待ち焦がれた人
これでもわかってくれないならどうしよう…。そう思っていたら、扉がコンコンとノックされた。さっきの秘書の女性だろうか。…しかし、
「失礼します」
それは、私のよく知る声で……。
はっとして扉のほうを向くと、大斗さんが優しい笑みを浮かべてこちらを見ていた。
手にはキャリーバッグを引いている。
「大斗、さん…?」
「凛、今朝は話せなくてごめん。飛行機に乗ってたんだ」
昨日の朝、大斗さんは『明日は遅い時間に会議が入るから、残念だけど話せない』と言っていた。私に内緒で、帰国の準備を進めていたんだ…。
「どうして、ここに…?」
「プロジェクトの大枠が完成したから、帰国が認められたんだ。まだ2,3日の短期で向こうに行くことがあるかもしれないけど、あとは電話やメールで細部を詰めるだけだよ」
「じゃあ、もう長期で行くことはないってこと…?」
「うん!長い間、待たせてごめんね」
私は嬉しさのあまり、涙を溢れさせてしまって…。専務の前だというのに、大斗さんに抱きついたのだった。
「おかえりなさい…!」
「ただいま、凛」
しばらくして、専務がコホンと咳払いをした。真面目な話をするのだと察知して、私たちはお互いに腕を解く。
「先ほども言いましたが、吉川さんの異動はほぼ決定事項です。あなたにはドイツ支社へ行ってもらいます」
「そのことで、少し妻に話があるのですが」
「どうぞ」
専務の許しをもらい、大斗さんは再び私に向き直った。
そして大斗さんの口から出たのは、思いもよらなかった言葉。
「まだこっちでは発表されてないけど、実はいま支社に勤めてる女性が1人やめるから、空きができるらしいんだ。もちろん面接はあるだろうけど、凛だったら絶対通ると思う。それに、むこうで凛のこと話したら、黒川さんっていう俺の上司もぜひって言ってくれたし。凛さえよかったら、俺と一緒に支社へ行ってみない?」
…要するに、私も支社にいけるチャンスがあるっていうこと…?




