カスミの決断。
花野香澄16歳。
狼狩りが解決して良かったのですが
仕事がなくなり求職中。
これから異世界でどうやって生きていこうかな。
フロックスさんの体が完全に治り、いつものようにヒャクニ宿の朝食の食器洗いをしています。
狼が退治され、本職がなくなってしまった私。
次の仕事を考えつつ、まだ気持ちが辛くて新しい生活に歩き出せなくて。
お金は狼狩りの懸賞金が少し手元にあるのと、宿の手伝いをすれば食費は払わなくて良いというヒャクニ夫妻に甘えてしまってます。
以前なら、フロックスさんを見るだけでルンルン気持ちが明るくなっていたのに。
今は少し考えてしまう。
「カスミさん、お久しぶです。」
え?まさか、
「ロベリアさん。」
ヒャクニ宿の1階食堂。
ロベリアさんが来た。
ロベリアさん今日は肌の露出を抑えて薄紫のワンピースを着ている。
ジニアさんが怒鳴った。
「今朝の食堂はもう閉店したよ。
出てとっくれ!!」
「うおー、すっごい噂に違わない魔眼。
失礼します。
私はロベリア・ワーフと言います。
ドワーフ国第5王女で今は勇者と共に行動しております。」
ロベリアさん、ヒャクニ夫妻に礼をしながら挨拶する。
「国にいる時にはヒャクニご夫妻の伝説的冒険譚をよく聞ました。
今日、お二人にお会いでき大変嬉しく思います。」
「あ、あんたイートピーの娘か?」
「はい。」
「そういえば、紫の瞳がイートピーそっくりだね。」
ロベリアさん、ヒャクニ夫妻と盛り上がっている。
ひとしきり話が終わり、ロベリアさんが、
「突然、お邪魔して申し訳ありませんが、カスミさんとお話ししたくて」
と、私の方を見た。
▽▽▽
ロベリアさんには私の部屋へ来てもらった。
フロックスさんも同席したいと言ったらOKと軽く返事された。
「カスミさんはあの事件の噂は聞いたの?」
「あの、街では沢山の噂がとんでいましたので、どれが本当の事かわからなくて。」
「そうよね。
事件が大きかったから皆、面白おかしく話を作り出してしまっているから。」
私は頷いた。
「ロベリアさん、あの後どうなったのか。差支えないところだけでも教えていただけますか?」
「勿論よ。」
と、言ってロベリアさんが話し出した。
真実は、領主様の次男コレオプシス君が隠し部屋で狼の壺を手に入れて、古代の魔術を復活させ世界を変えようとした。賢さと幼さから起きた事件だ。
子供の犯した事件とはいえ、被害者がかなりの数に上る。
本当は領主様家族だって罰を受けなければならない。
でも勇者ヒイラギさんが、犯人は死んで領主様は息子の行いを酷く後悔している。これ以上領主様家族に罰は必要ないと考えて国には虚偽の報告をするようにナスタチウムさんに指示した。
虚偽の報告には、領主様の次男が悪い魔法使いに騙されて家宝の狼の壺を盗まれてしまい、悪い魔法使いが狼の壺を使って街道を歩く人たちを襲っていた。
領主様の次男は壺を取り返そうとして悪い魔法使いに殺されてしまい、勇者一行に悪い魔法使いは倒された。
しかし、領主様はまだ幼いとはいえ、息子が家宝の壺を持ち出した責任を取るとの事でここよりもっと田舎のへ落とす事を勇者が決めた。
「では、領主様ご一家は別の土地で生活をするんですね。」
「うん、もう一昨日には新しい土地へ旅立たれたわ。」
良かったあ。
あの時、領主様の姿を見ていてコレ君の後を追ってしまうのではないかと心配した。
領主様には奥方様もお子様だってまだ2人いる。
生きて家族で生活して欲しい。
フロックスさんも話を聞いて微笑んでいる。
「カスミさん、これ」
少し大きい革袋を両手で受けた。ジャラっとかなりかなり重い!。
「ロベリアさんこれお金。」
「そう。狼狩りの報酬。」
「私、あまりお役に立ててないですし、いくら何でもこんなに沢山はもらえないです。」
ロベリアさんはフフって笑って
「ヒイラギが予想道りの反応。」
「ヒイラギさんが・・・。」
ヒイラギさんの名前が出てドキっとした。
「ヒイラギからの伝言。
カスミちゃんがいたからこの事件は解決したんだよ。
狼狩りは無くなったし退職金だと思って貰って。
って言ってた。
私は退職金ってわからないけれど、このお金はカスミさんの物だから好きに使っちゃえばいいよ。」
退職金、私も本当のところよくわからないけれど。
少し考えて、今回は有難く貰う事に決めた。
ロベリアさんが帰る前に
「ヒイラギの事、嫌いになっては無いよね?」
と、聞いてきた。
「はい。」
私は頷いた。
嫌いにはなってない、ヒイラギさんの背負う勇者が重いだけ。
ロベリアさんは可愛い笑顔を見せて「またね。」と、馬車に乗った。
私はロベリアさんの馬車が見えなくなるまで見送った。
▽▽▽
ロベリアさんが帰った後、フロックスさんはスカビオサさんの手伝いで外出した。
私は部屋で貰ったお金を数えた。
これって、一生働かなくても良いくらいの金額。
う~ん、腕を組み窓から空を見上げる。
これからこの世界でどうやって暮らそう。
昔、看護師さんが言ってた。
「お金は大事だけれどお金の為だけに働くのは詰まらない。
働くことによって他人に関わることが楽しいの。」
私も狼狩りやヒャクニ夫妻や宿に来るお客さん達と接するのは楽しい。
このお金で悠々自適に暮らすよりも仕事しよう!。
空を流れる雲がいくつか形を変えて、日の光の強さも夕方に近づいてきた。
このお金は・・・・・・に使おう。
それはとても寂しいけれど晴れ晴れするような決断だと思った。
▽▽▽
夕食が終わり、フロックスさんと部屋に戻った。
「フロックスさん、ちょっと良い?」
フロックスさんに椅子に座ってもらい、私も正面に座った。
部屋のランプの明かりに浮かび上がるフロックスさんの美しい顔が見える。
久しぶりにドキドキしてる。
フロックスさんが私に微笑んでる。
最近、一緒にいてもフロックスさんの顔を真面に見てなかったなあ。
おっと、雰囲気に流されないように思い切ってフロックスさんに言った。
「フロックスさんを奴隷から解放したいの。」
フロックスさんが目を見開く。
全く予想していない事を言われたみたい。
「自分は何かカスミ様の気に入らない事をしてしまいましたか?」
すっごく寂しそうな縋るような顔で聞いてきた。
うわあ、全くないよ。
むしろ傍にいてくれるのがどんなに嬉しい事か語りたいのを必死に堪える。
「もともと狼狩りを手伝ってもらいたくてフロックスさんを買ったんだけれど、狼狩りが無くなったでしょう。
仕事が無くなって収入がないしフロックスさんを養っていけなくなりそうなの。」
言いながら、フロックスさんとの別れに寂しさが込み上げてくる。
うおー自分に負けるな。
「それでね。
今日、ロベリアさんから狼狩りの報奨金を貰ったの。
このお金でフロックスさんを奴隷から解放出来ると思って。」
奴隷からの解放、喜んでくれるよね。
フロックスさん・・・表情が硬いっていうか寧ろ不満顔?
フッと微笑んで
「カスミ様このお金で十分に奴隷の自分を養っていただけますよ。
解放されなくても大丈夫。」
そう、それも思ったけれど、でも、でもね。
「あの、私も考えたんだけれど、フロックスさんって凄く魔法も使えるし頭も良いでしょ。
フロックスさんの様に出来る人はもっと世界に出て活躍して欲しいの。」
フロックスさんがまた目を見開く。
私は感情が込み上げてきて
「フロックスさんと別れたいわけでないよ!
私ずっとフロックスさんと一緒にいたい!
でも私の奴隷で終わるなんて勿体ないと思うの!
フロックスさんは若くてカッコよくて、才能があるんだからやりたいことをやって輝かしい未来を歩んで欲しいの!!」
もう、泣きながら自分に言い聞かせるように言った。
「だから・・・だから・・・奴隷から・・解放されて・・。」
奴隷から私から解放されてフロックスさん。
幸せになって欲しいから。
ここまで読んでいただき本当にありがとうございました。
次回で完結します。
心の広い貴女が楽しく1日を過ごせますように!。
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