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菫色の髪を前髪を少し残してオールバックにし、エメラルドにも負けない鮮やかで切れ長な瞳が、教室にいる生徒を射貫く。左手に持っている細長い棒を数回手のひらに打ち付け、並んでいる机の間を歩く。
「ジョシュ・レイン、アバータ・ロッシュ、ソライア・レナ・フィシア・アッシュ、ラドニアス・マット・スクーズ、そして、ナターシャ・ヴェイン。以上五名、次の問題を五分以内に解くこと」
名指しされた生徒の机を木の棒で叩いて、無理難題を提示した。
男――シド・カミーナは上着の胸ポケットに入れていた小振りな卵形のリモコンを操作した。瞬時に教室前方の電子版の画面は切り替わり、十三歳が解けるとは思えない文字の羅列が画面いっぱいに広がった。
「さあ、今から五分間。用意はいいかね? ああ、これは中々難しい。よって協力して解くことを認めよう。それでは――」
男の口からカウントダウンが始まり、零と言われるのと同時に数人が動いた。一人では解けないと判断しての行動だ。おろおろと見回すラディに、ナターシャは手招きした。自分の席から立ち上がったラディは、できるだけ急いでナターシャの席に行った。
「おい、ナターシャ、ラディ。全員で解くぞ! これ俺らが解くようなやつじゃねえって!」
「いっつもの常套手段よねえ。ほんっと性格わっるう」
「口より手!」
頭を寄せ合い、小声で話しているがその手は休むことなく動いている。表情は真剣そのものだ。
「この羅列は?」
「バッカ! それだったらこっちが――」
「なあ、ぼくこの羅列見たことあんだけど」
ナターシャの一言に、全員が鬼か般若を思わせる表情で振り向いた。
「本当なの、ナターシャ?」
「うん。ジルのとこでこれとそっくりなの見た。だから、たぶん――」
ナターシャは二分にも満たない時間、手元の電子版を見つめ、その指は休むことなく動いた。設けられている時間は刻一刻と近づいている。
「後一分」
焦らせるように呟かれた言葉に、全員が固唾を呑んで見守る。
「……できました」
ナターシャの声が静かに教室に響いた。手元を少し操作し、前方の画面が二つに分かれ、一つにはナターシャたちが解いた答えが載っている。五分という短い時間で解いたそれに、どよめきが起きた。
「正解だ」
シド・カミーナは苦虫を噛み潰したような顔をしている。この短時間で解く、まして正解するとは思っていなかったようだ。