2話:反抗期?お嬢様は家出がしたい
まだカオスじゃない・・・
まだ甘い・・・
ハッ!? 寝ていた。
いや、俺は悪くない、ベットが、フカフカなベットが俺を誘うのだ。大人で美人でゆるふわ系お姉さんが俺を甘やかすくらいの魅力が此処にはある。
「さて、さっそくお父様の所へ…」
お父さんか…
俺には両親が居なかったし、はっきり言ってしまうとどう接すればいいのかわからない。
まぁ、今まで通りに接すればいいんだろうけど、前世ってやつを思い出した俺からすればやっぱりわからないと言う結論に至るわけだ。
「お父様、私、兄様、お母様…」
やっぱりしっくり来ない。しばらくは、いつも通りにしようと思っているけど。徐々にボロが出そうだ。腐っても魔王の家系、娘の少しの変化でも見逃しそうもない。
厚い扉を叩く音が聞こえる。
「お嬢様、シャルロットです。起きていらっしゃいますか?」
「起きてるわ、入っていいわよ」
なんかムズムズするけど、扉が開くのと同時に振り払う。シャルも中々にキレるタイプだから。
「体調の方はいかがでしょうか?」
「大丈夫、ほらこんなにも元気」
クルッと回ってポーズをとって健康をアピールする。可憐な少女アピールは身体に染み付いているのか感慨も無しに出来る。
アピールの甲斐もあってどうやら信じてくれたようだ、シャルは安堵の溜息を吐いた。
「ねぇ、シャル…」
「はい、何でしょうお嬢様」
シャルはいつものキリッとした顔になり、耳を傾ける。
「お父様とお話がしたいの、準備をお願いしてもいい?」
「承知致しました、お任せ下さい」
シャルは了承すると指を耳元へ添えると、話し出した。すると直ぐに話は終わりこちらに向き直る。
「お待たせいたしました。話は通しておきましたので準備をしていきましょう」
その後はいつものドレスに戻り、部屋を出る。魔王たる我が父だが別に玉座の間で会う訳では無い。寧ろ使う機会なんてほぼ無いだろう。我が家は容易く攻め込める形態を取っていないので前回使ったのも数百年前だと聞いたことがある。
と言うことで会うのは、魔王の書斎である。
「魔王なのに書斎?」なんて野暮な事は聞かないでくれ。やってる事は魔物を従えているだけで、領民を守る領主なのだから。
まぁあくまでも魔王だから蹂躙、支配、圧政はするのだがね。それでもファルメイル家は他の魔王に比べて余裕に溢れている。よって領地にいる人間から必要以上の搾取はしないし、魔族との差別体制を取っている訳でもない。
若い頃はそれはもう他国の領土を蹂躙しては奪って来たと両親は言った。
「お父様、ティナです」
ノックをすると、中へ促された。
「ティナよく来たな。それと聞いたぞ体調を崩したらしいじゃないか」
「ええ、でももう大丈夫です」
厳つい顔は綻ぶ。本当に俺、と言うよりも私を愛してくれているんだろう。記憶を掘り起こせば時々やり過ぎるくらいには溺愛していると分かる。
「シャル、お父様とお話がしたいから…」
「はい、席は外させていただきます。何か入り用の際はお申し付けください」
シャルは退出する、と─
「ティナ! いや本当によく来たな。お菓子でも食べるか? 紅茶は用意してあるぞ」
「お髭が痛いですわお父様」
この魔王、親バカである。
さっきまでの威厳などどこへやら、今では抱きついてから離れるまでのショボン顔が見える。昔から私に対しては子煩悩だったらしいが兄二人に対してはこれほどではない。
「お菓子とお茶は貰いますから、そんな悲しそうな顔をしないでください」
「む、そうかでは座ろう」
席へ案内され座る。
スコーンやマカロンが丸テーブルの中央にある。思わず目を輝かせていると、目の前の父は俺の反応に満足したのか指先を踊らせて紅茶を入れだした。
「お父様、早速ですがお話があります」
「なんだ改まって」
紅茶を喉を潤してから話を切り出す─
─いやまずなんと言えばいいんだ?
「──私、実は、男だったんです!!」
「ゴフォッ!?」
噎せている、それはそうだろうな、自分の娘がいきなり自分の事を男だと言い出したのだから。
「それは一体どういうことなのだ? どう見ても我が娘なのだが…」
親身には聞いてくれるんだな。
姉貴を思い出す、なんだかんだ言って家族ってのはこんなもんなんだろう。
「どうも何もそのままの意味なんだけどな、もう一度言っておいた方がいいのかな──俺は男なんだ」
「なん…だと?」
開いた口が塞がらないようだ。だって俺は自分を男だと二回言ったんだしな。口調だって前世に近づいて来て─
…アレ? 待てよ。俺はさっき口調をどうしてた?
不味いマズイマズいまずい!
段階を飛ばしすぎた。男口調を説明の段階で使うなんていうのは幾ら何でも不味い。信じて貰えず終いで母に報告でもされたら一日中淑女講習一直線だ。
「きだ…」
「きだ?」
「──私の娘が反抗期だぁ!!」
エエェェ!? そう言う受取り方ァ!?
「シャルロットォー、シャルロットは居るかぁ!?」
「何事ですか旦那様ァ!?」
「娘が私のティナが…反抗期入ってしまった!」
場が凍り付くのがよく分かる。
「…旦那様、今なんと?」
「ティナが反抗期に」
動揺し過ぎじゃね? 親ってこんなに反抗期に敏感になってる物なのか?
「お嬢様、一体何が? そのような素振りは一度も
」
「シャル、落ち着いて」
シャルは深呼吸をして落ち着いているようだ、魔王様はと言うと、部屋の角っ子で現実逃避をしている。
「シャル落ち着いて聞いて。私はね、いや俺は男なんだ」
「説明をお願いしても?」
「あぁそうだ、今エレナも呼んだからな、話してくれ」
その後数秒で母が走ってくるのが分かる。
第一声は─
「お母さんを嫌いにならないでぇ!!」だった、もう何なんこの家族。
どこかホッコリとした暖かい感情が俺を包んだが、これは話さなければならないだろう。
「実は─」
~魔王娘説明中~
「なるほどな、前世か…」
「稀に産まれてくるとは聞いたことがあったけれど。まさか私たちの子がそれだったなんて…」
それぞれが様々な表情を見せる。
シャルは黙って聞いているようだが、内心の驚きは隠せていない様でその瞳孔は開いている。
「だがそれが本当だとしたら、何らかの特殊能力に目覚めているはずだが」
「アナタ、今はそんな事よりも重要な事があるでしょう?」
いや十分聞き捨てならない事なんだけど。
特殊能力? やっぱりそんなお決まり展開があるのか!
「ティナ、貴女は男なの? それとも女なの?」
「私は…」
親としては気になるのも当然だろう、だが自分でもよくわからない。
「わからないわ。この体は女の子としての記憶と振る舞いを覚えているけれど、同じく魂は男としての俺も覚えているんだよ」
「そう…」
「ごめんなさいお母様、曖昧な答えしか出せずに」
「それだけ聞ければお母さんは満足よ」
あぁなるほど母とはこういう者なのかな、とっても暖かい。
「お父様」
「ん? なんだいティナ」
「私─」
「──家出します」
今までに無いくらいに空気が重くなる。
「きだ─」
あぁ、やっぱりこのパターン?
「私の娘が反抗期だぁ!!」
だってしょうがないじゃん、異世界だよ?
─ 冒険したいじゃん!
特殊能力だよ?
─試してみたいじゃん。
魔王の娘だよ?
─自由に生きたいじゃん!!
次回家出します。