賽 -Trigger-
二人での夕食の後。キッチンで後片付けをしながら、香奈は思い切って話を切り出した。
「あのね」
「ん?」
「来週の土曜の夜なんだけど」
シンクを打つ水音と共に放たれたそれに、皿を片付けようとしていた浩隆がゆっくりとこちらを振り返る。よく聞こえなかったのだろうか、少し首を傾げる様子に、蛇口を締めてから改めて続けた。
「高校時代の同級生から連絡があって……飲み会をやるから来ないかって誘われたの」
先日届いたメッセージ――発起人たる博之から届いたそれを思い起こして、少々複雑な気持ちになる。
「卒業してから皆で集まる機会ってほとんどなかったし、有志だけでもたまには集まって飲めたらいいな、あわよくば月イチぐらいの定例会に……なんて軽く考えて話を振ったら、思ったより皆乗り気で反応が凄かったみたい。連絡先を知ってる者同士でやり取りしたら、結構な人数が集まりそうだって言ってた」
「へぇ。カナちゃんの同級生達って仲がいいんだね。それに、そうやってすぐに人を集められるなんて、発案者はきっとクラスの人気者だったんだな」
驚きと共に少し羨ましそうな表情が覗き、そうして再び棚に向き直る。その背中を見ながら、香奈は濡れた手を拭くタオルを取って、次ぐ言葉を絞り出した。
「由梨亜に聞いたら行くって言ってたし、あたしも久しぶりに皆に会いたいし。でも、どうしようかなって迷っ……」
「行ってくるといいよ」
至極あっさりとした返答に、思わず聞き返す。
「いいの?」
「いいも何も、カナちゃんも行きたいんだろう? 友達と会えるいい機会じゃないか」
背中を向けたままで発せられたそれに、急激に心細くなる。
「それはそうだけど、でも」
「何か、気になることでもあるの?」
その問いにぎくりとして。一瞬、話してしまおうかと迷う。
話してしまえば、もしかしたら。
でも。
「別に……ないけど」
結局言えずに。
「だって、ヒロのこととか、色々あるし」
「僕の?」
取ってつけたような理由を放つと、片づけを終えた彼がこちらを向いた。
「僕の事なら心配いらないよ。食事やら何やら一人で適当にできるし、もしも定例会になるようなら、あらかじめ日取りを教えておいてもらえば、出かける予定とかは調整できるから」
そう言って歩み寄ると、ゆったりと微笑んだ。
「旧友に会える機会は大切にした方がいい。就職した今は尚更、都合をつけるだけでも大変だろうからね、貴重な時間だよ」
「ホントに……ヒロは本当にそれでいいの?」
え、と小さな驚きと共に、一瞬その口元にこわばりが浮いた気がして。逡巡してくれているのだろうかと、そこに期待ししばし待つ。
「構わないよ。大丈夫」
けれど、返ってきたのは至極ものわかりのいい大人の対応で。
「……そう」
「気分転換も兼ねて、楽しんでおいで」
「うん」
そうして髪をひと撫でし、着替えを取ってくると寝室に戻っていく彼。
その姿を追うことができずに俯いて、香奈はキッチンに立ったまま、手にしたタオルを強く握りしめ唇を噛んだ。