8
何事もなかったようにそのまま授業を続けようとした瞬間、無情にも鐘が鳴った。平静を装って去ろうとしていたが、机の角で足をぶつけるその姿は滑稽だった。
シド・カミーナがいなくなった瞬間、爆発したように教室は笑いに包まれた。きっとそれは外にまで響いていたことだろう。
「見たか、あいつの顔!」
「傑作だね! これもナターシャのおかげかな?」
「いやあ、助かった助かった!」
一人はナターシャの背中を叩いている。誰もがあの男の高い鼻を折れたのが嬉しいのだ。
「きみたち! 笑いすぎだ。これではカミーナ先生がかわいそうだ」
「アレンってまじめだね」
「いっつもネチネチやられてんだから、いいじゃん。なあ?」
同意を求めるように周りを見る少年に、大半が頷いた。
ナターシャは笑った。
「なあ、アレン。運も実力のうちってね。今回たまたまぼくがあれ知ってたからよかったんだし。なにより。あいつの態度には誰もが頭にきてたんだ。人間は選民族って意識があるしさ。だからさ、少しは痛い目見ても罰は当たらないんじゃない?」
「……まあ、それは俺も思わなくはないが」
「じゃ、いいじゃん」
ナターシャは立ち上がり、アレンの肩に腕を回した。そして、アレンにだけ聞こえるように小声で囁いた。
「いい子ちゃんは止めとけば?」
それはどこか小馬鹿にしている響きがあった。