番外編~2人の出国準備①~
俺は来年度から、ドイツ支社勤務になる。今はそのための準備に大忙しだ。
仕事の引き継ぎや整理、支社で働く上での知識獲得、いろんなところへの挨拶回り…などなど。さらに、以前の転勤とは違って、今度は妻の凛も一緒に行くことになったから、引っ越しの準備や向こうでの新居探しにも追われている。
そのせいか、残された日本での日々は忙しくも充実している。
凛も一緒というだけで、ものすごく心強くて…。俺は今度の海外勤務に対して、全く不安というものは感じていない。むしろ、彼女と迎える新しい生活に胸を高鳴らせていた。
「この部屋とも、もうすぐお別れだねー…」
あるとき、徐々に段ボールが増えていく部屋を見て、凛が寂しそうに言った。
この部屋は、俺がもともと1人暮らしをしていた部屋だ。入社と同時に入居したから、かれこれ7年もいたことになる。
「ここ、好きだった?」
軍手を取って、凛の頭を優しくなでてあげた。凛は最近、ずっと長かった髪を切ってボブにしたから、童顔も手伝って少し幼い感じに見える。
「うん。だって、思い出がつまってるでしょ」
もう、またそういう可愛いこと言う―。
「たしかに…俺も凛と暮らし始めてから、この部屋にすごく愛着感じるようになったかな。それまでは、寝に帰るだけって思ってた部分もあったけど」
見渡すと、1人暮らしの時にはなかった可愛らしい雑貨や、凛の荷物、それから2人の思い出の品なんかがたくさん置かれている。
社会人になって、凛と出会って、つきあって、結婚して…。そのすべての思い出が、この部屋には確かにある。
「でも、俺は全然寂しくないよ」
「え…?」
不思議そうに俺を見上げる凛の頬に、そっと手を添える。
「これから新天地で、また新しい思い出を2人で作っていけばいいだろ?それに、写真だってたーくさん残ってるんだし、引っ越したからって思い出がなくなっちゃうわけじゃないよ」
凛の寂しそうだった表情が、だんだん笑顔に変わっていく。
俺もつられて笑顔になったら、凛がぎゅうっと抱きついてきた。最近、なんだか少し大胆になった気がする。うん、いいことだ。
「大斗さんの、そういうとこ大好き」
「ほんと?嬉しいな」
そんなこんなで、俺たちの引っ越し準備は今日もなかなか進まないのだった。




