始まり
狼は縦横無尽に森を駆け抜けている
人間の何倍もの速さで森を駆ける。
だがその姿は只の獣のそれではない。
地を踏みしめ、風の如き速さを生み出す脚は人のそれと変わらない。
しかし、その上半身は人ではなく狼の様相をしていた。
手には二対の剣を携えている。
鍛え抜かれた鋼の剣を、本来ならば一振りを振り回すのに精一杯のモノを、狼は軽々と二振り操っていた。
狼はその脚に力を込め、高々と跳び上がりその自重と勢いを両剣の切っ先に込め目の前の白い魔物の背にあるコアに突き立てた。
コアは音を立て砕け散り、魔物は崩れ落ちる。
と、同時に背後から別の魔物が襲ってくる。それを紙一重でかわし距離をとる。先ほどの魔物とは違い黒色で額にコアが光っている。狼は自分に注意を引きつける為にあえて距離を詰めた。距離を詰め、構えた双剣で浅く傷を作る。魔物は4本の腕を振りかぶり狼を叩き潰そうとする。しかし狼はそれも紙一重でかわし、腕を伝い額のコアを叩き割った。そしてその魔物も地響きを立てて倒れる。
辺りを注視し、周りに敵がいないことを確認すると双剣を鞘に収める。
その直後、背後の森から魔物が襲いかかってきた。黒い色をした魔物だ。しかし狼はその場から動かず魔物を見ていた。
魔物が狼を潰そうとする瞬間、狼の両耳を弾丸がかすめ、魔物のコアを貫通した。
「流石だな。フィリア姫」
狼は後ろを振り向きながら言った
「あんた速すぎ。私のことも考えなさい、このバカウルス」
そこには2丁拳銃を構える少女が立っていた。
「いやはや、申し訳ないな。だが姫は荷馬車で待っておくように言ったはずだが。」
ウルスと呼ばれた狼は言った
「あんたが走って行った後こっちにも魔物が現れてね。馬車が壊されちゃったのよ。だから仕方なくこっちに来て手伝ってあげたの。」
フィリアという少女もこれに答えた
「馬車が壊されたか…まあ、次の街までもう少しのようだから、仕方ない。歩いていくしかなさそうだな。」ウルスは先を見つめて話す。
「すまないわね。ホワイト級の魔物がかなり出てきたから迎撃が間に合わなくて…」
「気にするな。大した荷物もなかったし、おかげさまで歩いていくことができるようになったしな。」
「う……イジワル…」
ウルスの言葉に頬を膨らませる。
「に、してもこの辺りは魔物が活発だな。龍のヤツが潜んでいるのかもしれない。」
ウルスは辺りを見回して言った
フィリもそれに神妙な面持ちで頷く。
「とにかく街に行って情報を集めるのが第一ね。」
フィリアとウルスは目的地に向けて歩き出した。
千年前、オリエント世界の均衡を保つための六つの珠を取り込み、世界を破滅に導かんとする悪魔がいた。
その破壊を止めるべく生き残った種族は力を合わせその悪魔を打ち破り、封印した。
しかし、悪魔は死の間際、取り込んだ六つの珠を吐き出し、自らの力を込めて、この世界に解き放った。その珠は後に龍となり元々の珠の力に加え、悪魔の力により暴走し人々を苦しめた。悪魔を封印した英雄たちの死により、止めることができる者はいなくなり、人々は龍の災いに怯えて生きていた。
そして千年の時を経て、運命を背負い戦いに臨む者達がいた。
運命を背負い世界の均衡と秩序を取り戻すべく、二人は竜を探し求め旅を続けるのであった。






