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宣言

「もう、ラクは人を殺していないよ。もう、暗殺者はやめたの。共和国から亡命したあと私の村に移ひっそりと暮らしていた。過去だけラクを堕天使でなんて決めつけないで。ラクは、ラクは、私の大切な人だから!」


 必死に叫び伝える。ラクは違う。ラクはもうそんな人でないと。だが、他の資格者の目は冷たい。


「アーリア、もういいよ…………」


 僕が声を掛けるとアーリアは口を閉じ。今まで止めていた涙が一気に溢れ出した。


「女の涙にはこの年になっても弱いがの。残念ながら、ラクの疑いを晴らすことは難しいの。連動的に悪

いがアーリア、そなたも堕天使の協力者かと疑いたくもなる。ビガラのいっていたこと。軍神、ザーリスが死んだこと。そんなことが可能なのは、世界中を探してもそなたぐらいじゃ」


 フーラが重い口調で現状を伝える。他の者も大きく頷き合意を示す。


「なら、ザーリスを殺した犯人を探せば僕とアーリアの疑いは晴れるのですか?」


 視線は尖りフーラを見返す。小さく口を開いた。驚いたようにも見える。


「そうじゃの。できればじゃが」


「無理でしょ。堕天使を見つけることと、同じくらい困難ですよ。それは」


「どうせ、見つからない。あなたが堕天使だったらな」


 フーラ、ジークス、ビガラ共に苦言を呈する。


 3人のいっていることは最もだ。しかも、僕のせいでアーリアも疑われた。胸に毒矢でも刺されたかのような痛みが駆け巡る。


「私は、まだ、お兄さんが犯人だと決めつけるのには早いと思います」


 これまで口を閉ざしていたリーファが立ち上がり震える声を発した。まだ、身体は震えているが顔色は赤みが戻っている。


「そうだよね~。まだ、ラクくんが王殺しってことが分かっただけでさ、それだけで犯人だなんてちょっとかわいそうかな~。というか、男の強さへの嫉妬?」


 変わらず、欠伸の出そうな口調なのはパーミル。


「いえ、警戒するのは当然です。ザーリスさんが殺されたという事実があるのですから」


 冷や汗を掻きながらモーテルが割って入る。パーミルは上目遣いで、モーテルの顔を覗き見ると笑みを浮かべ、べぇーっと舌を出した。


「モーテルくん。約束はビガラに付くことだよ。確かに、ラクくんの秘宝を破壊しろっていわれたら、従うけど。その人を必ずしも疑わなくてもいいんだよ」


 変わらずゆったりとした口調でウインクを飛ばす。


「それは、そうですけど……」


「パーミル、モーテル。約束を忘れたのか」


 ビガラが2人を睨む。パーミルは余裕の笑み、対してモーテルの顔は引きつっていた。


「そういえば、お前。雪女だったのか」


 パーミルは一切、表情を変えずに。


「そうだよ~」と頷いた。


 雪女、帝国南下に広がる山脈に住まう妖怪と揶揄させる盗賊。その強さは追い払うために30人程度の軍の小隊が出動したが、全て氷の彫刻となって戻ってきたという逸話を残す。


 僕や、ザーリスほどじゃないけど。炎龍の攻撃を防いだスキルを見てもかわるように、パーミルのスキルも相当。そして、息が上がっているとはいえ炎龍の攻撃を防いだ老人。


 フーラは暫くパーミルを睨らんだあと、口角を上げた。


「まぁまぁ、言い争いはその辺りに終わりましょう。ラクが疑わしい、そうなった理由は王の暗殺者である証拠、『影使い』の使い手であったからじゃあ。どうじゃ、すでに判明している者もおるが、ここでみなの『スキル』を発表しようではないか」


『女神の試練』、摩訶不思議な神の力。順次する秘宝の出現によるサバイバルゲーム。それに捕らわれていたけど、元々のスキルに着目する時期。堕天使の手かがりが得られるかもしれない。けど、アーリアのスキルが判明したら――――――。


 横目でアーリアを見る。視線を合わせ、コクリと頷いた。


「私は賛成です。他の資格者のスキルも気になります。特に、そのご老体で炎龍の攻撃を退けた。フーラさんの話が聞きたいです」


 ジークスが賛同してくれた。


「全く同意。そうだよ。何なのこの化け物集団。怖いよ、みんなの強さを知りたい」


 ヒサトの顔は凍っている。始めは自分が軍人でそれなりに強さを誇れるって思っていたけど。この面々を見て自信喪失。終始、顔面蒼白が続く。


 臆しているのはヒサトだけではない。リーファや、モーテルもフーラもヒサトの声に同感しているみたいだ。


「そうか、知りたい者のほうが多いようだ。なら、わしから話そう。『風使い』。ラク殿の『影使い』とは雲泥の差じゃが。少しは腕が立つ。昔は軍で軍師としておった。まだ、そこら辺の若い者には負けんぞ」


 ほぉほぉほぉと笑いながら話す。


 聞いたことがある。前帝王の時代、領土を大きく広げた圧倒的な軍事力。それを何倍にもした『風の軍師』がいたという話を。なら、炎龍を退けた実力も頷ける。命賭けの女神の試練に臆せず、冷静にいられたのは、ただ年を喰っているだけではないらしい。


「次は私が話しましょう。私のスキルの名は『植物会話』。草木と会話ができます」


 資格者達は驚きの声を漏らす。戦闘向きのスキルではないが非常に珍しい。草木との会話、例えば寒い、熱い、お腹が空いたなどなど普通の人間のように意思疎通ができる。早く花を咲かせてほしいとお願いすれば咲かせることも可能らしい。


「じゃぁ、俺も話すよ――――。スキル名は『柔体』。本当だったら、結構強力なスキルなのにこのメンバーはないよ…………」


 チラッと、横目が注がれた。


 『柔体』、身体の一部、または全体を自由自在に伸縮ができる。肉弾戦では応用が効き、戦場では活躍の見込みがあるスキルだ。威張っていたのも頷ける。


「私は、『映像再現』。特定の場所を数時間前でしたら再現ができます」


「おぉ―っ」と驚きの声が所々で漏れる。


 こちらも驚きだ。諜報部隊では重宝されるスキル。実際に、そのスキルから情報を得たこともある。


「なら、私も話しましょう。なぁに、しがないスキルです。名を『明光』、ランプほどの光を灯すせます。色のカラフルに、虹色だってできます。なんたって、我が商会は元々――――」


「モーテル、もういい」


 スキルの説明から、商売話へ。饒舌に喋り出す手前。ビガラが口を割った。声音は低い、怒りを乗せている。


「俺は教えないぞ。堕天使がいる中で、ペラペラと自分の情報を話すメリットはないからな」


 ふんぞり返るビガラ。第2フェイズに自分が思うが儘に2人が動いた。ビガラの中ではモーテルとパーミルは堕天使ではないと確信しているのか?


「ふむ、話したくないなら話さなくてもよい。わしらは何か隠し事をしなければならない事情があると考えてしまうのはしょうがないの」


 目を細め、皺をくしゃくしゃになりながらビガラを挑発する。ビガラは鼻で笑いながら「好きにしろ」と唾を吐くようにいった。


「そうか、なら、最後にアーリア。そなたのスキルを教えて貰おうかの」


 アーリアの顔が暗くなる。視線が泳ぎ唾を飲み込む。琥珀色の瞳は揺れていた。


 アーリアのスキルは村でもごく一部の人しか知らない。秘密にしなければならない。アーリアのスキルはそういったものだ。僕のスキル、正体の比較にならない。もし、アーリアが本当の事をいったらアーリアは堕天使ですと宣言するようなものだ。


「スキルは『感情受信』いわゆる、共感性が人よりも何十倍高くなるスキルです。戦闘どころか、普段の生活でもほとんど役に立ちません」


「アーリア……………」


 アーリアが説明を終えた。嘘のスキルをいって。


 はっとした顔でアーリアの瞳を見つめる。和やかなに目尻を下げて。「大丈夫だよ」と呟いていた。


 よかった。嘘が大嫌いなアーリアだけど。この場面では正解ときには虚言も必要だ。


「『感情受信』ですか。確かに戦闘向きではないが、カウンセラーなどには多いと聞くのぉ」


「あぁ、とても王殺しの暗殺者のお友達とは思えない」


 からかうような口調でビガラが付け加えた。


「なんですって!」


 ビガラの言葉にアーリアは我慢できなかったのか。大声をあげて反論した。


「ラクはもう暗殺者じゃないって、いっているでしょ!」


「それは同郷贔屓だな。俺達からしてみれば、王の暗殺者というだけで本来なら顔も合わせたくない。いつ、殺させるかわからないからな」


「そんなことしない。ラクはもう人を殺さない。暗殺だって、共和国の任務だった。兵士が戦争で人を殺すことと同じ。共和国を捨てたラクはもう人を殺すことはないの!」


「悪いけど、信用できないよ。怖いんだよ。俺達は…………だって、王殺しだぜ。試験突破する手段の内に、皆殺しがある限り。正直、俺はラクが堕天使かどうかなんて関係なしにラクの秘宝を壊したい気持ちもある」


 アーリアとラクには顔向きはせずにあっちを向きながらぼそぼぞとヒサトが呟く。


「確かにそうだ。王殺し、その強さは危険過ぎる。俺達は今回、ラクの秘宝を壊すことにしよう」


 ビガラの冷たい視線が容赦なくラクに浴びせられる。反論する者はいない。Sランクのお尋ね者。誰がためらうのだろう。


「ラクが王殺し―――――――――。強すぎるから、殺すの?」


 声は酷く冷たく濃い。


「ああ、そうだ」


 アーリアの変化に眉を潜めながらもビガラは返答する。


「おい! アーリア」


 まずい! 急いでアーリアの元まで走るか。いや、間に合わない。


「次だ!」


 絶叫が虚しく空に響く。アーリアは勢いに押されは口を閉じた。


「次の第3フェイズ後。ザーリスを殺した犯人を突き止める」


 切羽詰まった言葉に、みな険しい顔を浮かべる。


「おいおい、そんな事ができる人なんて他いないでしょう。王殺し」


 ビガラが高圧的に宣言し。


「確かに…………」


 ヒサトがそれに頷く。


「現状ではそういえるが――――――」


 ジークスが首を捻る。


「そういうのならば、既に犯人の目星は付いているのか?」


 フーラが眉を潜ませながら尋ねた。


「犯人の目星はついていない。ただ、ザーリスを殺せた方法は恐らく秘宝の使用。いくら、堕天使といってもザーリスの強さは脅威だ。願いで圧倒的な強さを手に入れた。そうでなければ、軍神がやられるなんてあり得ない」


 説明には納得した表情の者もいたが変わらず疑いの目を持つ者も。


「なら、疑わしいのは私ですか。唯一、秘宝が減少しています」


 ジークスの試すような声だ。第2フェイズに秘宝が減少したのは、唯一、ジークスだけ。1石減り8石となっている。


「そうとはいっていない。単純に堕天使に狙われただけの可能性がある」


 冷淡な弁解にジークスは口を閉ざした。


「そんなことして堕天使が死んだらどうする。天界人といえど1つ、2つの願いでザーリスよりも強くなれると思わないがな」


 ビガラからは相変わらず、蔑視の目を向ける。


「それなら、みんな今回は待とうではないか。確かに、王殺しイコール、堕天使とは確かに考えが浅はかだ」


 フーラの意見に、軽い頷きを見せる資格者達。ビガラも唇を噛みしめながら、「あぁ」と呟き。ヒサトはぶるぶる震えんがら、「大丈夫かよ」と愚痴を溢した。


 フーラの意見にそれぞれ思うことはあるようだが、腰を掛けただ時間を待つ。集団から抜け出したのはビガラチームのみ。残りはじっと席に座り込む。ザーリスが殺された。出歩くのは危険が伴う。『虹雲』以外でも堕天使は鎌を振うかもしれない。億劫とした空気が充満とする中、ただいたずらに時間が過ぎるのを待つ。すりつぶされそうな心臓を意識しながら。ただ、ただ、その時を待った。


 ほのかに、霧が輝く。


「――――3、2、1、『虹雲』発動。第1フェイズ開始です」


 再び資格者達は虹色の光に包み込まれた。


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