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「……ナターシャ、あんまりアレンからかわない方がいい。うるさいから」
ラディは眉を顰めている。
「それもそうだね。こいつの声って耳に残るから」
ナターシャがアレンを見ると、体をわなわなと震わしていた。それは怒りから来るのだろう、顔はタコのように真っ赤だった。
とっさに耳を塞いだラディは正解だろう。間を置かず、アレンの怒声が響いた。
「きみたち、いい加減にしろ――っ!!」
アレンは肩で何度も息をしている。
「人をおちょくるのが趣味みたいだね、ナターシャ・ヴェイン」
腹の底から大声を出しただろうアレンはそのおかげか、少しばかり冷静を取り戻していた。
「別に趣味ってわけじゃねえけど。ぼく、趣味は悪くないし?」
どこかその声は笑いをかみ殺している。
アレンを見るナターシャの目は三日月に細められている。その傍らでラディが二人の顔を見比べていた。
「――少しはエンヴィ先輩を見習いたまえ」
嫌味たっぷりにそう言ったアレンは自分の席に座った。
「ジルみたいな堅物は嫌だね。なあ、マット・スクーズ?」
「……えっと……」
首を傾げるラディにナターシャは席に着くように言った。長い時間アレンと話していたおかげで、授業開始二分前となっていた。次の授業の教師は授業態度にとても厳しいことで有名だ。チャイムが鳴るのと同時に教室に入り、その時に席に着いていない生徒がいれば嫌味を言う。それはまだマシな方だが、下手をすれば授業中集中攻撃を受け、問題に答えられなかったらネチネチとそこを付く。
それを分かっているからか生徒は誰もおしゃべりをせず、いい子にして席に着いている。
そうして静かに鐘の音が鳴り響いた。
授業が始まってすぐ、ナターシャは小さく欠伸をした。酷く単調なそれに、生理的な欠伸が出るのは自然なことだろう。淡々と教科書通りに進んでいく授業、ラインから外れることはないその授業はつまらない。ナターシャと同じように欠伸をし、それをかみ殺している人がちらほらいる。中には手を握りしめて手のひらに食い込む爪の痛みで眠気を堪えている人もいる。
「――どうにも身に入っていない者がいるようだね? これは実に悲しいことだ」