6話:高収入を求めるなら命を賭けろ
今回は勇者及び冒険者等の職場についてが殆どです。
酒場兼宿に泊まって早一週間、勇者ラースは現状に満足がいっていない。今自分に置かれている状況は傍から見れば明らかにマズいからだ。
「子どもに養われているとか、いくら何でも…」
「いいんじゃねぇの? なぁ店主さん」
「嬢ちゃん、男ってのはな女を養ってこそ一人前なんだぜ? それに嬢ちゃんみたいな娘っ子に世話されるってのはァ、男としては情けねぇのさ」
「ふぅん」
いつもの様にジュースを飲む俺、店主の言葉で更に傷が抉られたラース、朝食を運んでくる店主。それが今となっては日常風景となっている。
「私は気にしないけどなぁ」
俺としても今まで姉貴に育ててもらってたから抵抗無いんだよなぁ。まぁ他人と家族とじゃ大きく違うんだろうけれどさ。
それに金なら腐る程ある。
「だが駄目だ、少女に養われるのは世間体的にマズい」
「勇者さんよ、少女を連れ回してる時点でもう手遅れでさぁ」
「クッ!? だがどちらしろ私は稼いでくるぞ」
「勇者ってどうやって稼ぐの?」
疑問は募るばかりだが、ラースは朝食を摂ったらそそくさと出ていってしまった。気になるし、追跡だな。
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こちらティナ現在勇者を追跡中。
ストーカー? 勘違いするなよ。
勇者のパーティーに入ってる身として資金源は注視するべきであって、決して気があるだとかそんなことは絶対に無いのである。
「あ、何か建物に入った」
入って行った建物は…何ココ職安?
「ティナ、何をしているのかなここで」
「えーと、道に迷った的な?」
「尾行してきたよね?」
「アッハイ…」
黙って来た事を怒られはしたが、まぁ堂々と付いていけるので良しとしよう。
「社会勉強として来るのは私が守ればいいことだからな、構わない」
危険なの?ちょっと後悔したわ。好奇心は猫をも殺す、後悔先に立たずという事かな。まぁ滅多な事じゃ死なないけども。
「次の方どうぞ」
呼ばれたようだ。促されるままに席に座る。シートは少し硬いようで長くは座れなさそうだ。
「どのような仕事をお探しですか?」
「討伐クエストを」
ラースが何かドッグタグみたいな物をカウンターのお姉さんに出している。
「お預かりします」
何あの装置なに? てかココ本当に職安じゃね?
じゃああれは身分証みたいな物なのかな?
情報は反映され、難易度に合ったクエストがヴィジョンクリスタルに映し出させる。なんかどこぞのゲームで出るギルドカードみたいだ。
「ラース様に合ったクエストだと、これらが妥当かと」
「う〜ん、どれも報酬自体にばらつきがない」
顎に手を添えながら唸る様に悩んでいる。どうやらこれだと言う依頼は中々ないようだ。
「ティナ、選んでいいぞ」
「私に丸投げですか!?」
ええと、火竜討伐、国王暗殺、魔王牽制作戦……etc.
国王って討伐クエストに入んのか。いやそもそも暗殺って職安みたいな公共施設に情報を乗せていいの? 思ったより此処ってヤバいとこじゃね?
でも依頼は決まったな。俺にぴったり過ぎる依頼だもの。
「魔王牽制作戦」
「ほぉ…」
「難易度は伝説級です」
「内容は魔王軍の足止め又は撃退、何人か送り込まれていますが、まだ足りない為再募集したいそうです」
「ではそれで」
「ポータルはご利用なさいますか?」
「お願いします」
ポータルとは、聞いてそのまま目的地に移動させるものだ。城でもよく見かけたし使ってた。
「では移動をお嬢さんはここでお待ちください」
「いえ、彼女も同行します」
「ですが難易度が難易度ですので…その」
ふむこれはどうしたものだろうか。
脅す、は心が痛いな。穏便に行きたい。
そこで俺は受付嬢をローアングルから攻める。腰に手を回し、計算され尽くした上目づかいでガンガンいこうぜ。
「お姉さん」
「どうかしましたか」
「どうしてもダメ?」
─必殺それは色仕掛け!
「え、その…こちらになります」
「エヘヘ」
(うわっ、鼻血出てるよ…)
自分でも酷いとは思ったが子供の頃から似たようなことをしていた。主に両親に対して。故に─
「─余裕!」
「受付さん、災難だったな」
ええ勿論、ポータルを利用出来ましたよ。転送される前に受付さんと連絡先渡されたのはラースには内緒。
連絡先とは住所とか、通信魔法のコードとか。前世で言うLI〇Eやってる? みたいな。
何がとは言いませんが、楽しみですね!!
「ティナくんティナくん」
「はいはい、何ですかラースくん」
「随分と元気じゃないか、いい事でもあったのかい?」
「イヤだなぁ、そんなわけ無いじゃないですかぁ」
本当はあったが教える訳無いじゃないですかァやだぁ。てか本当は気付いてるんじゃないこの人。
「それよりも、こっちには私たち以外にも傭兵みたいな人達がいるんでしょう?」
「ああ、近くにキャンプがあるようだ」
すぐ近くにはちょっとした集落と化したキャンプ地が設置されていた。人数は私たち含めてざっと60人強、各々が強者との事です。が、敵数7000以上だと言うんですから悲劇。
抑えられんのか、これ。逆に今までよく抑えられたな。
心配の念が募っていく中、テントから初老の男性が出てくる。
「ふむ、君達が新入りかね?」
値踏みをする様にこちらを眺め、整った髭を触る。
「ええと、貴方は?」
「失礼、自己紹介が遅れたな。私はここで指揮官モドキをやっている。レモノルド・ケムバッカー、レモとでも呼んでくれ」
「ラースです。こっちは…」
「ティナ・スィムーンです」
ほぉ、と息を吐くレモ。
「噂は聞いているよ若き勇者」
「それはどうも」
「それはそうと、君は仲間を連れていないと聞いていたんだがね。それもこのような少女を、な」
彼の目から感じるのは、侮蔑ではなく哀れみ。よくはわからないが、悲しい目で私を見つめてくる。大方小さな娘が戦場に居るのが不満なのだろう。
「一週間前からなんだ。それに彼女はそこらにいる子供とは比べるべくも無く優秀な娘だよ」
「でしょうな、でなかったら貴方はここに彼女を連れてきてはいないはずだ。もしも実力に見合わない者を連れてきているならば、すまないが帰ってもらうが…」
どこか安心した顔でこちらを一瞥するレモ、それでも不安の色が目に残っているのがわかる。
「レモのオジサマはとてもお優しいお人ですのね」
「なぜそう思うのかな、スィムーン嬢」
「だって貴方、とても優しい目をしているもの」
互いに微笑み合う俺たち見ていたラースは、ティナの変貌ぶりに怖いと見当違い、でも無いがそんなことを思っていただろう。
結局俺は戦場から追い出されるなんてことは無かった。どうやら気に入られたらしい。
作戦会議が始まるまでレモ特製ブレンドのコーヒーを飲むことで暇潰しをした。見た目に似合わずブラックで飲めたことに驚かれた事が愉快だった。
いやぁ・・・、ウチの子あざといわぁ