来ると思った
翌日。白いワンピースに身を包んだ凛と手を繋いで、アパートの階段をおりる。
「ちょっと急だから気をつけてね」
「うん!」
俺に続いてゆっくりと降りてくる凛。なんだか、お姫様をエスコートしてるような気分だ。
エントランスまで降りてくると…、
「せ、専務…?」
なんとそこには、専務がいた!
相変わらずきっちりとスーツを着ている。しかも今日は休日のはずなのに。
「おや、凛さん!今日は格別可愛らしいですね。清楚な感じで、とても似合っていますよ」
凛を見てぱっと顔を輝かせる専務…。凛は驚きのあまり目を見開いている。
「え、ええ…。夫のプレゼントなんです」
「そうでしたか。では、僕にもっと高級なものをプレゼントさせてください」
「えっ…?」
いやいやいやいや、夫の前でそれはないだろう。
ゴホン、とわざとらしく咳払いをすると、ようやく気がついたように専務が俺を見た。
「あ、吉川さんもいたんですか。こんにちは」
「…こんにちは。それじゃ」
凛の手を引いて、専務の横を通り過ぎようとしたら…
「いってらっしゃい。あ、凛さんは待って」
「え?ちょっ…」
専務が凛のもう片方の手を掴んだ。凛の手を両側から引っ張るような形になる。
痛がる前に先に放したほうが勝ちとか、そういうやつだろうか。
「…凛さんだけ、というのがだめなら、お2人のバカンスに便乗させてくれませんか?」
「「えっ!?」」
「僕も今日はオフなんです。異国の地で1人過ごすのは寂しいですし、せっかくこうやって会えたんですから」
いやいやいや、わざわざ住所調べてここまで来たんだろ!?
「………」
凛と顔を見合わせていたら、どうやら同意とみなされたみたいで、専務はにっこりと笑った。
「さっそく行きましょう!」
「ちょっ、ちょっと~!」
専務に引きずられるようにして観光地めぐり…。なんだ、これ。
せっかく凛とラブラブに過ごすつもりだったのに、なんで専務と3人なんだ…。
この状況、楽しんでるの専務だけだろう。
「凛さん!あれ見てください!」
「わあー。綺麗ですね」
…凛は一応つきあってやってるけど、俺は専務を完全に無視しつづけた。
「今日はすごく楽しかったですね!またご一緒しましょう」
夕方、アパートのエントランスまでついてきて、専務はようやく帰って行った。
「…なんだったんだろうな」
「まあ、いいじゃない。1人で来て、専務もきっと寂しかったんだよ」
いやいやいや。そもそも専務がこっちに来たのだって、凛が休暇取ったからだよ?
俺が思うよりもずっと、凛は天然なのかもしれない。




