勇者の幕引き。
花野香澄16歳。
可愛く幼いコレ君が本当に黒幕なの?
「うわ。」
狼が首を振り回しヒイラギさんが振り飛ばされた。
「ヒイラギ!!」
カレンデュラさんが叫んで、ヒイラギさんの元へ走る。
ヒイラギさんの力が弱まり狼が立ち上がろうと暴れる。
狼の体で建物が壊れ、壁が跳ぶ。
「この場から人を非難させて!!」
ロベリアさんが城兵に指示を出していた。
▽▽▽
「・・・カスミさま、・・・」
立てないフロックスさんに寄り添う私。
「・・避難・・してください。」
背中を強く打って話すのも辛そうなフロックスさん。
「フロックスさんを置いていけないよ。」
コレ君が私の左手を取った。
「置いていくよ。
カスミさんは僕と行くんだから。」
「コレ君、私をどこに連れて行くの?
狼を止めて。
コレ君だったら出来るでしょう。」
コレ君はしゃがむ私を見下ろす。
「カスミさんは勇者と同じ転生者なんでしょ。
勝利を約束されし者なんだよ。
だから僕と一緒に来て。
僕、狼とカスミさんがいてくれたら、誰にも負けないよ。
きっと。」
この子は本当に無邪気な可愛い子供。
そう、子供だから自分のやっていることが分かってないんだ。
「コレオプシス!」
領主様が人波をかきわけこちらに向かって走ってきた。
「この狼はお前が・・・。」
コレ君は振り向きながら父親を見て
「うん。僕が完成させたんだよ。
すごいでしょ。
我が家の最古にして最高の獣、狼だよ。」
褒めて欲しそうに笑顔で言った。
「なんで、こんな物をいつお前が手に入れた。」
「こんな物って父上ひどい言い方しないでよ。
かくれんぼしていた時に隠し部屋見つけて、隠し部屋のカギを開錠するのに3か月もかかったんだよ。
僕、一人で頑張って調べたんだ。」
コレ君はほっぺを少し膨らませて領主様に言った。
領主様は信じられないといった顔でコレ君を見ている。
「狼の壺を見つけた時は本当に驚いたよ。
隠し部屋の壁に書いてあったんだ。
僕の家が昔はこの世界の獣人最古の王家だったって。
狼を復活したら我が家も王様に復活できるよね。
狼の復活にはお金が必要だし魂も沢山必要で集めるのに本当に苦労したんだ。
でもほら、見て。
僕すっごく頑張ってあんなに立派な狼を復活したよ!!」
コレ君は父親が自分を褒めてくれると思って、自信満面で話す。
領主様はコレ君を見つめ深く息をついた。
「コレオプシス。
お前は幼き頃から利発で魔力も多く私とアゲラタムの自慢の息子だ。
まさか、幼いお前にこれほどの事が出来ようとは思いもしなかった。
私は賢く聞き分けが良いお前の内側深くを見落としてしまい、おまえの輝かしい未来を開いてやれなかった。
・・・すまない。」
「父上、泣いてられるのですか?・・何で・・。」
領主様は静かに息子を抱きしめた。
▽▽▽
「ヒイラギ!!」
「いてて、油断したあ。」
僕はよろけながらカレンデュラに寄り掛かる。
「あんた、大した怪我してないでしょ。」
といいつつ僕を受け止めるカレンは優しいと思う。
「このあたりの奴はだいたい非難させた。」
ナスタチウムが来た。
「んーじゃあ久々に大技だすよ。」
腰に付けた剣に手をかける。
「カレン、ナス、ロリも危ないから下がっていてね。」
僕がこの凶悪で柔和な世界を守る。
狼は大きく吠えて立ち上がった。
瞬間。
狼に剣を振り抜いた。
シャアァッと勢いのある風音。
狼の首が体と離れた。
▽▽▽
父親に抱かれながら立ちつくすコレ君。
「・・・僕の・・僕の狼が!。」
ヒイラギさんがゆっくりこちらに歩いて来る。
「勇者様申し訳ございません。
親の私が至らずこのような事件を起こしてしまいました!。
この罪は私が背負います!。
ですからどうか!。どうかコレオプシスには・・・。」
領主様はコレ君を抱きしめたままヒイラギさんに叫ぶ。
ヒイラギさんは叫ぶ領主様を見ずコレ君を斬った。
あまりの速さで何が起こったか。
沈黙と静寂の中。
領主様がコレ君を強く抱き締め、嗚咽しだした。
強く抱きしめられるコレ君の四肢はグニャリと力無く垂れている。
私は体の震えが止まらない。
「・・うそ・・ヒイラギさん、コレ君を殺したの?」
言葉に出すのが怖かった。
殺すなんて。
ヒイラギさんは私を見て、
「彼の為に祈ってあげて、彼の魂が領主夫妻の元に戻るように。
そして次の生では両親よりも長生き出来るように。」
そう言って、一人お城の方へスタスタ歩いて行ってしまった。
悲しさと怖さで動けず震えて涙を流すだけの私の背にフロックスさんが手を当て、
「カスミ様・・勇者の言った事を・・・。
領主様の為に・・祈って上げてください。」
フロックスさんの声を聞いて、頷く。
私は領主様に抱きしめられているコレ君に向かってお経を唱えた。
前世で病弱だった私の隣には常に死があり、自分の死を受け止められようにお経を詠んでいた。
神様も仏さまも本当の所は分からないけれど、いてくれると信じる方が落ち着いて逝けるから。
どうか、神様、仏様いて欲しい。
そしてお願いします。
コレ君の魂が領主様家族の元へ帰りますように。
コレ君の転生先では両親より長く生きれますように。
お経に強い願いを込めて詠みあげた。
お経を詠み終わると領主様が小さな声で唸るように
「・・この子のために、・・ありがとう。」
と、言われた。
空には3個の月が寒々しく輝いていた。
▽▽▽
狼が倒された次の日。
雨の中、私とフロックスさんはヒャクニ宿に帰宅した。
ヒャクニ夫妻は、城の兵士に体を支えられ帰宅したフロックスさんを見て驚いてた。
ジニアさんがフロックスさんが私を庇い傷ついたと知って褒め上げた。
褒められるフロックスさんは嬉しそうに微笑んだ。
フロックスさんは背骨が折れていて、カレンデュラさんが治癒魔法をかけてくれたけれど、1週間程は安静にするように言われた。
カレンデュラさんは私にヒイラギさんを憎まないで欲しいと言った。
彼は勇者。
この世界の秩序を守っている。
彼は誰にも優しく、平等に厳しい。
そう、コレ君を斬ったのもこの世界の秩序の安定の為かもしれないけれど。
私はヒイラギさんにどう接していいのかわからずにヒイラギさんに会わずに帰宅した。
勇者としてヒイラギさんがこの世界で背負う役割の重さにいたたまれない気持ちになった。
彼は14歳でこの世界に来て勇者を担わされた。
私はこの世界に臨んで来たようなものだけれど、彼は突然選ばれ召喚された。
初めて会った時からヒイラギさんに共感を持てなかったけれど、今はより深い溝が出来てしまったんだ。
スッとフロックスさんの長い指が私の頬に伸びてきた。
「カスミ様、泣かないでください。」
ベッドに寝ながら私を気遣ってくれる。
「・・・ありがとう。
フロックスさん。
私は大丈夫だから・・・ゆっくり寝てね。」
フロックスさんは軽く微笑んで目を瞑った。
自分の前世での死は受け入れた。
コレ君の事もこれから受け入れて行かなくてはならない。
私はフロックスさんの寝顔を見ながら、心の中でコレ君を祈る。
部屋の窓に叩き付けられる雨の音が泣き声に聞こえる。
ここまでお読みいただきありがとうございました。
もう少し早くお話を完結させたかったのですが、思いの外長い話になってしまいました。
完結まであと3回程、続けたいと思います。
心の広い貴女が良い一日を過ごせますように!!
※ブックマーク登録ありがとうございます。
大変嬉しいです。
頑張って完結まで行きたいと思っています。
よろしくお願いします。