おかえり
「俺と一緒に支社へ行ってみない?」
私に内緒で帰国した大斗さんの口から出たのは、私が思いもしていなかったこと。
私も大斗さんと一緒に、支社に行けるチャンスがあるかもしれない…。
「行きたい…!」
嬉しさのあまり大きな声が出てしまったけれど、大斗さんはにっこりと微笑んでくれた。
「凛ならそう言うと思った」
私の頬に添えられた彼の手を、私はそっと包んだ。
「私、どこへでもついていきます」
大斗さんは驚いたように目を見開いた後、私を見つめながら穏やかに微笑んだ。
「ありがとう。俺も凛と一緒なら、何でもできる気がするよ」
そんな私たちを見て、専務は静かに立ち上がった。
そして、まっすぐと大斗さんを見る。
「僕は最初から、仕事人としてのあなたに一目置いていました。プロジェクトに推薦したのも、憎さ余っての理由だけではありません。そして、現にあなたは成果をあげてくれている。私の目に、狂いはありませんでした。…凛さんも、とても見る目のある女性ですね」
専務は最後だけ私に目を向け、にこっと微笑んだ。
今の話が本当なら、大斗さんの力量を見込んでの人事異動だし、案外悪い人じゃないのかもしれない…。
「じきに、正式に辞令が下るでしょう。どうするかは、お2人でよく相談して決めてください。凛さんの働きは総務部長からもよく聞いていますし、社内や学生からの評判もいい。僕としては、凛さんに本社に残って欲しいところですが」
専務は寂しそうに言う。
いつの間にか、先ほどまでの気味の悪さは感じなくなっていた。
「…ありがとうございます。でも、私はもう夫と離れたくありません」
大斗さんに微笑みかけると、彼も嬉しそうに笑ってくれた。
「あー、これ以上惚気ないでください。僕はいま、人生で初めてフラれたばかりで傷ついているんです」
成り行きを悟った大斗さんは、行こう、と小さく言って、私の手を引いた。
「それでは、失礼します」
「もう!急に帰ってくるから驚いちゃったじゃない」
「ごめんって。でも、嬉しかっただろ?」
「あたりまえでしょ…」
約2ヶ月ぶりに、大斗さんが我が家へ帰ってきた。今朝までは広くて寂しかったこの部屋も、大斗さんで満たされている感じがする。
「…おかえりなさい」
「ただいま」
いまここに大斗さんがいるんだって、素直に信じられなくて…、しっかりと存在を確かめるように抱きつくと、大斗さんがその上から優しく包み込んでくれた。
「なんか、写真増えてるね」
そう。大斗さんの言うとおり、私は部屋に写真をたくさん飾った。以前はフォトフレームを3つ置いているだけだったけど、今はタペストリー風に壁に吊り下げたり、デジタルアルバムなんかも飾っている。
「大斗さんの写真に囲まれてたら、寂しさも紛れるかなって…」
そう言ったら、大斗さんは私をさらにぎゅうっと抱きしめた。
「これからはもう、寂しい思いなんてさせないよ。ずーっとそばにいる」
「うん…!」
大斗さんといっしょなら、きっとどこへ行ってもやっていける。そんな気がした。




