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 自分の実技が終わるとそれは授業が終わったのと同義であるため、他の生徒の実技を見ようとは思わずジルは外に出た。 

 小径(こみち)を通り抜けると長い坂道が続く。その先には見晴らしのいい丘があり、この季節黄色い花々が絨毯(じゅうたん)となっている。

 風に乗って届く花の香りに誘われるように丘に向かって歩を進めた。

 丘に着くと黄色い絨毯に抱かれて横たわっている人影がある。近づけばはっきりと分かる灰白色(かいはくしょく)の髪。それはジルにはとても見覚えのある色で、探していた本人でもある。

「見つけた」

 眠っていたのかまぶしそうに目を細めている。

 数回瞬きをする真っ赤な瞳と、ジルの紅藤色の瞳がぶつかり合った。

「……なに? ぼくを探してたの?」

 寝起きのせいかその声は掠れていた。

「きみは目を離すとすぐどこかに行く」

「じゃあ首に縄でも掛けとく?」

「でもペットじゃない」

 ジルは少女にも少年にも見えるその存在(ひと)の隣に座った。どこかの民族衣装なのか茶と黒を基礎とした布を体に巻き付けている。腰布には凝った刺繍も施されている。そして黒の膝ほどのパンツに、足には皮でできたサンダルを履いている。

 ジルたちが通う学校には制服は存在しているが、少数ではあるが中には制服を着ず民族衣装を着ている人もいる。ジルの目の前にいる人もその一人だ。

「いい加減制服着ない? ずっとその格好で過ごしてるでしょ」

「制服? それは男子用? 女子用?」

「俺は女子用着てほしいけどね。でも、ナターシャは嫌でしょ?」

 灰白色の髪を持つその人――ナターシャは笑った。

「じゃあジルに約束してやるよ。ぼくの性別が決まったらこの服脱いで、制服着る」

 ナターシャには性別が存在しなかった。この世界でも珍しい両性体なのだ。ある一族は三分の一が両性体だと言うが、ナターシャたちの一族はナターシャだけが両性体だった。この学校にも数名存在するが、ほとんどが自分の気に入った制服を身につけている。

「決める気があるの?」

「あるよ。ある」

「なら、そのときを楽しみにしとこうかな。……ああ、そうだ。ラザエル先生がこのままじゃ単位やらないぞってさ。数日中に顔見せに来いって」

「ああ、あの女受けがいい先生。数日中ってことは十日以内なら大丈夫だよね」

「それってただの屁理屈だよ」

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