5話:魔王娘と勇者はデートをする
馴染んだ時にはもう遅かった
あの後ひたすら飲んだ勇者様。
酔い潰れやがった。店主が部屋を貸してくれなかったらどうするつもりだったのか、てか本当に勇者なのかこの男。
「ごめんなさい、店主さん。部屋を貸していただいて」
「構わねぇよ、余ってんだ好きに使ってくれや。それと嬢ちゃんさっきまでと口調違くねぇか?」
「姿がバレてしまったんですし、こっちの方が悪目立ちしないかと思いまして」
納得した店主であったが「でもこれじゃあ逆に違和感感じちまうな」などと言ってくる。
「どうしろってんだよ、この見た目でこの口調は無理あるだろ」
「俺ァ別に慣れちまったからなぁ」
ケラケラと笑う店主の冗談をそこそこに俺も借りた部屋で寝た。埃も無かったし掃除はキチンとしてあるようで安心して寝られた。
◇◆◇
借りた部屋は案外マトモで不自由はなかった。唯一の我慢ポイントはシャワーが無いことだが魔法で清めることも可能なので、どうにか我慢出来た。気分的には不満ではあったけれど。
「ハっ!? ここは?」
「酒場の店主が部屋を貸してくれたんですよ」
ブツブツとなるほどとか、なんてことだなんて言っているが面倒だしスルーしておいた。
無能な上司のいびりを全力でスルー出来ていた俺に死角はない。
朝食を摂るため酒場のある一階に降りた。
この酒場、朝昼は喫茶店としてオープンしているようだ。こうして見ると店の雰囲気がガラッと変わる。変わりすぎて何度も瞬きをしてしまったくらいだ。
「店主さん、おはようございます」
「おぉ、嬢ちゃんおはよう。てかやっぱり口調に違和感あんな」
─ほっとけッ!
「朝食は運ばせるから適当に座っときな」
「いやしかし」
「金なら気にしなくても、嬢ちゃんが昨日無駄に払っちまったよ」
そうです。私の有り余る財力で部屋と朝昼晩の食事代を免除なのです。気の利く店主で良かったね。
「いつの間に…」
「ラースが寝てる頃です」
「思い、出せない」
「あんだけ飲んでりゃあなぁ」
実に面倒だった、まさかの絡み酒。抱きついて来るわ、キスしてこようとしたりと大変だった。初対面でこれはまずいよね、犯罪の臭いがするもの。
千代さんもそうだったけど、やはりどこの世界でも面倒なのは変わりないようだ。
朝食のフレンチトーストをハムハムしていた所、ラースが口を開く。
「ティナ、このあと用事でもあるかな?」
「ないけど、それが?」
「ちょっとデートしようか」
なるほどデートねぇ─
「─は?」
◇◆◇
結局、デートに行くことになった。場所は冒険者御用達の万事屋。その名の通りなんでも扱うんだとか。
「その格好では目立つだろう? 普通の服で好ましいのは動きやすい服だな」
着替え全てがドレス、寝間着のためのネグリジェ等で統一されているため普通の服が無い。
でもねぇ。
「いやいいです」
「そりゃまた何で?」
「言いたくない」
ラースは困っているがしょうがないのだ。
このドレスは私のために作られ、私に最も馴染むように作られている、まぁ言ってしまえばこれが一番楽であり、その他の服など阻害感で着れたものでは無い。
何せ私は魔王の娘だ、羽や尻尾がある。もともと特注品でなければ着ること自体拒否。つまりは、窮屈な思いをする位だったら目立つ方がマシと言うことだ。
「これだからお嬢さま気質は困る。もう特注品でもいいから買うぞ」
「鬼か貴様!」
その後店員にひん剥かれて服を作った。
服は若干派手目に頼んでおいた。何故かって? 俺が望まぬとも、私が望むのだ。後は察してくれ。
「もう少し控え目でも良かったのではないか?」
これでも私は譲歩したし、俺も抵抗したんだ。諦めてくれ。
脚から説明していこう、靴は黒いロングブーツ、黒い台形スカートにプラチナピンクでハート型の止め具のベルトが巻かれ、肩に紐が2本垂らされているだけで鎖骨まで大胆に露出された青とピンクのボーダートップス、腕はアームカバーによって守られている。
そして、普段は目立たない様にと俺が最大限私に足掻いた結果の、紅いローブ、背中には角と羽が一対ずつ隙間を開け並びその隙間に突き刺された1本の剣の紋章。打倒お父様をアッピルしているのだが、それは俺にしかわからない。
という訳でこれが私の普段着だ。
「女はどこでも着飾りたい生き物なんです。諦めてください」
「まぁ、わからなくはないがな」
なんとか納得してもらった。旅に必要な物品は服を作っている間に買っておいた。なので、もう帰っていいだろうか?
「時間も頃合だ。昼食でも食べようか。勿論デザートも付ける」
前言撤回だ、帰らない! デザートが、甘味が私を呼んでいる。断じて餌付けなどではない。
「──美味しい」
現在至福のひと時を私は味わっている。
「こうして見ると年相応なのだから不思議だ」
「む? 今度は渡さないよ」
「取らんわ! 酒とケーキを比べるな」
まだビールの一件は水に流したわけじゃない。ジト目でミックスベリーケーキを食べている少女は傍から見ると微笑ましい限りだがそれに彼女が気づく事は無い。
「それで私以外の仲間、宛があるの?」
「無いな。それに私が勇者をやってるのも用事のついで程度の事だからな、出来るだけ人数は少ない方がいい」
「ついでに勇者って、一体何が目的なの?」
「端的に言うと、人探しかな」
人探しのついでに魔王を打ち倒そうだって? 魔王級程度ならまだしも、大魔王級であるお父様はそんな事では倒せないぞ。
別に、お父様の事を心配している訳じゃ、俺はなんとも思って無いし、そもそも私がお父様を心配する事自体が可笑しいと言うか。
「ティナどうした? 手が止まってるが食べないなら貰ってしまうぞ」
「ダメ絶対にあげないんだからね!」
「お、おう」
本当に私はわかりやすいらしいな、俺こんなんだったかなぁ。うん、分かんない。
「それで、探し人は男女どっち?」
「わからない。場所さえ検討がつかない」
「じゃあ、どうやって探すのよ」
「ひたすら探し回るしかない、だから勇者になったんだからな」
勇者は存在自体が特別で、現状魔王に対抗しえる戦力の中では一番期待される者、いや物である。なので、国等を顔パスで通ることが出来るうえに、国でのバックアップを受けることも可能。まぁ頼み事、条件はその国ごとに出されるらしいが。
「気長にやるさ。いつかは見つける」
「呑気ね。人間は寿命が短いのよ?」
「まるで、自分が人間じゃないみたいな言い草だな」
「そんなこと、誰も言ってにゃいじゃにゃい」
思わず目を逸らす。これではバレバレ、自分から人間じゃないと言っている様なものだな。なんでこうも態度に出やすいのか。
「ティナは可愛いなぁ」
「撫でるな、髪型が崩れる」
別に嫌ではない。だが子供扱いを受けているようで気に入らない。顔が熱くなる自分にも腹が立ってくる。何故魔王の娘が勇者に撫でられて赤面と言う恥辱を味合わなければならない。
悶々としつつも、こうしてデートは終了した。
ティナの俺成分が・・・負けた・・・