、俺の力だあぁぁぁあああ!」


 こめかみに血管が浮く。顔は真っ赤に染まり眼光は野獣のごとし。腹から気張った声を合図に5メートル超の長腕を振り下ろす。断末魔が森林にとどろき、氷龍の巨大な体躯が引きずり降ろされる。地鳴りが反響した。力を精一杯使ったヒサトは揺れに耐え切れず、尻餅をつきながら笑みを浮かべ僕を見つめる。


「あとは頼んだぞ。王殺し」


「あぁ、『影潜』」


 自分の影に身体を潜らせる。正確には影と身体が一体化しているだけ。この影をナイフで刺されると血が吹き出る。隠密には最適なスキルだが、使い方はこれだけではない。


 氷龍が身体を起こす。紅色の鋭い眼光は資格者達に配られる。口を大きく開いた。まるで、氷の彫刻のような牙が美しい。空気を飲み込む音。次の瞬間にはブレス攻撃が放出させるだろう。上空から翼を羽ばたかせるだけで、気温を一変させる力。腹の奥から放たれる一撃ならば、氷河の世界に誘うだろう。


 でも、遅すぎる。


 氷龍の影に隠れ。視界に捉えた喉元の逆鱗を見つめると一気に影を脱する。傍から見ると影が飛んだ。昔はよくそう評された。僕としてはただ、影から標的まで最短距離で詰めているだけ。暗殺に関して武力はさほど必要ではない。見つかる前に殺す。でもどうしても殺す寸前は標的に見つかってしまう。だから、見つかるとき、影から脱してから殺すまで出来るだけ時間を少くしたい。暗殺者として教育させ、『影使い』のスキルを有していたため、その訓練でほぼ毎日過ごした。5年ほど。 


 蒼い鱗に銀の刃が刺さる。ピキっと音がなり鱗が粉々に割れた。氷龍が発狂する。暴れ周りの木々をなぎ倒す。だが、それも一時。氷龍の動きは止まり、紅色の瞳からは精気が消え失せる。


 終わったか――――――。


 少し離れた場所に避難し、氷龍の悪あがきから逃れていた。


 でも、どうして――――。今回の氷龍も前回の炎龍も、ザーリスを襲った犯人と同一人物のはず。なぜ、あんな行動に?


 ふと思考に深ける。犯人の意図がわからない。推理を張り巡らしていた。


「ラク!」


 地面が膨れ上がった。俯き加減だったためそれはよく見えた。大地に穴が空き、そこから黒色光沢を放つ鋭利な針が飛び出した。それは一直線に僕の腹部を目指す。


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