気になっていました。
花野香澄16歳。
領主様一家と勇者様一行と夕食会です。
「カスミ・ハナノと申します。」
夕食の席。
「あぁ、ヒャクニの所の娘だね。
護衛隊隊長から話は聞いているよ。」
領主様一家と一緒に食事することになり、緊張です。
フロックスさんが同席出来ないのも不安。
ヒイラギさん、カレンデュラさん達も同席して優雅に食事が始まりました。
ヒイラギさんが領主様や奥方様と普通に話している。
すごい、場慣れしてる。
「今夜は下のお子様はこの場には来ないのですか?」
ヒイラギさんが、奥方に聞いています。
「ええ、まだ小さいので。
勇者様に娘もお会いしたいと言っていたのですが、1人でお食事できなければテーブルに着けませんよ。
と、言ってきましたの。」
「それは残念。
僕もトレニアちゃんに会いたかった。」
ヒイラギさんを除いて苦笑する一同。
ヒイラギさん本当、女好きだな。
領主様は金色の巻き髪で薄茶の瞳の犬系の獣人アスター様。
奥方様は黒髪細面の美獣人アゲラタム様。
11歳の長男は奥方によく似た黒髪の整った顔立ちのクレオメ君。
8歳の次男は領主様に似た金色の巻き毛の・・・あ!!
次男と目が合い、思い出した。
数週間前、森で一人で魔法の修練していた子供だわ。
次男は私と目が合い微笑んでウィンクした。
黙っててことね。
私は小さく頷く。
「ところで、狼の件で勇者様にまでご足労をおかけして、大変恐縮しております。」
「あー僕、暇だしね。
すぐに片付けるから、全然気にしないで。」
「まさかここまで大事になるとは思ってもいませんでした。
領内では昔から狼や熊などに、まれに領民が襲われる事はあったのですが、狼がこれ程に人を襲うなど初めての事です。」
「まあ、そうだね。
僕も聞いたよ。
でも、カスミちゃんが黒幕に気付いたし、僕の魔法で隠者の存在も分かっているから。
数日で捕まえて見せるよ。」
「すごい!!
さすが、勇者様ですね。
この数年の事件をたった数日で犯人らしき人物まで見つけてしまうなんて。」
次男くんがキラキラお目目でヒイラギさんを見ます。
「君、名前は?」
娘さんの名前を知っていて、息子さんの名前を知らないとは・・・。
「僕、コレオプシスっていいます。
コレって呼んでください。」
ニコニコしてヒイラギさんを見るコレ君。
確か8歳と聞いています可愛いです。
「コレは魔法が好きでよく勉強しているんですよ。
だから勇者様が憧れの存在なのです。」
領主様が言います。
「そっかあ。
じゃあ、僕からコレ君に魔法について1番大事な事を教えるよ。」
「はい!なんですか。」
「魔法はね。13歳してから使いましょう。」
ビシッ!決まったとポーズするヒイラギさんに笑顔で固まるコレ君。
笑顔を崩さないコレ君は立派です。
▽▽▽
「カスミさん!」
緊張の夕食も終わり、月に導かれて中庭に出たらコレ君に声を掛けられました。
「コレオプシス様。」
笑みを浮かべスカートをつまみ礼をします。
「先ほどは森での事、内緒にして下さりありがとうございました。」
8歳とは思えないほどしっかり礼をしてくれるコレ君。
「貴族の子供だとは聞いていたけれど、まさか領主様のお子様とは驚きました。」
私が言うとコレ君は苦笑した。
「カスミさん、僕の事はコレって呼んでね。
僕は領主の子供っていっても次男だし、うちは本当は勇者様達と一緒に食事出来るくらいの貴族ではないんだ。」
貴族の中って階級がハッキリしている。
ここの領主様の階級は低いって事か。
しかし8歳なのにコレ君はしっかりしてるわあ。
本当は声に出して褒めてあげたいんだけれ、前回、子供扱いしないで下さいって怒られたんだよね。
子供扱いで可愛がりたいのを堪えて、微笑んでコレ君を見る。
と、コレ君は私の右手を両手で握り、
「以前、カスミさんに会った時にも思ったんだけれど、カスミさんて神秘的だよね。
僕の身近にはいない顔立ちだし、何て言うか・・・この世界の人じゃない夜の女神様みたいだ。」
キラキラ金色のお目目をしながら見つめてくる。
「・・・?。」
「ふふ、とっても華奢で可憐に見えるのに。
実は勇者様と一緒に狼の黒幕とか見つけられるなんて。
カスミさんて凄いんだね。」
コレ君、白いふっくらほっぺを私の右手甲に擦り寄せてきた。
「・・・コレ君?」
コレ君の目から目が離せない。
何だろう、心臓がドキドキして顔が赤くなる。
ええコレ君8歳だよ。
子供だよね。
コレ君が口の端を上げて上目づかいで見つめてくる。
「ねえ、カスミさんいきなりと思われるかもしれないけれど。
初めて会った時から僕、貴女の事が気になっていたんだよ。」
「!!」
「そうですか。
奇遇ですね。自分もです。」
コレ君の言葉に思考停止したら、中庭の植え込みからフロックスさんが現れた。
「自分もカスミ様に初めて会った時から気になっております。」
ボフウ!!
フロックスさんの言葉に頭から湯気が出て、コレ君から目が逸れた。
「ちょっと待ったあ!
そんなの僕だってそうなだけど!!。
っていうか、ハーフエルフ何邪魔してくれてるの。
敵っぽい奴が自分からノコノコ現れたんだから、もう少し泳がせろよ。」
フロックスさんの反対の植え込みからヒイラギさんがズカズカ歩いて来る。
ヒイラギさんまで現われた。
敵?敵っぽい奴って誰?
「カスミ様へ『誘惑』をかけているのを見過ごせません」
『誘惑』ってこの胸のドキドキはまさか。
コレ君を見ると静かに微笑んでる。
「カスミさんってモテるんですね。
ふふライバルがいっぱい。大変だ。」
落ち着いた声でコレ君が言う。
「カスミの手を放しなさい!コレオプシス!!」
カレンデュラさん、ナスタチアさん、ロベリアさんが走って来た。
「あんたの部屋から獣人の男の死体2体と狼の壺が見つかったわ。
どういう訳か説明しなさい!!」
3個の月が煌煌と照らすお城の中庭。
私の手を握るコレ君。
少し離れてフレックスさん。
反対側に少し離れてヒイラギさんとカレンデュラさん達。
先程、領主様達と食事していただけなのに、急展開。
恐る恐るコレ君に尋ねる。
「コレ君、獣人の男の死体って。
狼の壺ってコレ君が関係しているの?。」
コレ君が大きなため息を吐いた。
「違うって言ったら、カスミさん信じてくれる?」
目を疑うコレ君の黒い笑顔。
「カスミさんが悪いんだよ。」
ボボボボボボボボボボッボボボボオボボボボボボボボ
真っ黒な毛が地面から出て来た。
コレ君、私の右手を離してくれない。
真っ黒な毛は大きな大きな狼でその背に私とコレ君は乗っている。
「だから、一緒に行ってね。」
私が首を横に振るより早く狼は城外に向けて駆けていた。
▽▽▽
『捕縛』
狼が城門前で転んだ。
狼の体が当たり城が壊れる。
背に乗っていた私は反射的にコレ君を抱え、狼の背から放り出された。
ここはまだ城内、私は魔力を使えない。
地面に叩き付けられると覚悟を決めた時、すれすれで受け止めてくれた。
「フロックスさん!!」
フロックスさんも城内では魔力は使えない。
私とコレ君を受け止め地面に背中を強打して、動けない。
「ああ・・。僕の狼が・・。」
コレ君が絶望の声を上げる。
ヒイラギさんが魔力で狼を縛り上げている。
でも、ここは城内いくらヒイラギさんが勇者とはいえ魔力を使うのは苦しそうだ。
「コレ君、狼を止めて。」
私はコレ君に言った。
「・・・何で。」
コレ君は平静だった。
「人を傷つけるだけだもの。」
「僕は僕が城で狼を見つけたんだよ。
獣人は最も歴史があり、多種多様の種族がある人種なんだ。
エルフやドワーフ何かよりもずっと高貴で優秀なんだ。
今の世界は間違っている。
だから僕が狼で世界に獣人の凄さを見せてやろうと思っていたのに。」
「それで業者や商人を殺して魂を壺に入れて狼を作っていたの。」
カレンデュラさんが歩いて来る。
「お前たち、卑しい種族に何が分かる!」
コレ君がカレンデュラさんに言った。
「お前たちに押し付けられた平和なんて意味がないじゃないか!」
コレ君の叫びと共に狼が吠えた。
ここまでお読みいただきありがとうございます。
心の広い貴女に良い事が起きますように!!
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頑張って完結まで行きたいと思っています。
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