4話:お嬢様は勇者の仲間になりたそうにこっちを見ている
今日もお嬢様はハイテンションです。
こちらティナ、今空にいる。
「いやぁどうすっかなぁ」
本当に無計画で出てきてしまっため、現在浮遊中。
「あっ!」
そうだ能力について調べたい。
何となくには分かる、自分に出来ることを、自分の中に問いかけるのだ。すると薄らと伝わってくるものがある。
「俺に出来ること…」
一つは何気なく使っているのかもしれない、『武装最強化』
使ってる根拠だけど、このドレス全く解れない、脱出の時にスライディングしたり通常ドレスじゃ考えられない動きをしたはずなのに、汚れの一つさえ無いのだ。
もう1つあるっぽいけど、訳わかんないよコレ。
『大小操作』…何ですこれ?
何となくはまぁ理解出来なくはない。でも何このカッコ悪い名前。もっとマシな名前が出てこなかったのかな。
どうせものを大きくしたり小さくしたりするんだろうな。
後は魔法的な?
「うんわからん」、と愚痴っていると街が見える。
「港町って所か」
なかなかに情緒があるじゃないか。これは街探索と洒落こみたい。
でも待てよ? いきなり魔王の娘が街に行くってどうよ。
「シャルの懸念していた通りですよね」
まぁ、丁度いいし能力とやらを試せばいいだろ。
魔族だと見られて分かる角、耳、尻尾をなるたけ目立たない様に魔法でちょいちょいっと。
翼は収納し、幻視の魔法が有るみたいなのでついでに掛けておく。
「これだけ誤魔化せば大丈夫だろう。」
見た目は渋い感じのオッサンにしといた。これでいつもの口調でも問題無いだろう。前の姿でも良かったけど、こっちの方が舐められないと思うんだ。
「さて、とりま歩くか」
ついでに言うとお金はある。たくさんね、たくさん。なんか、一生遊んで暮らせるっぽいね。
「まぁこれで気ままに旅ができるってもんよ」
すると目の前に酒場。
間違いない、だってビールの看板付けてるし。そういえばこの体になってから酒を飲んでいないな。
前は仕事終わりに千代さんと一緒に飲みに行ったっけなぁ
気付いたら両開きの扉を押していた。
俺は悪くない。酒とその心躍る雰囲気が俺を誘ったのだ。俺悪くないもん!
「店主、ビール! それと肴代わりにココ最近のニュースを教えてくれ」
情報によっては今後の行動に大きく関わるからな、なるたけ面白いのを期待するぜ。
「一番のニュースといやぁやっぱり勇者がこの街に来てるって話だな」
「へぇ、勇者がねぇ。そりゃまた何でなんだ?」
「何でも仲間を探してるらしくてな」
俺はビールをグイッと煽り、話に耳を傾けていた。すると─
「店主、ここでは子供にも酒を飲ませるのか?」
「え?」
そこには美青年がいた。
ツンツンヘアーの黒髪、鋭い視線を発する蒼い目、鍛えられた肉体、どこか上品に思える姿勢と態度。
装備品は背中にある巨大な剣。それ以外は街というのもあって外しているのだろう、普通の衣服。
いや普通と言うよりかなりの上物だが、俺としても前世基準なら普通だと言える。
それよりもだ、今この男俺の事を指しながら言わなかったか?
「お客さん、馬鹿言っちゃいけねぇよ。流石にガキにゃ、酒は売らねぇ」
「ではそこの少女は何を飲んでいる?」
店主がオドオドしている。
てかやっぱりバレてる、早速バレたよ。ちょっと誤魔化せば大丈夫だろうか。
「お兄さん、俺の事を言ってるのかい?」
「お前以外に誰がいる?」
「残念だが、俺はもう三十路を越えたよ、最近じゃ体のアチコチにガタがきてるくらいだぜ?」
ハァーと青年は溜息をつくと、剣を抜いた。
「アンタ、そりゃまさか!?」
「なんだ? 知っているのか店主?」
「あぁダンナ、ありゃあ有名な剣だ。それもただ斬れるってだけじゃあねぇ、あれはな勇者の剣だ」
マジか、私の天敵で、俺の目的じゃねぇか。
「魔法の腕に自信があるようだが、斬ればそれも無意味!!」
勢いよく剣は振り落とされた、だが俺に擦ることも無く空を斬る。
殺されると思ったら生きとったで。
安心するのも束の間、俺の表面部分が切り裂かれた、そう幻影が切り裂かれた。残るのはジョッキを握った少女。
「なんっっっ!?」
「本当に子供…」
勇者は剣を納め、再びその視線を向けてくる。
「かなり作り込まれた物だったが、こうなってしまえば意味が無いな」
「嘘だろ」
ビールを一煽り。
「飲むな馬鹿者!」
「あぁビールがぁ」
残酷過ぎる、こんな横暴が許されていいのだろうか。この勇者、俺のビールを…
まぁほとんど残っちゃいなかったがな。
「嬢ちゃん、騙して酒飲むのはいかんよ」
「店主、その嬢ちゃんは止めてくれ」
店主はもう酒を出してはくれないだろうな。隣の勇者は呑気に酒飲んでるし、マジ許せんよな。
「やらんぞ。お前はこれで我慢していろ」
恨めしい視線に気付いたのか勇者はオレンジジュースを出してくる。
「ケチッ」
とは言いつつもしっかり頂きます。
「しっかり飲んでるじゃないか」
「うるさい、人の楽しみを─ゴク─奪っておいて─ンク─そんな顔するなんて」
「飲みながら話すたぁ、随分器用なことできんな嬢ちゃん」
結局嬢ちゃん呼びで固定した店主がおかわりをくれる。もちろんこの男持ちでな。
「所でお前名前は? 何処から来た? 両親は?」
「一気に聞くな。それよりアンタこそ誰なんだ? 勇者じゃ呼びにくい」
カウンターに肘掛けておいた腕を膝に置き、彼は言った。
「私はラース、姓は捨てた。さて次はそっちだな」
「ティナ、ティナ…」
魔王の苗字って有名かな。こればっかりは全く分からない。城から殆ど出なかったし。
一応偽名の方がいいよな。
「ティナ・スィムーン」
「そうかよろしくな、ティナ」
とりあえず、私が殺される心配は無くなったが、俺としては疑問が出てくる。
「ラース、結局アンタ仲間は見つかったのか?」
「見てわかるだろ? 一人だよ一人」
手をヒラヒラと振りながら答える勇者の図。本当に勇者なのか不安になってくるほど普通の奴だ。
いやまぁさっきの剣やら、幻視を見破ったのだから勇者何だろうがさ。
「嬢ちゃん、まさかだとは思うが、勇者様について行くとかはねぇよな?」
俺の目的はそれだよ店主、お父様にゃ、反抗期認定されたんだから─
──本気で反抗期してやらァ!
って事で勇者のパーティーに入るのが一番手っ取り早いと言うわけだ。
「勿論そのつもりだよ店主君」
「嬢ちゃん、無理だって。勇者のパーティーだぜ?子供が入れるわきゃねぇって」
「いいよ別に」
「そうだよなぁ、入れるわきゃあ……ハァ!?」
けっこうすんなり入れたでござるの巻。
「魔法の腕は良いし、小回りが効く。ここまで一人で来れる少女って言う事自体がもう合格点だろう」
「そいつぁまぁそうだろうがよ。子供だぜ?」
「ビールをグビグビ飲んで、顔色一つ変えない少女はもう子供じゃないよ。子供のガワを被った何かだ」
まぁせやな。その言葉がトドメだったのか店主はもう何も言えないようだ。
なんだかんだで心配してくれんだなこのオヤジ。
と言うことで。
勇者の仲間になったぜ!(魔王の娘がな!!)
もっとだ・・・もっとハッチャケさせたい。